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60年のループ  作者: 美祢林太郎
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1-6 元気ですか?

1-6 元気ですか?


 コナミにメールを打った。

「あなたと私は確かに幼馴染です」

 「いつ頃の幼馴染でしょうか?」

 「生まれて小学校4年生までです」

 「それがどうして大学生になってから会ったのですか?」

 「偶然でしょう。バイト先のスーパーマーケットで再会したのです」

 「私たちは恋人同士だったのですか?」

 「いいえ、残念ながらそうではありません」

 「手帳では、一週間毎日会っていたようですが、恋人ではない人にどうして毎日会っていたのでしょう?」

 「それは、あなたが私の子供の頃の記憶を教えてくれていたからです」

 「そんなことをしていたのですか。どんな記憶でしょう?」

 「とても楽しかった思い出です。よろしかったら、お会いすることはできるのでしょうか? お会いしてお話ししたいと思います」

 「いまはリハビリの施設に入っています。まだ、歩行もままなりません。外でお会いすることはできないのです」

 「私がそこに行きましょう。その施設でお会いできますか?」

 「それは大丈夫です。リハビリの一環として、外の人と話すことを勧められているくらいですから」

 「では、明日そちらにうかがってよろしいですか?」

 「はい。お待ちしています。50年経っていますから、驚かないでくださいね」

 「それはお互いさまです」

 50年前とは記憶の伝承者が攻守逆転している。私は彼女に何を話してあげればいいのだろう。記憶のリハビリ、まさにそれは50年前に彼女から受けたトレーニングだった。彼女との50年前にした一週間の話を、彼女にすべて話して聞かせてあげよう。それは私にとっても楽しい思い出なのだから。でも、脳にまで転移した癌のせいで、私はどれだけ50年前のことを思い出せるのだろうか。50年間の時間の流れの中で忘れてしまったことと、癌のために忘れたことの区別が判然としない。しかし、急がなければならないことだけは確かなようだ。

 施設の部屋でベッドに横たわる彼女と目が合うと、彼女は「よっ、元気?」とほほ笑んだ。50年ぶりに会う彼女はみかけこそ変わっていたが、その口調は昔のままの朗らかさを保っていた。

 「私のことを思い出したんですか?」

 「いえ、すみません。あなたの顔を見ると、自然とこの言葉が出てしまったんです」

 「昔と変わりありませんよ。あなたはそう挨拶していました。屈託のなさは50年前と全然変わりがありません」

 「そうですか。よかった。私には50年という時間は存在しないのですが、世の中は勝手に50年も時間が経ってしまったようです。あなたとは本当に久しぶりです。そうですよね?」

 「はい。あなたが50年前に交通事故に遭われたことは知りませんでした。お見舞いにこれなくて、すみませんでした」

 「謝らなくてもいいんですよ。いまこうして会いに来ていただけたんだから。これから私のことを教えてくれるんでしょ?」

 「はい。でも、残念ながら、ぼくがあなたについて知っていることはほんのわずかです。あまり期待しないでください。ぼくが知っていることは、すべてお話ししたいと思います。この絵本を使ってね」

 私は自分の描いた絵本を読み聞かせ、そして説明を入れながら、コナミに我々の故郷である稲川のこと、幼馴染のヨッちゃん、スミコ、マコト、チズコたちのことを話して聞かせた。こうしたことはすべてコナミから50年前に教えてもらったことだった。


         つづく

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