最終話 「永遠に……」
――それから後は大変だった。
渚が街から出て行かないようにひたすらルビアに渚と一緒に頭を下げて頼み込む。
ルビアはそんな俺にネチネチと小言を言ってくる。
しかし、何処かその表情は嬉しそうだった。それは俺をいじめて嬉しいのか、
それとも……。
翌日には舞と黒羽さんに昨日の出来事を報告した。
二人にはかなり心配をかけたのだから当然の配慮だろう。
そんな俺の報告を聞いた舞は背中をバシンと思いっきり叩き、良かったじゃない! と
祝福してくれた。
黒羽さんも口には出してはいなかったが、報告を聞いたときの嬉しそうな
表情が何よりの言葉になった。
あ、そう言えば、涼子さんは俺の家から立ち去ってしまった。
俺と渚の行く末を見届けた後すぐに。
何故出て行くのか理由を尋ねると、描いていた絵をかきあげてしまったからとあっさり。
今度その絵を個展に出すから是非良かったら見に来てくれと言われた。
もちろん自費で。
ちなみに、結構後の話になるのだけれど、涼子さんは結婚することになる。
お相手はもちろん……。
果てさて、一番厄介だった事が渚の父親に報告に行く時だった。
もう緊張で胸がドキドキだった。
何しろ相手は白鳥グループの社長さん。多忙の身でありながら俺の為に
時間を作ってくださった。
渚の家の一室でご対面。
風格ある姿で厳しそうな人だった。
渚と俺、そして渚の父親の三人で話す……予定だった。
突然、渚のお父さんが俺と二人きりで話がしたいと言って渚を部屋から追い出す。
二人きりになった部屋では気まずーい雰囲気が漂う。
何とかしようと話しかけようとした時。
「……亮介君、だったかな?」
「え? あ、はい」
渚の父親から重い口が開く。
何を言われるのかドキドキしていると。
「亮介君、私はね、娘を幼い頃から不憫な思いをさせてきた。そんな私に娘は
愚痴一つこぼすことなく私を支えてくれた。そんな娘から初めて今日お願いされたよ。
君と一緒になりたいと。私は娘の願いを聞き入れてやるつもりだ」
「……お父さん」
「君は娘を幸せにできるか?」
「――はい。どんな事があろうと必ず幸せにします」
「……いい返事だ」
俺の言葉に渚の父親の表情が明るくなる。
こうして親の許可も貰い晴れて正式に恋人同士になった。
え? 俺の両親はどうだったのかって?
……あー、話すのがちょっと恥ずかしいのだけど……。
俺の両親に渚を連れて報告しに行った時、実は両親は渚が白鳥のお嬢様
という事を全く知らなかった。
何度も家に来ていたのにも関わらず。
両親と対面で話している時、その事を言うと両親から声にならない声が上がった後、
親父はその場で泡を吹きながら卒倒。
母親は頭を押さえながら倒れる。
その後の展開は実に分かりやすく。
"こんな駄目息子ですが、煮るなり焼くなり好きにしてやってください"
と、土下座しながら頼み込む両親。言い方がちょっと酷くないか?
そんなわけであっさり承諾したわけだ。
それからは渚にふさわしい男性になる為、日夜ルビアに勉強を教えてもらう。
竹刀片手に俺に学問を教え込むルビア。これがまた容赦なし。
もう地獄。この世の地獄とは正にあれだ。
けれど、側にいる渚の前で弱音を吐くことはしなかった。
――そして二年の月日が流れた。
今日は俺にとって大事な日になろうとしていた。
部屋の姿見で自分の服装を何度も念入りにチェックする。
普段と違ってこの日ばかりは失敗できない。
慣れない白い服装に身を包んだ俺。
「今からそんなにそわそわしてどうするのです。落ち着きなさい」
部屋の片隅で俺の様子を見ていたルビアが話しかけてくる。
とはいうものの、何処と無くルビアも緊張している様子。
「そ、そう簡単に言うけど無理だって。だって今日は――」
不意にドアがノックされる。
そして扉が開き部屋の中に女性が入ってくる。その姿を見て声を失う。
純白のドレスに身を包み、その姿はまるで光輝く宝石のような麗人。
彼女の前では誰もが感嘆と驚きの声をあげる。
形容しがたいほどの美しさ。
その姿を見た今でも俺は信じられなかった。まさかこんな日が来るなんて。
渚のウェディングドレス姿を間近で見られる日が。
渚は係りの人に連れられて部屋の中へと入ってきた。
「……ど、どうかな? 私は分からないけど、リョウ君から見て私はどう
見える?」
「…………」
「? リョウ君?」
「あ! いや、その……凄く綺麗。あまりに綺麗だから言葉が出なかった」
その言葉に渚は嬉しそうに微笑む。
改めて俺はとんでもなく幸運な男なのだと知った。こんな素敵な女性と
結婚できるのだから。……夢じゃないよな?
「お嬢様、とてもお綺麗ですよ」
「ありがとうルビ」
部屋の片隅から見ていたルビアが褒める。
渚の晴れ姿を見て嬉しそうだった。
「お嬢様は完璧なのですが、些か殿方が頼りないのが残念ですね」
ふぅ、とため息をついてこちらをチラリ。
「悪かったな、頼りなくて」
「まぁ、それは今後を期待していますよ、亮介様」
「ルビ……」
「はい、なんでしょうお嬢様?」
「今まで本当に有難う。小さい頃に母と別れ、父も忙しくて私にかまってくれなかった。
こんな私の面倒を今まで良く見てくれて感謝しています。あなたは私にとって
母親のような存在です。これからもよろしくお願いします」
そう言って渚は深々とルビアのほうに一礼する。
その言葉にルビアは感極まったのか、目元が潤んでおり、咄嗟に顔を後ろに向ける。
そして僅かにすすり泣く声が聞こえる。
「……ルビ? どうかしたの?」
「あ、いや、何でもないんだ渚。どうやらルビアは少し目にごみが入ったみたいだから」
「そうなの?」
「……は、はい。何でもありません。私のほうこそよろしくお願いします」
そうこうしている内に係りの人が呼びに来る。
どうやら時間が来たようだ。
俺と渚は部屋から出て所定の場所へと向かう。
二人手をつないで教会の中へと入っていく。
教会の中には見知った知り合い、それに俺たちの両親が椅子に座っていた。
皆俺たちを盛大な拍手で迎える。
そんな拍手の中を二人歩き、聖職者の前に来る。
そして。
「汝、貧しい時も豊かなときもこの女性を愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、
その命ある限り、かたく節操を守ることを約束いたしますか?」
「ハイ、約束します」
聖職者の問いにはっきりと断言する。
「汝、貧しい時も豊かなときもこの男性を愛し、これを敬い、これを慰め、
これを助け、その命ある限り、かたく節操を守ることを約束いたしますか?」
「はい。約束します」
「では……指輪の交換を」
俺と渚は向き合い、互いに指輪の交換をする。
そして渚のヴェールを上げ、誓いのキスを交わす。
「神と公衆の前で二人は夫婦となる約束をいたしました」
その聖職者の声に皆が再び大きな拍手を送る。
教会を出て行く時、皆が祝福の声を掛けてくる。
「亮介ー! 白鳥さん泣かせるなよー! 絶対幸せにしろよー!」
「ああ、絶対幸せにしてみせる」
正輝は泣きながらそんな言葉をかけてくる。
アイツにもいい人が見つかると良いんだけどな……。
「亮介!」
「舞?」
「末永くお幸せにねー!」
笑顔で手を振って俺たちを祝福する舞。
それに応えるように俺と渚も手を振る。
「渚さん……」
「朱音?」
出て行く時に黒羽さんが渚を呼び止める。
黒羽さんはジッと渚の顔を見た後、ふっ、と笑顔を見せ。
「あなたには最後の最後まで敵いませんでしたね。特に神崎様の事に関しては
完敗です」
「朱音……」
「ですが、私は二人に負けないぐらい良いパートナーを見つけるつもりです。
これからも良きライバルとしてお付き合いさせていただきますわ」
と、最後の台詞辺りは実に黒羽さんらしい。
まぁ確かに黒羽さんと俺たちはまだまだ関わり合う立場だからな。
そうして教会を出て行こうと歩いていると、渚の足取りが少しぎこちない。
それを見た俺は俺はしゃがみ込み、渚の両足を持ち上げて胸の辺りで抱え込む。
以前の体育祭でやったお姫様抱っこだ。
「り、リョウ君!?」
突然の出来事に渚も戸惑う。
「何、別に初めてじゃないんだ。これくらい良いだろ?」
「で、でも……」
「渚……好きだ。これからはずっと一緒にいような」
「――うん!」
渚を抱えて教会を後にする。
初めはほんの些細なキッカケ。そして再びめぐり合った二人。
様々出来事に翻弄されつつもそれを乗り越え愛を育んだ二人。
そんな二人の未来に幸あれ。
―fin―
いかがだったでしょうか? とりあえず自分では笑って面白く、物語も面白くを目指して書いてみたつもりです。少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
評価をくださった方々、この小説を見てくださった方々、本当に有難うございました。それらが自分にとって何よりの励みになり、こうして最終話まで書く事ができました。また皆さんに読んで頂けるような小説が書けるように頑張って行きたいと思います。
良ければご感想、ご意見を頂けたら幸いです。
次の作品にそれらを考慮して作って行きますので。
ではまた。