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第四十六話 「失恋」

神社で偶然舞と出会って、晩御飯をご馳走してもらうという流れに。

驚くべき事に、舞の両親は出かけて今日は帰ってこないという。

舞は自転車を手で押して俺と一緒に並んで歩いて帰る。

自宅を通り過ぎ、舞の家へと入っていく。

中に入ると清潔感漂う洋風の佇まいが広がる。

床はフローリングで、真っ白な壁。

舞の趣味か、それとも舞の両親の趣味なのか分からないが、可愛らしい熊のデザインされた

小物や、手作りのリースなどが飾ってあった。

靴を脱いで玄関を上がり、舞に部屋を案内される。

案内された場所はダイニングキッチン。目の前にはテーブルが置いてあり、テレビも

部屋においてあった。


「それじゃあ亮介はそこに腰かけてて。すぐに支度するから」

「何か手伝う事は無いのか?」

「大丈夫よ、心配しないで。亮介はそこでゆっくりとテレビでも見てて」


舞は買い物袋をキッチンへと運ぶと、エプロン姿になって手早く夕飯の準備を

始める。

軽快でリズムの良い包丁の音や、フライパンで炒める音が聞こえてくる。

キッチンで支度している舞の姿は、普段の舞を知っている俺から見れば想像も出来ない。

そうこうしていると、美味しそうな香ばしい匂いが漂ってくる。


「お待たせ。少し口に合わないかも知れないけど、どうぞ召し上がれ」


舞は出来た料理をテーブルの上に置いていく。

ナポリタンに野菜サラダ、そしてコンソメスープ。

俺は料理を一口、口に運ぶ。


「……美味い!」


お世辞抜きで本当に美味しい。

多少は不味い飯を覚悟していたが、それを良い意味で裏切ってくれた。

飯を食べる手が進み、ガツガツと勢い良く食べていると。


「良く食べるわねー、そんなに美味しい?」

「ああ。本当に美味いよ舞。これだけ美味しいもの作れるなら、いいお嫁さんになれるよ」

「――そ、そう?」


料理をあっという間に食べつくすと、舞は空になった皿を流しに運び、洗い物を

始める。俺も何か手伝うと言ったのだが、断られる。

そんな訳で仕方無く、椅子に座って目の前のテレビを見るしかなかった。


「そういえば、渚さんどうして学校辞めたのか分かった? 亮介」

「えっ?」


舞が洗い物をしながら俺に尋ねてくる。

突然の質問に戸惑う。


「ど、どうしてそんな事聞くんだよ?」

「なんか気になって。最近の亮介ってなんだか元気ないから」

「それが渚の辞めた理由と何か関係が?」

「ある、と私は思ってるけどなー。亮介なら渚さんの辞めた理由を知ってるんじゃないかなって」


洗い物が終わり、舞はタオルで手を拭きながらテーブルへと戻ってきた後、俺の対面に座る。

そして、俺をジッと見つめて。


「教えてくれない? 一応私も気になってるんだ、渚さんが辞めた理由」

「…………」

「亮介と私の仲じゃない。誰にも言わないから、ねっ?」

「……るな」

「えっ?」

「ふざけるな! そんな興味本位で聞くような事じゃないんだよ!」


舞の軽い口調に思わずテーブルを叩いて立ち上がる。

俺のあまりに意外な対応に舞はビクッ、と体を震わせて驚く。

それを見てハッと我に返る。


「……ゴメン。急に怒鳴ったりして」


椅子に腰を下ろすと、気まずい空気が漂う。

舞は先ほどの俺の異常な言動である程度察したのか。


「……ただ事じゃないみたいね、亮介」

「…………」

「亮介さえ良かったら教えてもらえない? 興味本位なんかじゃなくて、私も心配なの。彼女の事が」

「……誰にも言わないな?」


舞は黙って頷く。

屋上で聞いたルビアの話をありのまま舞に伝える。

目が見えなくなった事、後二日したらこの街を去るという事。

舞も俺の話を聞いた後、驚きのあまり言葉が出ない様子。

重苦しい雰囲気がのしかかる。


「それで、亮介はどうするの?」

「……どうしようもないよ。ただ、渚が幸せになるのを願うだけだよ」

「…………」


舞は視線を下に落とした後、ため息をつく。その様子は何処かガッカリしたようにも見えた。


「ねぇ、白鳥さんは何か欲しいものとか無かったの?」

「えっ?」

「このまま白鳥さんと別れるのも嫌だし、折角だから私プレゼントしたいの」


そういうと部屋の片隅にあった洋服のカタログに、宝石や小物などが描かれている

雑誌を持ってくる。はい、と俺にも雑誌を一冊渡してくる。


「何か良いのあったら教えてね」


舞はそれだけ言うと雑誌に目をやる。ペラペラと見ているのか見てないのか

分からないぐらいの速さで目を通していく。

仕方ないので俺も雑誌に目を通していく。

雑誌には石特集と大きな字で書かれており、色んな誕生石を

アクセサリーにしたものが載っていた。

その中の一つに目が止まる。

それをジッと見ていると、興味を示した舞がそれを覗き見る。


「えっと……ムーンストーン? それが良いの?」

「あ、いやそういう訳じゃないんだ……」

「じゃあ何よ?」

「渚が以前月が欲しいって言ってたの思い出したんだ」

「つ……月!?」


むぅ、と唸る舞。小声で、そんなのどうやってプレゼントすれば良いのよ? 

などと言っているのが聞こえてくる。

いや、幾らなんでもそれは無理だから。


「それ本当なの?」

「ああ」

「……ねぇ亮介、何かおかしくない?」

「何処が?」

「白鳥さんが月を欲しがる理由よ。目が見えなくなるのに月を欲しがってるなんて

 おかしいわよ。……なんか引っかかるわね」

「渚は暗闇を照らす月が欲しかったんじゃないかな? 明るく照らしてくれる灯りが。

 ……そういえば渚が言っていた言葉があったな」

「どんなの?」

「確か……"見てると直ぐ近くに居るみたいだけど、実は遠い。

 遠い、遠いお月様。私にはその姿を眺めることしかできない"だったかな?」


まぁ、そうだよな。月と地球はかなり離れてるし。

眺めるしか出来ないよな。

しかし、舞はハッ、と何か閃いた様子。

そして頻りに頷いた後、納得した結論に達した様子。


「今の亮介の言葉で理解できたわ。どうして白鳥さんがそんな事を言ったのか」

「どういう事だ?」

「恐らく、白鳥さんは"月は欲しくなかった"と思うの」

「……えっ?」


舞の言葉に一瞬呆気に取られる。

欲しいと言っていたのに、欲しくなかった? まるでトンチだ。


「それはどういう意味だよ?」

「私が考えるには、白鳥さんは本当の事が言えなかったんじゃない?

 だから喩えで月なんて言葉を出したんだと思うの」

「じゃあ本当は何が欲しかったんだよ?」


訊ねると舞は少し暗い顔をする。

しばしの間沈黙した後、舞は口を開く。


「月のような人……じゃないかな」

「月のような人?」

「ええ。すぐ側にいるけど、実は遠い。遠い、遠い思い人。

 私には彼の姿を眺める事しか出来ない。

 自分の暗闇を照らしてくれる月のような……」


何処か淋しげに、哀愁が漂う喋り方。

もし、それが本当だとすれば渚が言う月のような人とは――。



「……そっか。それじゃあこれでお終いね」

「えっ? 何が?」

「何って、恋人のフリよ。もうする必要なくなったじゃない。だって亮介には

 良い人が見つかったみたいだから」

「あ……それは」

「亮介を好きになってくれる人なんて他に誰も居ないわよ。大切にしなさいよ?

 それじゃあ、ご飯も終わった事だし、帰った、帰った」


舞に強制的に席から立たされ、そのまま背中を押されて玄関の

方へと向かわされる。


「お、おい舞。突然どうして……」

「ゴメン」

「えっ?」

「一人にして欲しいの」


背中越しにそう伝えてくる。

心なしか声が微かに震えていた。

舞の顔を見ることは出来ず、そのまま家を追い出される形になった。

しばらく舞の家を見上げた後、踵を返してゆっくりと自宅のほうへと向かった。


 



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