もっと魔物狩りへ
体調を崩したため更新が出来ていませんでした。
これからも宜しくお願いします。
「あ"ー、完全に勢いで言っちゃったけど糞馬鹿獅子は無かったよなぁ…」
俺は日が暮れて酒場などから喧騒が聞こえてくる通りを宛もなくトボトボと歩いていた。
ギルドから出て冷静になると凄い偉いっぽい二人に罵倒とも言えるような言葉を浴びせかけたのは失敗だったと後悔しはじめたのだ。
『この私に啖呵を切るなんて…ステキ!!とか王女様が思ってるかもしれませんよ?』
ヴィータが変なことを言っている。
人格プロトコル形成機能のβ版が組み込まれてるせいでサポートAIなのに時々妙に人間臭いこと言うんだよなぁ
「んなわけあるか!貴族とか王族ってのは大抵クズなんだよ!今頃『私を侮辱した者を探しだして殺せ!』とか喚いてるかもしれんぞ。今までもそうだったろ」
転生を繰り返してきた中で貴族や王族と関わり合うことが何度もあった。その経験談からだが貴族や王族はどうしようもない奴が多い。
何でも自分の思い通りになると本当に信じている奴ばかりだし、くだらない意地の張り合いで関係無い人間を大量に殺したり、華やかな社交界とか言って陰口大会を開いてるような連中だ。
『それはアーロンが今まで出会った者が特別酷かったたけだと思いますが…
では他の国でやり直しますか?』
「…いや、父さんと母さんが結婚式を終えて帰ってくるまで2ヶ月位しかない。それまでに冒険者として成り上がって金を稼ぐとなるとやはりライオネルがベストだ。
それにあの二人の話を聞いてた限りじゃドラゴンは王妃の仇らしいし、王女が喚いたところで案外なんとかなるんじゃないか?」
冒険者ギルドは国に所属しない組織ではあるのだが、職員や登録している冒険者がその国の人間である以上国ごとの特色というものが存在する。
そしてこの獣人の国ライオルのギルドの特色は「こまけぇこたいい、強けりゃいいんだよ!」である。
身元のはっきりしていない俺のような人間が成り上がりを目指すのならぴったりな場所なのだ。
ここであることに気付いた。
「あっ!!ドラゴンの買取代金貰ってない!!」
ギルドマスターに舐めた態度取ってすぐに金貰いに行くってのもばつが悪いし困ったなぁ…
『アーロンが侮られたのはファフニールを仕留めたのを偶然だと思われたからです。他にも強力な魔物を手土産にしてギルドに再び訪れればよいのでは?』
「成る程な、偶然じゃなく実力だって見せつけるわけか」
『それに加えて大抵の場合、魔物は強力であればあるほど素材としての価値が高まるものです。金を稼ぐ、冒険者として成り上がる、この2つの目的の達成に繋がるのでは?』
「おお、そりゃいい!それでいこう!」
頼りになる相棒のおかげですることが決まった。
ならば行動に移すまでだ。
『周囲の高い魔力反応を殲滅する最適ルートを計算します。作業を円滑に進めるためにザルマの聖典の運用を開始しますが宜しいですね?』
ザルマの聖典とはエーテルの発見により誕生した最強のスパイ衛星である。
その名の由来は俺が最初にいた世界の童話の1つだ。
そしてその内容はというと、ザルマという男がどんな秘密でも探る事の出来る本を手にするがそれが原因で殺されてしまうというものだ。
まあ、早い話が「好奇心は猫を殺す」というような寓話の1つである。
俺が最初にいた世界では、エーテルの発見により魔力と物理的事象の相互関係の解明が一気に進んだ。それにより事象から魔素を魔素から事象を逆算することが可能になったのだ。
その技術を応用されて作られた衛生は従来の物とは比べ物になら無いほどの情報の精度と範囲をもたらした。
従来の表面しか分からない衛星写真や熱探知と異なり魔素探知であれば衛星軌道上から惑星の中心まで調べることが出来たのだ。
そしてこのスパイ衛星はどんな秘密でも知ることの出来たザルマの聖典の名で呼ばれるようになったのだ。
「ヴィータ、ザルマの聖典を使うなら父さんと母さんの様子を常に見ておいてくれるか?」
『了解しました。二人はいま乗り合い馬車で移動している最中のようです』
しまったな、今気付いたが父さんと母さんに護衛をつけておくべきだったか…
聖女の両親だというのに馬車による迎えも寄越さないなんて国が此方のことを舐めきってるなんて分かっていたのに。
一応、お守りとして毒物無効と魔力防壁を貼るペンダントは渡しておいたけど…あのペンダントじゃ死神の死の宣告なんかを3回くらいしか防げないぞ。
あーー、心配になってきた…っ!!
「ヴィータ、二人に護衛を付けたいんだが良い案はないか?」
『エーテルナノマシンはどうでしょう?普段は空気中を漂っているだけですが有事の際には盾にも剣にも翼にも戦士にもなりますし、いざというときはアーロンが助けに行くための転移門の代わりにもなります』
「それで頼む」
うむ、ペンダントとザルマの聖典とエーテルナノマシンがあれば平気だろう。
『魔力の捕捉および殲滅ルートの設定が完了しました。ダークライガーにルートのデータを送ってあるのでいつでも出発できますよ』
「殲滅?…ぁ!そういや魔物狩り行くんだったな!」
『…アーロン、両親が心配なのは分かりますが度が過ぎていますよ』
「あは、あははは…」
笑ってなんとか誤魔化そうとするがヴィータに身体があればジト目で俺のこと見てるんだろうなっていうのが伝わってくる。
「んん、ごほんっ!それでは魔物狩りに出発といこうか!いくぞ、ダークライガー!」
「がおーん!」
『まったく…両親のことは私が見ているので心配しないでください』
俺は魔物狩りへダークライガーに乗って夜空へ駆け上がっていった。
ザルマの聖典
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あるところにザルマという男がいた。
ザルマは他人の噂話が大好きで、話の種を探すために密偵のような真似さえしていたという。
ある日、ザルマが酒を飲んで家に帰る途中、1冊の本が落ちているのを見付けた。
普段なら気にしないような汚ならしい本だったが、ザルマはどうしてもその本が気になってしまい手に取ったのだ。
その本の中には近所の気に食わなかった男や、美人と持て囃されていた給仕の女、果ては温厚と言われていた領主の秘密が書かれていたという。
ザルマは良いものを見付けたとばかりに書かれていたことを噂話にして流した。
すると不思議な事に本から噂話として流した部分が消え、新たな噂話の種が書かれていたという。
ザルマは得意になって本に現れる内容を次々に噂話にして流した。
そんな生活を送っていたザルマの下にあるとき国の兵士がやってきた。
ザルマはどうやら国の秘密を噂話にしてしまったらしい。
捕まったザルマは必死に本に書いてあったことだと言ったのだが、ザルマの本はいつの間にか無くなっていた。
普段から密偵のような真似をしていたザルマは他国の諜報として処刑されてしまったのだった。
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