咲いて、散る。そして幸せ。
私は小さい頃、もっと活発な子だった。
皆の中心にいて、いつも笑っている子だった。
足も速くって、ちょっと自慢気味な子だった。
でも、もう、違う。
***
「あそぼ!」
「うん!あそぼ!」
この言葉が、当たり前だった。
親友のアリス=ヘルナディアが、いつものように、遊びにさそってくる、この日常。
アリスとは、いつの間にか親友だった。
小さい頃から、ずっと仲良し。
光ちゃんと同じ魔法学校に入った。
そして、初等部3年生くらいになって、オーキス=スクライトと言う子が転入してきた。
オーキスは明るくて、ムードメーカーで、かっこよくって、あっという間にクラスの中心になった。
そうなると、必然的に私とアリスとも仲良くなるわけで。
気が合った私たちは、すぐに親友となった。
そして、わたしは運の悪いことに……彼のことが、好きになってしまった。
最初は、すごく元気に、純粋に、恋する乙女かのように、彼と一緒に笑っていた。
ちょっと気弱で、ほんわかした穏やかな性格のアリスは、ちょっとなじめないことが多いけど、それでも彼とは仲良くなっていた。
でも、恋は盲目、とでも言おうか。
私はほかのことは気にしないで、彼にまっすぐ純粋な恋心を抱いていた。
だから、気にしなかった。
しばらくして、バレンタインデーの日になった。
まだ愚かにも湊君に淡い恋心を抱いていた私は、この日、オーキスに告白しようとしていた。
でも、この世界、うまくいかないことの方が多かったようだ。
親友の、アリスと、オーキスが……
顔を赤らめて、向かい合っていた。
ああ、この気持ちは、届かないんだ。
そう、嫌でも気づいて。
確かに、よく思い返したら、そうだった。
彼は、私なんかよりもアリスと一緒にいた方が多かったし、
たまにオーキスとアリスが話しているとき、オーキスは顔が真っ赤だった。
それに、クラスの子たちが、美少女美少年でお似合い、だなんて話をしているのも知っていた。
私は、あまりにも愚かだ。
それでも彼を想うなんて、こんなに醜い生物はいない。
それでも、ただ、好きなだけなんだ。
どうしようも無い程、好きなんだ。
涙が出るほど、好きなんだ。
諦められないんだ。
ごめんなさい。
ごめん。
ごめん。
貴方が、好きです。
***
それから、何もなかったかのように時が過ぎた。
2人の間には、何もなかったようだったけど、私は見てしまった。
でも、私は二人から逃げられなかった。
ただただ、道化のように笑った。
それだけしかできない私は、どうしようもなく無力だった。
心が壊れそうなほどずたぼろだった。
でも、耐えた。
それでも、彼が好きだったから。
そうしている内に、私はあまり本当に活発な人間では無くなった。
いつも、嘘の笑顔を作った。
2人の邪魔をしないように、自分の恋心を偽った。
苦しいのに。
すごく、苦しいのに。
それでも、大好きなんだ。
君という存在から、もう、離れることができないんだ。
私は執着しすぎていた。
もう、消せないんだ。
私たちは同じ中学校に入学した。
私とアリスが一緒なのだから、アリスの彼氏であろうオーキスが一緒に来るのは、必然と言ってもいいのだ。
私は苦しいだけだけど。
私は心を紛らわすかのように、勉強と魔法を、人一倍頑張った。
いつの間にか、私は生徒会長になっていた。
でも、2人も、一緒。
オーキスが書記で、アリスが庶務。
ああ、辛い。
何故、こんなに辛くならなければならないのだろう。
それでも、君が好きだ。
好きなんだ。
2人に、まだ仕事があるからと送り出して、独りぼっちになった私は、思わず泣きそうな感覚におそわれた。
そろそろやむかな、と、思った時。
「大丈夫ですか?」
そう、声を、かけられた。
顔を上げると、そこには、副会長の、ルーク=アルバチスさんがいた。
「へっ!?しゅ、しゅいません……だいじょぶです。」
というか噛んだ。
かっこわる。
それなのに、彼は、私の頭を抱きしめて、
「泣いてもいいんですよ。すごく悲しそうな顔をしている。僕が、ついていますよ。」
と言った。
思わず、安心してそのまま泣いてしまった。
辛かった。
悔しかった。
悲しかった。
すべての感情を出して泣いた。
その度に、私の中の何かが、崩れて、消えていった。
そして、すべてが無くなって、私が泣き止んだころ。
心が軽くなって、もういいやって思えた。
彼は、少し不器用なのか、少し顔を赤くして、さっきの安心感が嘘だったかのように、おろおろしていた。
メガネをかけている耳は、真っ赤に染まっていた。
何だか自分も恥ずかしくなって、ちょっと私も赤くなった。
でも、すべてから解放されて、なんだか清々しかった。
***
私は、オーキスへの恋心を忘れて、ほぼ元のようなものに戻った。
生徒会なんて自分の柄じゃないと思い、生徒会長をやめた。
魔法をけっこうしていたことがあってか、私には魔導師の才能があったようだ。
そして、アリスとオーキスと一緒にいるのをやめた。
思いを思い出したら嫌だし、何より、もう二人を邪魔したくないからだ。
何故かアリスとオーキスはすごく焦って、嫌がってたけども。
なんだかいつもと違うような感覚もあるけど、私はすごく幸せだった。
しばらくして私は、彼……ルークと付き合い始めた。
なんと、ルークは、生徒会までやめてきたらしい。
ちょっとやりすぎでは……と、思ったが、まぁ、好きだから、嬉しい。
すると、なんだか違和感があった部分が、満たされていくように感じた。
ああ、これが、恋か。
と、私は思った。
魔法学校卒業する日、オーキスに告白された。
私が好きだった彼が、アリスを捨てて最低な人なのか、元から私を好きだったのか。
そんなのわかんないけど、私はもちろん、断った。
あの恋心は、戻らなかった。
きっと一生、戻らないだろう。
それでも、私は、幸せだ。