102.助太刀参上13
使者も残り4日だ! ビリーの面会申し入れを受けたのだが、どうもはっきりしない。
『あ、あ、あの、そ、その……』の繰り返しである。
うむ、イアン先生のように『ハッキリ言えっ!』と蹴飛ばしてはいかん。多分……。そこで王宮の外だといくらかは話しやすいだろうと、デュークとウルも引き連れて海へと転移したのだ。
デュークとウルは楽しそうに海へ飛び込んだのだが、ビリーは立ち尽くしているだけなのである。
一度入ると楽しさが分かるだろうと、海に入るのを手伝だったのだ。ビリーは弧を描くように飛び、バ、バシャーン! と遠くに落ちた。元気にバシャバシャして楽しそうなので、何よりなのである。
ウルはここに来るのは2回目なのだ。六本継竿で上機嫌な様子で釣りをしているのを眺めながら、俺達は砂浜の適当な場所に腰を下ろした。
デュークがひそひそ声で耳打ちする。
「ルー、絶対あれは溺れてたよ。鼻水垂れてたし」
「そんなことはないだろう。楽しそうにバシャバシャしてたぞ」
「いや、違うと思う!」
俺達が溺れていたのかを確かめる前に、ビリーは緊張した面持ちで口火を切った。
「こ、国王陛下は……父上は……ディアス王国を攻め滅ぼそうとしっていっす!」
「「………っ!!」」
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突如、深刻な話になってしまったのである! ふむ、ロアの国王か? ああ、初日に御仁と共にやって来たあの金ぴかオッサンだな!
「王太子の兄上が尽力を尽くしていますが、止められません。オレ、いえ、私には力がないのです……どうか兄上にお力をお貸し下さい!」
俯いているビリーの握りこぶしには力が込められていた。
現国王には三王子、三王女がいて、ビリーは独りだけの庶子だそうだ。
ロア王家血筋の証明、王子名の語尾に使われる『エル』も与えられずに、いない者として扱われてきたのだ。心労で母上はビリーが幼き頃にこの世を去り、それ以来ずっと独りだったと。
「私は名ばかりの王子でした。努力に努力を重ねても、誰からも一切評価されない。王宮の者には軽くあしらわれ、希望もなく自分で自分をも見捨てて生きてきました」
頭が霧がかるような時もあったが、どうでもよかったそうだ。
「それが使者様のお陰で全てが変わったのです。『其方は脇役に見えるが、様子をよく把握して先導する重要な存在だ。王太子と心合わせ励め』、初めて……王子として認められた瞬間だったのです。暗かった心の中に一点の明かりが灯った想いでした」
(あれ? あれは手拍子の話だったような……?)
「その後は全てがひっくり返りました。歴代王の使者様に認められた王子だと……。それと全く接点が無かった王太子、兄上と長胴太鼓を通して、会話を交わす機会もできました」
ビリーの話によると王太子は全身全霊、国のために真摯に取り組んで、金ぴかオッサンの計画を断固阻止しようと尽力を尽くしているそうなのだ。
その計画は根が深く、王を捕らえて『はい、終わり』では済まないので、力を貸してくれとの事なのである。
ふむ、ビリーの力が込められた握りこぶしを見て思う。俺をオッサンと呼び、あの投げやりで『羽ばたいてる〜』がここまで変わり、男気を見せているのだ。オッサンは嬉しいのである。
しかし、よく分からんのだ。
「ビリー、其方の男気は受け取った。王太子に伝えよ、『顔を見せに来い、それと機を逸するな』」
「はっ!」
直に聞けばよく分かるだろう。ふと思ったのだが、不思議な空間である。王子達は砂浜にびしょ濡れで片膝をつき、後ではウルが魚を釣り上げて『うひょひょーー!』と飛び跳ねているのである……。
「よ、よし、気分転換だ!」
魚釣りをしたことはあるか? と尋ねながら、ルクス村の釣竿を2本取り出してデュークとビリーに手渡した。
それからはウル、デューク、ビリーの三人は魚釣りを楽しんでいるのである。デュークは初めてだが、そつなくこなし、すでに何匹も釣り上げている。ビリーはからっきしだが、波音や潮風に耳をすませて、穏やかな顔で海の眺めてる。
そして俺はというと、下働きなのである。せっせと魚を焼く為の焚き火の準備やらである。
一通りの準備が終わり、おっこらせっと座って休むことにした。ふむ。この入江に来るのは3回目だ。1回目はフレディと出会ったとき、そして2回目と3回目はウル達とで、3回とも転移で来たのだ。
陸地は緑の草木に覆われいるのだが、一度も行ったことがないのだ。よし、時間もあるし辺り見てくるか!
「箒、召喚『福』」
箒の福がぽんっ! と現れた。
「福、元気にしてたか?」
柄を上下に動かした。うむ、元気だったようである。
「今日は辺りを見て回りたい。よろしく頼む」
上空から、デュークに向かって、少し周りを見て来ると声を掛けた。『日が暮れる前までお帰りください!!』プンスカしている。いかん、どうやら塩地での3日行方不明を思い出したらしい。
ふむ、ズラかるか。福に念話で伝えると、烈々、全速前進でぶっ飛ばしたのであるーーぅ。例えならば、馬が前脚をあげ、ヒヒーンという感じなのだ!
『暴れ箒、福』復活なのである! 福は久しぶりの全速前進を楽しんでいるのが伝わってくるぅ。仕方ない、付き合うか。しばらく、好なように飛ばすことにした。
どうやら海が珍しいらしく、低空飛行でぶっ飛ばすぅーーっ?!! どのくらい飛んでいるのだろうか? あまりの速さで、時間の感覚がどこかで失われてしまった。
ザザザーーッ ザザザーーッ ドフ ドフ ドフッ!!!
「くぅ〜〜〜………っ」
ぐ、ぐるぐる目が廻る!! 木々に引っかかりながら、落ちて3回転であるぅ。防御魔術は目眩までは防御してくれないようなのである……。
体を起こして両手の掌で目を覆い、目眩が落ち着くのを少し待った。落ち着いてからゆっくりと目を開けると、陽の光が眩しい。どうやら林のような場所だ。福は大丈夫だろうか?
「福っ!!」
「大丈夫だよぉ、ほら」
突然と現れた女が福を手渡してくれた。こ、このような髪は初めて見る……膝裏長さの白髪? 陽の光を受けて、白銀色というのだろうか。透明感のある美しい女だ。
「やだもぉ、そんなに見つめないで、恥ずかしいじゃん」
「す、すまぬ。福の事は礼を申す」
女はまるで匂いを嗅ぐように鼻を鳴らした。
「ふ〜ん、なるほどね。あなた、黒姉ぇ臭い〜〜!」
そう言ったとほぼ同時に女が叫んだのだっ。
「黒おおお、ねえええ〜〜〜〜!!!」
その声は空気を切り裂き、何処までも何処までも届くであろう大音声なのである!!




