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序章
悶々とした空気を吹き飛ばそうと思って、窓を開けた。近所のコーヒー焙煎所から苦いにおいがする。土曜午前十時。久しぶりに完全オフデイなのだが、特にやることもない。
重い腰を上げて洗面台に向かった。私は輝きを失った顔をしている。ハリのない肌に濁った眼。隠しようのないニキビの跡。ふうと、深いため息をつく。ため息は酸素の無駄遣いとか、幸せが逃げていくとか、よく言うけど実際どうなんだろう。まあ。考えるだけ無駄である。
無地の白いTシャツにジーンズ、黒いスニーカーを履いて家を出た。徒歩二分のところにあるさくらの丘公園で読書でもしようと思う。塗装が剥がれたベンチに腰をかけて、文庫本を広げた。足元でせっせとアリが巣を作っていることに気が付くはずもなく、読みふける。
今日は少し天気が良すぎた。