王都ライオネル
ダークライガーが頑張ったのか獣人の国ライオルの王都に辿りついたのはちょうどおやつの時間くらいだった。
ちなみにライオルの王都の名はライオネルというらしい、紛らわしいな。
ライオネルに辿り着くと自由を尊ぶというだけあって街の外と内を繋ぐ門には特に検問のような物は敷かれずに獣人達が好きなように出入りしている。
門の脇に門番が二人ずつ配置されているだけだ。
俺も気にせずに中に入ろうとすると両側の門番が一人ずつやってきて止められた。
「人族は自由に出入りさせるわけにはいかない、それに連れている魔物はなんだ!」
「貴様、何者だ!なんの理由があったライオネルへとやって来た!!」
門番二人に槍を突き付けられる。
筋骨隆々の熊獣人と、素早そうな目付きの鋭い狼獣人だ。
どうやら自由に出入りして良いのは獣人だけだったようだった。
「俺はアーロン・パラディヌス。皇国銀河艦隊レナスt-547基地所属の機動騎士、パーソナルIDはk3468524だ。こいつは従魔のダークライガー」
「は?皇国?ギンガ…?」
「へ?キドウ騎士?パーソナル…?」
門番は俺の口から出てきた言葉に目を白黒させている。
ちなみにこれはヴィータと俺が出会った最初の世界での俺の身分である。
「き、貴族だったのか…?」
「おい、皇国ってどこだ」
「俺が知るかよ、でもあの服を見てみろ。この辺の意匠じゃあないが上流貴族でも持ってなさそうな上等な奴だぞ…」
「貴族相手じゃ面倒だ」
「もう既に槍突きつけちゃったぞ!」
「バカっ!急いで下ろせ!!」
門番二人は俺が貴族だと思って小声で相談している。
まあ、俺の居た世界はこの世界より数千年レベルで文化と技術が進歩してるし、皇国の機動騎士の軍服はその中でも上等なものだし、それに俺が独自に改造を加えている。
この世界じゃ貴族どころか王族でも手に入らないレベルの服であることは間違いない。
「あー、今回は私的な理由での訪問なので普通の一般人向けの対応をしてくれれば構わない」
「そ、そうか!」
「な、ならば訪問の理由を聞かせてもらおう!」
二人は俺の言葉に安心したのか再び槍を向けてきた。
面白いなコイツら。
「俺はここに冒険者になりに来た。一旗あげようと思ってな!」
どっかの国の騎士が他の国に冒険者になりに来るって冷静に考えるとおかしいな。
だが門番の二人はそれに気付かなかったのか、はたまた気付いても気にしなかったのか牙を剥いて獰猛な表情になった。
「冒険者になりにきたのか」
「ならばそれを証明する方法は1つ!」
「我らを倒して見せろ!!」
「冒険者を志す者ならば力を見せよ!!」
えぇ…力を尊ぶって言っても限度があるだろ…
強い悪い奴が来たらどうすんだよ。
後で聞いたところによると、負けた弱い奴が悪いってことになるらしい…まさに脳筋の極みっ!!
周りで遠巻きに見ていた獣人達が囃し立てるように俺たちを囲み円を作っていく。
「ひゅーひゅー!」
「おい、負けんなよー!」
「冒険者になりにライオネルまで乗り込んでくるとはな!気に入ったぜ人族の兄ちゃん!」
「しっかり戦ってくれよー!」
完全に見世物になってるな…
『アーロン、ここで力を見せ付ければ獣人達は貴方を好意的に迎えてくれるはずです』
「…なら、無様な真似は出来ないな」
「では行くぞ!人族の騎士よ!!うおおおおおおおおおお!!!」
熊獣人の方が雄叫びをあげながら槍を持って突っ込んでくる。
筋肉の塊の突撃、並みの奴じゃ一発で決まる必殺技なんだろうが…俺には効かない、
それを片手で受け止めてやるとギャラリーから歓声が上がった。
「ぐぎぎっ!!なんという力だっ!!!」
熊獣人は全身に血管を浮き上がらせながら力を込めているがビクともしない。
これくらいなら武器を使うまでも無いな。
「確かにパワーはとんでもないみたいだが、戦いってのはそれだけじゃないぜ!!オラァ!!」
熊獣人と力比べをしていると後ろから狼獣人が飛び掛かってきた。
まあ、回り込んでるの分かってたんだけど。
俺が力を抜いてやると全力で力を込めていた熊獣人はバランスを崩して俺の方へ倒れ込んでくる。
それをそのまま飛び掛かってくる狼獣人に投げ付けてやった。
「「どわあああああああ!!」」
二人は揉んどりうって転がって行く。
「だああくそっ!…ふぁっ!?」
「どこ行きやがった!…ひえっ!?」
起き上がろうとした所で、後ろから二人が取り落とした槍でそれぞれの肩をトントンと叩いてやった。
ギャラリーの盛り上がりが最高潮に達した。
「うおおおお!!強いな兄ちゃん!!」
「最後の後ろに回り込むとこなんて早すぎて見えなかったわ!!」
「二人相手に完勝しちまいやがった!!」
「門番しっかりしろー!」
「う、うむ!それほどの力があればライオネルでも有数の冒険者になれるだろう!」
「有名になってくれなくちゃ困るぜ!あんたが有名になってくれたら2対1で負けた俺達の評判もそれほど落ちないってもんだ!はっはっはっは」
どうやら門番の二人も認めてくれたみたいだ。




