表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これはきっと恋じゃない  作者: 悠華
2/4

変なおじさん

第二話です。お相手さん登場です。

 たかだか50mを自転車で押すのに疲労困憊してしまった。パンクした自転車ってこんなに重いんだ。

 コンビニ脇に自転車を止めると、私は呆然と立ち尽くしてしまった。

 もう、帰っちゃおうかなあ。でも、自宅近辺に自転車屋はないし、結局またどこかへ押して行かなくちゃならない。それだったら学校の近くの自転車屋へこのまま行ったほうがマシだ。

 というか、そんなことをしていたら間違いなく遅刻だ。せっかく無遅刻皆勤を続けているのに。

「はぁ・・・」

 我知らず、ため息が出ていた。

 ちらっとコンビニの入り口に目を向ける。とりあえず喉が渇いた。スポーツ飲料か何か買ってからどうするか考えよう。

 そう思ってドアに向かい始めると、ドアが開いて買い物客が出てきた。男性だな。かなり背が高い。ぶつかったりすると嫌だし、足を止めて行き過ぎるの待つことにしよう。

 男性は私の横を行き過ぎると駐車場の車のほうへ向かったらしい。私はすぐに興味を無くし、店内に入るとペットボトル飲料のコーナーに向かった。

 スポーツ飲料だけを買って自転車のところに戻ろうとすると、私の自転車の前に誰か立っているのが見えた。タイヤを見ている?

 さっきの背の高い男性らしい。ワイシャツとスラックス姿だからサラリーマンだろうか。年はわからないけれどウチの父よりは若い。30歳くらいだろうか。

 とりあえず、こうしていてもしょうがない。

「あの、私の自転車に何か?」

 男性は私に目を向けてきた。ちょっと目つきがきついけど、思ったよりイケメンだ。ちょっとどぎまぎしてしまう。

「これ、パンクしてるな」

「あ、はい」

「押していけるのか?」

 私は肩をすくめた。

「なんとかします」

「なんとかなるのか?」

 男性は無表情のまま聞いてきた。

 いや、その眼光は怖いですって。

「えっと、たぶん?」

「たぶん?」

 男性の眉が寄る。ますます怖い。

「きみは高校生だろう。遅刻しないのか?」

「あー、まあ、たぶん」

「大丈夫なのか?」

「たぶん・・・だめです」

 50m押して疲労困憊なのだ。どうあがいても無理だろう。

「・・・そうか」

 男性は腕時計に目をやってから私に目を向けてきた。

「自転車にカギをかけなさい」

「は?」

「学校まで送ろう。自転車は帰りに取りに寄ればいい」

「はああ?」

 いったい何を言い出すのだ?この人は。

「店の人には頼んでおく。裏手に置かせてもらえば盗まれないだろう」

 いや、そもそもこんな安物の自転車を盗む物好きなんているんだろうか。

 なんて思っているうちに男性は店の中に入って行ってしまった。

 私は事の成り行きにぼーっとしているしかない。

 男性はすぐに出てくると、自分で私の自転車を押して店の裏手に押していく。

 私は慌てて後を追った。

「ちょ、ちょっと。そんなことしてくれなくてもいいです」

「何がいいんだ?学生は勉強が本分だろう」

 いや、今そんな正論を言われてもですね。

「カギをかけて」

「で、でも」

「早く」

 平坦な声にわずかに含まれる怒気が怖い。

「ひゃ、ひゃい」

 思わず変な声が出てしまった。

 ぎくしゃくとした動きでカギをかける。

「よし、カバンを持ってついてくるんだ」

「え?ええ?」

 男性は先に立ってずんずんと歩いて行ってしまう。なんなの?このおじさん。ああもう、おじさんでいいや。変なおじさん。

「こっちだ」

 おじさ・・・男性は振り返ると刺すような視線で私を見た。だから怖いんですってば。

 男性が足を止めたのは大きな乗用車の前だった。ロックを開けて運転席に乗り込んでしまう。

「早く乗るんだ」

 どうしていいのかわからないでいると、ドスの効いた声をかけられた。

 ひいぃ、この人絶対命令しなれてるよね。

「し、失礼します」

 ドアを開けて助手隻に乗り込む。すごくシートが大きくて高級感がぷんぷんしてる。ていうか、このシート、レザーだよね。汚したらすんごい怒られそう。こんな高級車、初めて乗った。ウチの父の車は四角いファミリーカーだし。

 びくびくしながら小さくなってシートに座る。

「学校はどこだ?」

「あ、あの・・・」

「取って食いはしない。学校まで送るだけだ」

 く、食われるの?

「は、はあ」

 まさかこの人、ヤの付く職業の人じゃないよね?このまま密室へ連れ込まれて、あーんなことやこーんなことをされて転落人生なんてならないよね?

「早く言うんだ。本気で遅刻したいのか?」

「け、県立南高校です」

 思わず反射的に答えてしまった。私のバカ。いくじなし。

「わかった」

 男性はエンジンをかけると車をスタートさせた。車はほとんど音も立てず、それでいて力強い加速で流れに乗っていく。

 高校の近くまであっという間だった。

 と、校門までまだ間があるというのに車が道路脇に寄って止まった。なんでここで?

「ここで降りるんだ」

「は、はい。ありがとうございました」

「いや、気にしなくていい」

 シートベルトを外して車から降りると、校門へ向けて歩いたり自転車に乗ったりしている学生たちが見えた。どうやら遅刻は免れたらしい。

 ふと、気配に振り返ると私を乗せてきた車が走り去るところだった。濃い青色の大きな車。丸い輪が4つ並んだマークが目に残った。

お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ