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動乱のロストガリア  作者: たんたんめん
第1章 ~動乱の始まり~
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7-3 エヴァン -真犯人-

その日の深夜、エヴァンはラムールの街の入り口にいた。

見回りの衛兵に見つかると面倒な時間帯だ。また、冬にさしかかる季節でこんな時間に外でじっとしていると風邪もひいてしまう。

そして何より自分の推理が間違ってくれていることを願いながら、正門に寄りかかり、待ち人が来るのを今か今かと待っていた。


そして、待ち人であるカールがやって来た。


「エヴァン。。。お前がこんなところにいるってことは、気づいちまったのか」

カールが乾いた笑いでエヴァンに話しかける。


「ラウル夫妻にもキャリーさんにも確かにミスリルの神像(ミスリル・アイドル)を盗むチャンスはあった。しかし、彼らには動機が全くと言っていいほどなかった。それに比べてカール、お前にはチャンスも動機もあるんだよ」

エヴァンは淡々と述べ、カールも淡々と答える。

「続けてくれ」


「2組目のキャリーさんが帰り、お前が相手していた上客も帰ればお前はロンスキーのおっちゃんが帰るまでお前にはいくらでもチャンスがある。そして動機。お前のラウル夫妻への質問の仕方は、お前にはアルティマ教への信仰心は特にないと感じるには十分だった。一方3年前に路頭に迷ったくらいだから金には執着があるはずだ。今はロンスキーのおっちゃんの弟子として人並みの生活をしているけどな」


「正解だよ、エヴァン」


「カール、お前はロンスキーのおっちゃんに恩があるって言ってなかったか?何で盗みなんてしたんだよ!?」


「俺はなぁ、元々貴族の生まれだったんだ。なのに3年前親父はつまらないミスをしてアーティス皇帝によって、一家取り潰しになったんだ。それが俺が路頭に迷った理由さ」

「じゃあなおさら!ロンスキーのおっちゃんには恩があるだろうが!」

二人は語気を荒げて議論する。


「そんなことは分かっている!俺もあの人の元、立派な銀細工師になろうと思ったよ。でもな、エヴァン。お前ニルヴァーナって知ってるか?」

「ニル…何だって?」

「ニルヴァーナ。宮殿育ちのお前は知らないかもしれないが、今大陸を騒がしている地下組織だ。奴らの目的はこの大陸を戦乱に包み、自分たちの国を建国することだ。俺は俺たち一家を潰したアーティス皇帝に恨みがある。ニルヴァーナに手を貸せば、あのふんぞり返っている皇帝に一泡吹かせることができる」


「なーにが自分たちの国の建国だ。やめろ。考え直すんだ、カール。俺も一緒にロンスキーのおっちゃんに謝ってやる。あの人ならきっと許してくれるさ」

エヴァンは手を差し出すが、その手をカールが受け止めることはなかった。

「すまない、エヴァン。お前のことは別に嫌いでも何でもない。行かせてくれ」

そう言い残し、立ち去ろうとする。


「そうか。。じゃあ俺も本気でお前を止めるぞ、カール!」

エヴァンが長剣を抜き、戦闘態勢に入ったため、カールもエヴァンと戦うことを渋々受け入れた。

「お前とはやり合いたくはなかったが、仕方ないなエヴァン!」


5ヤーン(≒10m)ほどの距離で、対峙する二人。

先に動いたのはエヴァンだった。

「行くぞ、カール!疾風魔法:風の刃(ウィンド・ブレード)!」

エヴァンの剣から一迅の風が放たれるが、カールはその風に真っ向から立ち向かい、銀の長剣で切裂きながらエヴァンに突撃してきた。自身の風の刃をが切り裂さかれることなど全く想定していなかったエヴァンはカールの突撃を受け止めるのが遅れ、後ろに吹っ飛ばされてしまった。

「ちっ…」と舌打ちしながら立ち上がろうとするエヴァンを、カールが見下す形で問いかける。


「エヴァン!お前は今風の刃がいとも簡単に斬り裂かれたことに疑問を抱いているな?」

「なんだ?教えてくれるってのかい?」

「まぁ冥途の土産に教えといてやるよ。銀には魔法の力をかき消す不思議な力があるんだ。だからお前の疾風魔法は俺には通じない!」

そう言いながらカールは再び突撃してくる。

「なるほどな。それでさっき俺の風の刃をあっさりと切り裂いたのか。でもな、、、」

突撃してくるカールに対して、ふわりと宙を舞うように攻撃を避けたエヴァンは後ろから斬り付ける。

カールは慌てて小手で応戦したが、守るのが遅れてしまい、もろに斬撃を受けた小手が破壊された。

「ちっ…」

「疾風魔法は相手に向かって風を放つだけじゃない。自分に使うことで、風のように素早く動くことだってできるんだぜ」

エヴァンが得意げに話していると、街の正門の柱のかげから物音がする。

「誰だ!」


二人が同時に振り向くと、そこにまさかの人物が現れた。


レーゼである。


「レーゼ!?なんでこんなところに!?」

「ごめん!やっぱり心配でちょっとついてきちゃったのよね…」


たまたまレーゼに近い方にいたカールがすぐさまレーゼに近づき、剣を喉に突き立て人質に取る。

「エヴァン!俺を行かせるんだ!じゃないとこの子がどうなってもいいのか?」

「エヴァン、、、またまたごめん」


「おいおい、今度はマジの人質かよ」

この前は演技で自分が人質に取り、今度は本当に人質に取られてしまった。

全く、自分たちはどうしてこうも人質に縁があるんだ…

と、そんなことを考えても仕方がない。

エヴァンは長剣を地面に捨て置いた。

「降参だ、カール。行けよ。その代わりレーゼには指一本触れるな」


「悪いな、エヴァン、レーゼ。俺もこんな真似はしたくなかったんだが、任務を達成できないと死が待っている」

カールはやむを得ないんだという表情で謝ると、レーゼから離れ街を出ていき、あっという間に闇夜に紛れ、そして消えていった。


---


「そうか。カールがなぁ。どおりで今日無断欠勤しているわけだ」

次の日。ロンスキーが二人の報告を聞いて、残念そうにする。

「思えば俺はあいつに銀細工のことしか教えられなかったなぁ。あいつの抱える苦悩をちゃんと見てやれなかったなぁ」

天井を見上げるロンスキーは1ヤーン(≒2m)もある巨漢の男に見えない程小さく感じられた。

「おっちゃん、元気出しなよ。弟子だったらまた取ればいいじゃないか」

「バーカ。簡単に言うなよ。銀細工をやろうなんて奴は中々いないんだよ」

ロンスキーは天井を見上げたまま答える。


しばらく店内を悲しい沈黙が支配していたが、

「あ、そうだ。お礼の品がまだだったな。持っていけ」

ロンスキーが普段以上に明るい声を出し、先日即興で造形した銀のアクセサリーをエヴァンに手渡す。

「律儀だな。別にいいのに」

「ありがとう、ロンスキーさん」


「いいんだよ。事件を解決したらこれをやるって約束したからな。それに、エヴァン。お前はこれから長い旅に出るんだろう。お前みたいな悪童でもしばらく会えないと思うと少し寂しいからな。まぁこいつを俺だと思って持って行け」

「おっちゃん…」


二人はロンスキーの豪快な笑顔に見送られながら街の出口へと向かった。

エヴァンもレーゼも彼の豪快な笑顔が強がりだとは気づいていたため、二人も思い切りの笑顔で別れることにした。


街を出てしばらくしたところで、エヴァンがレーゼに対して何かを切り出そうとする。

「ま、まぁそのう…」

エヴァンが気恥ずかしそうにし、言うべき言葉を言えないでいるのをレーゼはじっと待つ。

「ごめんなさい。俺が言いすぎたよ」

エヴァンは深々とあたまを下げる。

「いいのよ。私もカッてなっちゃったし」


「それにしても、ロンスキーさんの弟子が犯人だったなんて、世の中分からないものねぇ」

「あぁ、前にも言った通り、俺はあいつとは一緒にラムールの街を遊び歩く仲だったんだ。そんな奴が犯人だったなんてなぁ…」

エヴァンが肩を落として本気で落ち込んでいる様子を見て、レーゼも彼にかける言葉に迷うが、意を決して

「大丈夫よ、エヴァン!旅をしていれば彼とまた会うこともあるかもしれないわ!それに私は裏切らないから!」

と元気づける。


「へへ、、そうだよな。ありがとう、レーゼ。お前意外といい奴だよな」

「あら?今さら気づいたの?私がいい奴なのは元からよ」

そう言いながらラムールの街を後にする二人の距離は、この街に訪れた時より心なしか縮まっているように見えた。


---


「これがミスリルの神像(ミスリル・アイドル)。なんて美しいのかしら。この美しい私にこそ相応しい至宝だわ」

「アデリーナ様。これで、私もこれから建国する国家での地位を約束されますでしょうか?」


ここはラムールの街から離れた猟師すら訪れることのない深い山中の小屋。

レーゼを人質に取ることでエヴァンから逃れたカールは、アデリーナにミスリルの神像(ミスリル・アイドル)を手渡した。中は松明すら点いておらず、小屋内を照らすのは月明かりだけだ。


「無事に神像を送り届けてくれてありがとう。だけどねぇ、あなた。エヴァン君にあなたが盗んだってことバレちゃったみたいね」

アデリーナはミスリルの神像(ミスリル・アイドル)を惚れ惚れと眺めながら指摘する。

「え、なぜそれを!」

カールが慌てるが、アデリーナはそれを制しながら答える。

「ニルヴァーナの情報網を甘く見ないことね」


「うぅっ。申し訳ありません。以後このような不手際は起こしませんので!」

「うるさいわね、あなた。美しくないわよ。美しい私の部下として相応しくないわ」

大きな声で訴えるカールに怒りを覚えたアデリーナのラベンダーのように淡い紫の長髪が逆立つと、カールの首がどんどん絞められていく。

「あぁぁ、ぐっ」

カールはあっという間に息絶え、ゴロンと転がる。


「これはあいつの元にでも送っておいてあげようかしらね。あぁ、あと私たちニルヴァーナの目的は新国家の建国なんてヤワなもんじゃないわよ。って言っても、もう聞こえてないか。ウフフ」

カールの死体を見下ろしながら呟くアデリーナの微笑みはまるで氷のように冷たかった。

感想、レートなどお待ちしております!

泣いて喜びます!

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