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侍領主でござる  作者: ケヤキ
第八章 助太刀
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111.助太刀参上20ー猪牙舟と山犬

なぜ魔物が王宮にいるのだろうか? 王宮地下にある秘密の通路がダンジョンと繋がっている? もし、魔物が王宮や都市に現れたりでもしたら、大変な事態になってしまう。


そこで力強い味方の4人と道案内のプルン3匹とで調査に向かったのだ。


因みにその4人とはディアス王国のイアン先生、ライアン騎士、ロア国の王女マリー魔術騎士に、クマちゃんのフレディ魔術師であるぅ。


____

__


まずは腹ごしらえからで、もぐもぐ食べながらマリーの変な髪型の話が終わり、次は本題のダンジョンの話となった。


「馬鹿でも分かるように説明してあげるから、耳の穴かっぽじってよく聞きなさいっ」


ライアンの『ダンジョンって何だっ?』にマリーが呆れを通り越して、キレ気味に説明を始めた。うむ、怖いのである。


マリーにしてみたら、牢屋に入れた怪しげな者達だが、俺が連れて来たので我慢しているようなのだ。


「ダンジョンは王宮から西へ、そうね……馬で3、4日の距離にある元鉱山よ。その山には100以上もある旧採掘用の坑道が迷路のようにあって、その奥深くから瘴気が出ている。そう、魔物がうじゃうじゃいるのよ。定期的に魔術学院で駆除は行なっているのだけれど、イタチごっこでキリがないわ」


イアン先生と視線が重なる。そう、そのダンジョンで俺は斬られて死にかけたし、イアン先生は牢獄で1月半だ。思い出しただけでも腹が立つようで、みるみる内に顔が真っ赤、しかも鼻の穴が大きく膨らんでいるぅ。うむ、こっちも怖いのである。


「そうか、大体は分かった。繋がっていたら、イアンにフレディ魔術師が結界で閉じるって事だな」

「そうよ。まあ、調査を手伝ってくれのは感謝するわ」



そして、イアン先生の『さっさと取り掛かるぞっ』に皆がすくりっと立ち上がり、魔術で火を灯しながら通路を歩く。暫くするとプルン達が突然立ち止まり、ピョコピョコと飛び跳ねるのだ。皆が首を傾げる中、フレディが静かに口を開いた。


「どうやら、もう少し先へ行くと通路が2つに枝分かれになります。そうして、もう一つの別な通路もあり、結局のところ3つに分かれているそうです」


「よし、分散して、必要に応じて結界を張り、ここに戻ってくる事にしよう。危険だから深入りは絶対しないように」


うむ。イアン先生がいると、チャキチャキ仕切ってくれるので楽なのだぁ。


「ではフレディとマリー、そして俺とライアン、使者サマは一人でっ」


般若の面のような怪しげな顔で『使者サマ』って言ったぁ。ん? ええぇ?! 俺一人? 普通は学生ではなく、先生が一人なのでは?! 



えっ? と立ち止まっている俺を置き去りにして、皆はさっさと行ってしまったのである……。残されたのは案内役の桃色頬『るぅ』だけなのだ……。


るぅを先頭にトボトボ歩きながら周りを見回すと、この地下通路は魔術で造られたようだ。綺麗な半円形で、二人が楽に並んで歩ける程の大きさだ。通常の地下通路よりかは広めなので、息苦しさはあまり感じない。


暇なこともあり、るぅに話しかけても『るっ!、ぷっ!、うっ!』だけなのである。道は続くし、つまらないのだ……。唄でも唄うか、良い感じに響きそうだしな! と思っていたら、行き止まりとなった。


るぅが短い手で突き当たりを指しているので、ここのようだな。全体がよく見えるように数歩後ろに下がると……ふむ、下手くそな魔術陣が石壁に直書で描かている。その石壁が崩れて、効力が弱まったようだ。


「ここから来たのか?」

「ぷっ!」


返事と同時に魔術陣の最も弱い箇所に飛び込んだのである! えっ?! あっと言う間に壁の向こう側に消えてしまったのだっ。しかも名を何度呼んでも戻って来ない……。可愛い顔をして、なかなかの勝手さんなのだ。


もし、るぅがいなくなったりでもしたら、フレディの悲しそうな顔が目に浮かぶぅ。


「るうぅーー! 戻るぞぉ!」


しーーっんである。聞こえるのは声の反響だけなのだ……。これは実に困った! ダンジョン近くをウロウロしたくはないが、るぅがいないのは困る。


まったくっ、るぅには後で説教だな! 俺の従魔ではないので念話も使えずで、歩いて探すしかないのであるぅ。


先ずは最初の目的である魔物除けの結界をしっかりと。そして、るうを呼び戻す為に壁を通り抜けた。



おおぅ?! 壁を通り抜けた先は船着場のようなのだ。高価で希少な鉱石などは王宮へ直接運んだのだろうか?


石段を3段下りると、石畳に直置きの小舟が一艘ある。例えるなら猪牙舟ちょきぶねだろうか? 極々、簡素な造りで屋根がなく、舳先へさきが猪の牙のように尖った細長い形の小舟。後部には舟を操るもあるな!



ふふっふ、猪牙舟ちょきぶねと言えば、大三郎の時に二、三度、乗ったことがあった。


川の涼やかな風を頬にうけて、水鳥の鳴き声に『ギィーコー、ギィーコー』とを漕ぐ心地よい音。ゆったりと眺める景色も勿論好きだったが、やはり一番は船頭の舟唄だ。


寡黙な船頭が櫓を漕ぎながら調子をとり、渋い唸りが入った男の舟唄だ。深く心に沁み入る唄声だったのを覚えている。


船頭の藍色の法被はっぴに股引も粋だが、経験や生き様が刻み込まれた背は惚れ惚れする程の格好良さだった。


俺はあの背に、少しは近づけただろうか? 



背は己で見ることができぬから難だなぁ。おっこらしょ! と舟に乗り込み、調子づけに『ギィーコー』と櫓を漕ぎながら、唄う。自慢の自作舟唄である!



「えぃ〜〜ぃ、風ぇぇ〜〜、吹かれぇぃ〜〜ぃ

舟はぁ〜〜ぁ、出て〜〜ぇぇ、セイーセイー!」



おおぅ、ほぼ確信があったのだが、やはり舟が浮かび、動き始めた。ゆったりと。


古魔術で魔道具のようだが、魔力を持つ者が漕ぐと浮かび、前へと進むようになっている。丁度いいのである! この調子で進み、るぅを探して連れて帰ろう。



ギィーコー、ギィーコー

「るぅぅ〜〜、どこにいぃ〜〜るぅぅ、セイーセイー!」



海釣りの為に用意してあった魚取り網を取り出した。るぅが転がっていたら、これで掬い上げるのである。


少しするとぽっかりと真っ暗な暗闇の中、小さな岩の割れ目からだろうか、淡い朝陽の光が見える。その空間は広がりがあり、雨水も入り込むようで水溜りもある。


いたいた、るぅが朝陽ではあるが、気持ちよさそうに日向ぼっこをしているではないか。まったくぅ! 舟から降りて声を掛ける。


「るぅ、突然いなくなったら、心配するだろう……」


んん? 黒っぽい毛並みで気づかなかったが、山犬みたいなのが隣に蹲っているぅ。魔物だろうが、るぅが安心して日向ぼっこをしているくらいだ。襲われる心配はないだろう。 


この丸まっている山犬っぽいのは敵意はないが、じっと射るような視線で俺を観察しているぅ。金色の目に見つめられると、心中まで見抜かれるような不思議な感じがするのだ。名乗った方が良いのだろうか?


「俺はルークだ、邪魔をしてすまない。るぅを迎えに来た。直ぐに立ち去るの安心して欲しい」


しかし、よく見ると喧嘩でもしたのか、あっちこっち血だらけだ。特に右前脚は怪我が酷いな。


「脚に怪我を負っている様に見受けられる。治す手伝いをしたいのだが、体に触れてもいいだろうか?」


「「…………」」


すると、るぅが『るっ!、ぷっ!、うっ!』、と何か言っているのだが、さっぱり分からん。ふむむ、それと人と魔獣は治癒したことはあるが、魔物? は初めてである。よく分からぬので、古の魔法を使うとするか。


「今から触れるので、もし嫌だったら教えてくれ」


山犬くんは動かずに、目を細めて凝視するだけなのだ。言葉が分からない? 恐る恐る怪我をしてない背中あたりに掌をのせ、嫌がってないのを確認してから、『良くなりますように』の思いと共に術式を唱えた。


淡い金色の光に包まれて、山犬くんの怪我が癒えてきた。この古の魔法で大丈夫そうだ。


暫くすると山犬くんは身じろぎをした後にすくりと立ち上がった。


「オェーー! グェーー!!」


なんと、突然吐いたのであるぅ! 予想外の展開にびっくりなのだっ。るぅまで『ぷぅ〜〜ぅ』といつもとは違う音声なので、驚いている? らしい。


更に吐いたものの中から、黒い真珠ほどの大きさの何やら未消化を鼻で指し示す。


(えええぇ?!)


どうやら……贈り物、のようである。息を凝らすようにジーと見つめているので、受け取ることにした。


「れ、礼を言う」


拾い上げると、べっとりと……生暖かいのは、気のせいだと思う……。ふむ、平べったい漆黒の黒石だ。どうやら、どこに仕舞うのか行方が気になるようで石を見つめている。


よし、ならこうしよう。俺は二つ指輪を嵌めている。ルルさんからもらった合格の指輪と守護の指輪。その守護の指輪に石を嵌め込んだ。


「どうだ? 肌身離さず、大切にする」

手の指輪を見せたら、そのまま威風堂々たる姿で静かに立ち去った。


「るぅの友達か? 格好良い友達だな」

「るっ!」


るぅは元気よく返事をして、舟に飛び乗った。

よし、戻るぞ!


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