107.助太刀参上18ー寝巻会
尻蹴飛ばし作戦が実行に移り、王太子の味方となる魔術師を探しに『王宮魔術師の館』へフレディと共にやって来たのだ。
がっ、ラディス3世のシチュー煮込み? 術式を受け、酔っ払い感に高揚感、それと解放感。とにかく、気分がふわふわとして羽ばたけそうなのであるぅ。
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案内をしてくれたウルに戻って休むよう伝え、館に侵入なのだ。門番が館の重っそうな扉を開いてくれたので、ふわりと館に入る。
ほほほぅ、応接間は……普通だな。まあ、どうでもいいか。さて、60人が王宮魔術師で、今いるのが3、40人ぐらいって門番が言ってたなっ。
適当な椅子によっこらしょっと座って、なんかバチバチしてくる魔術が鬱陶しいので手刀で払う。
「ルークさん、どうしますか? あまり目立たない方がいいですよね」
ふむ、その通りである。
『強制睡眠』
指を鳴らしての術式である。ふふっふ、格好良いのだぁ。
それはそうと、ラディスのシチュー煮込みなんとかで、魔術も魔法も全て混ぜ混ぜになってしまった。もう、区別が付かない。面倒なので術式と呼ぶ事に、今、決めたっ!
「よし、これで、この館の者は全員寝たはずだ。思ったよりかは味方になってくれそうな者がいるので、特に心根の良い者を応接間に移動させるぅ」
龍の眼で心の色? 魂の色? を視たのであるっ。色の種類は様々だが、鮮やかで明るい色、そして大きければ大きいほど、懐が深いような気がするぅ。
『移動』
5人を応接間へ移動させると、寝巻姿で枕を抱えている者やそのままの王宮マント姿の者もいるなっ。
「ふふっ、皆、よく寝ていますね」
『空間ー玉』
「この空間を魔術師の秘密基地にするつもりだ。フレディの好きな様に整えてもらえるかぁ?」
「分かりました。好きなようにですね!」
「ああ、頼むっ」
ワクワク声で楽しそうだ。魔術を使っての創造は面白いからな。ちびっ子院長先生の秘密基地は林の中のボロ小屋風だが、中は居心地が良い造りだったっ。
何度か体は大丈夫かを確認されてから、少しの間別行動なのだ。後に秘密基地で皆と合流の予定であるぅ。
『空間ー夜』
この空間は『玉』とは違い、広がりのある夜空を想像して創ってみた。魔術師だけに目覚めたら、攻撃してくると思うっ。実力も見てみたいしな! ほいよっ、と5人を移動させてっと。
『強制睡眠解除』
「あれ〜〜?」
「ここはどこ?」
「きゃあああ!!」
「何が起きた!!」
「………」
おおぅ、鳥合の衆だ! また寝ようとする者、叫んでいる者、動じない者もいるなぁ。
俺がゆらりと宙に浮いているのに気が付いたのだろう。うむ、さすがは魔術師。一瞬の張り詰めた緊張感の後に、一致団結の総攻撃が始まったぁ。そりゃ、攫われたしな。
ふむ、攻撃されるのはあまりないから、貴重な体験なのであるぅ!
最初は拘束やら檻系から始まり、次は火玉、水玉に土玉、黒のちび子弾丸に光矢、何やら色んなもの飛んできた。ふむ、上手いものだ。偏りなく全方向から、協力し合い攻撃をかけている。
『槍 顕現』
よし! 全て打ち返しなのだ。特に黒弾丸は打ち返すと『カキーーン!』とスカッとする音までするぅ。でっかい火玉や水玉は槍で突き刺して投げ返したり、反転術式で返したり。
だが、手加減してもらっているようで、この軽い攻撃が長く続くだけなのだ……。
「ーーそれだけか?」
少し煽ったら、ジリッと突き刺すような視線が飛んできた。うむ、なかなか怖いのであるぅ。最初に巨大な爆炎が刹那でぶっ飛んできた。
『∂………』
おほほぅ、超古代文字を唱えた。防御術式がどこまで耐えられるか、一度試したかったのであるぅ。当たった時に鈍い衝撃が少しあったが、大丈夫そうだ。次に闇爆、大波、最後に巨大光爆発だ。
しばらくすると、蹲って、皆が荒い息を吐いている。
「ーー終わりか?」
「ハアハア、化け物め! 俺達をどうするつもりだ!!」
(ひどい言いぐさなのだぁ!)
んん?! い、いかん、ただでさえ理解不能の規定外だといわれたばかりだ。これに化け物も入ったら、大変なのであるぅ!
おっこらしょっと宙から下りて皆の前に立つ。
「使者だ」
「「「…………」」」
「し、死者? あんた死んでるの?」
「違うって、今王宮にいる使者様だよ。あの……」
「「「…………」」」
「一つ問う。王太子の味方になるつもりはあるか?」
フレディの創造した空間は見上げるほど天井が高く、かなり広い屋根裏部屋のようだ。落ち着いた木造の三角型で、大きな窓からはたっぷりと陽光も入る。
窓の外には林があり、柔らかな若葉の緑が目に優しい。耳をすませば小鳥のさえずりも聴こえるぅ!
室内も居心地の良い空間で、大きなふかふか椅子が絶妙な位置に配置され、その椅子の一つに女に抱っこされたフレディが嬉しそうな顔で鼻の下を伸ばしている。元々伸びているがな!
すでに王太子とビリーへの顔合わせは終わり、国王の企てを潰す計画を練っているところである。王子達も夜中なので楽な格好で、魔術師達も寝巻に枕、まるで子供の頃の寝巻会のようだぁ。
作戦の協力者だが、年代もバラバラで、良い感じにバランスが取れている。偶然だが王太子の幼馴染もいたっ。
尻蹴飛ばし作戦の協力魔術師
最年長で王宮勤40年以上、御仁の友でもある、ウスタ
王太子の幼馴染で友、任務に忠実、フランシス
30前半? 白銀の髪で冷静沈着、辛口女、ミズリー
金髪と茶髪の間の髪色、甘口女、キャロル
黒緑のキノコ頭でメガネを掛けた知能派、ディエゴ
以上、5名が加わった。
やれやれ。名前と顔を覚えるのが苦手なので、箇条書きにしてみた。人が増えると大変なのであるぅ。
ここは皆に任せて、ロアにいるディアス王国の少数精鋭隊を見つけに行くのだぁ。心強い味方になるだろう。
「フレディ、いくぞ」
少し不服そうに口を尖らせて、キャロルの膝から下りてきた。トコトコとやってきたフレディを抱っこするっ。
『転移』
転移先は俺の部屋である。デュークは? 床で竹細工を片手に舟を漕いでいる。疲れているのだろう。起こすには忍びないが、後3日しかないのであるぅ。せめてもと、背に手を当て、回復の術式を唱えた。
「んん? ルー、か。……んっ! ああぁ〜ん?! なんだい、その瞳!!」
ああ? そういえば、フレディもなんか言ってたなぁ?
「何か変か?」
「薄青く煌く……ま、まさか、目に宝石を嵌め込んでないよねっ?!」
(えええぇ〜〜?!)




