表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60年のループ  作者: 美祢林太郎
14/18

2-7 50年前の再会

2-7 50年前の再会


 「よっ、元気?」

 「元気です。元気ですよ」

 「それならよかった。バイトで疲れてるんじゃないかと思いまして」

 「では、ぼくから質問しますね。小学校の時、きみはクリスマスイブにオルガンを弾きましたか?」

 「それはチズコです。わたしがオルガンなんか弾けるわけありません。チズコの家にはオルガンがあって、毎週町までオルガンを習いに行っていたのよ」

 「クリスマスイブはどこでオルガンを弾いたの? 教会なんてしゃれたものは田舎にはないでしょう」

 「あるわけないじゃない。あったのは古びたお寺と山神社くらいよ。多分、ジロちゃんの記憶にあるクリスマスイブのオルガン演奏は、えっ、これも当てずっぽうだったの。なかなかやるわね。でも、本当にチズコがオルガンを弾いて、クラスのみんなで「きよしこの夜」を歌ったのよ。あれは3年生の時だったわね。みんなでモミの木にクリスマスツリーの飾りつけもしたわ」

 「サンタクロースは来たの?」

 「サンタクロースはチズコのお父さんが衣装を着て、みんなにプレゼントを配ってくれたのよ」

 「それで、チズコは今どうしてるの? 音大にでも行ったの?」

 「いや、短大に行って、将来幼稚園の先生になるんじゃなかったかな。やっぱり、稲川に帰ってきたいそうよ」

 「みんな、将来の目標がはっきりしているんだ。ぼくとは違うね。えらいな」

 「ジロちゃんもそのうち目標が見えてくるわよ」

 「では、気を取り直して次の問題です。小学校の時に溺れた子がいましたが、それは誰でしょうか? あくまで小学校の時だよ」

 「そんなこと覚えているの。どうせまたあてずっぽうでしょ。それとも自分が溺れたことがあるから、他に誰かいるかなって思ったんでしょ?」

 「わかる?」

 「わかるわよ。安易なんだから。でも、それが当たってるんだな」

 「えっ、当たってるの」

「小学校1年生の夏にエンコ淵で溺れたスズコがいました。小太りのスーちゃんです。すぐに助けられたんだけどね。助けられてから、スーちゃんがわんわん泣いてしばらく泣き止まなかったから、みんなの記憶に残っているのよ。スーちゃん、よっぽどビックリしたのね。スーちゃんはコロコロしていて可愛かったのに、男の子はみんなで子豚が川に流されたって、からかっていたわ」

「ぼくもからかっていたんですか?」

「からかっていたわよ。自分が溺れたことがあるのも棚に上げてね。彼女の前で鼻の頭を指で持ち上げて、ブーブーって言ってたわ」

「子供の頃のことだからもう許して欲しいね」

「彼女、歌がうまかったのおぼえていないかな? 無理か。見学旅行のバスの中で真っ先に歌っていたじゃない。十八番は美空ひばりだったわ」

「えっ、小学生が美空ひばりを歌ってたの。それはあまりに渋くない」

「彼女、歌がうまかったんだから。彼女の歌う美空ひばりにみんな聞きほれていたわ。いろいろなところの歌謡曲コンテストにも出ていたのよ。親が熱心だったのね。畠山みどりの歌も歌っていたわ。畠山みどり、知ってる?」

「あの袴をはいて気風のいい歌を歌っていた歌手でしょ」

「そうそう。こんなことは覚えているんだ」

「それでスーちゃんは、コンテストではどうだったの?」

「時々、優勝したって言ってトロフィーや優勝盾を学校に持ってきていたわよ」

「そんなにうまかったんだ」

「小さいのに、こぶしをきかせてね。歌の先生にも習ってたんじゃなかったっけ」

「あんな田舎に歌の先生っていたの?」

「交番のお巡りさんよ。歌と言っても民謡だけどね。あのお巡りさん、民謡の先生だったんだよ。彼女、民謡のコンクールにも出てたんじゃないかな」

「民謡と演歌か。よく知らないけど、歌の練習は同じようなものなのかな」

「発声法は同じじゃないの」

「それでいまどうしてるの? 歌手になったの?」

「東京まで出ていくのが怖いから、歌手になるのはやめたんだって。広島でバスガイドをしているそうよ。都会にあこがれていたけれど、広島くらいが丁度いいんだって言ってたわ。それにバスガイドになったら、乗客の前で歌を歌って大きな拍手をもらえるから、それで満足らしいわ。でも、広島の観光地を覚えるのがたいへんらしいけどね。よく地名を間違えるんだって。でも、あの愛嬌だからお客さんからは人気があるそうよ」

「それはよかったね。そう言えば、きみは歌を歌うの? フォークソングとか」

「ジロちゃんはギター弾けるの?」

「少しはね。高校の頃、少し練習したんだ」

「それじゃ、今度ジロちゃんのギターに合わせて歌おうか。なんでも弾けるの?」

「楽譜があれば一応ね。コードくらいだけど」

「作詞作曲はしないの?」

「そんな才能はないよ」

「じゃあ、またの機会にね」


              つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ