1-7 元気ですか?
1-7 元気ですか?
「この一ヶ月でずいぶんと元気になったようですね」
「おかげさまで。50年前の一週間が蘇ってきたわ。記憶が蘇ってくると、体調も回復してきたわ。ジロちゃん、時々ドタキャンして来なかったけど、どこか体調でも悪かったの?」
「そんなことはないよ。突然用事が入るんで来れなくなるんだ。ごめんなさい」
「まあ、娑婆にいると何かと用事があるでしょうからね。ところで、稲川小学校の同窓会のことなんだけど」
「えっ、稲川小学校の同窓会? それは50年前の話で、我々が行くことができなかった話だよね。それがどうかしたの?」
「50年前に同窓会が終わったことは、教えてもらってわかっているわよ。今回は、それとは違う話」
「50年前とは違うって、何?」
「今年の同窓会よ」
「えっ、稲川小学校の同窓会が今年もあるの?」
「そう、その招待状が来たのよ。まるで私が目覚めるのを待っていたようにね。それとも、私が目覚めた記念かしら」
「出席するの?」
「当たり前でしょ。タイミングが良いじゃない。眠りにつく前の話が続いているのよ。ジロちゃんも出席するでしょう?」
「でも、コナミちゃんの体力は戻っていないじゃないの。まさかぼくに車椅子をひかせようというんじゃないだろうね」
「あなたなんかに頼るわけないでしょ。同窓会までまだ3ヶ月あるのよ。3ヶ月もあれば体力を戻せるわよ。私はアスリートよ」
「いや、それは50年前の話だから。気力がすごいのは十分にわかったけれど、もう70歳なんだから。自分の顔、鏡で見た?」
「失礼しちゃうわね。毎日、鏡で見てるわよ。これでも化粧をしているんだから。
50年の眠りからさめて初めて自分の顔を鏡で見たときは、さすがにショックだったわ。他人に見えたもの。自分とは思わなかったわ。でも、受け入れるしかないのよね。
私は70歳、でもそれがどうしたの。体力は自然に戻るんじゃなくて、気力で戻すのよ」
「すごい迫力だね。わかった。とにかくリハビリを頑張ることだね。歩けるようになってから同窓会に行こう。別に今年だけじゃないんでしょ。来年も同窓会をやるんでしょ」
「それが今年が最後の同窓会だって書いてあるのよ」
「なんで、そんなことになるんだよ。少なくとも、最後なんて書く必要はないだろう」
「最後って書くからには、何か意味があるんじゃない。幹事のアキラが癌で余命いくばくもないとか」
「縁起でもないことを言うんじゃないよ」
「ごめん、ごめん。でも、そんなにむきにならなくてもいいんじゃない」
「あっ、むきになってた。ごめん。でも、幹事が変わって他の誰かが幹事をやれば同窓会は続くんじゃないの? 終わるにしても、最後って通告しなくても、フェイドアウトすればいいんだからさ。それとも、最後って書くことでできるだけたくさんの参加者を集める作戦かな?」
「そうかも知れないわね。まあ、よくわからないから、ここでとやかく言っても仕方ないわね。とにかく、わたしたちも出席しましょう。まさか、ジロちゃん出席しないつもりじゃないでしょうね。50年前は出席することになっていたんじゃないの? あなたから教えてもらった話では、参加することになっていましたけど」
「でも、やっぱりぼくのことを誰も知らないんだよ。招待状もこないし」
「当たり前でしょ。50年前でも知られていなかったのに、50年経ったらよけいに忘れられているのが普通でしょ。ジロちゃん、この50年の間に何か努力したの? 稲川に帰ったの? 一度でも幼馴染と連絡をとったの? 何もしてないんでしょう?」
「わかりました。出席します。今度こそ、出席しますから、また交通事故に遭ったりしないでください」
「しばらくは大丈夫よ。外に出られないんだもの。車が7階の窓から飛び込んできもしない限りはね」
「では、リハビリ頑張ってね」
「うん、私の凄さ見せてあげる。力こぶができるまで鍛えるから」
「だから、70歳なんだって」
「だから70歳がなんだっていうのよ。みんな50年を過ごしたのでしょうけど、わたしは50年を過ごしていないんだから。まだ20歳よ。いまから50年分を楽しむのよ」
「うん、そのためにもまずは体力だね。骨は大丈夫なの?」
「右足が切断されてなくなっているんだ」
「えっ」
「冗談、冗談。パーツは全部そろっているから。骨と筋肉を鍛えていけば、なんとかなるわよ」
「すごい前向き」
つづく