表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/20

二十話 協力者

メカニエンス国に入国し首都を目指していたいろは達は、ケガをした子犬の手当てをし、暮らしている村へと送り届けた。その村で一夜を過ごすことになったいろは達は、村長から機械竜の話を聞き、村民達との交流を深めた。しかし翌朝。いろはの噂を聞き付けたメカニエンス国国防軍から、村に刺客が送られた。責任を感じるいろはは、一人で立ち向かうが……。

 翌日。慌ただしくドアを叩かれ、いろはは目を覚ました。

「おい、あんた。村の入り口に、国防軍人が来てる。あんたを探してるみたいだ!」

「……!」

いろはが村の入り口に向かうと、国防軍人と思しき服装の男性が3人、村長と言い争っていた。

「だから、いないって言ってんじゃないの!この村にはそんな子来てないよ!」

「噓を言うな!この村にドラゴンが入ったって目撃証言があったんだ!そいつは国の敵だ!引き渡せ!」

その会話を聞いたいろはは、ソードベルトを確認してから進み出た。

「嬢ちゃんよしな。碌なことにならんよ。」

いろはの腕をつかみ、小さく囁いた村長に笑顔で頷き、相手を見据えた。

「ん?なんだお前は。」

「おい、あいつ標的じゃねえか?」

「そうだ、外見は一致してる!」

口々に議論する彼らの話を聞いたいろはは、機械竜への怒りを込めて言った。

「国防軍人さんが何の用ですか?あなた方の言う『ドラゴン』は、この村にはいませんよ?」

「ふざけるな!お前が連れているだろ!」

そう言って腰の剣を引き抜く軍人達。それを見たいろはは、攻撃の大義名分を得るために言い放った。

「いないと思うのであれば、お調べになったらどうですか?私を倒してからということになりますが?」

挑発に乗った軍人達は、そのまま3人で斬り掛かってきた。最初に斬り掛かってきた男の剣を、右に身をかわして避けると、避けざまに心音を引き抜きながら柄を打ち込む。続いて、2人目が薙ぎ払った攻撃をしゃがんで避け、剣の腹で脛を打つ。2人を倒すと、リーダー格の男が大剣を構えているのが見えた。すると、心音の声が聞こえてきた。

「いろは。竜神剣使って。私は独立して動くから。」

「独立して動くのは無しで。みんな見てるしね。」

いろははそう言い、心音を納めて竜神剣を引き抜いた。心音のリーチを考慮した武器選択だ。今回は、村の人達が見ているので、心音の独立行動は無しにした。

「ちきしょう、この野郎!」

リーダー格の男が、大剣を担いで迫ってくる。それに対して、竜神剣を中段に構えるいろは。回避が厳しいと判断し、振り下ろされる大剣を受け太刀するも、あえなく吹き飛ばされてしまう。村の壁に激突し、全身に打ち付けられた痛みが走る。

「うぐっ!」

思わず呻き声を上げるが、咄嗟に動けそうにない。そこに、大剣を担いだ男が歩み寄る。

「はっ。大口叩いた割には、大したことねえな。」

男は、トドメを刺そうと大剣を振りかぶる。それを見たいろはは、心音に語りかけた。

「ごめん、心ちゃん。お願い。」

すると、自主的にソードベルトから抜けた心音は、かなりの勢いで男の顎に向けて飛び出した。

「ぐはっ!」

心音がソードベルトに戻った後、男は呻き声を短く残して卒倒した。

「よいしょっと。痛てててて……。」

やっとの思いで立ち上がると、村の青年が駆け寄ってきた。

「おい、大丈夫か?手当てしてやるから、家に来い。」

 手当てをしてもらったいろはは、村長に呼ばれて家を訪ねていた。

「おや、大丈夫なの?」

包帯がチラリと見えるいろはに、心配の言葉をかける村長。

「はい。とりあえずは大丈夫です。ご迷惑をおかけしました。」

いろはが頭を下げると、村長は優しく言った。

「いやいや。村を守ってくれたお礼をしたまでよ。」

「え?」

いろはからすれば、自分が呼び寄せたような敵を自分で撃退したようなものだ。この村には、迷惑しかかけていない事になる。しかし、戸惑いを見せるいろはに、村長はこう言った。

「あの男達はね、最近村からいろんなものを奪って行ったのよ。食料に、物資に、数名の民まで。私は、村長といってもこの通り老耄(おいぼれ)でね。ただ言われた通りに差し出すしか出来なかった……。そこに現れたのが、あなたなのよ。」

自分の行動が、知らないうちに誰かの勇気になっていた事を知ったいろは。マイナス感情を抱いていた彼女は、誰かのプラスになれていたことに気づいた。そして彼女の目には、村長の横に座り、こちらを見つめる少年が映っていた。

「村長さん。彼は?」

いろはが少年のことを尋ねると、少年の肩に手を置いた村長が答えた。

「この子は、姉をあの男達に拐われてしまったのよ。私に言ってきてね。あのお姉さんに同行させて欲しいって。」

いろはは少年の前にしゃがみ、本人に聞いた。

「私と来たいの?」

「……姉ちゃんを助けたい……。助ける為の力が欲しい……。だから、連れて行って下さい。」

少年の覚悟を決めた目を見たいろはは、彼の頭に手を乗せ、優しく微笑んだ。

「分かった。じゃあ、何があっても私について来れる?」

いろはの問いに、少年は力強く頷いた。

「よし!分かった。一緒に行こう!」

そう言って立ち上がると、村長が聞いた。

「本当にいいのかい?」

「はい。この子の覚悟は決まっていますから。」

「それじゃあ、せめてものお礼をしなくちゃね。この村を、メカニエンス国内での拠点にしてもいいわ。帰ってきた時には、うんと歓迎してあげるから。」

「えっ!いいんですか?」

驚くいろはに、笑みを浮かべて頷く村長。いろはは、村民の1人として歓迎されたのだった。

 村長宅を後にしたいろはは、少年を家に連れて帰った。

「君の名前は?」

「カイ。」

椅子に座らせ、持ち物からコップを取り出して水を汲みながら質問する。

「いくつ?」

「7歳。」

その年齢であの視線ができるのかと、感心しながらコップを置く。

「ごめんね。今、水しかなくて。飲んでいいよ。」

「ありがとう。」

カイがコップを置くと、いろはは外に誘った。カイをクスタ達の元へ連れて行くと、突然大きな生き物を見たせいか、カイの足がすくんでしまった。いろはがカイの手を取り、大丈夫だと言い聞かせると、勇気を出して立ち上がった。チャオに触れさせると、新しい感覚を知ったせいか、口元が綻んで笑顔になった。いろははカイに、クスタ達の名前と、彼らと接する上での注意事項を教えた。すると、最初は怖がっていたカイも徐々に馴染んでいった。

 それから数日が経過すると、いろはの怪我も随分良くなっていた。

「いろはちゃん、もう怪我は大丈夫そう?」

怪我の手当てを手伝っていたカイが聞いてくる。

「そうだね。カイのおかげかな?そろそろ出発の準備をしようか。」

いろはがそう答えると、カイの顔が少し明るくなった。持っていく荷物を整理し、旅立つ準備を整える。といっても、荷解きをしていない荷物も多いので、そのまま持って出るには困らない。いろはは、カイを連れて村長の家にやってきた。

「ごめんください。」

ドアの前で呼びかけると、青年が出てきた。

「おう。いろはとカイか。どうした?」

「あ、そろそろ怪我も治ってきたので、出発しようかと思って、挨拶に来たんですけど。」

「おう、そうか。入ってくれ。ばあちゃん!いろは達が来たよ!」

青年は、家の中に向かって叫んでからいろは達を招き入れた。村長は、奥から出てくると優しく微笑んだ。

「おや、そろそろ出るのかい?」

「はい。そのご挨拶に来ました。」

村長は、2人に座るように促しながら聞いた。

「次はどこへ行くつもりなの?」

「とりあえず、街を目指します。その後は、首都へ行こうと思います。機械竜のことを知るのにもいいと思って。」

いろはの回答を聞いた村長は、笑顔で言った。

「そうかい。あの家は、そのままにしておくから、いつでも帰っておいで。いつ出るんだい?」

「明日ぐらいに出ようかと思います。」

「そうかい。カイ、お前も気をつけてね。頑張るんだよ。」

「うん。行ってきます。」

村長の家を出たいろはは、カイに手を握られた。

「カイ。どうしたの?」

カイは言葉を発さず、難しい表情を浮かべるだけだった。いろは、しゃがんで視線を合わせると、優しく強く言い聞かせた。

「カイ、大丈夫。私がついてるから。お姉ちゃん助けるんでしょ?」

カイが強く頷いた。

「じゃあ、私と一緒に頑張ろう。」

「うん……。」

心の中に、期待と不安が混在し、なおも歯切れの悪い様子のカイ。いろはは、カイの頭をポンと叩いて家に入って行った。

 翌日。いろはとカイは、レックスに2人でまたがり、クスタとレックス、リーヴァと共に村の入り口までやってきた。早朝ということもあり、見送りは村長宅の青年のみである。

「よし、ちゃんと頑張ってこいよ。応援してるからな。」

「はい。ありがとうございます!」

青年に手を振りながら、いろははチャオに前進の合図を出した。いずれは、チャオの操縦をカイに任せようと、カイにも手綱を握らせる。

「チャオは、比較的大人しいから、優しく接してあげれば大丈夫だよ。」

手綱を恐る恐る握るカイに声をかけながら、ゆっくり進んでいく。しばらく進んだ時、上空を飛ぶクスタとレックスが鳴き声を上げた。いろはは、クスタを降下させて話を聞いた。

「いろは!前方に機械竜が3体!」

「3体かあ。」

相手が複数なのに対し、いろはの頭の中では不利な状況になっていた。

「クスタ。距離は?」

「500mくらい。」

クスタの回答を聞いて、頭を捻る。いろはは、クスタとレックスをある程度低く飛行させながら近づく事にした。やがて、機械竜が目視できる距離に来ると、3体の機械竜が降下していろは達の前に降り立った。機械竜の背には、国防軍の制服を着た男女が乗っており、少し豪華な装飾をつけた女性が叫んだ。

「そこの竜使い!直ちに止まりなさい!」

いろはは皆を停止させ、チャオから降りて前に進み出た。それと同時に、相手の女性も1人前に出てきた。

「あなた、名前は?」

「竹野いろはです。」

いろはの名前に、ピクリと反応を示す女性。その反応にいろはは、手で心音の存在を確かめた。

「あなたが?……確かに、言い伝えに間違いはないようね。悪いけど、身分を証明できるものはある?」

身分証を確認したした女性は、いろはに対して跪いて言った。

「竹野いろは様。我らにお力をお貸し下さい!」

「……ん?」

てっきり戦うのだと思っていたいろはは、態度の急変に困惑する。

「私は、メカニエンス国国防軍技術団長、ミカエル・エレーネと申します。私は、現在の国防軍の方針に納得がいかず、ここにいる数名の同志と共に、真の竜使いであるあなた様を探しておりました。どうぞ、私達にお力をお貸し下さい。」

いろはは急に持ち上げられた事もあり、落ち着かなかった。とりあえず、道から逸れて話を聞くことにした。大木の陰に移動すると、いろはが切り出した。

「で、詳しく聞かせてもらえますか?国防軍の方針に納得がいかないとは?」

「いろは様は、今のメカニエンスの事はどれほど知っておられますか?」

エレーネはごく普通に質問するが、いろはは堪らずに申し出た。

「ごめんなさい。あまり畏まられると、どうしていいかわからないので……。もう少し砕けて大丈夫ですよ?」

苦笑いを交えながら言うと、エレーネもハッとして少しだけ態度が柔らかくなった。

「あ、ごめんなさい……。」

「えっと、今のメカニエンスですよね?そうだな……。」

いろはは、村長に聞いた話をそのまま話した。すると、それを聞いたエレーネが、安心した顔で言った。

「そこまで知っていれば、話が早いです。機械竜。ここにもいますが、私達はこれに反対なのです。」

エレーネの言葉にピクリと反応するいろは。

「あの、反対というのは……?」

「私達は、この機械竜が導入される前、飛竜隊として国防軍に所属していました。しかし、この機械竜が導入されてから、部隊で世話をしていた空竜達を殺され、機竜隊と名前を変えられました。私達は、その扱いに納得できませんでしたが、反対する前に家族を人質に取られ、従うほかありませんでした。そんな時、いろはさんの名前を聞き、いつかお会いしたいと思ったのです。」

いろはは、エレーネの語ったメカニエンス国防軍のやり方に、当然ながら憤りを覚えた。何しろ、それまで世話をしていた空竜達を殺したというのが許せない。しかし、今この場で怒りを露わにするものではないと感じた。

「そうだったんですね。それで、これからどうするつもりなんですか?」

「国防軍の機械竜導入には、ある1人の男が関わっています。名前は、アバレス。大剣を所持している男です。いろはさんは、心当たりはありますか?」

エレーネによると、この男が来てから機械竜が導入されたらしく、キーマンである事は間違いない。反竜教との繋がりがあると感じたいろはは、特徴について聞いてみた。

「そのアバレスという男、どこかに紋章が入っていませんか?」

「はい。いつも、何かの紋章が入ったマントを着用しています。」

「マントとはまたデカデカと……。」と思いながらいろはは、アバレスという男が反竜教幹部の可能性が高いと思った。

「エレーネさん。そのアバレスという男が黒幕の可能性は高いです。メカニエンス国防軍を使って、何をしようとしているのかは分からないですけど、よくないことだとは思います。そこで、それを阻止するための一歩ですが……、国防軍に私のような有志が参加できる部隊はありますか?」

エレーネは、いろはの意図が図りかねるというように、戸惑いながら答えた。

「ええ。臨時で雇われる傭兵部隊がありますが……?」

一時的でも、国防軍内部に入り込める事は大きい。そう考えたいろはは、入隊をしようと考えた。

「それって、次に雇うのはいつ?」

「えっと……、ちょうど王国に攻め入るとかで募集中ですけど……?」

「私、それに入ってみようかな?内部の方が分かることもあるだろうし。」

いろはがそう言うと、周りが必死に止めた。

「いろはさん、お考えはよく分かりますが、やめておいた方がいいです。彼らは確実に殺されます。」

エレーネが、クスタ達の方を見て言う。しかしいろはは、大丈夫だと言った。

「大丈夫。この子達は、カイに任せるから。」

「えぇっ!!」

カイが、大声で驚く。

「カイ。チャオには乗れるよね?」

「ま、まぁ……。」

不安そうに答えるカイに、いろははお願いをした。

「カイには、これを渡しておくね。これは、毒竜剣。相手に毒を付与できるから、強い相手でも大丈夫。いざとなったら、知らせを送るから、チャオとレックスを連れて来てね?」

いろはは、カイにドラゴン達を任せて村へ帰すことにした。きっと、付いていきたいのがカイの本音だろうが、危ない予感がして返すことにした。カイも、不満そうな顔ながら納得し、村へ引き返した。

お読みいただきありがとうございます。

本作がいいと思っていただけた方は、いいねとブックマークをお願いいたします。宜しければ、感想もお願いいたします。

また、小説家になろうにて連載中の小説「隣のテーブルの料理男子」も同時更新予定ですので、よろしくお願いいたします!その他完結済み作も公開中ですので、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ