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第四話 「黒い羽のお嬢様」

――時は、白鳥渚が亮介の居る学校に転校してきた日にさかのぼる。


「な、なんですって!? あの娘が転校した!?」


ある豪邸の一室。

一人の女性が有る事実に驚きの声を上げていた。

そして、その情報を伝えた正装に身を包んだ老人がいた。


「そう……どうやら、私に勝てぬと悟って他の学校に移ったというわけね。

 なかなか賢い判断ね」


ほ〜っほほほと、甲高い笑いがこだまする。


「お嬢様、それがそういうわけでもないようです……」

「えっ?」

「どうやら白鳥家のお嬢様は何か目的があって転校なされたようで」

「目的? 一体何の目的で?」

「そこまでは……」


ふ〜ん、と、扇子せんすを片手に何やら考える女性。

そして、女性はピシャッと扇子を閉じると。


「爺、支度をなさい」

「はっ? と申されますと?」

「あの私のライバルである子が転校するほどの理由……気になります。

 私もその学校へと転校します」

「お、お嬢様!?」

「見てなさい白鳥渚……唯一私の顔に泥をぬった女性。ナンバーワンはこの

 『黒羽くろは朱音あかね』だという事を思い知らせてあげるわ!」




――そして、今日こんにちに戻る。



「うっ!」


朝起きると、なにやらとてつもない悪寒が……風邪かな?

最近とんでもない事ばかり起こってるから疲れているんだろう。

あくびをしながら洗面台に向かった後、台所へといつもどおり向かう。


「お早う、かあさ……」


……ん? おかしいな? 俺の家族は爺さんが他界して4人。

しかし、幾ら数えても今この場所に居るのは俺を入れて6人いる。

ああ、そうか、そこに渚と舞が居るから6人なんだ。なるほど、納得、納得……。


「するかぁー!」


思わず叫ばずにはいられなかった。

舞達が来る時間帯はまだ30分ほどの余裕がある。

しかし、今その場でなんら違和感なく家族と朝飯を一緒に食べていた。


「亮介の母さんの作ったお味噌汁美味しい!」

「ふふ、ありがとう舞さん」

「また絶妙な味加減ですねお母様、これほどの料理の腕でしたら私の所で働いてみませんか?」

「あらあら、そんなに褒めてもらえると嬉しいわ白鳥さん」

「俺を無視するなー! なんで家に居るんだよ!?」


ギャーギャーと喚く俺を無視して平然と居座る二人の他人。

俺の唯一の安らぎの時間をも奪う気かこいつらは!


「仕方ないじゃない、外で待ってもらうのも悪いから私が中へ誘ったのよ。

 ついでだから一緒に朝ごはんでもどうぞって」

「母さん! そんな必要ない! なんで今日はこんなに早くいるんだよ!?」

「今日は? 違うわよ亮介、正確には今日『から』よ?」

「……えっ?」

「だって〜、私達一応『恋人』同士なんでしょ?」


その発言に親父と妹が味噌汁を吹く。

恋人と言う言葉をやけに強調する舞。


「お、おま、お前いつから舞さんと恋人同士になったんだ!?」

「お兄ちゃん! 舞さんに何したの!? まさか脅迫!?」


あまりの衝撃スクープに俺に問いかける親父と妹。

いや、一応の部分を聞いておいてくれよ。


「だから、二人きりで一緒に登校したいからこうやって早くに来たのに、

 もう、今度から早く支度しておいてよ?」


うわー……なんというスイートボイス。

とろけるどころか甘すぎて液状化してしまいそうなほど。

普段の舞からは決して聞けないだろう。

それもこれも、隣に渚がいるためであろう。

しかし、当の本人の渚はなんら慌てている様子は無かった。


「なかなかお芝居が上手ですね、相沢さん」


フゥとため息をついて味噌汁を飲み干した茶碗を置く渚。

その言葉にムッとした表情を見せる舞。


「お芝居? どうしてそんな事言うのかしら?」

「だって、リョウ君の事を一番良く知ってるのは私だから、リョウ君の性格を考えたら

 大体の経緯は分かるわ。どうせ、私がリョウ君に付きまとうからそれを除く為に

 こうやって恋人のフリを見せ付ける事で遠ざけようとしてるんでしょ?」


なんという眼力! あたかも現場を見ていたかのようなご感想。

二人の空気がどんどん悪い方向へと進展していっている気がする。

渚と舞の間にすさまじい火花が散っている。


「ふ〜ん、お芝居かどうか思うのはあなたの勝手だけど、これ以上亮介に近づかないでね」

「あら、それは個人の自由でしょ? あなたの方こそ、これ以上リョウ君に近づかないで」

「す、ストップ! ストップ! 二人共俺の家で争い事はやめてくれ!」


危険を察知して身を挺して俺は二人を止める。

これ以上は血を見そうで怖い。


「大体、亮介が悪いんでしょ!? はっきりいってやりなさいよ! 迷惑だって!」

「リョウ君、そんな事ないよね? だって、私とリョウ君はラブラブだし」


そういって、不意打ち気味に俺の腕に抱きついてくる渚。

そして、それを見て拳に力が入る舞。


「この……馬鹿ぁー!」


なぜか、俺の顔面に正拳突きを食らわしてくる舞。

その凄まじく理不尽な一撃で俺は倒れる。

ああ……明日から俺、大丈夫なのかな?


二人の美女と一緒に学校に登校する俺。

周りからはすさまじいざわめき声が。

なんで? どうして? 天変地異? などの疑問詞ばかりが飛び交う。

そんな視線を何とか潜り抜けながら学校へと辿り着く。


「亮介、どうしたんだよ? その顔のアザは?」

「聞くな。聞いたところで何も答えることができない」

「?」


正輝の心配をよそに、俺はこれからの事について初めて真剣に考える。

二人の美女が近くにいるのは俺も嬉しいことだけど、こんな調子では体が持たない。

一刻も早くあの二人をどうにかしないと……。

などと考えていると、校庭のほうからなにやら車の音が聞こえてくる。

皆窓の方へと集まっていく。

するとそこには、校門の前に一台のリムジンが止まっていた。

車体の側面には丸い円に黒い羽が書かれた趣味の悪いエンブレムが目に付く。


「はわわわ……ま、まさかあの円月に漆黒の羽模様は!」

「あれ? 知ってるのか正輝?」

「馬鹿、ありゃ白鳥グループに勝るとも劣らぬ企業「黒羽」グループの

 エンブレムだよ!」

「黒羽?」

「そう……総帥「黒羽くろは源治げんじ」がたった一代で築き上げた大手会社だ。

 創立200年を誇る黒羽グループ。食品、車、電子機器など様々な分野で活躍していて、

 どの分野も日本の十本の指に入るほどの大会社だよ」

「へ〜」


正輝の説明を聞いていると、リムジンから誰かが降りてくる。

リムジンから降りてきたのは俺達と同じ歳と思われる若い女性だった。

例えるなら……。


「わぉー! 艶やかな黒い髪に黒真珠のような輝きを持つ瞳。人形のように整った輪郭。

 モデルに勝るとも劣らぬそのスタイル。やや高い身長がそれを引き立てる!

 そしてなにより風格のある姿! ワンダフル! こんな女性が存在してたなんて!」


らしいです。

正輝さん、見事な解説ありがとうございました。


「あれ? もしかしてあれって朱音?」


窓の外を覗く渚が驚いた様子で声を上げる。

そして、外にいる黒羽の女性はこちらを見て僅かに微笑んだ気がした。


「渚知り合い?」

「ええ。以前の高校で一緒でしたから」

「どんな人?」

「極めてプライドの高い人で、スポーツ、成績共に優秀な人ですね。

 とても素晴らしい方だと思いますよ」


渚の言葉にへー、と素直に驚く。

しかし、渚の口調が朝と比べてやけに丁寧だな……。

その時、友人の正輝が俺の肩に手を置く。


「りょ〜す〜け〜、やけに親しそうじゃないか? 白鳥さんの事を渚と呼び捨てとは」

「えっ!? そ、そうだったか?」

「お前と白鳥さんは一体どういう関係なんだ?」

「友達よ! ただのと・も・だ・ち! そうでしょ亮介?」


何時の間にか颯爽と俺達の側に来て、俺に否定を促す舞。

まぁ、確かにそうなんだけど……なぜか隣にいる渚の視線が非常に痛いというか刺さる。


「ま、まぁそういうことなんだよ正輝」

「そうか、そうだよな! いや〜、疑って悪かった」

「いや、いいん……イデッ!」

「どうした? 亮介?」

「い、いやなんでもない」


むすっとした表情で俺の背中を密かにつねる渚が居た。

な、何で!? 本当の事言っただけなのに!


「ええ、そうでしたね。「今は」ただの友達でしたね」


そう言ってプイッと不機嫌そうに自分の席へと戻っていく渚。

俺達も朝のHRが始まる為、自分の席へと戻っていく。

そして、うちの担任になりすましたメイドがやってくる。


「唐突ですが、皆さんに今日から一緒に勉強する生徒を紹介します」


その言葉に皆がざわめきだす。

どう考えてもそれは転校生がうちのクラスに入ってくるって事だよな?


「先生、どうしてうちのクラスばかり転校生がくるのですか?」


生徒の一人が尋ねる。

しかし、もっともな意見である。

このクラスは転校生がはいって来たばかりなのに、また転校生を入れるとは……

普通他のクラスに配属されるべきではないだろうか?


「大人の事情です。あえて言うなら圧力です」


うわー……さらりと裏側を暴露しやがったぞこのメイド。

できることならオブラードに包んだ言い方をして欲しかった。


「では、入ってきなさい」


そういうと、教室の扉が開いて一人の女性がはいって来た。

それは紛れもなく今朝のリムジンから出てきた女性であった。


「えー、黒羽朱音さんです。皆さん知っての通りの黒羽グループのお嬢さんです」


紹介されてみんながざわめく。

これまた驚くほどの美女が入ってきたからであろう。

特に、隣の友人がうるさい。

そして、お嬢様にふさわしい丁寧な自己紹介を……


「愚民の皆さん、初めまして、私があの黒羽グループの次期社長『黒羽くろは朱音あかね

 です。まぁ、本来ならあなた方ではお目にかかれない私を目にすることができる貴方達は

 非常に幸運ですわ。くれぐれも私に失礼のないように」


ある意味してくれました。

みんなの歓迎ムードが一気に冷める。

しかし、彼女の方はそれを気にした様子は全く無し。

彼女は手に持っていた扇子を広げて、フフンと笑う。正にお嬢様。


「え〜、それでは席のほうはあちらの最後尾で」


そういって席を指差すメイド先生。

そして席のほうへと向かう為に俺の隣を通り過ぎようとしたときだ。


「キャッ!」


突然、黒羽さんは何かにつまづいたように態勢が崩れる。

俺は咄嗟に彼女が倒れないように席から立ち上がって体を受け止める。


「だ、大丈夫?」


彼女は俺の方を見て驚いた表情をする。

そして見つめる事数秒。


「あ、あの、黒羽さん?」

「さ……」

「さ?」

「触らないで! 変態!」


そういって助けたお礼としてビンタを頂きました。しかも往復で。

非常に張りのあるいい音が二回教室に響き渡る。

そして、何かハッとする黒羽さん。


「あ、あなたが悪いのです! 私の体を触ろうと……」


真っ赤に頬を染めて全くの事実無根の事をおっしゃる黒羽さん。

こんな教室内で、しかも会って5分も経ってない人の体を触ろうとするわけないだろ!


「くそー! そんな手があったとは! 考えもつかなかったぞ亮介!」


隣で悔しそうに黒羽さんの嘘を真に受ける正輝アホが一人。

どう考えてもおかしい事に気づけよ。


「お前は馬鹿か! 俺はそんな事しない!」

「亮介、否定したい気持ちは分かるが、ここはおとなしく罪を認めろ」

「認めるかー!」



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