異世界への転生
ん?ここはどこだ?
私は真っ白な何もない空間にぷかぷかと浮いていた。
体を動かそうにもまるで生まれたばかりの赤子に戻ったかのようになにもすることができなかった。
かろうじて目は開けていられるが何も見えないのでどうなっているのかもわからない。
ゆらゆらと浮いているのになぜだか安心する揺れ。
ああ、眠いな………。
逆らいきれないとてつもない眠気に襲われてきた。
「ふふっ、お休みルウナ。」
私は睡魔に負けて瞼を完全に閉じてしまった。
月日は流れて、私は自分が何者であるかを知った。
私の名前はルウナ。
現在五歳。
最近はだいぶ物事を覚えておくのができるようになってきた。
そして記憶の整理というのができるようになってきた。
私はどうやら前世の記憶というものをもって生まれてきてしまったらしい。
いや、前世の記憶とはっきりと確証しているわけではないが、その記憶の中にそれらしい物語があったのでそれに沿っている。
まぁ一応ここでは前世の記憶であるとしておこう。
その前世の記憶では私は女子高生というものだった。
名前は木下 小鈴という名だ。
小さなころから勉強をさせられて友達も少なく中学生になってからはいじめられていた。
別に勉強は嫌いではなく、むしろ自分が自分でいられる最高の時間だとも思っていた。
どんどんとコミュニケーション能力をなくしていき、ついに高校に入ってもいじめられてむしろ中学生の時よりもひどいいじめで、嫌になって自殺という感じだと思う。
死んだときの記憶はかなりあいまいなものになっていてこれくらいしかわからなかった。
と、私だいぶ心的に病んでいる子だったみたいだ。
せっかくだし、第二の人生的な感じなので今度こそ間違えたくない。
人生で一番最悪なのは死を選びたくなるような生活だ。
とりあえず人生の目標は楽しく過ごせる将来を獲得することかな?
とある小さな村で生まれた少女ルウナ5歳は、五歳という齢で人生の目標を掲げていた。
「ルウナちゃん!!!」
「何ですか?お母さん。」
とても三十歳とは思えないような美しい…というよりかわいらしい女性は私の母だ。
母は私と同じ山吹色に近い腰まであるさらさらの金髪をふわふわと揺らしながら走ってくる。
………本当に三十歳とは思えない子供らしさだ。
「ねぇねぇ、聞いて!実はねさっきね診療所に行って来たら赤ちゃんがいますよって先生に言われたの!」
ん?それは子供ができたってことか?
まさかおなかに赤ちゃんがいるとわかっていながら、診療所から走ってきたんじゃなかろうな?
「そうなんですか!それって妹か弟ができるということですか?」
「うん!そうなの!!!」
「お母さんはもしかしてその知らせを聞いて診療所からここまで走ってきたんですか?」
「うん、そうだよ。」
マジか、こいつ。
私は軽くうなだれる。
同じタイミングで扉の方から人が走ってきた。
「もう、アン!!!おなかに赤ちゃんがいるのにそんな全速力で走っちゃダメじゃないか!いくらルウナに早く伝えたいからって先生の話も何も聞かずに出て行って!」
うわぁ…それは先生びっくりしただろうな…。
ものすごい剣幕で母をしかりつけているこの人が私の父だ。
…父だからこそ私は無事にこの世に生まれてこれたのだと思う。
母は父に説教されてしゅんとうなだれている。
その様子はまるでチワワのようだ。
…かわいい。
自分の母なのに無意識にそう思ってしまう。
「まぁまぁお父さん。そのくらいにして置いたら?赤ちゃんがいるんだったら安静にしておいた方がいいでしょ?お母さんも反省しているだろうし、次はしないよ。ね、お母さん。」
「うん、以後気を付けます…」
母は素直に返事をする。
うん、いい子だわ。
「………」
父はそれを見て何とも言えない顔をしていた。
ちなみにアンという呼び名は愛称で正式に母の名前はアンジュだ。
ついでに父がハルト。
しかし、弟か妹が出来るのか…。
前世でも弟妹はいなかったし楽しみだな。
母の妊娠が分かってから1ヶ月後。
書斎で本を読んでいると、父が神妙そうに話しかけてきた。
「なあ、ルウナ。」
その声はなぜか真剣そのものだ。
「はい、なんですか?お父さん。」
「なんでお前そんなしっかりしてるんだ?」
え゛なにその質問。
でも言われてみれば5歳なのにこのしゃべり方は堅苦しいかもしれない。
「そうですね…、お母さんを支えたいからですかね?」
「いや、確かに母さんはちょっと頼りないんだが、もっと子供らしくしてもいいぞ?何かほしいものとか、行きたいところとか、やりたいことがあったら言っていいんだぞ?」
そういえば、そういうことをいったことなかったな…。
前世ではそういうことは言いにくい…まあ貧乏だったのでおねだりとかしたことなかった。
この家は少なくとも貧乏ではないみたいなので、子供がそういうことを全くいわないというのは不思議なんだろう。
つまり、私がわがままを何も言わないからわがままさせたくなったってところかな。
「そうですね…あ、あれしたいです。剣術と魔法を教えてほしいです。」
実はこの世界には魔法があるのだ。
しかも魔物までいてまさにファンタジーな世界。
だが、魔物とは人間を襲う恐ろしい生き物みたいで戦うために、というか身を守るために剣術や魔法を使うということだ。
つい最近まで知らなかったのだがこの前本を読むことが出来るようになって、やけに魔法の本が多くて母に聞いたのだ。
その時初めて魔法があることを知った。
それから私は興奮しながら本を読みまくっている。
幸いにも家には沢山の本が置いてあった。
前世では本の虫だったのもあたってここ一週間は書斎に引きこもっている。
「そんなことでいいのか?」
「はい!めちゃくちゃしたいです!!」
最初は本を読みながら自分で独学でやろうとしたが、やっぱり危ないし剣術もやりたいなと思っていたところだった。
「うーん…。魔法はいいが、女の子に剣術はなぁ…。大変だぞ?それでもいいなら剣術の稽古は私が付けてやろう。魔法の方は母さんから学んだ方がいいぞ。」
なんと、母は魔法が使えるのか。
そういえば私は両親の仕事が何か知らない。
父は週に1日位しか仕事はないみたいだし、なぜかたまに母も仕事に連れて行くのだ。
一体何の仕事をしているのか。
いつか聞きたいな。
「わーい!ありがとう、お父さん!」
私は母のいるリビングに駆け出した。
その後母から難なく、むしろ喜ばれながら魔法を教えてもらう許可を貰って私は超上機嫌だった。
1日交代で剣術と魔法を教えてもらえるのだ。
前世でアニメなどそこまで好きでもなかったが、小説は好きなのでそっちの方も知識的な役に立つかわからないものもある。
それでも、憧れは感じていた。
うれしくないはずない。
鍛錬は明日から始める事になった。
私は小学生が遠足を楽しみにしているようにワクワクした。
あぁ、二度目の人生はなんて素晴らしいことだろう。
ここから、私の賑やかで大変な人生が幕を上げる。