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獅子の王女様

 俺の言葉を遮るように応接室に飛び込んできたのはギルドマスターと同じ獅子獣人の女の子だった。

 獅子獣人だけあってその瞳は鋭く、強い意思や気の強さを感じさせるものだったが、厳ついギルドマスターと違ってその容貌はとても美しい。

 真っ赤なドレスを身に付けていた彼女だったが、日に焼けて少し褐色がかった地肌とよく似合っていた。


 そんな彼女は部屋の中を見回し俺に目を止めるとズカズカと近付いてきた。


「アンタがファフニールを倒した冒険者の雇い主ね!

 その冒険者を私によこしなさい!

 これはライオル王国第1王女エヴァンジェリン・ライオネルの命令よ!」


 ズビシっと俺を指差しながら高らかに宣言した。


「エヴァ!王宮へ戻っていろ!!これからファフニールの対策を考えなければならないのだ!」


「あら叔父様、だからこそじゃない。待っていても仕方無いわ!幸運なことにファフニールを1体殺した冒険者が居るのよ、こっちから打って出るべきだわ!!」


「その冒険者を見てみろ!どうせ幸運が重なって偶然ファフニールを倒せただけだ!!コイツにそんな力があると思えるか!?」


 ギルドマスターは俺を指差しながら怒鳴った。


 このおっさん、よく本人指差しながらそんなこと言えるなぁ…


『…アーロン、この男は殺してしまいしょう』


 あ、ヴィータが怒ってる。

 流石にギルドマスター殺しちゃまずいだろ…父さんと母さんにバレたらきっと悲しむ。

 面倒だし誤解をといておさらばさせてもらおう。


「あの、ドラゴンはも―――」

「ええ!?この人、冒険者雇ってる貴族じゃなかったの!?

 まさか本当に運だけでファフニールを…いや、これだけ上等な服を着ているってことは豊富な資金で凄い魔道具を持ってるのかも…

 ええい、いいわ!アンタ名前は何て言うのかしら?ファフニールを倒しに行くわよ!!」


「だからも―――」

「ふざけるな!!ドラゴン討伐は遊びじゃないんだ!!そもそも王女であるお前が行っていいわけないだろ!!お前が怪我をしたら兄貴になんて言われるか!お前の母だって前線に出てファフニールによった受けた傷が原因で命を落としたんだぞ!!」


「いやだから―――」

「だからこそよ!!母を奪ったファフニールに復讐を果たし、王家の誇りを取り戻すの!!そのためなら何だって捧げてやるわ!!」


「いいから話を聞けっっ!!!!!糞馬鹿獅子どもっっ!!!!!!」


 言い争っていたギルドマスターと王女様は俺の怒鳴り声に驚いたのか二人揃って間抜けな顔でこちらを見ている。


「ファフニールとやらは2匹とも倒してある。素材が1匹分しかないのは力加減を間違えて1匹が木っ端微塵に吹っ飛んだからだ!

 それでも心配なら討伐隊を組もうが調査隊を組もうが構わない!!

 だが俺は帰らせてもらうからな!」


「「は…?ファフニールが木っ端微塵?」」


 本当に親戚関係みたいだな、呆けた表情と反応がそっくりだ。


 これ以上付き合っていられないので俺は部屋を後にした。


 ☆ ☆ ☆


 アーロンが部屋を出ていった後。

 しばらく呆けていたギルドマスターは我に帰り、急いでアーロンの証言の真偽を確かめるための調査隊の結成を決断した。


 ライオネルの近くに住み着いていたファフニールは国の歴史のなかで幾度となく襲撃により多くの被害を出してきた。

 獣人達も黙っていたわけではない、獣人の英雄や騎士団による討伐作戦は何度も行われてきた。だがしかし、その全てが徒労に終わってきたのだ。


 そんなファフニールをたった一人で、それも冒険者見習いに登録した日に、もっと言えば昼過ぎに登録した者が日暮れまでに討伐してくるど到底信じられる話ではない。

 そもそも、ファフニールがライオネルの近くに住み着いているとは言うが、それは数時間で往復など出来る距離ではないのだ。

 それに片方のファフニールは力加減を誤って木っ端微塵になってしまったなどと、馬鹿げた話だ。

 太陽が西から昇って東に沈んで行ったと言われた方がまだ信用できる。

 だが、その冒険者見習いは確かにファフニール1頭の頭を切り落とされた死体を持ってきた。


「はぁ~、まったく、何がどうなっていやがる…」


「叔父様?彼はいったい何者なのかしら?」


「さあな、分かっているのは今日登録したばかりの冒険者見習いで名前はアーロン、ダークライガーという従魔を連れていて、フォルティス王国に住んでるってことくらいだ」


「今日登録したですって!?それでファフニールを倒したっていうの!?

 それにフォルティス王国に住んでるなら何故ライオネルに来て冒険者登録を…」


「さあな。不確かな情報だが今は無い皇国って国の出身らしい。

 あぁ、あとパラディヌスって名字のある貴族だか騎士とかいう話もあったな。あの格好からすりゃ本当かもしれんが」


「今は無い国の貴族…身分も実力も申し分無いわね…

 アーロン様…どこぞのなよなよした勇者よりよっぽどいいわ!」


「おまっ!?まさか…?」


「何を驚いてるのよ叔父様?獣人は力を尊ぶ、王家は最強でなくてはならない、至極当然のことじゃない。

 それに、王女である私が糞馬鹿獅子なんて言われるなんてね…私個人としても彼にとても興味が湧いてきたわ!」


「はぁ~、兄貴になんて言やいいんだ…」


 罵声を浴びせられたことを楽しんでいる王女を尻目見てギルドマスターは抱える問題が増えたことに頭痛が何倍にも増したような気がした。

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