略称には気を付けて
私は今の職場に落ち着くまで派遣社員をしていた。割と長期の事務がメインだったんだけど接客業もしたし、業種も色々行ったのであさ~く色々な職種を存じ上げている。そこで知り合った人と未だに付き合いがあったり、その場所では深く仲良くなったりと様々な話を聞いたので創作をする時にネタにすることもある。
ある時、私は今まで手書きがメインで顧客管理をしていた服飾店のデータ移行の仕事を受けた。五人位で一斉に顧客情報や過去十年以上の売り上げ履歴などを手書き情報を見ながらパソコンに入力していく。
その一緒に仕事をした人たちは同じ派遣会社に登録はしているけれど今まで一緒の仕事をしたことも無く初対面の方々ばかりだった。
手書きのカードにはくせ字があったり、インクが経年劣化で薄くなったりで読み辛いものも多く、たまに全員であーでもない、こーでもないと文字を推理したりすることもあった。
「JKって何?」
「ジャケットの略でしょうね」
「JKってそのまま転記して良いのかな?」
「良いんじゃないですか?結構使っている略称だし、このお店では通常使う略称なのでしょうから」
その時私の隣に座っていた一人が首を傾げて聞いてきたので私は答えた。ジャケットの略だとは思うけど、もしかして違った場合、JKと入力は間違いでは無いけれど、ジャケットと入力するとミスタイプって事になるし。顧客側とすれば「意訳してとは言ってない」となったら仕事のクオリティ問われるし。
「JKって、違う意味に聞こえる」
ぼそりと真向かいに座っている人が呟いた、。一人が笑って、私にJKの意味を聞いてきた人も苦笑いだった。
「私もいきなり購入項目にJKって出て、え? 女子高生購入? ってどきっとしたよ」
成程、JKって何と聞いてきたとき妙に声が強張っているなと思ったら、そんな勘違いがあったんだなと納得していると反応の無かった二人も混ざってきた。
「あぁ、JKって女子高生ってこと?」
「そうなんだどうして?」
「ほら、Jは女子でKは高校生だってー」
「へぇそうなんだー」
「え?じゃあこのOPはオープニングじゃないんだよね、何だろう」
「ワンピースですね」
「LSは購入項目にあるってことはサイズじゃないんだよね?」
「ラップスカートの略だと思うよ」
私は今までの経験で少しだけ略称に思い至る記憶が多かったので聞かれれば答えていた。ただその店独自のローカルルールがある場合もあるし、完璧とは言えないのでその点は説明したけれど、たんなるアルファベットと思いながら入力するよりは意味が分かった方がミスも減るし、難読文字も予測が付きやすいと思うし。
「TSって何かなぁ」
「……TS」
「あぁタイトスカートですよ」
色々な略語に答えながら私は真向かいに座る彼女を眺めた。挙動が不審だった。
その日の就労時間が終わり職場を出てから私は真向かいの彼女に声をかける。
「もしかして同人やってます?」
「え!何故分かったんですか」
いや、だってJKとかTSとかBLとかって特定の用語に妙に反応してたし。
ちなみにこの時BLの意味が私には分からなかったので休憩中に様子を見に来たお店の方に聞いてみたらワンピースのスタイルのベルラインの事だと教えてもらった。確かにベルラインだったらBLだなと納得。でも余り周囲にベルラインのワンピース着ている人居ない気がするなぁとは思ったけどね。
「オタばれするとはっ、抜かった~~ お願いします、内緒でお願いしますぅ」
別に皆に暴露するつもりは無かったのでそのお願いは了承した。
それに彼女の様子に気が付いて指摘するってことは私も同類同人活動している奴だってカミングアウトだっていうのに、彼女は気が付かない様子だった。まぁ良いけど、てんぱってるなぁと面白く眺めた思い出。
後日友人に「気付いても指摘してやるな、な?」と肩を叩かれちょびっと反省はした。
疑問に思ったらついつい確認してしまうのが私の悪い癖。それで相手を虐めるつもりも何も無いんだけどね。
時は流れて別の仕事でカスタマーセンターに行くことになった。
「う~ん、このユーザーはここまで来たらもうBLに入れるしか無いね」
グループ長に相談している先輩たちの会話が耳に届いた。
「び、BL ふふ、萌える」
私の隣の席で呟く同期の言葉に私はため息をついた。
指摘して確認するまでも無く確実にこの人はその界隈の方でしょう。
腐ってる事とか同人活動してるとか、オタク活動してるとか内緒にしたいと言う割に略称に反応するうかつなレディが多いのですがなんとかならんもんかなと思った思い出です。




