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十一話 強靭な水の刃

遂に三冠竜の赤ちゃんが誕生した。クスタと名付けたいろはは、クスタと共に竜神池に向かった。そこで竜神から、三冠竜の役割について詳しい話を聞くが、まずはクスタを育てる事が最優先になる。

一方、三冠竜の誕生を知った反竜教だったが、企んでいることは謎だが支障はないとしてそのまま決行するのだった。

そして、鎮圧隊の発足前ミーティング中に再び暴走竜の出現が報告される。いろは達は、試験運用として出動するのだった。

 翌朝。いろはは、クスタを連れて出勤した。卵孵舎の事務所に入ると、既に出勤済みのエリカが驚いた。

「あれ?その子も一緒なの!?」

「はい。どうしても一緒にいるって聞かなくて……。卵堂さんに許可を取ったので、問題はないです。」

「それなら大丈夫か。今日はどうするの?」

「とりあえず、チャオのところに置いてこようと思います。」

いろははそう言って、陸竜の子供達がいる部屋へ向かった。部屋に入ると、いろはに気付いたチャオが駆け寄って来た。チャオの頭を撫でてやると、満足そうな声を上げながら擦り寄ってくる。

「よしよし。チャオ、クスタの事またお願いしていい?」

「ギャア!」

チャオは、任しとけというような鳴き声を返してくる。その返事を聞いたいろはは、チャオの背中にクスタを乗せて、部屋を後にした。

 その頃。ちょうどその日の開場時間を迎えた竜種園の正門に、アマネがやって来た。

「さて、ドラゴンの情報といえばここね。」

三冠竜の調査を任されたアマネは、まずは情報収集として、とりあえず竜種園にやって来たのだった。正門をくぐったアマネは園内を進んでいくが、次第にあることに気づく。

「子供のドラゴン、いなくない?」

まだ若いのか、小柄な個体がいるのは見るが、子竜達は卵孵舎にいて公開されていない。そして卵孵舎自体が完全裏方で存在が非公開のため、アマネが分からないのも無理はない。目的を無くし、休憩がてら園内のカフェにやって来たアマネは、店内のチラシを見てある事に閃いた。

「ここって、資料館があるのね。ひとまず調べてみようかな?」

カフェで休憩した後に、竜種園の敷地内にある竜種資料館にやって来た。まずは、三冠竜についての知識を得ようとしたのだ。展示スペースを通り抜けて、閲覧スペースにやって来たアマネは、三冠竜の本を持ってきて読み始めた。

 クスタを預けたいろはが、鎮圧隊の会議に参加していると、突然ショウタが部屋に飛び込んで来た。

「園長!暴走竜が出ました!王城の近くです!」

「何っ!」

報告を聞いた黒滝が、慌てて立ち上がる。

「園長。王城に危険が及ぶとまずいです。出撃の許可を。」

黒滝は、一応発足前ということを考慮してか、リョウに許可を求めた。

「そうですね。念のため確認しますが、4人だけで大丈夫ですか?」

黒滝は、自信を持った顔で答えた。

「このメンバーは皆、強者揃いです。この目で確認したので、私が保証します。」

リョウは、目を閉じて言った。

「分かりました。まだ発足前ですが、試験運用として鎮圧隊の出動を命じます。第一目標は、全員無事に帰還する事。暴走竜の鎮圧は、その次で構いません。王城には、こちらで連絡しておきます。」

リョウの号令でいろは達が立ち上がり、準備に向かった。

「エリカさん。王城って、王様がいるんですか?」

改めて考えてみると、この国を誰がどのように統治しているのか知らない。そう思ったいろはは、移動しながらエリカに色々聞くことにした。

「そうだよ。公王陛下のお住まいだね。」

「という事は、王様がこの国を治めているんですか?」

エリカは、少し考えてから答えた。

「治めているっていうのは、ちょっと違うかな?政治関係は、王城内に設置されている公国議会がやってるし、公国軍も陛下の指令はあっても、実際動くのは国防大臣の命令だからね。陛下が自由に動かせるのは、自分の近衛部隊くらいかな?それもそんなに数いないけどね。」

エリカの答えに、公王に少し権限の強い象徴天皇のような印象を抱いたいろは。ドラキア公国に、少しだけ親近感の湧いた彼女は、心音を取りにロッカーへ向かった。

 いろは達が王城へ着くと、豪華な装飾のついた甲冑を着込んだ近衛部隊と思われる人達が慌ただしくしていた。そんな中、いろは達に気付いたメイド服の女性が近づいて来た。

「竜種園の方々ですね?園長様よりお話を伺っております。ご案内する様にいい使っておりますので、私の後について来てください。」

いろは達がその女性についていくと、とある一室に案内された。部屋の中央には何やら地形図が広げられており、その奥の机では髭を蓄えた中年男性が甲冑を着て書類とにらめっこしていた。

「クズハ様。竜種園の皆様をお連れしました。」

「ん?おお、来られたか。待っておりましたぞ!」

クズハと呼ばれた中年男性は、顔をあげると立ち上がって進み出た。

「私、公王陛下より近衛部隊の指揮を命じられています。舞麗(ぶれい)クズハです。作戦の打ち合わせのためにお呼びいたしました。」

そう言って、握手を求めるクズハ。黒滝は、握手に応じながら返した。

「公国立竜種園暴走竜鎮圧隊隊長の黒滝ヨクガです。今回はよろしくお願いします。」

握手していた手をほどくとクズハが机上の地形図に目を落として話し始めた。

「現在近衛部隊は、陛下の命で王城付近の防御を固めております。陛下は、暴走竜が近づいた時のみ対処する様にと仰せです。」

それを聞いた黒滝は、一言「ふむ。」と言ってから続けた。

「専守防衛というやつですね。分かりました。公王様の安全はお任せします。鎮圧は我々にお任せ下さい。それと、暴走竜に関して何か分かっていることがあれば、教えて頂きたいのですが?」

クズハは、奥の机の上に置いてあった書類を手にとり、黒滝に渡した。

「ざっとした内容をまとめてあります。対象は陸竜の様ですね。体の色から東の山に住んでいる野生個体と思われます。」

その情報に疑問を持ったいろはは、隣のエリカに小声で聞いた。

「エリカさん。野生の個体って、色が違うんですか?前の海竜の時は同じでしたけど?」

エリカは、「ああ。」と反応すると、答えてくれた。

「たまにいるのよ。レアな色違い個体が。」

レアな個体という所に引っかかるが、暴走竜の居場所を聞いた黒滝に連れられて外へ向かった。竜種園から乗って来た竜車に乗ると、黒滝が作戦を説明した。

「話を聞いていたからいいとは思うが、俺達は暴走竜(やつ)と直接戦うことになる。園長が言っていた通り、第一目標は全員無事の帰還だ。忘れるなよ?竹野、丸薬は持って来てるな?」

「はい。この竜車に積んであります。」

「それじゃあ、俺は丸薬を打ち込む係だな。お前達は、体力を削るか俺が当てやすいように誘導するかだ。」

黒滝が作戦をざっくりと説明すると、エリカが口を開いた。

「陸竜だから、機動力に注意したほうがいいね。走り回られたら、誘導は厳しいかも?」

「そうっすね。俺も同意見っす。」

エリカの見解に、篭波も同意する。

「それじゃあ、とりあえず戦う方向ですか?」

いろはが確認すると、他の3人が頷く。

「ただし。最優先目標を忘れるなよ?っと、そろそろ見えて来たぞ。」

黒滝の言葉で外に目を向けると、前方に土煙が立ち上っているのが見えた。同時に、鳴き声や地響きが振動になって伝わってくる。やがて、木々の中にある開けた場所に出ると、お目当ての姿が見えた。黒い鱗に覆われた体と強靭な後ろ足が特徴的だが、その足に出現している竜石と、纏った邪気が暴走竜であることを明確にしている。目は赤く光り、不気味な眼差しを向けている。

「よし。あとは任せる。仕留めやすいように頼むぞ。」

黒滝の指示で竜車から降りた3人は、それぞれ武器を構えて暴走竜に対峙する。黒滝は竜車の窓を開け、鎮圧用の丸薬を詰めたハンドガンを準備する。黒滝の準備が終わったその時、暴走竜の咆哮が響き渡り、いろは達に向かって突撃してきた。

「おい、久遠。俺が動きを鈍らせるから、お前といろはちゃんで脚を奪え。暴走竜(やつ)の機動力を剥ぐぞ。」

「了解。」

篭波がエリカに指示を出し、その指示をエリカがいろはにアイコンタクトする。篭波は西洋剣を引き抜くと、突撃してくる暴走竜に向かって斬撃を放った。

二連波動剣(にれんはどうけん)!」

放たれた斬撃は、暴走竜の両後ろ足目掛けてそれぞれ飛んでいく。エリカの合図で共に走り出したいろはは、暴走竜の左側から走って近づく。篭波の斬撃が両後ろ足の付け根を切り裂き、血が噴き出す。それを合図に、いろはとエリカが同時に技を繰り出した。

(ここ)ちゃんお願い!アクロバットスラッシュ!」

「エキスパンションスティック!」

いろはが心音を投げて飛ばし、エリカが凄まじい速度で棒を延長する。篭波の斬撃と共に、心音の斬撃とエリカの棒が暴走竜の足を直撃する。

「今だ!」

篭波の掛け声で、黒滝が引き金を引く。しかし、黒滝の手応えは良くなかった。

「篭波!片方ダメだ!備えろ!」

2発放ったうちの1発は、ドンピシャで暴走竜の右足にある竜石を撃ち抜くと思ったが、もう1発は相手が前に倒れ込んでくるのを考えると、外れる可能性が高い。

「来るぞ!」

案の定、倒れ込んだ体によって阻まれる。その結果、倒れ込んだ状態からの攻撃を許す事になった。暴走竜は、倒れた体を前足でわずかに浮かせ、首を一度後ろに倒してから、勢いをつけて炎を吐き出した。

「うわっ!」

その場にあるものを瞬時に灰にしてしまう程の灼熱の炎が、いろは達に迫る。

波動剣(はどうけん)!」

篭波が対抗して技を出すが、波も刃もあっという間に蒸発してしまった。

「チッ!温度がおかしいだろ?こうなったら……。」

篭波は、手にしている西洋剣を胸の前に立てて詠唱を始めた。

「その灼熱の炎を強靭なる水の刃にて切り裂け!公国軍人専用術式、ハイドロブレード!」

篭波が剣を振るうと、生まれた斬撃が大量の水を出しながら暴走竜の吐く炎へと突撃する。炎と激突したのを確認したいろはとエリカは、暴走竜の懐へ駆け込もうと、一気に距離を詰める。そして黒滝も、竜車を牽引していた陸竜に飛び乗り、左足の竜石が見える位置まで移動した。

「当たれ!」

黒滝が放った丸薬は、左足の竜石に命中し、暴走状態が解除される。反発のなくなった斬撃が暴走竜に迫るが、エリカといろはが相殺し、なんとか当たらずに済んだ。暴走状態でなくなった陸竜は、その場に体を横たえ気絶している。

「とりあえず何とかなりましたね。」

「あとはこの子の保護と手当てだね。前回の海竜と違って生息場所が不明だから、竜種園で保護するんだけど……陸竜だから、あいつに任せるか。」

エリカはそう言うと、どこかに電話を始めた。おそらく陸竜舎の蓮だろう。エリカの態度からそう考えていると、篭波がやって来た。

「いろはちゃん、怪我はないか?」

「はい、大丈夫です。あの、さっきの技って何なんですか?」

いろはは、篭波が使っていた技について聞いてみた。

「ああ、あれか?あれは、公国軍人にしか使い方が教えられない広範囲攻撃の専用術式なんだよ。」

いまいちピンとこないいろはだったが、ひとつ気になった事を聞いてみた。

「専用術式なのに、人前でやっちゃっていいんですか?」

「ん?人前で放つ分には問題ないんだよ。やり方を教えるなってだけ。」

模倣する人間が現れなくもないと思ったいろはは、軍の自信を感じたような気がした。

 いろはと篭波が話していたその時、心音は遠くから自分達へ向けられる視線を感じた。見る限り気づいていない様子のいろはに、思念通信で警告する。

「いろは。どこからか見られてる。気付かれないように注意して。」

心音の言葉に、篭波との会話が途切れるいろは。

「ん?いろはちゃん?どうした?」

篭波に声をかけられ、ふと我に帰る。

「あっ、すみません。あの、私の剣が言ってるんですけど、どこからか見られてるみたいです。」

心音の事は、3人には既に暴露済みなので、こう言っても通じる。

「何?マジか?」

篭波も、周りに悟られないように警戒するが、絞る事はできない。それもその筈。離れた場所からいろは達を観察している黒服の男が1人。

「フッ。あれを封じるか……。流石は公国立竜種園。それに噂の色彩剣士(カラフルセイバー)と言ったところだな。もう少し強化が必要か。」

男はニヤリと口角を上げると、一瞬で消え去った。

お読みいただきありがとうございます。

本作のPVが、1100を突破しました。ここまで読んで頂いた皆さん、ありがとうございます。宜しければ、今後もお付き合いください。

久しぶりの更新となりましたが、今後も鋭意更新予定ですので、引き続きよろしくお願いします。

また、作者名のTwitterアカウントで更新情報等お知らせしています。本作のブクマと併せてフォローしていただけると、更新時のお知らせがもれなく受け取れますので、よろしくお願いします。

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