体質だと思っていたら病気でした。
誰にもいえない恥ずかしいこと。それなのに主人公シャロンはみんなの前でおならをしてしまう。
自分では止められないことなのに。
みんなしますよね?
男爵令嬢のシャロンは緊張しやすく、人見知りから友達ができない。
6歳くらいの歳に子供たちが集められた場所に連れて行かれた。知らない子ばかりでどうしてよいかわからない。
みんなで鬼ごっこをしたが、足が遅く、知らない子に触れて「やめて、触らないで」といわれれば誰にも鬼が交代できなかった。
その中のひとりの男の子が
「つまんないなー、なんで捕まえないの?鬼がかわらなきゃ続けられないじゃん、この子はずそうよ。」
そういうとみんなわたしを除いて鬼ごっこをはじめた。
その日だけじゃなく、何度も同じ子達が集められ、
同じようにに遊んだがあの日以来遊びに誘われることはなかった。
わたしはいきたくなかったが、両親が無理やり連れてきた。その度にお腹が痛くなり、医者に診せたが何もわからず、また連れてこられる。
ついたらすぐにトイレに駆け込むか、誰もいない場所に隠れた。そして帰る時間になるとでてくる。
そんなことを何年も繰り返した。
12歳になる歳に貴族の学校にはいることになった。
友達はいないけど、もしかしたら趣味の合う人がいて友達になってくれるかも、と胸を高鳴らせていた。
20人位の同じ歳くらいの子たちが狭い部屋に着席していた。名前順らしく、自分の名前の席に座った。
ドキドキして心臓が飛び出しそうだったが、これから何があるのか少しワクワクしていた。
これから1年お世話になる先生が学校のことや授業のこと、行事の事を説明してくれた。
その後親睦を深めるためにと、外で鬼ごっこをすることになった。
どーしよう、前のようにまた鬼が変われず仲間ハズレにされるかもしれない。怖い。
でも私も大きくなったし、みんなと同じようにできるかも。そんな期待をもってみんなに混ざって逃げはじめた。そして鬼にタッチされ他の子を追いかけてみた。だが男の子は早くて捕まらず、女のコは捕まえる寸前に「私休むから」と、一人も捕まらない。
まただ。なんで?
すると男の子の一人が声をあげた。
「その子は無理だから鬼かえよう。」
その日からまた鬼ごっこには誘われることはなかった。
みんなはそれぞれに仲良い子を見つけたようで、次の日は楽しそうに話していた。私はひとりも話し相手がいないから仕方なく次の授業の支度をしていた。
一ヶ月経った頃、先生が3人グループを作ってといった。
私はとにかく焦った。仲の良い子がいないので組んでくれる子がいるのか?
次々にグループができるので、ひとりでいる子に声をかけてみることにした。
「あの良かったら一緒に…」
すると2人組の子が
「ひとり?一緒に組まない?」と誘った。
その子はうなずき、私は他にいないか見渡した。
先生が「決まったか?決まってない人?」と聞いたので
手を挙げると残っていたのは私ひとりだった。
「アー人数でひとり残るんだった。誰か4人のグループになってくれ」
だけど、みんな顔を見合わせて何も言わない。
私も居たたまれずに俯いた。
先生は私をひっぱるととても綺麗なドレスを着た令嬢の方に連れて行った。
「シュナイプ嬢、いれてやってくれ」
令嬢たちは驚いていたが、わかりました。と答えた。
私は「すみません、よろしくおねがいします。」
と彼女たちに言ったが返事はなかった。
授業は進み、作業もみんなでやったが、私はいるだけだった。居るのが申し訳なく、何か手伝えることはないか聞いたが別にと手伝わしてももらえなかった。
お腹が痛くて辛かったが、授業が終わるまではと我慢した。
授業が終わって慌ててトイレに向かったがお腹を下していて、教室に戻れたのは次の授業直前だった。
みんな席についていて、あとから教室に入る私に視線が集中する。
辛い。お腹痛い。
席について授業の支度をして先生がきた。
授業はどんどん進み、お腹も痛み続ける。
教科書のページをめくっていたら、なぜかスゥ~とおならが出た。
え、わたし?
出ちゃったの?
どうしよう。みんな気づいてる?
音はしなかったけど、臭ってるかも。
後ろの席の人とか、気づいたかも。
私はパニックになりたぶん真っ赤になっていたと思う。
誰かが、なんか臭くない?と言い始めた。
誰かが窓を開けろ、
何の臭いだ?
どっからするんだと話はじめて授業は中断した。
その時は誰がとか臭いの元のはなしもそのままに終わった。
けれど、次の日も教室に入ろうとするとお腹がいたくなり、授業中にまたおならが出てしまった。
その次の日も。
ある日トイレから戻ると、小さいムードメーカー的な元気な男の子が
「なんか臭くない?東洋で納豆とか言う臭いににてる気がする。あいつじゃない?」と私の方を見て笑った。
男の子は私ではなく、クラスの真ん中にいる背の高い子と、頭の良さそうな子に向かって話していた。
二人は何も言わなかったけど、クラス中が私を見ていた。コソコソ話す内容は聞こえないけど、おならの犯人が私だと気づいてしまったんだ。
どうしよう、動けない、怖い。
先生が入ってきて座れといって私も座った。
いつのまにか下校していて、
私は親に学校に行きたくない、お腹痛い、イジメられてる、と訴えた。
だが医者もわからないんだ、仮病だ、学校には行かなきゃいけない、イジメは気のせいだと、学校に行かされた。
その後の1年は無視と納豆を言い換えて「トーナー」と呼び、「トーナー今日も臭いよ、なんで来るの?
なんか髪からも臭う気がする。このクラス、トーナーのせいで臭すぎ。」と笑われて過ごした。
席からうごかず、何も聞こえない振りをして教科書を読んでる振りをした。
そして1年が過ぎ、クラスがかわった。
小さな男の子と、背の高い子に頭の良さそうな子は同じクラスにはならなかった。
でも、前のクラスの子はたくさんいて、相変わらずトーナーと陰口を言われながら
生活した。少し違うのは隣の子が話しかけてくれることだ。私の噂を聞いても話しかけてくれるのが嬉しかった。
2人組みを組む時もいつも一緒だった。
するとなぜかお腹が痛くなることが少し減った。
おならも我慢してトイレに駆け込めるようになった。
友達とは違うと思う。
でも少し気が楽だった。
時々トイレの上からホースで水をかけられてドレスがびしょ濡れになり、帰ることもあった。
それでもなんとかクラスにいられる、それだけだった。
私はなんとか学校を卒業し、隣国に花嫁修業という名目の留学をした。
国内で貰い手がないので、隣国で探そうという親の考えからだった。
学校の経験から人の顔色を伺い、話すこともなくただ座って本を読んでいる令嬢、ここでもまたひとりだった。
ここには私を知っている人はいない。新しい自分に生まれ変わりたい気持ちはすごくある。
でも人が怖い。信じられない。
話しかけてもまたあの鬼ごっこの時のようにいつの間にか仲間ハズレにされてしまうのでは、と頭によぎると表面上の挨拶や会話しかできない。
信じられる人が欲しい。
そんな時、図書館の司書さんがいろんな本の説明や世界のことを話してくれた。
司書さんはナイルズ様といい、真面目そうなアイスブルーの瞳の男性だった。高い位置の本を取ろうとした時に声をかけてくれて、話すようになった。
この人は馬鹿にしない。
人を見下すような言い方をしない。
聞き取りやすいように確認しながら話してくれる。
それだけで神様のように尊敬できる人物だった。
いろんな話をするうちに、私が緊張してお腹が痛くなることがあるというと、ナイルズ様が隣国のお医者を紹介してくださることになった。
お医者様は女性の方で、2人きりでおはなしできた。
私はこれまでのことを話すと、先生は
「それは緊張性の腹痛です。ストレスがたまっていたところに極度な緊張でお腹を下す人は多いんです。
だいたい社会にでて、まわりからの圧力でなる人がほとんどですね。おならもね、緊張してたらお腹緩くなって出やすくなるんですよ。
これは精神的な病気なんです。
お薬もでますから安心してくださいね。」
ニッコリ笑ってくれた。
「そうなんですか?わたし自分の体質だとばかり思っていました。私のいた国の医者にはなんどか診て頂きましたが、どこも悪いところがないと言われました。」
私は病気だったのか。
「普通のお医者様にはこの症状をわからない方もいらっしゃいます。わたしは精神科医なんです。
心とからだの繋がりを勉強しています。
まだまだ未知の領域ですが。
ですからいろんな事をお話しましょう。」
先生がお薬を処方してくださったおかげで外出する度に襲われたお腹の下しも、少しの腹痛だけで抑えられるようになっていた。
学校に行く度にお腹が痛くなったり死にたくなるほど辛いのは、適応障害という精神の病気らしい。
良かった、私の気が弱いせいではなかった。
本当に救われた気持ちだ。
先生を紹介して下さったナイルズ様にお礼を申し上げなければ、そう心に誓った。
数日後、ナイルズ様ににお会いできることになった。
ナイルズ様はいつもどおり、優しく話をしてくれた。
「ナイルズ様、先日は精神科の先生を紹介して頂きありがとうございました。
おかげさまで私の長年の悩みが病気であったことがわかりました。」
深々と頭を下げた。
「顔をあげて。あなたの悩みが解消されたようで良かった。」
ナイルズ様は柔らかく微笑んでくださった。
「私はあなたに話さなければならないことがある。
あなたは私の顔に見覚えはないだろうか?」
そう問われ、ジッと顔をみつめるがわからない。
もともと人の顔を見る習慣がない上、イジメが原因で
顔が覚えていられないのだ。
「申し訳ありません。私は人の顔を覚えるのが苦手なのです。」
たぶんはっきりわかるのは家族の顔だけ。
そうか、と息をついてからナイルズ様は話し始めた。
「私はあなたと同じクラスにいた。
あなたとほとんど話したことはないが。」
同じクラスに?では全て知ってるの?
チラッと顔をみたが、やはり見知った顔か、わからない。
徐々にお腹が痛くなってきた。また緊張し始めているんだ。ナイルズ様は大丈夫だったのに。
「落ち着いて、大丈夫。君を害したりしない。
君は悪くないんだ。大丈夫。」
そういってトイレへ案内してくれた。
落ち着いたのでまた部屋に戻り、ナイルズ様のお話を聞くことにした。
「元はと言えば、6歳頃にたくさんの子供たちが集められ、鬼ごっこをしたのは覚えている?
あの時も私もいた。当時やんちゃだった私はたくさんの子たちと遊べることが嬉しくて、周りをみることができなかったんだ。
だから、君が鬼になってただオロオロしているのをみて何も考えることなく、君を鬼から外して続きをしたいと…
本当に申し訳ない。私の言動でまさかきみがずっと仲間ハズレにされるとは思わなかったんだ。」
そう言って、頭を下げた。
あの日たしかに誰かが、鬼から外せと言っていた。
ナイルズ様だったのか。
なんといえばいいのか、かえって頭を下げられることがいたたまれない。
「ナイルズ様お気になさらないでください。
私はあの時たしかに足が遅く、上手く遊べませんでした。ナイルズ様は間違ったことはおっしゃっていません。ただわたしが場違いだったのです。」
そう言って笑ってみた。
ナイルズ様は驚いた顔で恨んでないのか?と問うた。
「誰を恨みましょう?運動の不出来な自分を恨みこそすれ。すべて私が悪いのです。」
ナイルズ様はそうかといい、目を伏せた。
「私は君がどこかへ行き鬼ごっこが再開されて楽しんでいた。だか、たまたま近くにいた女のコたちが話してるのを聞いてしまったんだ。
その子たちは君のことを話していた。
君はあの時大きさの合わない古いドレスを着ていたね。そしてあの中で一番位の低い男爵令嬢。
だから彼女たちはあなたには指一本触らせないと言っていたんだ。
私は驚いた。女のコたちはみんなで君を仲間ハズレにしたんだ。
私は知らずに女のコたちの企みに加担していた。
その日の帰りに私だけ呼び出され、私の親とあなたのお父上にあなたをそっと見守ってほしいと言われた。
娘は人見知りで人と話すことが苦手だから、娘をよろしく頼むと。
私はあなたを守らなければと思った。わたしのせいだからなんとかしなければいけないと。
だがあなたは次の日から着いてすぐいなくなった。
機会を窺っていたが、そのうちに何年も経っていた。
学校に通うことになり、私はあなたと同じクラスになった。そしてまた鬼ごっこ。
私はずっとあなたを見ていた。
あなたががんばって鬼ごっこを克服しようとしていたから、様子をみていた。だがまた令嬢達は同じことを言った。あの子のドレス、古臭いだの、ガリガリだとか、男爵はこれだからと。
だから私はあなたには無理だとみんなに言って、辛そうなあなたを助けたかった。
わたしが鬼を交代してもすぐにまた鬼になってしまう。どうしたらいいかわからなかった。
すまない。頼まれていたのに、何もできず、ただみていただけだ。
毎日あなたはがんばって来ていた。
だけど令嬢達は受け入れなかった。
私はクラスの中心だったシュナイプ嬢にあなたを仲間にいれてくれと言ってみたが、本人にやる気がない、
仲間にいれてくれ、という気持ちが感じられない、あなたがその、あまり美しくないから側にいたくないと言われた。
私はそうは思わない。
あなたはがんばって話しかけていた。
仲間に入ろうと動いていた。
ただあなたが他の令嬢のような装いがないだけで
なぜ避けるのかと聞いたが全く話しが通じなかった。
あなたが体調を崩し、クラスがザワついた時も
私はみんなに誰もがあることだ、窓やドアを開ければいい、誰かを責める必要はない、あなた達もトイレにいってすることは同じだろう?そう言った。
だが誰かが、私があなたのことを好きだから庇うのかと言われ、私も女子からは避けられるようになってしまった。
結局1年あなたは頑張り、私は何もできずに過ごしてしまった。すまなかった。」
知らなかった。私のために1年、それ以上見守ってくれている人がいたなんて。
恥ずかしい…仲間ハズレにされたこともおならのことも全て知られている。どんな顔をすればいいのか?
チラッと顔を見ると、項垂れて申し訳ないという雰囲気だ。
この人は私を蔑まない。
最初からそうだった。
普通に接してくれる。
きっと頼まれたことを全うできず、責任を感じてしまったんだろう。本当に真面目な人だ。
「あの私はあまり気にしていません。
あのクラスの方たちには申し訳なく思っています。
私などが、同じクラスになってしまったために臭い思いをして、嫌いな人を1年も一緒に勉強しなければならなかった方たちにお詫びしたいくらいです。
あのままずっといなければならないとなったら、私も耐えられませんでしたがなんとかなりましたし、だからかえって私をずっと気遣ってくださったナイルズさまが気になさる事はございません。
それよりも長い間御心を煩わせてしまい申し訳ありませんでした。」
深々と頭を下げた。
少ししても反応がないので、頭を少し上げてナイルズ様を窺うと彼は驚いた顔をしていた。
姿勢を正してナイルズ様をみていたら彼はフッと
笑った。
「あなたは強い人だ。世の中には恥を欠かされたと命を断つ令嬢もいる中で、私はあなたのその強さが眩い。良い意味であなたはすごい人だ。
私はあの1年で人と付き合うことが嫌になり、女性に対して幻滅してしまった。
伯爵家の三男だからいつかは働かなければならなかったから、これ幸いと親戚の伝手を辿ってこの隣国にやってきた。
あなたが本が好きなことは知っていたが、広い世界でまたあなたに会えるとは。これは運命だ。きっと神様の申し合わせに違いない。」
彼の顔は赤く体がいつの間にか前のめりになっている。なんで彼はいきなり興奮してるのかしら?
今までの流れに興奮するような話しはなかった気がするけど。
少し首を傾げてしまったけど、褒めて下さったのよね?
「ありがとうございます。ですが、私は時が過ぎるのをまっていただけで、何もしてません。
命を断つのも何度も考えましたが、私にはできませんでした。
今はお薬も頂けるし、好きな本をたくさん読めて
とても幸せです。
すべてナイルズ様のおかげです。
本当にありがとうございます。」
にっこり笑ってみたけど、笑えてるかな?
「あなたが望む事を叶えたい。何かないだろうか?」
そう言われても欲しいものもないし、やりたいこともない。ただ平穏に心穏やかに過ごしたいだけ。
そう伝えると
「私は図書館であなたにまた出会いあなたと話すたびに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
今はあなたの側にいてずっとこうしていたい。
私と結婚を前提にお付き合いして頂けないだろうか?」
?
おつきあい?結婚を前提に…
?
頭が追いつかない…
私とナイルズ様がおつきあい?
「!?わたしとですか?」
ナイルズ様が頷いた。
「私は少し良くなったとはいえ、人様にはいえぬ体調で、しかも人の顔がわかりません。わからないというか覚えておけないというか、何の取り柄もありませんし、美しくもありません。こんな女を娶るなど。」
おもわず一気に喋ってしまった。
「私は長年あなたをみてきてあなたがどんな人かわかっているつもりだ。たぶんあなたより。
何をするのも真面目に取り組み、困っているひとがいたら助け、間違っていれば間違っているという、そんなあなたが取り柄がないと?
たしかに人付き合いは下手かもしれない。
それは必要なことだろうか?
体調のことも私は気にならない。
人が生きるためにすることに区別はないと思う。
みんなトイレにいくし、ゲップもするし、ゲロも吐く。人前だからというが、実際みんなしている。自分の時はバレていないとおもっているだけだ。
だからあなたが気にするなど必要ない。」
ジッとみつめられながらそんな説得するように言われても…
友達すらいないのにいきなり恋愛とかハードルが高すぎる…
無理、わからない。
でも彼はわたしが良いと言ってくれてるし、私もナイルズ様には好印象しかなくて、でも好きとかわからないし、こんな真面目に申し込んでくださっているのに、ちゃんとお返事しなくては…
「私には好き、とかそういった感情がわかりません。
今まで考えたこともなくて。
ですのですぐにお付き合いは考えられません。
あのお友達からでもよろしいでしょうか?」
ありがとう、よろしく頼む、と嬉しそうに笑った。
ナイルズ様は何度もデートに誘ってくださり、街や湖など行ったことのない場所へ連れ出してくれた。
人が多い所は苦手なのだけれど、ナイルズ様が一緒だと思えば大丈夫だった。
差し伸べられた手を握り、いろんな物を見て歩く。
素敵なお店に入っては美味しいものをご馳走になる。
「何か欲しいものは出来た?」と聞かれるけど、
ドレスもアクセサリーも宝石もわたしがつけて似合うとは思えないから、欲しいという気持ちがない。
だから首を横にふった。
可愛げがないですか?
なんかおねだりしたほうが良いのでしょうか?
「悩まなくていいんだ。あなたにプレゼントしたい気持ちはあるけど、今は興味がないこともわかるから。
あなたの気持ちが何か反応した時に教えて。」
私が欲しいのはこのままの優しい時間。
あなたと2人で知らなかったいろんな世界がみたい。
楽しくて、ドキドキして、ビックリして、時々不安になっても優しい笑顔をみれば忘れてしまう。
ずっと一緒にいたい。
甘やかされてるから?
今はいいけど、このままずっとは続かない。
いつか波風が立つ。
そうしたらこの時間は終わってしまう。
どうかこのままで。
今日は街の入口にある時計台で待ちあわせ。
ナイルズ様はきてるかしら?
時計台の下には可愛らしい女性と話すナイルズ様の姿。
少し話すと女性は礼をして去っていった。
ナイルズ様に近づくと遅くなってすみません、と声をかけた。
「今の方はどうかなされましたか?」
お知り合いにはみえなかった。
「道を聞かれて教えてたんだ。この後お礼にお茶でもといわれたがお断りしたよ。これからデートだからね。」
「そ、うですか。」
平民とはいえ、女性から声をかけるなんて普通ないよね?
ナイルズ様を誘っていたのかな。
そうだよね。
ナイルズ様カッコいいもんね。
私が俯いていたからナイルズ様が顔を覗き込んできた。
「どうかしましたか?何かありましたか?」
顔近すぎて、恥ずかしい。
何もありません、となんとか言うが彼は覗き込んだままみつめている。なにか言わなくては。
とにかく離れて。
「あの、さっきの女性みたいにいろんな方がナイルズ様をお誘いして、いつかは一緒に居られなくなるではと。」
わぁ絶対真っ赤になってる。なんでそのままいっちゃうの、私!ちょっと話した相手に勝手にヤキモチやいて、恥ずかしい。
穴があったらはいりたいよ!
ナイルズ様の様子を見たら顔が変なことになってた。
笑ってるような恥かしいような、なんか顔がピクピクしてるような?
「ごめんなんかちょっと我慢できなくて、変な顔してる?」
してると言っていいのか。
ナイルズ様の様子が凄すぎて私の方は落ち着いたけど。
「シャロンて呼んでいい?
シャロンはさっきの子に嫉妬してくれたんだろ?
嫉妬ということは私を好きになってくれたんだと思ったら、顔がニヤついて、普通に顔を戻そうとしてるんだけど、どうにもならないんだ。」
もう戻すことを諦めたナイルズ様はすごく嬉しそうだ。
私が嫉妬したことをこんなに喜んでくれるなんて思わなかった。
こんなに嬉しそうに私を見てるナイルズ様は本当に私が好きなんだと納得してしまった。
こころのどこかでまだ責任感や一時の気の迷いかもとか、信じられてなかったような気がする。
「ナイルズ様私、」
「ルパートと呼んで。」
「ルパート様。 どうかずっとお側に置いてください。」
「もちろん。結婚しよう。
お互いに好きなんだ。結婚しない理由がないよね。」
早速お世話になっている伯母の家に行き、挨拶をして両親に連絡をとってもらうことになった。
その間に彼のご両親にも連絡をとり、1度国に戻って挨拶することになった。
父親が交流があったので、はやくに打ち合わせができた。
もともと、お互い兄弟姉妹がいるので問題なく結婚して隣国で暮らす許可がでた。
こちらで小さな結婚式をあげ、あっというまに隣国へ戻る日がやってきた。
「なんだか慌ただしい結婚式になってしまったね?
シャロンはよかったの?何か心残りはない?」
「何もありません。内輪でみんなに祝って頂いてとても幸せです。ドレスやアクセサリーなどの知識もありませんし。旦那様がルパート様だということが最高に幸せです。」
「これから隣国に戻るけど、実家のような暮らしはできない。それでもいいかい。」
「はい。2人で食べていかれれば十分です。時々散歩をして笑いましょう。広い家もきらびやかな物も贅沢も必要ありません。
お互いを労りあって暮らしていけたらそれが1番です。」
2人は隣国にもどり、図書館で働きながら
穏やかな日々を過ごしました。
終
シャロンにはとにかく幸せになって欲しいとおもいましたが、シャロンもナイルズ氏も豪奢を好みません。
傷ついた2人だから心の幸せを求めてしまうんじゃないかと。
2人のラブラブをたくさん書きたかったのですが、今は書けないようです。また書き足すかもしれません。