出発
俺は森の浅いところまで辿り着くとダークライガーと装備品を全て亜空間に戻して村人風の格好になった。
まあ、急にフル装備になったらどっから持ってきた!ってなるからな。
家に帰ると父さんと母さんが一緒に朝食を摂っているところだった。
「おはよう、こんな朝っぱらから何処行ってたんだ?」
「アーロンもさっさとご飯食べちゃいなさい」
「おはよう、父さん母さん。ちょっと森まで行ってたよ」
俺はテーブルに座りながら答えた。
母さんが朝食のスープとパンを用意してくれる。
「森?またなんでそんなとこに」
「それなんだけど、俺は冒険者になることにしたよ」
「ああ、冒険者か…成る程な。……ブホォ!冒険者!?おまっ、急に何をっ!?」
「父さんも昔は冒険者だったんだろう?やっぱり男なら一旗あげたいと思ってね」
「男なら、か…。いいだろう、俺は応援するぞ」
「あぁ、アーロン。これだけは約束して、危ないことは絶対しないと」
「母さん、危ないことしないと冒険じゃないよ…」
「それでも、よ。ベンが応援するって決めたんだから反対はしないわ。でもなるべく心配はさせないで」
「…分かった!安心して貰えるように頑張るよ」
これは親孝行を計画するにあたってすぐ考えていたことだ。
どんな世界でも何かするには金が必要だ。
ストレージの中の物を売り払えば金自体はすぐに手に入るのだが、何処で手に入れたのか?とかあの家は金を持っているなんて思われて盗賊に狙われれば親孝行どころの騒ぎではない。
だから俺は冒険者になるという選択肢を取ることにした。
冒険者は腕っぷしさえあればいくらでも成り上がることの出来る職業だ。
俺の力があれば騎士とか兵士になってもすぐ成り上がれるのだろうが、労働時間が決まっているため家族の時間が取れなくなる。
自由に仕事が出来る冒険者が最適だと俺は考えた。
それに強い冒険者が居る家だと知れれば盗賊も狙うことはしまい。
「使者が置いてった招待状によるとセリアの結婚式は1か月後らしいから、そろそろ出ないと間に合わないだろ?
俺は父さんと母さんが結婚式に行ってる間に冒険者として活動を始めようと思ってる」
使者は父さんに家から叩き出されながらも結婚式の招待状を置いていった。父さんと母さん宛の2つだけね。
「いいのか?アーロン…」
父さんは俺を気遣うように聞いてくる。
セリアの結婚に思うところがないか心配に思っているのだろう。
今思うと俺がセリアに抱いていたのは女兄弟に対する親愛の情だったのではないだろうかと思う。
セリアと結婚したら勿論大事にしただろうけど、セリアは勇者様と結婚した方が幸せになれるんじゃないかと思える。
まあ、婚約者いる相手にプロポーズした挙げ句妊娠させた上に3人の嫁を娶る勇者様には大分不信感持ってるけど。
それに父さんと母さんからしたら初孫が出来たのだ。
親孝行のために生きると決めた俺からすれば、俺のせいで娘とギクシャクして初孫の誕生を祝えないというのは望むところではない。
「大丈夫だよ!俺も冒険者で成り上がってセリアより良い嫁さんを見付けるんだ!」
父さんの問いに俺は冗談を交えて答える。
「!…っへ、馬鹿が!俺の娘より良い嫁なんてそうそう居るわけないだろ!」
「ふふっ、アーロンが連れてくるお嫁さんを楽しみにしているわよ!」
父さんも母さんも俺の真意を汲んでくれたようで冗談に乗ってくれた。
その後、父さんと母さんは荷物の準備をすると結婚式が行われる王都へと旅立っていった。
☆ ☆ ☆
「さあて、俺も準備を始めるか」
父さんと母さんが居なくなった家で一人呟く。
『冒険者登録をするのであれば自由と力を尊ぶ獣人達の国ライオルをお勧めします』
否、ヴィータが居るので一人ではなかった。
「獣人の国?理由は?」
『獣人達は人間より力と情に重きを置きます。
人の国より冒険者としての成り上がりは容易であると予想されます』
「成る程な、じゃあライオルの王都で冒険者の登録をしよう」
俺は家の戸締まりと、ついでに家に結界をいくつか貼るとダークライガーに跨がった。
もう既に装備は整えてある。
「ここからライオルの王都までダークライガーの足だとどれくらいかかる?」
『おおよそ五時間、夕方までには到着すると思われます』
「よし、なら城壁の外で一泊待たされることもないだろう。
出発だ!」
ダークライガーは「がおーん」と気の抜けた鳴き声を出すと走り出した。
脚部に取り付けられたスラスターと反重力エンジンを利用した空中走行はとても快適で、眼下に流れていく景色はとても見事なものだった。




