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十話 三冠竜・クスタ

竜種園の暴走竜鎮圧隊(仮)のメンバーになることが決定したいろは。図らずも他のメンバーに、自分の実力を見せられた彼女だったが、遂に待望の瞬間が訪れる。保温室に預けておいた三冠竜の卵に、孵化の前兆があることを知ったいろはは、その瞬間に立ち会うことに。誕生した子竜を連れ、竜神の元へ向かうと、三冠竜の役割を告げられるのだった。果たして、三冠竜とは何なのか?

 ドラキア公国立竜種園の中にある卵孵舎。その中にある、卵を孵化させるために保管しておく保温室に、緊張の時間が流れる。普段は、卵孵舎所属のいろはやエリカ達しか入れないのだが、今日は園長のリョウや鎮圧隊の内定メンバーが一緒にいた。目的はもちろん、待ちに待った三冠竜の卵が孵化する瞬間を見るためである。

「卵堂さん。後どれくらいですか?」

いろはは、何故か緊張が抑えきれずにソワソワしながら、卵堂に尋ねる。

「落ち着きな、いろは嬢。卵が少し動いているのが見えるかい?」

いろはがゲージの中を覗き込むと、卵がわずかに揺れているのが見えた。

「あの状態になれば、もうすぐだ。」

卵堂がそう言ってから約10分後。卵の上の方にひびが入り、鋭利な突起が姿を現す。そこから突起が開けた穴を広げるように、中から子供のドラゴンが頭を覗かせた。

「ギャア!」

卵の上半分がなくなり、下半分の中に入った子竜の姿が露わになる。鼻の上に尖った角があり、前脚のひれと背中の羽が、三冠竜である証拠だ。そして、クリッとした目が、何とも可愛らしい。

「うわぁ………………。」

いろはは何とも言っていいか分からず、言葉が出なかった。その場にいた面々も、初めて見る三冠竜の姿に釘付けになっているようだ。するとエリカがいろはの肩を叩き、一枚の札を渡した。名前を書いて付けておく札だ。

「名前かぁ…………。どうしようかな?」

しばらく悩んだいろはだったが、いくつか思い浮かんだ中でピンときたものを書いて、左足首の辺りに括り付けた。

「これでよし。君の名前は、クスタだよ!」

いろはが付けた名前に、卵堂が腕組みをしながら頷く。

「良い名前じゃねえか。分かりやすいしな!」

クスタも名前が気に入ったのか、肯定するような泣き声を出している。いろはがゲージから出してあげると、入り口の方にいる卵堂が手招きした。

「その子を連れておいで。」

いろはがクスタを連れ、卵堂の後についていくと、子竜達がいる部屋の方ではなく、卵孵舎の事務所へやってきた。

「三冠竜を育てるには、3種類全てのドラゴンと一緒に育ててやろうと思ってな。まずは陸竜からだ。次に海竜、最後に空竜にしよう。」

卵堂は、クスタの育成計画を提案してくれた。いろはは提案通りに、陸竜の子供達がいる部屋にクスタを連れて行った。部屋に入ると、いつものようにチャオが寄ってくる。

「あ、チャオ。ちょうどよかった。」

いろはは、チャオの頭を撫でた後で、クスタを紹介した。

「この子、見た目はちょっと違うけど同じドラゴンだよ。クスタっていうの。少し面倒見てくれる?」

チャオは、任せておけというような鳴き声をあげ、クスタに顔を近づける。いろはがクスタを下ろすと、クスタがチャオの方によたよたと歩いていく。近づいた2匹は、お互いに鳴き声を出し合って、挨拶をしているようだった。

「ひとまずこれなら安心かな?」

そう思ったいろはは、外に出てガラス越しに様子を見守る。チャオは、まるでクスタの兄貴分といった様子で相手をしている。

「様子はどう?」

いろはが見守っていると、そう言ってエリカがやってきた。

「とりあえず、チャオに頼んでみました。ドラゴンって、こっちの意志が通じるから相手しやすいですよね。」

「そうだね。細かいことは伝わらないにけど、大体分かってくれるからね。チャオはどんな感じだった?」

「兄貴分みたいな感じですかね?頼り甲斐がありそうです。」

弟のような存在が出来たからなのか、チャオが少し嬉しそうに見えた。

 後日。クスタを連れ出す許可を得たいろはは、竜神に言われた通り、クスタを連れて竜神池にやってきた。前回竜神に言われた通りに祠の前へ行くべく、祠を取り囲む池のほとりにやってきた。クスタは、初めて見る景色と何かを予感させる雰囲気に、周りをキョロキョロしている。

その時、池の水が徐々に減っていき、祠までの道が現れた。

「とりあえず、お参りしよっか?」

そうクスタに言うと、「賛成!」というような鳴き声が帰ってきた。出現した道を進んで行くと、いろはの胸辺りの高さ程の祠の前にたどり着く。クスタを手に乗せたまま、ポケットから小銭を取り出し、募金箱の様な賽銭箱に入れる。手を合わせていると、どこからか声が聞こえてきた。

「ほう。殊勝なやつだな。よく来たいろはよ。」

聞き覚えのある竜神の声がした後、祠の上空に竜神が姿を現した。

「ギャギャ!?」

クスタは、初めて見る竜神に驚いて、くりくりの目を大きく見開いている。

「お前が、新しい三冠竜か?」

竜神がクスタに語りかける。すると、驚いた顔をひっこめたクスタが、力強く鳴いた。

「ギャア!」

「うむ。いい目をしているな。それでこそ三冠竜にふさわしい。」

竜神がクスタの頭に手を置くと、竜神の手の平が淡く光りだした。

「ここに三冠としての真の能力を授けよう。」

竜神の手の平から光が移り、クスタの頭に吸収される。クスタは、目をパチクリさせて短い鳴き声、ではなく『声』をあげる。

「ん?何がどうなったの?」

「え!?」

突然しゃべり始めたクスタに驚き、絶句するいろは。その様子を見た竜神は、クスタに授けた能力について話し始めた。

「ハハハ。今授けたのは、三冠竜の特殊能力だ。」

「特殊、能力?」

「三冠竜は、パートナーである人間との的確な意思疎通のため、言葉を話せる。我のようにな。」

「言葉を、話せる……。」

「そしてもう1つ。鼻の上にある角を見てみよ。」

いろはは言われたとおりに、クスタの鼻にある角を見る。今までは、いろはの小指ほどの大きさだった角が倍ほどの大きさになり、少し頭の方向に反っている。

「少し大きくなって、反りも入ってる……?」

「そうだ。それこそが、三冠竜である証だ。我が真の力を授けた故の変化だ。」

クスタが三冠竜になった証を説明され、徐々に実感が湧いてきたいろは。思わずクスタをまじまじと見つめてしまうが、クスタ自身はよく分かっていないというように首を傾げた。

「いろは……?」

「!……私の事、分かるの?」

いろはの問いに、大きな問題ではないというように頷くクスタ。

「すごいっ!三冠竜って、ほんとにすごい!」

三冠竜のすごさを実感したいろはは、驚きで語彙力が一時的に下がる。すると、竜神が咳ばらいを1つした。

「コホン。感動しているところ悪いが、三冠竜の役割を伝えよう。」

「三冠竜の……?」

「役割……?」

そういえば知らないといった顔で、聞き返すいろはとクスタ。互いを見つめ合う2人に、竜神は笑った。

「ハハハ。息ぴったりだな。三冠竜の役割は、世界の守護だ。」

「「世界の、守護?」」

漠然としたスケールの大きいことを言われ、戸惑ういろは。そんないろはをよそに、竜神は説明を続ける。

「世界と言っても、ここで指すのはこの国、ドラキア公国だな。この国は、我々ドラゴンとの共生を続けてきた国だ。特に三冠竜は、この国の守護竜として竜種の頂点に立っている。この国の様々な有事に出動し、国の守護を任されている。」

「守護、か。結構範囲の広い話ですね。」

いろはがクスタの様子を伺うと、まだよく理解できていないようだった。言葉を話せるとはいえ、まだ生まれたばかりであれば仕方がないのかもしれないと思ったいろはは、竜神に1つ質問をした。

「あの、まずは何をすればいいですか?」

「そうだな。まずは、クスタを育てることだ。時期が来ればまた呼ぶ。我が呼ぶまでは、さっき言った役割も気にしなくていい。一人前になってから果たすべき役割だからな。」

いろはとクスタは、竜神に別れを告げて竜神池を後にした。

 竜種園の寮に戻ったいろはは、どうしても一緒にいたいと言うクスタを、卵堂の許可を得て自室に入れた。クスタを床に下ろすと、まだ小柄な体をしたクスタが、トコトコと部屋を歩き回る。

「いろは。ここはどこ?」

「ここは、私のお家。クスタがいつもいるお部屋みたいな場所だよ。私が生活する場所。」

いろはの回答を聞きながら、部屋を見回すクスタ。

「へぇ。狭いんだね。他の人たちはどこにいるの?」

「ん?他の人?」

クスタは、人間がドラゴン同様に、共同スペースで生活をしていると勘違いしているようだ。ひとまず、そこの勘違いを訂正したいろはは、心音に声かけてクスタの世話をお願いした。キッチンに移動して食事の準備をしながら、心音とクスタの様子を観察していると、剣とドラゴンが会話しているというファンタジー要素満載な光景に、ここが異世界であることを改めて感じる。何とも微笑ましい光景を眺めていると、あることに気がついた。

「ねぇ、(ここ)ちゃん。クスタの言葉、分かるの?」

「分かるよ?なんか不思議な力すぎて、原理はよく分からないけど。」

「そっか。じゃあ、クスタは(ここ)ちゃんの言葉分かるの?」

「うん。剣に話しかけられるのは、なんか不思議だけど。」

クスタの言葉に、少しムッとする様な心音の雰囲気を感じる。いろはの部屋の感想といい、クスタの言動に、幼さ故のストレートさを感じるいろはだった。自分とクスタの分の夕飯を作って食べる。自分の分は、竜神池からの帰り道で買った食材を料理するくらいだが、クスタの分は、卵孵舎で分けてもらった子竜用の食事を与える。美味しそうにがっついている様子のクスタを見たいろはは、自分が作ったわけではないのに嬉しくなって、思わず微笑む。

「クスタ。美味しい?」

「うん!美味しい!」

いろはが聞くと、満足そうにクスタが頷いた。食べかすを口の周りにつけ、嬉しそうな顔を見ていると、思わず頭を撫でてしまう。

「かわいいなぁ。」

「そうだね。なんか弟みたいな感じ。」

心音も、親近感を感じてくれているようだ。食べ終わって食器を片付け、テーブルに戻ると、クスタが床の上をこちらに走ってきた。そして背中の羽を羽ばたかせると、ふわりと浮かんでいろはの太ももに乗ってきた。

「へぇ、そんなに小さいのにちゃんと飛べるんだね。」

まだひよこくらいのサイズで、ふわりと浮かんでゆっくり進む程度だが、ドラゴンであれば、子供でもこれくらいは飛べるらしい。

「でも、危ないからあんまり飛んじゃダメ。分かった?」

もし、バランスを崩して墜落しようものなら、危険極まりない。そう考えたいろはは、空竜の子供達の部屋に行くまで禁止令を出した。クスタは、少ししょんぼりしながら頷いた。しかし、いろはの太ももに乗ったクスタは、いろはの手元が気になるようだ。

「ねぇ、いろは。それなぁに?」

クスタは、いろはの手元にあるスマホを指して聞いた。

「ん?スマホだよ。調べ物とか色々便利なんだよ。例えば、」

いろはは、スマホをクスタに向け、写真を撮る。撮影したクスタの写真を見せると、クスタが目を丸くして驚く。

「すごい!これ僕?」

「そうだよ。これがクスタだよ。」

クスタは、画面に映る自分の姿に釘付けになっている。その時、心音が声を上げた。

「あ、そうだ。いろは!私も撮って!」

いろはは、そういえば彼女も自分の姿が見えないなと思い、スマホで写真を撮る。

「どれどれ?おっ!私って、こんな感じなんだ〜。意外と素朴なんだね。」

黒い柄にシルバーのガードと刀身。そして、ガードの中央にある紫色の丸い装飾。何とも初心者向けの様な見た目を的確に言い得た感想だった。

 太陽が沈み、ドラキア公国が闇に包まれる。いろはが腕の中にクスタを抱き、静かに寝息を立てている頃。竜神池のすぐ近くにある簡素な寺に、4名の男女が集まっていた。

「おい、三冠竜が産まれたってのは本当なのか!?」

「五月蝿いわね。本当だって言ってるじゃない。」

4人のうち年少の2人が、三冠竜の誕生について話し合っている。

「それならまずいじゃねえか!あれは間に合うのかよ?」

「問題ない。このまま計画通り進めていく。三冠が産まれたとはいえ、まだ子竜だ。邪魔はされまい。」

若い男の問いに、長である男が答える。すると、長の男と同年代の女性が、少し懸念を示した。

「それでも、調査は必要ではなくて?三冠と、その主人(あるじ)について。」

「そうだな。いずれは我ら反竜教の敵になる可能性は大いにある。アマネ、調査を命じる。」

長の男に指名された少女・アマネは、真剣な顔で頷き了承の意を示した。

お読みいただきありがとうございます。

本作のPVが、1000を突破しました。ここまで読んで頂いた皆さん、ありがとうございます。宜しければ、今後もお付き合いください。

今後も鋭意更新予定ですので、引き続きよろしくお願いします。

また、作者名のTwitterアカウントで更新情報等お知らせしています。本作のブクマと併せてフォローしていただけると、更新時のお知らせがもれなく受け取れますので、よろしくお願いします。

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