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60年のループ  作者: 美祢林太郎
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2-8 50年前の再会

2-8 50年前の再会


 「よっ、元気?」

 「さっき、バイトで会ったばかりじゃない」

 「まあ、まあ。今日は私からの質問ね。運動会の大玉転がしで、大玉の下敷きになったのは誰だか覚えてますか?」

 「残念ながら覚えていません」

 「それはヒデキです」 

 「柿の木から落ちたのは誰ですか?」

 「わかりません」

 「それはトシオです」

 「町の合唱コンクールで独唱したのは誰ですか?」

 「それは歌のうまいスーちゃんしかいないんじゃないの? 昨日の話くらいは覚えているよ」

 「残念でした。それはスーちゃんじゃなくて、キヨコです」

 「キヨコって、新しい子だね。それはどういう子なの?」

 「キヨコは歌が上手で、アイドルになりたかったんだ」

 「まあ、子供の頃はどこにでもアイドルになりたいって子がいたよね」

 「そうよね。多くの女の子が抱く夢だったわね」

 「それで、今はどうしてるの? まさかアイドルになったわけじゃないでしょう」

 「彼女はもう一児の母よ」

 「えっ、子供がいるの?」

 「そう、いわゆるヤンママよ」

 「結婚したんだ。誰と? 同級生?」

 「いや、高校の先生とだって」

 「へえ、凄いね。それで、その先生いくつなの?」

 「30歳って言ってたかな」

 「10歳も離れてるんだ。子供は男の子、女の子?」

 「それが、男と女の双子らしいわ」

 「ふうん。同級生が結婚して子供がいるなんて、なんか不思議な感じだね」

 「幸せいっぱいらしいわ。彼女、早くお嫁さんになりたいって、小学生の頃からよく言っていたから」

 「男の子で結婚した人はいないんでしょ?」

 「それはいないはずよ。それともジロちゃんが第一号になる? 私と」

 「ごほ、ごほ。からかわないでいただけますか」

 「まあ、もう少し待ってあげますか。私もレスリングがあるし・・・。ジロちゃんは別に彼女いないわよね」

 「はい、いません」

 「そんなにふてくされて言わなくてもいいんじゃない」

 「きみはどうなんですか?」

 「いないわよ。ジロちゃん一筋なんだから。なんちゃって」

 「どこまで本当なのやら」

 「私の子供の頃の夢はなんだか言ったっけ?」

 「いえ、まだ聞いていませんが。オリンピックの金メダリストになることでしょうか?」

 「いえ、いえ。ジロちゃんのお嫁さんになることだったのよ」

 「はい、はい。そろそろ記憶回復トレーニングに戻りませんか」

 「私のこと無視したな。では、次の質問。3年の夏に、町の病院に入院した子がいましたが、みんなで見舞いに行きました。さて、それは誰でしょう?」

 「わかりません」

 「考えていないでしょう。考えようともしていない。少しは努力してみたら」

 「だから、真っ白なんですよ。この真っ白な脳に今書き込む作業をしているんだから。あぶり出しでもなさそうなので、あぶり出しても何も浮かび上がってきそうもありません」

 「わかりました。入院したのはカズミです」

 「カズミって、女の子だったよね」

 「よく覚えているわね。そう、女の子です」

 「そのカズミって子、なんで入院したの。病気、それとも怪我? 交通事故かなんか?」

 「腎臓が悪いってことで一ヶ月町の大きな病院に入院したんだけど、2学期になったら何事もなかったように登校してきたわね。色は白くなっていたけどね。しばらく体育の授業は見学していたわ」

 「みんなで見舞いに行ったって言っていたよね。それじゃ、13人も病室に入ったら、他の患者さんからうるさいって怒られたんじゃないの」

 「大丈夫。休憩室があってそこで会ったんだから。カズミがとっても喜んでいた顔を今でも思い出すわ。お見舞いにお花と千羽鶴を持って行ったわ」

 「千羽鶴か。みんなで折ったんだ」

 「そうよ。みんなで折ったのよ。カラーのセロハンで小さな鶴を折ったわ。とってもきれいだったんだから。覚えてる?」

 「ごめん」

 「そう言えば、カズミからバナナをもらってみんなで食べたわ。当時バナナは貴重品だったから、とってもおいしかったのを覚えているわ。一人一本ずつだったんだから。バナナを1本丸ごと食べるなんてなかった時代よ」

 「そうだね。当時、バナナを食べるなんて年に一回あるかないかだったね。それはわかるよ」

 「カズミが疲れてはいけないって言うんで、見舞いは30分くらいだったかな。別れる時、カズミ悲しそうだってけど、それでも気丈にほほ笑んでたわ。私たちはその後、みんなで遊園地に行って遊んだのよ。ジェットコースターに乗って楽しかったわ。子供ね」

 「今、カズミはどうしてるの」

 「カズミは高校を卒業して看護学校に行ってるわ。看護婦になるんだって言ってたわ。入院をして看護婦になることに決めたんだって」

 「子供の頃の経験が将来の職業に結びついているんだ」

 「そうね。たった一ヶ月入院しただけなのにね。あとは何もなかったように、いたって健康に生活していたのよ。彼女、中学校の頃はバスケの選手として高校も推薦で入ったんじゃなかったかしら」

 「ほう」

 「背が高いわりに、すばしっこいらしいわ。実業団からも誘いがあったそうなの」

 「そんなに凄い選手だったの」

 「それを蹴って、看護婦の道よ。よっぽどなりたかったのね」

 「きっと、いい看護婦になるね」

 「そうね、きっとね」

 「では、次の質問に移ってもよろしいでしょうか?」

 「はい、どうぞ」

 「そろばんの得意だった子は誰でしょうか?」

 「そろばんか、懐かしい響きだね」

 「ジロちゃんも習っていたのよ。4年生からクラスの全員、公民館で習っていたんだから」

 「えっ、そうなんだ。その中で一番上手だった人だよね。きみかぼく?」

 「残念ながら、そんなことはありません。特にジロちゃんはぶきっちょでへたくそでしたね。私も偉そうには言えませんが」

 「そうなんだ。それでは誰なんですか。これまでに登場した人ですか?」

 「いいえ、まだです。初登場のゴロウです」

 「ゴロウのことを教えてください」

 「ゴロウは隣の町のパン屋さんに勤めているわ。子供の頃、ケーキ屋さんになるんだって言ってたけど、田舎じゃあケーキ屋さんがないじゃない。中学校を卒業して仕方なく隣町のパン屋さんに就職したそうなんだけど、そこのパン屋の人たちがみんな良い人らしいのよ。それにいろいろな種類のパンを作ることができて、楽しいんだって」

 「都会のパン屋さんみたいなんだ。田舎はアンパンとクリームパンの2種類しかなかったものね」

 「それにメロンパンもあったわ。でも、子供の頃はそれはそれで美味しかったけどね」

 「当時はパンを食べる習慣はそれほどなかったものね。学校の給食でコッペパンにマーガリンかイチゴジャムを塗って食べるくらいだったね。ぼくはたまに出るピーナツのジャムが好きだったな」

 「食べることになると覚えているんだ」

 「これは広島の学校でのことかな。場所は覚えていないけどね」

 「今でこそ朝は食パンを食べているけれど、当時朝にパン食の家があったら、それはハイカラな家だったわ」

 「うん、田舎の家には似合わなかったね。朝は卵かけごはんだよ」


             つづく

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