表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

光の蝶

 金色に輝き、眩しい光を放つ蝶が、優雅に宙を舞っていました。

 蝶は、ひび割れた瓶の底で、膝を抱えて丸くうずくまっている一人の男を見つけたので、話しかけました。

「こんにちは」

 男はただ怯えるだけで、何も答えません。

「蓋をされた瓶の底は、とてもとても怖いよね。苦しいよね」

 金色の蝶は、男のいるガラス越しに、羽を休ませるように静かに止まり、

「ぼくの大切な記憶を見せてあげるね」

 と、言いました。

 すると、男の頭の中に、ある映像が浮かびました。



 それは美しい花園でした。

 お喋りをする小鳥たち、軽やかに踊る蝶々たち。そして、色とりどりの花たちは、リズムに乗って楽しそうに歌っています。

 やがて、凜と佇む一輪の花が、一匹の蝶に恋をしました。彼女はとても幸せそうでした。

 しかし、その花は降ってきた冷たい雨とともに、一枚ずつ花びらを落とし、とうとう花園から消えてしまいました。



「ダメだ!」

 男は思わず、小さな悲鳴をあげてしまいました。

「大丈夫。ぼくを見てごらん」

 ふと、聞こえてきた囁きに、男は我に返りました。

 そして、自分のすぐ目の前で、静かにこちらを見つめている黒い瞳に気がつきました。

「そう、もっと見つめて」



 ガラスで隔てられていても、蝶の放つ光は男には眩し過ぎたようです。全てを見透かされているようで、恐れさえ感じました。

 けれども、その光にすがりたい気持ちになったのは、なぜなのでしょうか。

 男は消え入りそうな声で呟きました。

「ぼくは、ぼくでありたい」

 それに蝶が答えました。

「きみは、きみでいいんだよ」



 それからどれほどの時間が過ぎたのでしょうか。

 キッチンからは美味しそうなスープの匂いが漂い、リビングでは小さな女の子がお人形さんと一緒に遊んでいます。

 ひび割れた瓶の底に、もう男はいませんでした。



「パパお帰りなさい!」

 男の愛する妻と、娘の声が聞こえてきました。





こちらの作品は、別館サイト(LES BONBONS SUCRÉS)でも掲載しています。

http://mercilapin.blog120.fc2.com/blog-entry-132.html

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ