開かずの扉
俺がその扉の存在を知ったのは6年前。
まだ、小学3年生のときだ。
僕の家はちょっとした別荘で沢山の部屋があり、扉も沢山あった。
扉の存在を知ったその日、僕は自室で勉強をしていた。
不意にトイレに行きたくなり、席を立った。
床に赤い絨毯の敷いてある長い廊下を歩きながら、突き当たりのトイレに入った。
用を済ませて部屋に戻ろうとすると、おじいちゃんが鍵の束を持って歩いていた。
僕は不思議に思い、おじいちゃんの後をつけた。
角二つ曲がり何も無い廊下の真ん中でおじいちゃんは歩くのをやめた。
おじいちゃんが何をするのかわからず、僕は角から観察することにした。
すると、おじいちゃんは徐に壁紙を剥がし始めそこに一つの扉が現れた。
僕が初めて見るいわゆる隠し扉だった。
おじいちゃんは壁紙を畳んで床に置き、鍵の束から一本ずつ鍵穴に入れ始めた。
ガチャガチャと荒々しい音をたてながら必死におじいちゃんは扉を開けようとしていた。
しばらくして全ての鍵を確かめ終わったらしく、壁紙を元に戻し、おじいちゃんは鍵の束と共に廊下の奥に消えていった。
結局その日、扉は開かなかった。
それから5年が経った。
5年間、おじいちゃんは何度も扉を開けようとしていたが開いた事はなかった。
あの扉は一体なんだろうか。
本当に開かないのだろうか。
そんな気持ちでいたある日、おじいちゃんは僕に言った。
「お前、儂があの扉を開けようとしていたのをいつも見とったじゃろ。」
あの扉とは無論、未だに開かない扉の事だろう。
僕は否定するのも不自然だと思い
「うん。見てた。」と言った。
おじいちゃんは静かに頷いた。
「ごめんなさい。」
少しの間があった。
「謝らなくてもいいんだよ。いずれ話さなければいけなかったからな。」
そしておじいちゃんはゆっくりと口を開き、語り始めた。
「あの扉は儂がまだ子供だったときからずっとあるんじゃ。
儂の父も開けようとしておったが、1度も開かなかったんじゃ。」
一呼吸置いて再度おじいちゃんは続けた。
「けれど、もう無駄じゃよ。この家にある全ての部屋の鍵を試したが、どれも開かなかった。」
おじいちゃんはそこで口を閉ざし、僕をじっと見つめて部屋に戻っていった。
僕も扉の事は忘れようと思った。
自室に戻り、明日の支度をする為に引き出しを開けた。
教材を取って引き出しを戻そうとしたとき、側面に不自然な窪みがあることに気づいた。
僕はその窪みに指を押し付けた。
小さな音と共に穴が開き、板の隙間に銀色に光る物が見えた。
それは埃まみれの鍵だった。
僕は混乱したが、すぐにこれがあの扉の鍵ではないかと思い、扉のもとへ向かった。
壁紙を剥がし、扉と対面した。
大き目の深い茶色の扉だった。
僕はゆっくりと鍵穴に埃まみれの鍵を指した。
ガチャという手応えがあり、少し緊張した。
ドアノブを捻り、扉を開けようとするが、扉は開かなかった。
「何をしとるんじゃ。」
不意に後ろから声をかけられ、反応が遅れた。
声の主はもちろんおじいちゃんだ。
先程までの優しい表情はなく、険しかった。
おじいちゃんはまた口を開いた。
「だから開かないと言ったじゃろうに。」
そう言って黄ばんだ歯を見せつけるように笑った。
扉の奥には一体何があるのでしょうか。