十三話 暴走の裏で
いろはが育てた陸竜のチャオは、卵堂に認められて卵孵舎から陸竜舎に移動になった。同時にクスタは海竜の育成スペースに移動し、いろははドラゴン育成の自身が少しついたのだった。
そしていろはは、新しく飼育員として入ったアマネの世話役を任された。しかし、彼女が反竜教の幹部である事は知らないのだった。アマネはいろはに仕事をおそわりながら、三冠竜の居場所を探す。そして三冠竜の姿を見つけたアマネは、いろはと三冠竜の事を反竜教の長に伝えるのだった。そこで長から告げられた事実とは?
卵孵舎に配属された、新人のアマネをロッカーに案内したいろは。彼女は卵孵舎を案内するために、アマネを連れて卵の保管室に向かっていた。
「次は、仕事場をざっくり案内するね。まずはここ。」
今朝の保管室からの移動は既に終わっていたので、具体的な仕事内容は明日説明することにした。保管室の説明を終えると、子竜達がいる部屋を案内する。
「子供のドラゴンは、まだ大人と一緒に暮らせないから、卵から産まれてしばらくはここにいるの。卵堂さんに認められた子だけ各種類の展示スペースに移動できるの。」
アマネは、いろはの説明を聞きながら、各種類の部屋を注意深く観察した。いろはが唯一中に入れてくれた陸竜の中には、三冠竜と思しき姿はなかったが、海竜の部屋を覗いた時に1匹だけ明らかに容姿の異なる子竜が目に留まった。
「あれね……。海竜に混ざっているのね。」
そう心の中で呟き、直に接触できるのを待つことにした。しかし、翌日から陸竜の部屋を任されたアマネは、連日海竜の部屋で三冠竜を気にかけているいろはを見て、自分にそのチャンスが回ってくる可能性は低いと判断した。
数日後。竜種園での勤務を終えたアマネは、反竜教の本部である寺にやってきた。廃寺になっているこの寺には、壊れかかって崩れかかっているこじんまりとした本殿があるのみである。正面の入り口をノックすると、引き戸がスッと開いて信者が出る。
「役職とお名前を。」
「幹部のアマネよ。教団長はいるかしら?」
信者は、軽く頭を下げて答えた。
「いつもの場所におられます。どうぞ。」
長の部屋に向かうと、背中を向けた長が言った。
「アマネか。何か収穫はあったか?」
「ええ。報告に来たわ。結論から言うと、三冠竜は竜種園の卵孵舎にいるわね。付きっきりの飼育員がいて、まだ接触はできてないけど、姿は確認したわ。」
アマネはそう言って、事前に撮影しておいたクスタの写真を見せる。長は写真を確認すると、三冠竜であると肯定した。
「それから、その飼育員がこの女よ。」
続いてアマネは、いろはの写真も見せる。
「ほう……。」
長は一言漏らすと、少し驚いた顔で言った。
「こいつは、巷で話題の色彩剣士だな。暴走竜の対処に出て来る剣士だ。」
意外な関係性を知ったアマネは、驚いて言葉が出ないとともに面白いことを知ったと思った。長は、考えをまとめてアマネに伝えた。
「アマネ。この女は、次の暴走竜を放った時に始末する。お前は、こいつが留守の時に三冠竜を確保しろ。」
「分かりました。」
アマネは小さく一礼して出て行った。
ある日。いろはが子竜達の世話をしていると、エリカがやってきた。
「いろはちゃん!暴走竜だって!至急準備できる?」
いろはは慌てて立ち上がると、一緒にいたアマネに言った。
「アマネちゃん。私、ちょっと行かなくちゃいけないから、ここの掃除が終わったら卵堂さんに指示を貰ってくれる?」
「分かりました。あの、暴走竜って最近話題の危ないやつですよね?気を付けてください。」
いろはは、笑顔で返した。
「ありがとうアマネちゃん。多分夕方には戻ると思うから、あとよろしくね。」
いろははそう言うと、駆け足で出て行った。それを見届けたアマネは、ボソッと呟いて海竜の子竜達がいる部屋へ向かった。
「さて、帰ってこれるかしら?」
いろはが準備を整え、竜種園の正門前に向かうと、既に黒滝が空竜を一体待機させていた。
「黒滝さん、お待たせしました。それは……空竜、ですか?」
「ああ。今回は空竜が暴走しているようだ。飛んでいると厄介だからな。上空は俺がカバーする。」
黒滝と話していると、エリカと篭波もやってきたので、竜車に乗り込んで出発した。上空を空竜にライドして進んでいく黒滝を目印に、いろはが陸竜を制御して竜車を引いていく。竜舎の中では、エリカと篭波が話していた。
「なあ久遠。暴走竜が出現する原因って、なんか分かったのか?」
「そんなの、私が逆に知りたいわよ。」
数体ほど暴走竜を鎮めてはいるが、発生する原因や暴走した個体の共通点は分かっていない。そろそろ何か分かってもいい頃だとは思うが、あまりにも分からなさすぎるというのが彼らの結論だった。
「ひょっとして、あの嬢ちゃんと何か関係あんじゃねえの?」
篭波が、御者台に座るいろはを見ながら言う。
「ちょっとやめてよ。いろはちゃんが原因だったら、なんで鎮圧に参加してるのよ?」
いろはの名前を出された事に怒るエリカ。そんな彼女の様子に、篭波は少し慌てて訂正した。
「違えよ。確証はねえって。あの子が現れてから暴走竜が増えだしたんだ。疑うやつがいてもおかしくねえって話だ。」
エリカもそれは一理あると思い、いろはの方を見る。
「まあそうね。その意見が多くならないように、私達がフォローしないとね。」
そう言っていると、御者台から顔をのぞかせたいろはが到着を知らせた。2人が竜車から降りると、上空で黒滝が暴走竜を落とすべく奮闘していた。
「私達は、落ちたところを叩きます。エリカさん、篭波さん、私は丸薬を当てますので、暴走竜の方をお願いします。」
いろはが黒滝からの伝言を伝える。エリカと篭波は、力強く頷いて了承した。いろはが竜車から丸薬を取り出して準備に入ると、エリカと篭波もそれぞれ武器を構えて黒滝が落とすのを待つ。その頃上空では、黒滝が愛竜を操って奮闘していた。
「ちっ!やっぱ強いな。もうひと踏ん張り頼むぞっ!」
愛竜の手綱を操り、暴走竜に体当たりを仕掛ける。一瞬体勢を崩したのを見逃さず、前足での引っ掻きを入れる。ダメージを負った暴走竜は自身の体の制御を失い、地面に向けて落ちる。そこにすかさず体当たりを入れ、落下のダメージを増大させる。
「後は任せるぞ!」
地上のメンバーにそう呼びかけ、自分は再浮上に備えて待機する。
暴走竜は地面に叩きつけられ、相当なダメージを食らった。そこにすかさず打撃と斬撃が撃ち込まれ、更にダメージを受ける。すると、視界に一人の少女が映る。その少女は木の球を手に持つと、もう片方の手に持った剣でこちらに向かって打ってくる。木の球が翼についている竜石に当たり、体が少し楽になる。しかしその時、何か指令のようなものが聞こえてきた。
「その娘を連れてこい。」
すると、体が勝手に動き出し、咆哮で竜車を吹き飛ばす。
「「いろはちゃん!!」」
どこからか少女を案じる声が聞こえるが、暴走竜は構わずに投げ出された少女をくわえて飛び去った。
いろはが目覚めると、どこかの空き地に横になっていた。場所は見知らぬ林の中の草むらで、目の前には1人の男性が見覚えある黒服姿で、一匹の空竜の前に立っていた。
「反竜教……!」
男性の服装にピンときたいろはは、急いで立ち上がると、ソードベルトから心音を引き抜いて後ろから叫んだ。
「そのドラゴン、どうするんですか?」
男性は振り返ると、いろはの存在を思い出したかのように言った。
「ああ、目が覚めたのか。こいつは、君を運んできたやつだよ。半分暴走が解除されているから、完璧な暴走状態に戻すんだよ。」
空竜は鎖で拘束され、苦しそうな声をあげている。その様子を見たいろはは、空竜の前に立って男性を見据える。
「ほお?なんの真似かな?」
「この子が苦しそうにしているのが、分かりませんか?分かったうえでやるのであれば、私はこの子を守ります!」
男性はニヤリと笑うと、不敵な笑みのまま言った。
「クククッ!聞いた通りの性格だな。俺の邪魔をするなら、蹴散らすだけだ。」
男性は背負った銃をいろはに向け、躊躇なく引き金を引く。連射された弾丸がいろはに迫るが、彼女の後ろに空竜がいる以上、避けるという選択肢は無い。
「心ちゃん!お願い!」
「了解!」
いろはが心音を前に投げると、心音が刀身を翻して銃弾を全て弾く。それを見た男性は、驚いたように目を開く。
「へえ。常軌を逸した剣だね。じゃあ、これはどうだ!?」
男性が引き金をひき、先ほどよりさらに多い銃弾が迫りくる。
「アクロバットスラッシュ!」
心音が技を出し、より多くの銃弾を弾く。その間に、偶然持っていた丸薬を空竜の竜石に当てたいろはは、空竜の拘束を解いて逃すことに成功した。
「お前!よくも計画を台無しにしてくれたな!こうしてやる!破竜射撃!」
男性は技を出し、無数の弾を連射してくる。
「いろは!走って!」
心音の指示で、黒滝に対してやった連携だと気付いたいろは。心音を信頼して男性に向かって走る。いろはに襲い掛かる弾丸を心音が弾き、一振りで仕留められる間合いに入ると、色とりどりに輝く心音が、いろはの掲げた手に収まる。
「カラフルブレード!」
金属同士がぶつかる音がし、手応えはすぐに無くなった。周囲が明瞭になると、男性の姿は無くなっていた。
お読みいただきありがとうございます。
久しぶりの更新となりましたが、お楽しみいただけると嬉しいです。今後も引き続き、更新予定ですのでよろしくお願いします。
また同じく小説家になろうにて、小説「隣のテーブルの料理男子」を連載中です。料理男子とスポーツ女子のラブコメになっていますので、宜しければこちらも覗いてみてください。




