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侍領主でござる  作者: ケヤキ
第八章 助太刀
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99.助太刀参上10

白丸とフレディを抱っこして、ラディス3世の玉座の間を訪れたのだが、玉座の間は大混乱に陥ったのである!


小さくても魔獣の強烈な足蹴りを受けてフラついている俺、痛そうに床に転がっている白丸、何が何だかさっぱりわからんフレディに、大声で泣き喚くラディス。


元を辿れば、白丸とラディスは旧知の仲だったのだ。玉座上の天井画には在りし日の白丸が描かれている。威風堂々たる巨大な白銀の虎が、光輝く毛並み靡かせ、カッと両目を見開くように睨みを利かせている。


「白丸は格好良かったのだな。いつか体が戻ることはあるのか?」

「ひょっとしたらね」


くぅ、あのもこもこに包まれて寝てみたいものだな!


「ト、トラ、其方の盃は……こ、ここに。ピー、大切に、ピー」

ふむ。ラディスの鼻からのピーピーはなかなか耳障りなのである!


例によって、玉座の後の壁をバシバシ叩くと武器の棚が露わになり、その上段から金製の大盃おおさかずきを大切そうに取り出した。それは高台のある大盃で両手で抱える程の大きさなのだ。多分、二人で仲良く飲み交わした盃なのであろう。


潤んだ目で昔に思いを馳せるている白丸とラディスをみて、フレディと俺は顔を見合わせた。


「積もる話もある事でしょう。今日はこのままお暇しましょうか?」

「ああ、そうだな。そうしよう」


二人に一声掛けて、酒とつまみに、興が乗った時に白丸でも奏することが出来そうな手拍子ちゃっぱも手渡した。うむ。親切さんなのだ。


フレディと相談して、共にダニーに会いに行く事にしたのだがーー俺はかどわかされてしまったのである!



誰にかというと……そう、第三王女マリーエイル、スッポンさんにであるぅ。



____


王座の間を出てすぐの事だった。俺が使っている部屋の真正面に仁王立ちの姿でいたのだ。


「ふふふっ! やっと会えたわね。あなた、私を避けているでしょう?」


これが待ち伏せであろうか? こ、怖さ倍増である! ま、また、イチャモンをつけられても困るので、スッポンさんを黙って見据えるだけにした。もちろん片手にフレディを抱っこしたままでだ。


「「…………」」


スッポンさんがキマリが悪そうにウロウロ視線を泳がしてる? すると、騎士服を着たおなご達に囲まれたのだ!


しかも、一斉に相撲の突き出しと押し出しを仕掛けてきたのである! こ、これは?! 男だったり、殺意があったりだったら容赦しないが、おなごがただ押しているだけなのだ。手荒な事はしたくないし、何なんだ?!!


そして、玉座の間近くの控の間だろうかへ押し入れられた?! と思ったら、目の前で扉が勢いよく閉まり、俺もフレディもあんぐりである。


「フレディ、ロアには、こ、このような王宮の風習でもあるのか?」

「わ、私も驚きました、こんな事は聞いたこともありません!」


ここはトンズラするか、と思った時にスッポンさんと二人の侍女が入ってきたのだ。スッポンさんのイチャモンは怖いので、不快感をあきらさまにスッポンさんを見据えた。


「………っ!!」


何も言ってこないので、プンスカ立ち去ろうとすると、スッポンさんが口を開いたのだ。


「あ、あなた……本当に使者様なの、かしら?」


ふむ。なかなかいい質問だ。使者なんたらよりも、通りすがりの者って感じだな! ラディスの言い付け通りに、威厳は忘れずにっと。


「何にしろ、5日後には去る。安心するが良い」

「「…………」」


さっさと、トンズラである。扉からは出れそうにないので、転移の詠唱を始めるとスッポンさんが叫んだ。


「使者様、お願いがございますっ!!!」


ふぅ、また付け回されても困るのだ……思わず深いため息が出てしまった。

「はぁ……申してみよ」


聞くと王宮の片隅にある御婦人の館には『小鳥の囀り』と呼ばれる、庭園があるそうなのだ。そこには女の幽霊さんが出るそうで、衣服から推測するに何百年前の高貴な身分、王女の一人ではないかと云われていてる。


御婦人の館と呼ばれるだけに王妃、王女や幼い王子、婦人の客人を泊める館で、警備をしている女騎士達も含めて、皆一様にひどく怖がるので困っているそうなのだ。もし歴代王の使者様なら、王女? と一度話をしてもらいたいそうなのである……。


ふむ、それはラディスの仕事だな! 今夜は白丸との時間を邪魔したくないので、明日にでも聞いてみるか。


「ならば、明日にする」

「いいえ、月の満ち欠けで、今宵が現れる日なのです」


(ええぇーー?!)


2日前から面会の申し込みをしていたのだが、俺に体調不良が理由で断られ続け、仕方なく他の女騎士と共に突き出しと押し出しで、拐かしたそうだ。


ふむ、これは俺が少しは悪いような? ラディスには好きなようにしろと云われているしな。下調べをしてから、改めてラディスに頼むか。


「ならば、その場に案内せよ」

「はい、その前にこちらを……」


手渡されたのは鮮やかな赤色のマントである……。御婦人の館には国王しか入る事が出来ないので、昼間ならまだ何とかなるが、夜にウロウロしていると誤解されてしまうとのことだ。


「魔術を使えば良いではないか」

「いいえ、ロアは魔術の国です。魔術を使う者の危険はどの国よりも理解していて、王宮全体に魔力を使えないよう、強い魔術陣が張り巡らされています」


ふむ。それは知っている。だから、フレディと初めて王宮へと忍び込む際、王族専用の秘密の地下通路と裏道を魔力なしで突っ走ったのである。


「それに御婦人の館は例え国王でも魔力が使えないようになっているので、これが最善の策なのです」


いかん、変な事に足を突っ込んでしまったようなのだ! 今更ではあるが断ってもいいであろうか? くぅ、歴代王の威厳を前に二言はないのであろう……。


髪の色も変えるように云われたので銀色にした。やれやれ、夜だし誤解されてしまうと大事になるからな。


最後の仕上げにスッポンさんの侍女達に髪を纏めてもらって準備完了であるぅ。


「「わぁぁ〜〜っ!!」」

「使者様、とてもお美しくていらっしゃいます!」

「まるで、物語の挿絵にある絶世の美女のようなっ!」


褒められても全然嬉しくないのである……。銀の髪は緩く横に流れるように編まれ、花飾りが所々突き刺さっている。体に沿うように覆う赤マントの縁取りは、金糸で花柄の刺繍が施される。袖口、裾、襟、フード先、そして腰紐までもだ。


歴代王の威厳がどこかへ吹っ飛んでしまったのである……。


部屋を出るとデュークに出くわした。酔い潰れたビリーを部屋に運んで戻ってきたところだろうか。スッポンさんが代表して軽く挨拶をして、そのまま通り過ぎた。ちらりと目があったのだが、どうやら俺だとは気付いてないようだ。


それにしても、使者とやらは大変なのである!


念の為に話すことは控え、フレディは俺の腕に掛かっているリボン付きのハンドバックの中にいるのだ。



スッポンさんの道案内は『ええぇ?!』と思うような最短近道で、シャキシャキとゴミ溜めの横や洗濯場を突き抜けて、御婦人の館に繋がる一本道まで出た。


その道は広く、左右には庭師が丁寧に仕事をしたのであろう、木々が立ち並んでいる。そして、その突き当たりにその館があるのだ。


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