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侍領主でござる  作者: ケヤキ
第一章 クラウス領 領都ダル編
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1.誕生

大伴大三郎吉久……


うっ、寝台で激しい頭痛と吐き気で目が覚めた。


朦朧とする意識の中で重い瞼を開けると、いつもの変わり映えのない室内に天蓋付きの寝台。執事の面も見える。 


しかし、なんじゃこれはっ?!

二人分の人生の記憶が流れ込む。


例えれば滝行の滝つぼにいるような……二人分の人生の記憶が拙者へと流れ込み、耐え難き頭痛で意識を失った……


_____

___


それから、始めは頭痛もあり、寝て起きたら全ては夢であったらと願い、出来るだけ寝て過ごした。寝るほどの楽はなかりけり、とばかり眠り呆けたのである。


執事や侍女には拙者の様子や言葉遣いが変だと本気で心配されたのだが、徐々に落ち着いてきたと思う。


未だに多少変ではあるが、この程度は許されるであろう。


しかし、わからぬ。 

狐の類、もしくは妖怪類に騙されているのか。

それとも神隠しにでもあったのか……。



拙者の人生の一つは大伴大三郎吉久。大名の大伴十三右衛門の三男である。


御世継の兄上が跡目を継ぐので、幼き頃から兄上に仕えるべく、

忍びの者と呼ばれる母上方の祖父上に預けられたのだ。


5歳頃から山々を忍歩で走り、指先も含め身体を鍛え上げ、15歳の元服までには諜報、暗殺、医学、薬学、食物、火薬の知識などをことごとく叩き込まれた。


しかし、大伴大三郎吉久としての最後の記憶は15歳の元服の儀に名を呼ばれたまでなのだ。


大伴大三郎吉久と……。



____



「ルーク様、今日のお加減はいかがでございますか」


「…………っ!」

うむ、抜かった。いきなりで驚いてしまった。


執事だが、あらゆる気配を消し、間合いに入る達人。

髪に霜を置く、初老のジョセフだ。


『良きぞ』と言いそうになったが引っ込めた。

「ああ、お陰で昨日より随分いい」


聞くところによると、一月前に流行病を患い、

高熱で一時は危なかったそうなのだ。



そう、もう一つの人生はヴェルヘル=クラウス辺境伯の三男、ルーク=クラウス、16歳。もう、三月もしたら17歳になる。


父上はディアス王国の国境付近に広大な領地を持ち、武術に秀でた名門クラウス家のクラウス領主だ。


父上は一国一城の主、大名なのである。


拙者、いかん! 訂正して僕。いや、17歳になるから俺だな。俺の容姿は長い黒髪に菖蒲の花ような青紫の瞳をしている。背も高く、顔の造形も良い方と思うが、体が呆れるほどなってないのだ……。


大三郎は指先で逆立ちもできるほどに体を鍛え上げていたのに、

ルークはまるで牛蒡くんなのである。


17歳に成人となり、18歳からクラウス領地の国境沿いにある砦と古城の一つを任されることになっている。


土地の奪い合いと権力争いは世の常だ。父上の領地と領民を守る責務を全うする為にも、文武両道から。


体を鍛える事から始めたいと思う。



しかしだ、最後の足掻きで、もう一寝入りするか。 

寝て起きたら全ては夢であったらと願う。

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