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60年のループ  作者: 美祢林太郎
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2-1 50年前の再会

第二章 50年前の再会

2-1 50年前の再会


  店長はみんなに新しいバイトの女の子を紹介した。昼食の時にその女の子が私に近づいて話しかけてきた。

 「ねえ、きみ、ジロちゃんじゃないの? たしか、本名はムラタジロウだよね。懐かしい」

 「えっ、そうだけど。前にどこかで会ったっけ」

 「会いました。忘れちゃったの」

 「えっ、どこで会ったの。名前は?」

 「思い出してくれるまで、教えてあげない」

 「ヒントをください。同じ大学なの?」

 「ジロちゃんはどこの大学なの?」

 ジロちゃんと親しく呼ばれて、照れ臭かったが悪い気はしなかった。これまでぼくはジロちゃんと呼ばれた記憶がない。ムラタかジロウのどちらかだ。

 「大学の同級生じゃないんだ」

 「同級生って、同じ歳だと思ったの?」

 「えっ、違うの。年上、それとも年下?」

 女性と話し慣れていないことが、この言葉からもわかるだろう。私は頭に浮かんだ言葉がフィルターをかけずに口から出てしまった。

 「女性にそんなこと聞く? 失礼ね」

 「えっ、それもなしなの。きみの方から声をかけてきたんだよ」

 「それじゃ、教えてあげるわ。同じ年です。同級生だったんだから」

 「だっただから過去形ね。それなら高校の時の?」

 「ちょっと待って。そもそもジロちゃんがどこの大学に通っているか知らないんですけど」

 「ぼくは令和大学」

 「えっ、驚き。私も同じよ。何学部?」

 「商学部。きみは?」

 「農学部」

 「えっ、渋いね。家は農家なの?」

 「あっ、古い。それじゃ商学部に入ったジロちゃんの家は、商売をしているの?」

 「いや、ただのサラリーマンだけど」

 「そうでしょう。私は開発途上国の災害復興に興味があったから、農学部に入学したんだ」

 「それは志高いね。将来はアフリカで働くの」

 「うん、希望だけどね。ところで、ジロちゃんは私のこと、きみ、きみと呼んでいるけど、まだ私のことを思い出さないの?」

 「ごめん。大学の知り合いじゃないんだよね。当然サークル関係でもないし。今日、偶然に会ったんだよね。さっき同級生だって言ってたよね。高校の同級生だったの? 高校の同級生だっていっても、3年間同じクラスになったことはないよね。いくら記憶力の悪いぼくでも同じクラスになった子はだいたい覚えているよ。名前は怪しいけれど、顔くらいはね。一学年に9クラスもあったから、同じ学年の子を全部覚えてはいないけどね。でも、きみのようなかわいい子だったら覚えているはずだけどね」

ジロウの口からぽろっとかわいいという言葉が漏れてしまうほど彼女はかわいかった。ジロウは珍しく興奮していた。

「あっ、かわいいだなんて、褒めてくれてありがとう。いままでジロちゃんにそんなこと言ってもらったことないよ。でも、残念でした。高校時代じゃありません」

「それなら中学校?」

「それもはずれです」

「じゃあ、小学校しかないじゃない」

「ピンポン。小学校の同級生です」

「だけど、ぼくは小学校の5年生になる時に転校したから、二つの小学校に通ったんだ。どっち?」

「小学校4年生までの学校よ」

「えっ、そうなの。もう10年前の話だよ。ぼくの顔がわかったの?」

「すぐにわかったわよ。そんなに変わっていないじゃない。でも、ずいぶん背が高くなっていたから、少し驚いたけどね」

「いくらなんでも小学生の頃からは成長しているでしょう。まあ、小学生の頃はクラスで一番小さかったものね。中学の2年生頃から急に背が伸びたんだ」

「よかったね。それで私のことは思い出した?」

「ごめん。まだ思い出せないよ」

「正直だな。それで小学校の校名はわかるの?」

「覚えていないよ」

「稲川小学校」

「イナガワ小学校っていうんだ」

「田舎の小さな学校で、一学年一クラスしかなくって、私たちの学年は14人だったのよ」

「へえ、14人しかいなかったんだ。それならきみのこと覚えていてもよさそうなのにね」

「そうよ。失礼しちゃうわね。それに私たち生まれた時からの幼馴染なのよ。家が隣同士だったんだから」

「えっ、そうなの。家が隣同士で、生まれた時からの幼馴染?」

「同じ日に生まれたんだから。同じ産婆さんだったのよ。村に一人の産婆さんしかいなかったら、産婆さんもその日は大変だったそうよ」

「同級生が14人しかいないのに、ぼくたちは同じ日に生まれたの。すごい因縁じゃないの」

「そうよ双子みたいなものなんだから。それなのに、がっかりよね。私のことをすっかり忘れているんだもの」

「ごめん。ごめん。この10年間、小学校の頃のことは何も考えてこなかったから」

「そうなんだ。よっぽど転校していった新しい小学校が楽しかったんだね」

「いや、そんなわけじゃないけど。子供だって新しい学校に適応するために、いろいろと大変だったんだよ」

「まあ、いいわ。それで私のことは思い出せそう?」

「待ってね。そんなに急がないでね。隣に住んでいたんでしょ。幼馴染なんだ。双子みたい?」

「ずっと一緒に育って、幼稚園の頃は、私ジロちゃんのお嫁さんになるって決めていたんだから。私のお父さんもお母さんも、ジロちゃんのご両親も公認だったんだから」

「ごほ、ごほ。えっ、それでぼくはどうだったの」

「私のこと、きっと好きだったはずよ。二人だけで遊んでいたんだから。仲が良かったのよ。ジロちゃんがガキ大将にいじめられたら、私が助けてあげてたんだから。私お転婆で、子供の頃は体も大きかったから。中学生になってあまり背が伸びなかったから、いまはチビちゃんになったけどね。ジロちゃんよりも背が低くなったからわからないのかな?」

「いや、そんなこともないと思うけど。そろそろお名前を教えていただけないでしょうか?」

「甘いですね。もう少し努力してもよろしいんじゃないですか」

「そんな殺生な」

「それじゃ、バイトが終わったら飲みにいかない。もちろんジロちゃんのおごりでね」

「うん、仕方がないね。子供の頃にガキ大将から助けてもらったお礼だ」

「じゃ、あとでね」


                 つづく

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