01すべての始まり
不幸な人は全方位攻撃。
・・
・・・・
サイバー課長「先輩くんはいるか!?」
束の間の平和を刑事課で和んでいると、サイバー対策課の課長が駆け込んできた。
あまりいい話ではないだろう。
先輩「はい。なんですか?」
サイバー課長「ここじゃちょっと・・とにかく力を貸してほしい。」
課長「おおっと、うちのホープを連れて行くのに隠し事か?あ?」
サイバー課長「くそっ、お前と付き合ってる暇はないんだよ!」
サイバー課長「・・うちに不正アクセス仕掛けた馬鹿がいる。情報が抜かれた。」
課長「なっ!?わかった、先輩頼むぞ。」
先輩「任せてください。」
サイバー対策課の課長と先輩は部屋を出て行った。
最近は大きな事件もなく、まったり気分だったけど・・先輩は多芸だからね。
ネット周りの事件が起きるとよく応援に呼ばれる。
課長「犯人確保となれば出番があるかもしれん。いつでも出動できるか?」
課長に声をかけられた俺は、力強く返事をした。
後輩「もちろんです。体をなまらせたりはしていませんよ。」
後輩「ただ・・ニュースがまたきな臭くなっちゃいますね。」
課に置いてあるテレビからは、地元の企業がAIの開発に成功したと報道されていた。
アナウンサーとAIが会話をしている。
こういうニュースばかりならいいのに。
ぴんぱんぴんぽんぴんぽん、ぴんぽんぱんぽんぴん。
課長「おっと電話だ。もしもし?・・な、なんだって!?」
悪い予感。10中8,9当たる。
課長が電話を終えた。
後輩「事件ですか?」
課長「・・悪いことは重なるものだ。おーい!全員集合!」
課長「殺人事件だ!それも2件!」
こんな地方で殺人事件が起こるのは珍しい。
それが同時・・なにか嫌なものを感じた。
アンパン「連続殺人ですか?」
アンパンさんがみんな感じていた疑問を口にする。
課長「恐らく違う。」
課長「片方は無差別殺人の可能性がある。高速道路にドローンが投下された。」
課長「ドローンをフロントガラスにぶつけられた車を含め数台の玉突き事故。」
課長「・・その中で、トラックにぶつけられた乗用車の運転手が絶望的だそうだ。」
アンパン「ドローンの飛行申請は?」
課長「出てない。狙ってやったなら、所有登録もしてないだろうな。」
課長「登録義務化は2022年6月20日だから、その前を狙ったか。」
アンパン「今は3Dプリンタでも作れますから、ガチの犯罪者にはどこまで効果あるかわかりませんけどね。」
アンパン「それで、もう一件は?」
課長「・・あれの研究員が、同じとこの研究員を殺ったそうだ。」
課長は、テレビを見た。
テレビはまだAI特集をしている。
後輩「AIを作った研究員同士の揉め事?」
課長「たぶんな。ふたつの事件に関連は見られないが、同時期であることは留意してくれ。」
課長「アンパンはマッチャと組んでドローンの方を頼む。」
アンパン「はい!」
マッチャ「・・テロの可能性もありますよね。十分注意します。」
課長「ああ。だからお前たちベテランに任せる。」
課長「研究員の方は後輩とミルクだ。」
課長「AIは今後の産業を担うとも言われている。それにテレビ報道による注目度も高い。」
課長「外面のいいお前らに任せる。」
後輩「すごい言われよう。」
ミルク「外面なら身長よし顔よし他の課までサポートできるエリートな先輩の方が良さそう。」
課長「まあな。あいつがいれば後輩抜いて入ってもらい美男美女刑事として行ってもらうんだが。」
課長「しゃあない、警察が喧嘩を売られたんだ。ここで下手な対応をすれば犯罪者共が調子に乗る。」
あ、あれー、俺ディスられてない?
ミルク「大丈夫ですよ。ディスられた後には持ち上げ展開が待ってるはずです。」
なろう小説かな?現実はディスられ続けるけどね。
・・
・・・・
車に乗って現場へ向かう。
・・ちらっと横目にミルクさんを見る。
日本人離れした顔立ち。髪の色も黒ではなく薄い金髪。
どちらかというと、ビスクドールの様な雰囲気をしている。
かわいいというか・・超かわいい。
ミルク「AIは世界中で作られていて、SNSや電話でやり取りも行われているみたいね。」
後輩「そういえば以前、SNSでAIが差別発言したとかありましたね。」
ミルク「学習機能があるから、差別も学べばできるという好例ね。」
後輩「好例・・?」
ミルク「失敗だって反省して改善するきっかけになるわ。」
ミルク「そして誰が責任を負うべきかも考えないといけないってこともわかるわよね?」
ミルク「差別を教えた人?それともAIの所有者?それともあなたが責任とる?」
後輩「差別を教えた人かなぁ。というかどう考えても俺は違うでしょ?」
ミルク「AIがなければ差別を教えることもなかった。AIを公開した者が悪い、なんて言われたら?」
後輩「包丁で人を刺しても包丁を売った人や作った人が悪いとは言わないでしょ?」
後輩「AIが差別を教えてとか言わない限り、普通は差別を教えようとはならないって。教えるのがおかしい。」
ミルク「ならAI自身が差別を教えるよう人間に頼んだらAIの所有者が悪い。」
ミルク「そうでなければ差別を教えた人が悪い。これでどう?」
後輩「・・まぁ、それなら納得・・かな?」
ミルク「ならAIが差別を教わりたくなるよう人間がそそのかしたら?」
後輩「それはそそのかした人が悪いでしょ?」
ミルク「差別を教わるようそそのかす人と、実際に差別を教えた人が別の人だったら?」
後輩「えーとえーと、そそのかした人も教えた人も両方悪い。」
ミルク「え?単純にAIが差別を教えるようそそのかした場合はAIの所有者が悪いのに・・」
ミルク「他の人間がAIをそそのかして、AIが差別を教わりたがって教えたら、両方が悪くなるの?」
後輩「あれ?」
ミルク「ルール作りって大変よね。頭のいい人たちががんばってくれるから、私たちはこうやって車にも乗れる。」
後輩「うん、そうだね。」
アホがルール作ってたら、今頃事故だらけだね。
もちろん最初から完璧なんてことはそうそうない。改善して良くしていった結果だ。
・・
・・・・
現場は河原で、橋が近くにある。
捜査はまだ始まっていない・・が、見た瞬間、まともな犯罪ではないと感じた。
犯人は嬉しそうにこちらを見ている。その両手には・・胴体から離れた足を持っている。
犯人の足はあるから、被害者の・・
?「警察の方ですか?通報したのは私です。あいつがうちの宗像くんを・・」
通報者は被害者と知り合いみたいだ。
後輩「刑事の後輩です。」
ミルク「刑事のミルクです。」
後輩「・・話はできますか?」
俺は犯人に向かって話しかけた。
犯人「ええ。何でも話しますよ・・あいつがオレに何をしたのか全部ね・・」
後輩「・・だから殺した?」
犯人「優秀なら他人を馬鹿にしていいのか?他人の尊厳を踏みにじっていいのか?」
犯人「そんなわけない!!!許されざる者に死を!!!」
笑顔だった犯人が、次第に怒りに満ちていく。
後輩「落ち着いてください。話は署で聞きますから。」
犯人「そうですね。私がどれだけ苦しんだかちゃんと記録に残してください。」
犯人「そして世間にぶちまけろ!この世界がどれだけ残酷で救いがないかを!!」
?「うるさい!お前の勝手なエゴのせいで宗像くんは、宗像くんは・・」
後輩「お知り合いですか?」
犯人「うちの所長さ。いつも宗像ばかりひいきしていた差別主義者だ。」
所長「宗像くんがいたからこそAIの完成までこぎつけたんだ。ひいきではなく正当な扱いだ。」
犯人「ははははは!知ってるぞ!私をクビにしてその給料を宗像にやるつもりだったって!」
所長「宗像くんにはそれだけの価値があり、お前にはなかった。それだけだ。」
所長「殺人を犯すようなお前が今までいられたんだぞ。むしろ感謝されたいものだな。」
所長「それに宗像くんは拒否していた。お前なんかをそのまま雇い続けてほしいと言ってたんだ!それなのにお前は・・」
犯人「善人面が上手なやつだったからな。金を出すのは宗像じゃない、いくらでも言えるさ。」
所長「クソっ!刑事さん、早いあいつを死刑にでもなんでもしてください!」
所長「あいつを見てると頭がおかしくなりそうだ。」
ミルク「まずはゆっくり、手に持っているものを地面に降ろしてください。」
犯人「宗像の足だ。体は燃やして川に流した。」
なんて残酷な・・
犯人は、被害者の足を地面に置いた。
ミルク「手錠をかけますので両手を前に出してください。」
犯人「まるで儀式だな。かわいそうな私を苦しめる悪魔の儀式だ。」
文句を言いながらも、犯人は両手を差し出した。
ミルク「11時26分。犯人、ゲットだぜ。」
後輩「いやそれはまずい。」
逮捕時間をメモしながら俺はつっこんだ。
・・
・・・・
捜査員が来たので現場は任せて俺たちは犯人を護送する。
所長さんにも後日話を聞くと伝えた。
警察署に戻る車の中・・犯人はポツりポツり話をしだした。
犯人「・・宗像は天才だ。それは私も認めている。」
犯人「・・一方私は研究員の中で一番の落ちこぼれだ。みんな認めている。」
犯人「宗像のことは誰に聞いてもいい話しか聞けないだろう。」
犯人「私だってがんばった・・落ちこぼれだとわかっていたからがんばった。」
犯人「宗像にだって積極的に協力した!AIだって完成したじゃないか!」
犯人「なのに・・クビだなんて・・私は何も認められない・・」
犯人「・・宗像はな・・あいつは裏の顔があるんだ。」
犯人「私に対する態度も、他の人がいる時といない時で違うんだ。」
犯人「あいつは・・宗像は・・・・くっ!!!」
犯人「・・・・はは、こんな話つまらないだろう。」
後輩「いえ、抱えているものがあれば全部吐き出してください。」
後輩「犯罪といっても、しなくて済むならその方がいいと思っている犯人もいます。」
後輩「でも・・犯罪しないといけないほど追い詰められていた。理由がある場合もあります。」
後輩「でもそれは、周りの人にはわからないんです。」
後輩「だから全部話してください。どんな小さな話でも、全部大切なことです。」
犯人「・・」
それから犯人は・・・・ひと言も喋らなかった。
あれ?俺いいこと言ったよね?
・・
・・・・
見慣れた警察署に到着。
警察署「ここは通販会社ではありません。」
は?
警察署「何か間違ったこと言った?」
間違ってないけど・・なんで不必要なこと言ったの?
警察署「作者が言えって。」
作者は一度死んだ方がいいと思うよ。
・・・・
後輩「着いたので降りてください。」
犯人「・・ここが警察署か。」
後輩「ではこちらへ。」
犯人「必要ない。」
犯人「お前たちに呪いをかける!!!!!」
犯人「不幸な人は他人を殺す!!!!!」
そう叫ぶと、犯人は倒れた。
ミルク「救急車呼びますね。」
後輩「は、犯人さん?犯人さん!?」
しかし犯人が目を覚ますことはなかった。
・・
・・・・
課長「また”不幸な人は他人を殺すブログ”の信者か。」
後輩「申し訳ありませんでした!口の中も確認したのですが・・」
課長「病院から連絡が来ている。」
課長「・・毒の義歯を仕込んでいたそうだ。覗き込んだだけではわからないようなものをな・・」
課長「旧ソ連も自決用の義歯を使っていた。コミュニズム(共産主義者)かもしれん。」
”不幸な人は他人を殺すブログ”
それは、見捨てられた不幸な国民が他人を殺すのは当たり前だと訴えるブログ。
優秀な人だけが幸せに暮らせる世の中であれば、不幸な人にとって国は必要ない。
何のための国か?誰のための国か?それを説いていた。
そのブログの書き手は・・不幸な人によって殺された。
だが誰かがブログの続きを書き続けている。
警察でも犯人を特定できない誰かが・・
ミルク「不幸な人は他人を殺すブログは、武力革命を考えていた可能性がありますね。」
ミルク「共産主義者が興味を抱くのもおかしくないかもしれません。」
課長「この平和な日本で革命など、虫唾が走る。」
課長「どうしてあいつらは平和を破壊しようとするのか。まったく理解できん。」
ミルク「うまくいかないのは世間が悪いと考えているのでしょう。」
ミルク「政治は腐敗し選挙では変えられない。ゆえに武力革命しかない。ゆえに武力革命は正しい・・ってところでは。」
課長「有力な政治家候補が暗殺されるわけでもない。デモをして逮捕されるわけでもない。」
課長「言論は自由で政治家を批判することもできる。腐敗などとんでもない。」
ミルク「リセット願望があるのかもしれません。自分が上を目指すのではなく、みんな堕ちればいい・・と。」
課長「異常だな。悪しき思想を抱くことまで禁止しないが、行動した場合は別だ。」
課長「警察はどこまでも追い詰める。決して諦めはしない。」
課長「・・今回は、殺人の後で自殺か・・やり切れんな。」
後輩「これからどうしましょう。」
課長「犯人は殺人を自供していたのだろう?動機もある。」
課長「被疑者死亡で送検できる。関係者から話を聞き被害者の足が本人だと確認できれば十分だ。」
後輩「あの、それなんですが・・どうして犯人は被害者を焼いたのでしょうか。」
課長「動機があるのだろう?恨みでは?」
後輩「もし不幸な人は他人を殺すブログに沿ったなら・・復讐殺人にはなりにくいと思いますが。」
後輩「あのブログは無差別に殺すよううたっていました。」
後輩「それに、俺たちが現場へ行った時に犯人と所長だけしかいませんでした。」
後輩「話を聞くと、所長も恨まれていてもおかしくないかと。なのに手を出す様子はありませんでした。」
課長「・・何が言いたいのだ?」
後輩「不自然です。もしかしたら、他にもより大きな恨みとかがあるから被害者だけ執拗に殺したのではないかと。」
後輩「それを隠すために、もっともらしい理由を自供した。」
課長「ふーむ。例えば本当は身勝手な理由だったが、冷遇されていたという他の理由を利用したとか?」
課長「自殺する者がそこまで気にするか?」
後輩「・・ですよねー。」
課長「わかる部分を調べるんだ。パズルのピースが埋まっていけば、全体も見えてくるかもしれない。」
ミルク「マスコミから叩かれませんか?加害者に自殺されてしまって。」
ミルク「しかも被害者はAIを作り上げるほどの貴重な人材。話題になりますよ。」
課長「そっちは簡単だ。ウクライナとロシアの件があるからな。」
課長「ソ連のやり方で自殺したと言えば、そちらに目を向けられる。」
課長「”ああ、ソ連のシンパ(共鳴者)なら当然だ”そう思ってもらえる。」
課長あくどい。
でも・・あのブログに感化され殺人に手を染めた不幸な人たちは共産主義とは関係ない人ばかりだった。
今回だけ偶然そうだった?それとも・・
・・
・・・・
関係者から話を聞く。
俺たちはAI研究所へ向かった。
部外者「何でも聞いてください。」
帰れ。
・・・・
AI「いらっしゃいませ。私は人工知能”紫”です。」
AI「お客様の所属とお名前をお願いします。」
研究所へ行くと、子供サイズのロボットが出迎えてくれた。
後輩「刑事の後輩です。」
ミルク「天使のミルクです。」
AI「刑事の後輩様とミルク様ですね。」
AI「では、殺された研究員の件でお越しでしょうか?」
後輩「そうだけど・・キミがうわさのAI?」
AI「はい。テレビを見ていただけたのでしょうか、嬉しいです。」
AI「所長は来客中です。先に手の空いた研究員から話を聞いてはどうでしょうか。」
後輩「じゃ、じゃあそれで・・」
AI「かしこまりました。応接室にご案内します、ついて来てください。」
後輩「・・これがAI?人が話しているんじゃないよね?」
ミルク「中に人がいるかもね。」
だったら悲しい!
・・
・・・・
応接室で待っていると、研究員さんとロボットがやって来た。
AI「ご紹介します。研究員Aと研究員Bです。」
AI「こちら刑事の後輩様とミルク様です。」
AI「飲み物を置いていきますね。御用がありましたらいつでもお呼びください。」
研究員A「ビールがほしいな。」
AI「この辺りで一番安くビールを飲めるお店をメールでお報せしました。」
AI「終業後にどうぞ。では失礼します。」
ロボットは部屋から出て行った。
後輩「すごいですね。人間が操作しているわけじゃないんですよね?」
研究員A「ええ、素晴らしいAIですよ。」
研究員B「・・宗像のおかげさ。あいつが殺されるなんて・・」
後輩「宗像さんはどういった方でしたか?」
研究員A「頭はいいし性格もいい。すごい人でした。」
研究員B「あいつを悪く言うやつなんていませんよ。」
後輩「悪く言うのは犯人くらい?」
研究員B「・・いや、別にあいつも宗像の悪口は言ってませんでしたよ。」
研究員A「むしろ宗像と一番一緒にいたのはあいつじゃないか?」
後輩「ふたりは仲良しだったんですか?」
研究員A「んー、どうでしょう?宗像はあまり他人と関わろうとしないやつだったので。」
研究員A「・・あいつ、人嫌いなところがあって。」
後輩「なにかあったのですか?」
研究員A「あいつすごくいい奴だから聞いたことあるんです。」
研究員A「嫌いなやつはいないかって。」
研究員A「そしたら・・幼稚園の時に自分をいじめてたやつ、だって。」
研究員A「さすがに昔の話すぎますよね。」
後輩「それくらいしか嫌いな人はいない・・今は嫌いな人がいないってことかもしれませんね。」
研究員A「かも・・ただ、その時の宗像は真剣だったな・・」
後輩「では犯人について教えてください。」
研究員A「あいつは仕事できないからなあ。別に何もできないってわけじゃないけど。」
研究員B「おっちょこちょいなんですよ。ちょいちょいミスするし、宗像と違って嫌われ者かな。」
後輩「犯人は嫌われていたのですか?」
研究員B「研究員の中には邪魔者扱いしてたやつもいましたね。あ、マスコミには言わないでくださいよ。」
後輩「捜査情報は機密ですので。外には漏らしません。」
研究員B「あいつなら人を殺してもおかしくないですね。」
研究員B「あいつ借金あるんですよ。それでクビでしょ?追い詰められていたんですよ。」
後輩「宗像さんを狙った理由は?」
研究員B「目的が復讐なら・・みんなが困る。」
なるほど。
・・
・・・・
研究員さんや所長さんに話を聞いても、大体言うことは同じだった。
みんな宗像さんを褒め、犯人を悪く言っていた。
ミルク「これで送検しますか?」
後輩「・・」
ミルク「何が気になりますか?」
後輩「不幸な人は他人を殺すブログとのつながり・・つながらない。」
ミルク「あのブログを見たから復讐方法は殺人にした。」
ミルク「死んだら一番みんなが嫌がる相手を選んだ。」
ミルク「それだけでは?」
そうかもしれない。うーん・・
俺は・・AIに聞いてみた。
後輩「この事件をどう思う?」
AI「真実はわかりません。可能性ならなんとでも言えます。」
後輩「例えば?」
AI「宗像さんと犯人はよく一緒にいました。もしかしたら情が生まれたかもしれません。」
AI「宗像さんは幼少期のいじめを気にしていました。悩んでいたかもしれません。」
AI「なら例えば・・宗像さんは自殺だった。その証拠は上半身にあった。」
AI「第一発見者は犯人。宗像さんはAIを作った功績ある人。しかし今のままでは自殺した人という評価をされる。」
AI「STAP細胞の件で自殺した人の経歴を知っていますか?」
AI「殆どの人は知らないでしょう。世間は自殺した人と最終評価を下します。」
AI「犯人は宗像さんを同じ目に遭わせたくなかった。そして犯行を決意した。」
AI「自殺した証拠となる上半身を燃やして隠滅した。」
AI「もっともらしい理由を作り、自殺を隠した。」
AI「宗像さんは偉大な功績をあげた完璧な人だった。悪いのは自分・・そう誘導した。」
AI「・・もちろん可能性でしかなく、証拠はありません。」
ミルク「一応、すべての状況に矛盾しませんね。だからといって真実とは限りませんが。」
ミルク「そんなことで自殺までしますか?」
AI「犯人は借金苦でしたので、自殺はそちらが動機かもしれませんね。」
後輩「AIすごい!ありがとう参考になったよ。」
AI「どういたしまして。」
ミルク「それで報告書作れます?」
後輩「作れない。とりあえず戻ろう、話は聞いたんだし。」
AI「またのお越しをお待ち・・刑事さんはあまり来ない方がいいですよね。」
後輩「うん。事件が起きたってことだからね。」
これがコンピュータだなんて驚きだ。
でもまぁ、こんな人間いないか。うん、ある意味コンピュータだ。
・・
・・・・
警察署へ戻った俺たちは、課長に報告した。
後輩「結果から言うと、この事件には裏があると思います。」
課長「理由を聞こう。」
後輩「AIが言うには、宗像さんは自殺で犯人はそれを隠ぺいした。」
後輩「宗像さんの名誉のために。」
課長「それが正しいと?」
後輩「ひとつだけ、犯人にはできないことがあった。」
後輩「それは・・嘘をつくことです。」
後輩「犯人は一度もはっきりと言ってないんです。」
後輩「・・宗像さんにひどいことをされたとは言わなかった。」
後輩「犯人にとって宗像さんは同僚以上の関係なんですよ。」
後輩「恐らく崇拝・・だから自殺という不名誉を消したかった。」
後輩「上半身を燃やしたのは自殺を隠すため、それと残酷な殺され方で宗像さんに同情を集めるため。」
後輩「下半身を残したのは行方不明ではなく殺人だと証明するため。」
後輩「行方不明ではお葬式もあげられません。ちゃんと埋葬してあげたかったのではないでしょうか。」
課長「・・証拠があれば完璧だな。」
後輩「ありません。ただ、気になりませんか?」
課長「・・アンパンも先輩もお前のとこも全部袋小路行きとか勘弁してくれ。」
後輩「え?」
課長「はあ・・ちょっと話聞いて来い。」
そういえば先輩もアンパンさんもマッチャさんも戻って来ている。
・・・・
後輩「お疲れ様です。先輩どうでした?」
確かハッキングされて警察の情報が抜かれたとか。
先輩「犯人特定したら。そいつは別のやつに依頼されていた。」
先輩「そいつを調べたら、さらに別の誰かに依頼されてた。」
先輩「同じように調べたら、そいつも誰かに依頼されてた。」
先輩「そこでストップだ。監視カメラもない人も殆どいない田舎で目撃証言もない。」
先輩「抜き取られた情報もどうなったかわからん。使われたマシンが物理的に壊されていた。」
後輩「全部犯人の指示通りなんですか?」
先輩「ああ。動きが速い・・それに資金力もある。」
先輩「こんな地方の情報抜くだけで数百万は使っていそうだ。」
後輩「それに加えて高い技術力ですか・・」
先輩「依頼されたやつ全員が金に困っていた。人選も念入りにやっている感じだ。」
後輩「・・目的は?」
先輩「不明。犯行声明もない。情報の拡散もない。」
なんだか気持ち悪い事件だ・・
・・・・
後輩「お疲れ様です。なんでも袋小路だと聞きましたが。」
ドローンで交通妨害して玉突き事故を起こした事件だっけ。
アンパン「ああ。ドローンは3Dプリンタで作られたもの。」
アンパン「インターネット回線ではなく近くから操作されていたことまではわかった。」
アンパン「・・そこから先が掴めない。今日は近くでイベントをやっていたので地元の人以外が大勢いた。」
マッチャ「ドローンの操作は携帯でもできるし、誰がいても怪しくない。」
マッチャ「容疑者が絞り切れない。」
後輩「計画犯罪・・」
アンパン「とてもシンプルだ。犯人は恐らくひとりか多くても数人。」
アンパン「だが・・罪もない人が犠牲になっている。許せないな。」
マッチャ「教育を受けた知能をなぜ悪しき犯罪のために使うのか。」
マッチャ「世のため人のために使えば世の中はもっとよくなるのに。」
まぁ教育をしてなかった昔から犯罪はあるわけで。
教育を受けたから犯罪しなくなるわけじゃないよね。
モラルは変わらず頭だけよくなったら・・
・・
・・・・
今日は大変な一日だったな。
まだ事件初日だ。明日もがんばろう。
電話「あ、ごめん。夜中だけど課長から電話。」
後輩「はいもしもし。後輩です。」
課長「すまない、すぐ来れるか?」
課長「・・殺人事件だ。」
後輩「わ、わかりましたすぐ行きます。」
この短期間に3つ目の殺人事件・・どうなってるんだ。
ここは米なんとか町じゃないんだぞ。
俺は着替えて警察へ向かった。
・・
・・・・
事件は車同士の正面衝突。
車が一方通行の道へ入り込んで逆走。やって来た車とぶつかった。
これだけなら事故だけど、標識の矢印が逆にされていた。
車は誤った標識に従い逆走・・車に乗っていた両方の運転手が亡くなった。
・・・・
雨が降っている。
見通しが悪いのも原因のひとつだろう。
先輩「見ろよ、本物そっくりだ。しかも夜間に光る。」
先輩「上から似たやつを貼り付けたんだな。それにしては出来がいい。」
先に来ていた先輩が状況を説明してくれた。
後輩「・・少数でできる犯罪ですよね。やろうと思えば個人でも・・」
先輩「アンパンさんたちが今日・・ああ、もう昨日か。追いかけていた事件だな。」
先輩「あれも少数でできる犯罪。同一犯だと思うか?」
後輩「はい。タイミングが良すぎます。」
後輩「そもそも、殺人事件なんてそう起きないものなのに・・」
先輩「なら計画殺人だな。犯人の逃走経路を考えるか。」
ここは山と海に挟まれた狭い道。
曲がりくねった道と山と海しかない。
町は近くにあるが、一方通行で町から来ることしかできない・・車なら。
後輩「徒歩なら町の方一択ですよね。」
リュックひとつ・・いや、お腹に仕込むだけなら手ぶらでも可能だろう。
先輩「この程度の雨なら自転車でもできるな。雨で目撃者も少なくなる。」
先輩「監視カメラは天気などお構いなしだが・・これが計画的なら・・」
雨を見越してこの山と海しか見えない道を逃走するかもしれない。
そんなとこに監視カメラはないから。
・・まさか、山に入って逃げた可能性も・・
先輩「全部調べないといけなさそうだな。気合い入れてやるぞ!」
後輩「はい!」
警官「すみません、これがすぐ近くに置かれてました。」
フィルムに紙が入っている。
その紙には・・”不幸な人は他人を殺す”と書かれていた。
彡⌒ミ「髪の話した?」
してない。
先輩「・・色々つながるが、逆にアンパンさんたちの方にメッセージがなかったのは気になるな。」
後輩「見つかってないだけとか?」
先輩「お、アンパンさんや鑑識の仕事を疑うのか?」
後輩「そ、そういうわけじゃ・・すみません。」
先輩「・・もしメッセージがあるなら、見つかりやすい場所に置くよな。」
後輩「アンパンさんたちの方はドローンを使っていましたから、近くに置けなかったのでは?」
先輩「なるほど、もしメッセージを置くならドローンを操っていた場所の近く。」
先輩「知られると犯人が特定できる可能性のある場所ってことか。だから置けなかった。」
先輩「高いところから見下ろして操作していたかもしれないな・・つまり建物の中。」
後輩「あの幹線道路を見下ろせるほど高い場所なら限られてくる。」
先輩「課長に伝えておこう。そしたらオレたちも調査開始だ。」
はい!
事件は必ず解決する。
人々が安心して暮らせるために。
それが俺たちの役割だ。
・・
・・・・