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三話 竜の国

実家の動物園で育てたダチョウの卵の光に包まれ、異世界にやってきた女子高生竹野いろは。傍におちていたドラゴンの卵を孵化させるため、エンタスフィア王国で装備を整えた彼女は、隣のドラキア公国へ出発する。道中で、馬車の乗客を襲撃した盗賊団のサブリーダー・ナギサを、剣道のインターハイ全国優勝の腕前で打ち負かしたいろはは、遂にドラキア公国に到着する。

ドラキア公国の特色を知り、竜種園の存在を知ったいろはは、手に職をつけるべく竜種園に向かって歩き出した。

 いろはが強盗団の襲撃から馬車を守った2日後。エンタスフィア王国を出発してから5日後。彼女はついに、ドラキア公国に到着した。馬車を降りたいろはは、ターミナルの光景と人の多さに驚いた。なにより目を引いたのは、隣の乗り場に止まっているものだった。いろはが乗ってきたエンタスフィアからの便は馬車だが、隣の乗り場には客車にティラノサウルスと似た立ち姿のドラゴンがつながれて止まっている。

「はへー。ドラゴンがつながれてるよぉ。」

「なんだ嬢ちゃん。竜車を見るのは初めてかい?」

目を丸くしていると、後ろから降りてきた男性に話しかけられた。いろはが馬車を守って以降、親しげに話しかけてくれる人が多くなった。それもその筈。いろはが追い払ったのは、エンタスフィア王国とドラキア公国の国境付近を中心に出没する有名な盗賊団だったようで、そのリーダーとサブリーダーを打ち負かしたという称賛の念が込められているようだった。おかげでこの世界について、少しずつ知ることができたのは、嬉しいことだった。

「竜車、ですか?」

「おうよ。この国は、ドラゴンとの共生を掲げている国だからな。国のそこら中にドラゴンがいるのさ。ところで嬢ちゃんは何をしに来たんだい?」

いろはは、鞄を開けて見せながら元気よく答えた。

「これがドラゴンの卵らしいって聞いて。育てるならここがいいって紹介されたんです。でも、どこに行ったらいいか分からなくて……。」

男性は、育てるということに驚いていたが、それならここがいいんじゃないかと言って『ドラキア公国立竜種園』を紹介してくれた。いろはは、広域地図の前に行くと心音に話しかけた。

(ここ)ちゃん。竜種園ってどこにある?」

「竜種園は……あった。地図の左端の大きな緑の所だね。」

心音の言う通りに地図を追っていくと、中心にある現在地から西南西の方角に大きめの緑地公園のような場所がある。地名が記されてはいるが、例によっていろはには読めない。いろはは、気を取り直してターミナルの外に出ると、エンタスフィア王国とは全く異なる街並みが広がっていた。道は、竜車が走りやすいように石畳で舗装され、そこそこの交通量がある。建物は、いろはが知っているより少し古い時代の印象だったが、街並みとして違和感はなかった。全体的にエンタスフィア王国より近代的に見えた。いろはは、ターミナルで入手したドラキア公国の地図を広げると、竜種園のある方向に行こうと西南西に向かって歩き出した。

 竜種園に向かう道中、安価な宿屋を何軒か見つけたので一応メモしておく。すると、心音が話しかけてきた。

「いろは。これからどうするの?」

「まずは、竜種園に行ってみる。そこで、飼育員とかで雇ってもらえないか聞いてみるつもり。ついでに卵の孵化とかもできないか聞いてみるよ。」

「断られたら?」

「そうしたら、さっき見つけたホテルとかで改めて考えるよ。」

心音としては、いろはの計画が大雑把で心配になるが、彼女の楽しそうな顔を見てとりあえず任せることにした。やがて、歩いているうちに日が傾いてきた。今日中に竜種園に行くことを諦めたいろはは、途中の宿で一泊することにした。いろはが入った宿屋は、彼女の感覚的にビジネスホテルのような感じだった。部屋に入って鞄とソードベルトを置くと、ベッドに倒れこむ。ここ数日、馬車の座席で寝泊まりしていたせいもあり、やっとゆっくりできる空間にホッとすると、疲れがドッと押し寄せてきた。しかし、今後の事を考えなければならないと思うと、無理矢理体を起こして机に座り、備え付けのペンと紙を手に取った。こちらの世界に来る前に、偶然ポケットに入れていた財布の残金は、馬車代と今夜の宿代で既にカツカツだった。

「なんとか仕事と住まいを見つけないとなあ。」

そんな独り言をボソッと呟くと、心音がソードベルトから出て浮遊しながらこちらにやってきた。

「どれどれ?って、やばいじゃん。あと一泊できるの?」

「だよねえ……。」

心音のツッコミに、弱々しく返すいろは。しかし頭を振ると、悩みを吹っ切るように言い放った。

「決めた。お風呂入ってくる。」

その言葉に「ええ~。」と返す心音だったが、いろはを見送るしかなかった。

 宿で支給された服に着替えて部屋に戻ったいろはは、ルームサービスで注文したサンドウィッチをつまみながら、改めて今後の事を考えてみた。しかし、いろいろな考えが浮かんでくるものの、結局は明日の結果次第だという結論になる。

「結局は明日かぁ~。頑張らないとなぁ。」

サンドウィッチを食べ終わると、ベッドに横になって財布と同様にポケットに入っていたスマホをいじる。今までは、下手気に出すと悪目立ちしかねないと、馬車の中でも見るのは控えていた。スマホの中身は今までと変わらず、漢字・平仮名で書かれているので読むことができる。ネットは繋がっていないので見れないが、メモや時計は使える。これからもお世話にはなるだろう。メモを書き終えスマホを置くと、窓からきれいな月が見えた。だが、今見える月の色はよく知っている黄金色(こがねいろ)ではない。眩しいくらいに輝く銀色の月を見ていると、違う世界に来たということをしみじみ感じる。

「私って、どうしたいのかな?」

元の世界に戻りたいのか、この世界で生きていくのか、自分でもよく分からない。今は、たまたま傍に落ちていた卵を放っておけない一心で行動している。あの卵が孵化して中のドラゴンが育ったら、自分はどうするだろう。そんなことを考えていると、だんだんと瞼が重くなってくる。いろはは、疲れには抗えず眠りにおちていった。

 翌朝。いろはは、頬の違和感で目覚めた。目覚めると、心音の声で違和感の正体が分かる。

「早く起きてよー。」

心音は、柄の部分でいろはの頬をグリグリしていた。

「分かった。起きるからグリグリしないで。」

いろはが体を起こすと、心音のお小言が聞こえてくる。

「もう。いろはってば、合宿の時だってこんな感じで寝坊してたんだから。起こす同室の身にもなってよね。」

しかし、剣になった今の状態ではどこか可愛らしく見えてくる。思わず吹き出すと、心音が突っかかってきた。

「んん?そこ!何がおかしいの?」

「フフフッ……いや、今の姿で言われても響かないかなぁって……。」

「ムキ―!」

心音を諫めて身支度を整える。時間は午前9時。いろはは宿屋を出て、地図とにらめっこしながら竜種園にやってきた。入り口にたどり着くと、何やら大きな看板に長文が書かれている。心音に読んでもらうと、竜種園の説明のようだった。

「えーと何々、『ドラキア公国立竜種園へようこそ!当施設は、ドラゴンと共生するためのドラゴン育成施設であり、公国民の皆さんにドラゴンに親しんでもらうための展示施設です!』だって。とりあえず入る?無料みたいだし。」

いろはは、即決で入ってみることにした。入り口の門を潜ると、いろはがよく知る動物園のような雰囲気だった。どこか、ホームグラウンドに帰ってきたような安心感がこみ上げてくる。いろははルンルン気分で歩き出したが、よく知っている動物園とは異なることに気が付く。あちこちから聞こえてくる鳴き声が、全て荒々しく猛々しい。しかし、ライオンやトラなどの猛獣とは異なり、お腹に響いてくるような低い鳴き声があちこちから聞こえてくる。まるで、アーティストのライブ会場にいるかのような感覚になる。

「よし!ワクワクしてきたー!行ってみよう!」

テンションの上がってきたいろはは、スキップするような足取りで進んでいく。園内の順路に従っていくと、どうやらドラゴンにも種類があるようで、陸竜(りくりゅう)海竜(かいりゅう)空竜(くうりゅう)といった種類ごとに工夫した展示をしている。陸竜は、竜車で見たようなティラノサウルスのようなフォルムをしている。そのため広大な草原に放ち、自由に走り回る様子を展示している。海竜は、陸竜の前脚に大きなひれが付いていて、海専門というよりは水陸両用といった感じだ。そのため、動物園のペンギンや白熊に近い展示方法である。空竜は、背中に大きな羽が生えている代わりに、脚はそこまで発達していない。着地とちょっとした移動に使えるくらいのものである。そのため、高めの山の中に人間が入り、ドーム状のスペースを飛び回っているのを見るような展示方法だった。ドラゴンの種類はその三種類のようで、それぞれ広大なスペースで飼育されていた。いろはにとっては初めて見る光景ばかりで、目の輝きが止まらなかった。すべてを見終わると、心音が話しかけてきた。

「いろは、どうだった?」

「もうヤバいね!新しいものばかりで、すっごい楽しかった!」

心音は、それは何よりと言うと本題を切り出した。

「ところで、仕事はどうするの?」

いろはは、『あ……。』と思い出したような声を出した。目新しいものに夢中で、すっかり忘れていたいろはは、気合を入れ直して見かけた係員の男性に声をかけた。

「すいません。アルバイトって、募集してたりしますか?」

男性は、ん?と反応すると、爽やかに答えてくれた。

「お?アルバイト希望の子かな?じゃあ、付いてきてくれる?」

男性は、いろはより少し年上くらいのようだ。男性の後に付いて行くと、管理棟と書かれた建物に入って行く。男性は事務所に顔を出すと、奥の方に向かって声をかけた。

「園長。バイト希望の子連れてきました。どうしますか?」

園長と言われた、いかにもOLというような眼鏡の女性は、顔を上げると指示を出した。

「そうね。面会室に通してあげて頂戴。あと、あなたも居てくれる?」

男性は返事をすると、いろはを手招きして面会室に連れて行った。いろはを椅子に座らせると、自己紹介をした。

「僕は、ショウタ。ここで飼育員をしているんだ。君は?」

「竹野いろはって言います。よろしくお願いします。」

ショウタは笑顔で頷くと、この後の流れを説明し始めた。

「これから、うちの園長と簡単な面接をしてもらうんだけど、大丈夫かな?」

突然面接と言われて、思わず身構えるいろは。動物園でバイトをしていた子に話は聞いたことがあるが、いろはが実際にやるのは初めてだった。よく考えてみると、履歴書など一切準備しなかったが大丈夫なんだろうか?とりあえず『はい。』と答えると、ショウタはその先を続けた。

「さっき僕が話してた女性が、ここの園長をしている桜木(さくらぎ)リョウさん。最近赴任してきたんだけど、やり手のキャリアウーマンらしいよ。これから面接をするんだけど、採用はほぼ決まりだからそんなに硬くならなくて大丈夫。」

ショウタは、いろはの方をポンと叩くと優しく微笑んだ。どうやら緊張して力が入っていたようだ。肩の力が抜けてストンと降りると、ドアが開いてリョウが入ってきた。

お読みいただきありがとうございます。

本作へのいいねや、ブクマ登録等してくださった皆さん、ありがとうございます。宜しければ、引き続きお付き合いください。また、評価や感想等も募集中ですので、宜しければお願いします。

それでは、今後ともよろしくお願いします。

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