2-9 50年前の再会
2-9 50年前の再会
「よっ、元気?」
「元気ですよ、ハマダコナミ様」
「わー、やっと私の名前を思い出してくれたんだ」
「立派でしょう」
「本当に、本当? 私の名前を思い出したの?」
「ごめん。本当はね、昨日図書館に行って新聞で探したんだ」
「ああ、そうか。安心した。いや、いや、新聞ね。小さく名前が載ってたもんね」
「この前に会った時に大会があったって聞いたから、以前の新聞ひっくり返して探したんだ。ハマダさんって呼んだらいいのかな」
「ジロちゃんにそんな風な呼び方されたことないわ。コナミでいいよ」
「呼び捨てにするのは気がひけるよ」
「何言ってんのよ。子供の頃はずっと呼び捨てにしてたじゃない」
「それにしても、コナミ、良い名前だね」
「改まって何よ。いままでどんな名前を想像していたの」
「全然頭に浮かばなかったよ。コナミ、コナミちゃんに、ぴったりの名前だ。うん、昔からコナミちゃんって呼んでいた気がする」
「ちゃんづけで、許してやるか。本当はさんとか、様とかの方がいいんだけど」
「じゃあ、コナミさんにする?」
「冗談よ。コナミちゃんの方がいいわ」
「それにしても日本選手権の準々決勝、残念だったんだね」
「実力差よ。優勝したオノガミさんには一度も勝ったことがないんだから、仕方のないことよ」
「彼女、前回のオリンピックの金メダリストだもんね」
「まだまだ実力に開きがあるのよ。こんな弱音を吐いてちゃあいけないんだけどね」
「彼女もそろそろ引退じゃないの」
「勝手に引退されたら、こちらも後味が悪いじゃない。私が引導を渡してあげないと」
「格闘家のファイティングスピリッツは凄いんだね。ぼくなんかにはついていけないよ」
「格闘家は弱気になったらおしまいなの。技術や体力云々じゃないわ」
「すさまじい闘争心だね。そのか弱い、いや小さいだけで、筋肉はもりもりか」
「ほら、この力こぶに触ってみなさいよ」
「おお」
「腹筋も見てみる。いまきれっきれっだから見ておいた方がいいわよ」
「いや、こんなところでは遠慮しておくよ」
「恥ずかしがることないのに。じゃあ、またね。その頃には緩んでいるかもしれないけど。そのことよりも、今日は、稲川小学校の同窓会について話したいの」
「同窓会、毎年やってるの?」
「さあ? 私のところへは初めて来たの」
「じゃあ、参加したことないの?」
「私も5年生の夏休みに転校したでしょう。卒業生じゃないから、これまで知らせはこなかったのよ」
「それいつ来たの。ぼくのところには来てないよ。転校して出て行ったきみにも知らせが来ているなら、ぼくに来たっていいんじゃないのかな」
「私、有名人だから。ジロちゃんとは違うかもしれないわね」
「うん、そうか。そうだね。コナミちゃんは新聞やテレビにも出ていたんだね。ずっと知らなかったよ」
「2・3回だけどね」
「この前はお笑いの○○にインタビューされたんだって」
「ああ、あいつ。あいついけ好かない奴だったな」
「どうしたの?」
「インタビュー終わったら、電話番号を交換しようってしつこいのよ。結局、監督の番号を教えておいたわ」
「えっ、そんなことしていいの? あとで監督に叱られるんじゃない?」
「間違いました、ですんじゃうわよ。監督面白がってくれると思うわ」
「それで同窓会だけど、いつあるの?」
「確か10月よ。日にちは覚えていないわ」
「それでコナミちゃんは出席するの?」
「ジロちゃんは、どうするの?」
「ぼくは招待状が来ていないから、行きたくても行けないよ」
「いじけたこと言わないの。ジロちゃんも一緒に行こう。転校して出て行った仲間同士でしょ」
「だけど、ぼくが行っていいのかな」
「大丈夫よ。一人でも多くの参加者がいた方が盛り上がっていいんじゃないの」
「うん、そうだろうけど。でも、みんなの顔や名前を覚えていないから」
「大丈夫よ。この一週間でもうだいぶ思い出したんじゃない。思い出してないか。でも、教えてあげたじゃない。もしわからなかったら相手の言うことに相槌打ってればいいんだから。まだ、同窓会までに2ヶ月も時間があるんだから、その日までにみんなの名前やエピソードを私が教えてあげるから心配ないよ。覚えもいいようだし」
「じゃあ、ぼくも出席してみようかな。ぼくも出席ということで連絡してくれる」
「いいわよ。二人とも10年ぶりになるのね。転校して出て行ったのは、ジロちゃんと半年しか違わないんだ。たった半年なのに、ジロちゃんは何も覚えていないんだ。忘れたなんて言うと、みんなショックに思うわよ。くれぐれも忘れたなんて言わないことね」
「ああ、うまく相槌を打っておくよ。若年性の認知症と思われるのも嫌だからね。でも、みんなもぼくのことを忘れているんじゃないだろうね」
「そんなことはないんじゃないかな。ジロちゃんはスポーツはからっきし駄目だったけど、勉強はできたから。それに絵日記コンクールの特賞はみんなの自慢だったんだから」
「そうかな。そうだといいんだけど」
「今回の幹事はアキラとノリコなんだって」
「アキラって、どういう人」
「アキラも覚えていないの。しかたがないわね。ガキ大将のアキラよ。いつも遊びの先頭はアキラだったじゃない。がっちりした体格で、声が大きかったじゃない。遊んでいる時だけどね。勉強の時はいたって静かだったわ。アキラは高校を中退してお父さんと一緒に働いているはずよ」
「何の仕事?」
「大工。アキラ器用だったから、いい大工になると思うわ」
「やっぱり、地元に残った悪ガキがリーダーシップを発揮して幹事をするんだ」
「小学校の頃は誰も想像していなかったわ。少しはアキラのこと思いだした?」
「いや、思いだせないな。では、ノリコはどんな人?」
「ノリコはおとなしかったわね。一人でよく本を読んでいたわ。図書室によくいたものね。高校を卒業して、今は村の役場に勤めているそうよ」
「地元に残っている人がいると助かるね。こうして同窓会を開けるんだもの」
「そうね。ありがたいことね。そう言えば、これで同級生全員が登場したはずなんだけど、覚えてる?」
「同級生はぼくたち2人を入れて全員で14人だよね。教えてもらった名前は、たぶん全員言えると思うな」
「本当? 次回は試験だよ」
「えっ、勘弁してよ。でも、帰って復習してみるよ」
「思い出はもっともっとありますからね」
「わかりました。これからもよろしくお願いします。多分、これまでにコナミちゃんに教わったことは全部覚えていると思うよ。それこそ白紙のノートに、思い出の絵日記を描いているようにね」
「私が嘘を教えていたらどうなるの」
「そんなはずはないでしょう。でも、教わったことが全部嘘だって構わないよ。なかなか楽しい話なんだもの」
「同窓会まであと2ヶ月か・・・」
「明日、同窓会の日にちを教えてね。忘れないようにきちんと手帳にメモしておかないと」
「それから、ジロちゃんの空白の脳にもっと思い出を書き込まないとね」
「お願いします。まだ、故郷と幼馴染のことたくさん知りたいから」
「まだ2ヶ月あるから、私の知っていることをすべて教えてあげることができるわ」
「では、また明日。今日と同じ時間でいいよね」
「うん」
つづく