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二話 いろはの剣技

両親が経営する動物園で育てたダチョウの卵に触れ、親友の橘心音と異世界転移してしまった女子高生・竹野いろは。心音が宿った剣を携え、傍に落ちていた卵を抱えて歩いていくと、街にたどり着く。抱えていた卵がドラゴンの卵だと分かり、孵化させるための環境を求めて、教えてもらったドラキア公国へ旅立つ。

馬車に揺られながら移動していたある夜。物音で目を覚ましたいろはは、馬車を引く馬を守るために立ち上がる。盗賊団相手に剣を構えたいろは。インターハイ全国優勝した剣道JKの剣技が、その真価を発揮する。

 拾ったドラゴンの卵を孵化させるため、エンタスフィア王国を出発しドラキア公国へ向かっている竹野いろは。彼女の腰には、親友の魂が宿った剣があった。いろはの乗った馬車は、野営を繰り返しながら、5日かけてドラキア公国へ向かっていた。その3日目の夜。馬車の座席に支給された寝るための毛布を敷き、心音が収まっているソードベルトを外して抱きかかえる。窓側を頭にして座席に横になると、夜空に輝く満点の星たちが目に入った。

「綺麗だね。外で寝なくて良かったの?」

心音の言う通り、今日はエンタスフィアを出発してから初めて夜空を見た。今までは雨が降り続き、乗客は馬車の中で寝ていた。しかし今夜は、有料の寝袋を購入して外で寝ている人も多い。いろはは、あまり無駄遣いもできないと馬車の中で寝ることにした。

 いろはが心地よく寝入っていると、何かの物音で目が覚めた。以前は、体調不良の動物が心配で一緒に寝ることも多く、小さな物音でも飛び起きる体質になってしまった。頭を上げると、外が何やら騒がしい。ソードベルトを腰に巻いて、乗降口から外を確認すると、武装した集団が外で眠っていた人や御者さんに武器を突きつけて脅していた。

「よぉ。こんなところで気持ちよさそうに寝息立てて、平和なこったなぁ。馬車の運賃が払えんだ。それなりの金は持ってんだろ?殺されたくなきゃ、有り金全部出しなぁ!」

「おい御者さんよぉ!あんたらいい賃金貰ってんだろ?今の有り金出したって、生きるのに困りゃしないよねぇ?」

脅されている人は、ひどく怯えた表情をしている。助けないとと、いろはが飛び出そうとしたとき、御者を脅していた一人が、客車につながれている馬に刃を向けた。その行動が琴線に触れたいろはは、許すまじという厳しい表情になり、客車から出て進み出た。

「ちょっと!そのお馬さんから離れて!」

いろはが大声で叫ぶと、強盗団の面々が一斉に視線を向けた。

「あん?嬢ちゃん、見慣れない格好だな。自分から金を貢ぎに来たのかい?殊勝な心掛けじゃないか。ほれ、金をよこしな。」

リーダー格の男が、いろはの前に進み出て手を出してくる。いろはが、馬に刃を向けたことの許せなさに睨みつけると、挑戦的な態度ととった男が背中の大太刀に手を掛けた。

「ほお。どうやらこの嬢ちゃんやる気のようだ。まずは俺が相手だ。」

男は、大太刀を引き抜くと右手一本で堂々と構えた。いろはは、腰の剣に手を当て心音に呼びかける。

(ここ)ちゃん、いくよ。」

「うん。インターハイ全国優勝の剣技、見せちゃって。」

心音も同調してくれているようだ。いろはは剣を抜くと、右手で相手に切っ先を向けて構える。男はニヤリと笑うと、大太刀を振り回して斬りかかってくる。いろはは体を反らして避けつつ、危ないところは剣で弾いて躱す。一見するといろはが押されているように見えるが、力でゴリ押ししてくる男は手応えがなく不満気だ。

「チッ、ちょこまか逃げやがって。これでも食らえ!」

男が、大太刀を振りかぶると両手で勢いよく振り下ろす。

「この一発を躱せば、隙ができる!」

そう考えたいろはは、ギリギリまで引き付けて一歩横にずれる。男の攻撃は空気を切り裂き、大太刀が地面にめり込む。引き抜こうと奮闘している男の頭を剣の腹で思いっきり叩くと、男は気絶して倒れてしまった。

「おい!(かしら)が倒されたぞ!誰かあいつをやっちまえ!」

誰かがそう叫ぶと、腰に刀を下げた長身の女性が前に進み出てきた。

「ちょっと待ちな。私はこの盗賊団の副リーダー、ナギサさ。(かしら)が世話になったね。お嬢ちゃん、見たところ東洋武術の使い手らしい。ここは、フェアに私と東洋武術で勝負しようじゃないか。お嬢ちゃんが勝ったら、あたしらは手を引こう。それでいいかい?」

いろはは、御者に確認を取る。

「御者さん。向こうはこう言ってますが、どうしますか?」

御者は、怯えきって震えた声で返してきた。

「き、君が構わないのであれば、やってくれ。」

その返答を受けたいろはは、ナギサに視線を移すと1つだけ言いたいことを言った。

「ナギサさん。1つ言っておきますが、私が許せないのはこのお馬さんに剣を向けたことです。動物の殺生は、私にとって一番許せません。それと私が勝ったら、ここにいる皆さんの安全だけは保障してください。」

ナギサは小さく笑うと、両手を挙げて答えた。

「いいさ。優しいお嬢ちゃんで何よりだよ。お嬢ちゃんが勝ったら、私らは何もせずに引き上げる。それでいいね。」

盗賊団の下っ端たちが、いろいろ文句を言っているが、ナギサが一言で黙らせた。ナギサは、腰の刀を引き抜くと両手で中段に構える。いろはも、それに応じるように剣を中段に構える。ナギサの刀はいろはの剣の1.5倍ほどに見える。ナギサの方がリーチは長いのだが、それを自在に操れる雰囲気を構えから感じる。いろはは、気を引き締め直すと、久しぶりに挑戦者の気分になって間合いを詰めた。剣先が触れると、ナギサの刀が中心を割ってくる。負けないように中心の攻防を繰り返すと、金属同士が触れ合う乾いた音が周囲に響く。その時、心音が思念通信で話しかけてきた。

「いろは、いつも通りやれば勝てるよ。いろはの得意な相手だね。」

いろはは、女子高生の平均より少し小柄な背丈をしている。しかし剣道の試合では、自分より大きな相手に対してほぼ負けたことがなく、部内ではジャイアンツキラーの別名を付けられていた。というわけで、ナギサを得意な相手として認識したいろはは、強気に間合いを割って入る。すると、攻めてくると思ってナギサが嫌悪感と共に後ずさる。それを繰り返すと、攻められることに焦りを感じたナギサがいろはの頭部を狙って飛び込んでくる。

「きたっ!」

それに合わせて飛び込み、相手の右手を剣の腹で打つ。痛みに顔をゆがめたナギサは、流れた刀をそのまま峰打ちの要領で振り上げてくる。それを剣でガードすると、心音が話しかけてきた。

「いろは。私の力が分かったよ。今からやるから、あの技名を叫んで剣の腹で相手を叩いて!」

その時剣が光り始めて、柄から不思議な力を感じる。いろはは、ナギサの刀を押しやると剣の腹をナギサめがけて振り下ろす。

「カラフル!ブレード!」

しかし力の大きさを察したいろはは、ナギサに当たる寸前のところで剣を止めた。ナギサは、あっけにとられた顔をしていたが、いろはが剣をどけると笑いがこみ上げたようで爆笑してしまった。

「ハハハハハッ!いやー、参った参った。この通りだ。お嬢ちゃんの勝ちだね。私らはこれで引き上げるさ。お前たち、ズラかるよ!さっさとしな!」

そう言うとナギサは、いろはに小さく手を振って、強盗団を引き連れて帰って行った。

「あ、ありがとう!君のおかげで助かったよ。」

御者が駆け寄ってきてお礼を述べた。しかし、ナギサの潔さにあっけにとられていたいろはは、生返事を帰しただけだった。気を取り直して剣を仕舞い、乗客のみんなから賞賛されながら客車の席に戻ると、心音が話しかけてきた。

「どうだった?カラフルブレード。」

「どうもこうも、ダメだよ相手を気絶させちゃ。あの状況でナギサさんをやっちゃったら、盗賊団が暴徒化してひどいことになっちゃうかもしれないでしょ。」

心音はそっかあと言うと、「いろいろ考えてたんだね。ごめん。」と謝った。いろはは許すと、逆に感謝を述べた。

「でも(ここ)ちゃんのおかげで、もしもの時の必殺技はできたから、今後の助けにはなったよ。ありがとう。」

心音は、満足そうに返事をすると黙ってしまった。窓の外を見ると、太陽が昇り始めていた。間もなく、4日目の移動が始まろうとしていた。御者の眠そうな声が出発を知らせると、外にいた人たちが戻ってきて馬車が動き始めた。

お読みいただきありがとうございます。

本作が、投稿開始1週間で100PVを達成しました。お読みいただいた皆さん、ありがとうございます。今後も引き続きお付き合いくださると嬉しいです。また気に入っていただけたら、ブクマや評価等よろしくお願いします。宜しければ感想もお聞かせください。

それでは、今後もよろしくお願いします。

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