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侍領主でござる  作者: ケヤキ
第八章 助太刀
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114.助太刀参上23ー狼の決意

院長先生、イアン先生とライアン騎士、それにロアの五人の王宮魔術師は疲労困憊で仮眠を取る事となった。後のことは起きてからだそうだ。


院長先生からディアス王国のみかんほどの玉っころ、いや、宝珠を押しつけられて『あんたは好きにしなっ』とまた一人ぼっちの放ったらかしなのであるぅ。


皆が起きるまでの暇つぶしに辺りを散歩していたら、人の姿になっている真っ裸の銀狼に出会ったのだ。先ほど貰った黒石について尋ねると魔物を統べる石のひとカケラだと言う。

____

__



魔物を統べる石ぃーー?! 神話時代から統べる者が持つと古書にある、例の行方の知れない3つ目の宝珠だろうか? 


「その石がウルフスと同化しているってどういう事だ?」


「ああ、持ち運びが不便でな、腹に入れて置いたんだ。初めの頃はグッと腹の中で動いていたんだが、段々としなくなった。この頃はカランコロンとちっさな音だけでな」


(えええぇ?!)


「多分、体と同化したのだろう」


俺もかなり大雑把だが、ウルフスは上を行く大雑把なのだ……。ふむ。上には上がいるのである。



「見てもらいたい物があるのだが……」

ディアスの宝珠を見てもらいたくて、玉っころ、いや、宝珠をウルフスに手渡した。


「あぁ?」

ガシャン……


えええぇ?! 今、ぽいってした? 受け取って、ぽいって放り投げたのである!


「なに素っ頓狂な顔してんだ?」

「そ、それは、貴重な宝珠で、粉々……」


「あぁ? ただの屑物じゃないか」


ウルフスにちびっ子院長先生に聞いた神話時代からの云々、三つの宝珠の話をしたら、呆れ果てている様子なのだ。


「はぁー、人間の想像力は半端ないな。王の子が『魔物が襲ってきて大変だ。何とかしてくれ』と言ってきた事があってな、面倒だからこれで追い払えと渡した。二つだったかは忘れたが」


ふむ、何と言ったらいいのか言葉が見つからないのであるっ! ウルフスは畳み掛けるように話を続けるのだ。


「元々闇より黒い、漆黒の黒だ。これは色が抜けていた。それにオレがやった物を壊して何が悪い?」

「………」


一理あるような、ないような……ちびっ子院長先生には、な、失くした? 言い訳は後で考えことにしよう……。



「と、ところで、ウルフスはここで何をしているのだ?」

「ああ、元々はざわざわと騒がしいから様子を見に来た。途中はお前も知っているように怪我で体を休めて、今はこの洞窟の様子を歩きながら見回っている」


目線が上がり、手を使えたり、話せたりと便利だから人の姿をしているそうだ。それとウルフスはこの坑道を洞窟と呼ぶようだな。


「よーし、ルークは暇そうにしているしな、オレ様を手伝え。光栄に思うが良い」


さ、先ほどからかなり振り回されているような?! だが、確かに暇は暇だ。既に見て回ったが、皆が休んでいる場所には魔物はおらず、るぅはちびっ子院長先生と一緒だから心配はない。


「余り長い時間は無理だが、それでも良いか?」


ウルフスは満足そうに頷いた。



「ふむ、どこへ行くのだ?」

「これから、考える」


(ええっ?! 行き当たりばったりであるぅ)


取り敢えず、浮かぶ猪牙舟ちょきぶねを術式で小作りにして、行けるところまでを漕ぎながら坑道の様子を見て回ることになった。


舟に乗って暗闇を進む。真っ暗闇の中、残った鉱石が光り輝いて星空のようだ。


ウルフスはご機嫌な様子で舳先へさきに足を投げ出して座り、暫くして暇を持て余したのだろう、歌を歌い始めた。


どの時代のどの国の言葉だろうか? 低い声で一つ一つの音が響き渡り、荒々しくも厳かさ、そして優しさが感じられる。まるで大地を愛で、鎮めるような音色は静かに周りに反響して、石や岩に吸い込まれるかのように消えていく。


(ふむ、俺も端唄の練習をせねばなっ!)


どれぐらい進んだのだろうか? 少し広めの空間に出た。辺りを見回して、ウルフスが器用に指を使ってヒューィと音を出すと、るぅの仲間と思われる魔物が岩陰などから溢れ出てきたのである!


「元気にしていたか、変わりはないか?」


何百の手毬ほどがボヨヨンと嬉しそうに飛び跳ねている様子は、まるでウルフスを歓迎しているようだ。ちびっ子もコロコロっと後ろから出て来きて、ポヨヨンとその飛び跳ねに参加している。


ほほぅ、多分ここがるぅの住処だろう。緑の苔玉のようなものやキノコっぽいもの、これらもウルフスの周りに集まってきた。他にも何種類かの魔物もいるな。穏やかな気持ち良さがここには溢れている。



暫しして、ウルフスは皆に別れを告げた。さてと、また出航だ。ギィーコーと舟のを漕ぎ始めた。


少ししてから、ウルフスが恐ろしく厳粛した顔で口を開いた。


「この先からが問題だ。実はルークに会う前にその狂犬病か? 病に罹った大部分はこの洞窟の底に閉じ込めることが出来た。かなり咬まれたがな」


「まだ、はぐれものがいる事だろう。咬まれる事で病に罹る。さすれば病を増やさない為に自ずとする事は決まってくる。ルークにもその光の剣で手伝ってもらいたい」


何で剣を持っているのを知っているのだ? まあいいか。この狭く入り組んでいる坑道で、四方から瞬発力に敏捷性に優れた魔物と対峙するならば、術式より剣の方が小回りが効く。


真剣に覚悟を決めたウルフスに俺も心を決めた。これも何かの縁であろう。

「分かった」


「一つ、ルークに問う。人間もその病に罹っている者もいるようだ。その者達はどうする?」


俺を斬り殺そうとしたイアンを思い出す。あの狂気は狂犬病からだろうか。


「その者たちはこの国の次国王へ任せたいと思う。よっぽどの事がない限り、捕らえるだけにしたい」


ウルフスは既に金色の目で見透かしていたように首を縦に振った。



その後、不気味な沈黙が流れ、騒めきが始まった。ウルフスは漆黒の剣で襲ってくる魔物を斬り倒す。体を無理なく自然に使う理の集大成のように、しなやかに駆け、空中高くに飛び上がる。


まさに獰猛で獲物を追い詰めようとする狼のようだ。そして、ゾクリとする美しさも感じる剣捌きに惹きつけられる。



どのくらい時が過ぎたのだろうか? 気が付いたらあれだけの騒めきが消え、無音の世界が広がっていた。どうやら終わったようだ……。


血の滴る剣を軽く振って血を払った。夥しい量の血を浴び、すっかりと血だらけだ。勿論、堅固の防御術式はしっかりと掛けてあるが。


ウルフスは呼吸を整えながら大の字で寝っ転がり、俺も続いた。


「ウルフス、俺の背中を飛び台にしただろう」

「あぁ、すまん。あのルークの『ぐぇぇー』には驚いた」


「まったく、お前は見かけによらず、重いからな。前にツンのめって転ぶところだったぞっ」


「尻、咬まれそうだったのを助けてやったろう?」

「………っ!」



くたくたのヨレヨレで、もう立ち上がりたくないほど疲れたぁ!


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