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第四十二話 「手遅れ」

突然の報告に皆騒然。

渚が……学校を辞めた? そんな馬鹿な。

だって、昨日学校で会うって約束を……。


「おい、亮介聞いたか今の言葉! 白鳥さん学校を辞めたって!」


隣にいた正輝も驚いた様子で俺に話しかけてくる。

ルビアはそれだけ告げると教室を出て行く。

冗談じゃない、そんな言葉だけで納得いくわけが無い!


「おい、亮介! どこにいくんだよ!」


俺はすかさず席から立ち上がり、教室を出て行ったルビアを追いかける。

職員室のほうへ歩いていくルビアの肩を掴み、強引に振り向かせる。


「どういう事なんだよ! 渚が……渚が学校を辞めるって!」


ルビアの肩をがくがくと揺さぶる。

しかし、俺の慌てた様子をさも冷めた表情で俺を見るルビア。


「どういう事もありません、事実を述べたまでです」

「あんな言葉だけで納得いくわけ無いだろ! 理由を……理由を教えてくれよ!」

「……他の生徒がこっちを見ています、手を離しなさい」


俺が荒げた声で喋っている為、廊下の生徒からの注目を集める。

そんなの知った事か。


「じゃあ何で渚が学校辞めたか教えてくれよ」

「話す事などありません」

「あ、あんたって人は!」


俺はルビアを掴んでいる手に力が入る。

その時、ルビアが小さく折りたたまれた紙をポケットから取り出し、俺に見せる。


「……もし、知りたいというのであればこの紙に書かれているとおりにしなさい。

 そうすれば教えてあげましょう」

「えっ?」


その言葉に力が緩む。瞬間、ルビアは俺の手を払いのけた後、紙を床に落として

職員室へと帰っていく。

俺は慌ててその紙を拾い上げてすぐさま開くと。


"今日の放課後、屋上に一人で来なさい。必ず一人で"


そう記されてあった。

放課後……。放課後に屋上に行けば渚がなんで学校を辞めたか分かるのか?

確証は無い。だが、ルビアは嘘をつくような人ではない。

俺は紙をポケットにしまい、放課後を待つ事にした。

教室に戻ると、舞と正輝が驚いた表情で教室に入ってきた俺を見ていた。


「ど、どうしたのよ亮介? いきなり飛び出していくからびっくりしたわよ」

「悪い、どうしても渚が辞めた事が腑に落ちなくて」

「それで、教えてもらえたのか? 白鳥さんが辞めた理由」

「いや、全く駄目だった。断固拒否された」


俺の言葉にそっか、とため息をつく正輝と舞。

そうして俺は自分の席に戻る。



授業は順調に進む。

今日はやけに時計の針が進むのが遅いと感じる。

教室の中にぽっかりと空いた空席を俺は眺める。

信じない。渚が学校を辞めたなんて。

そして、運命の時間を告げる鐘が教室に鳴り響く。

皆ワイワイと騒ぎながら席を立ち、蜘蛛の子のように散らばっていく。


「亮介、今日一緒に帰らないか? 実は美味い店があるんだが……」

「すまないけど、今日は正輝一人で帰ってくれ。ちょっと用事があるんだ」

「……そうか。それじゃあ、また明日な!」


正輝は俺の方を向いて手を上げた後、教室から出て行った。

次々と教室から出て行く皆を見送り、俺は教室で一人になった事を

確認した後。


「さて、じゃあ行くか」


俺は椅子から腰をあげて屋上に向かう事にした。

教室を出てゆっくりと屋上へと続く階段を昇っていく。

階段の一段、一段がやけに重く感じる。

あたかも死刑台に続いているような錯覚。

そして、階段を昇りきり、目の前にある鉄の扉のドアノブに手をかける。

ギギッと錆付いた音を立てながら扉が開く。

目の前に飛び込んできたのは茜色に染まった夕焼け空。

屋上は高いフェンスで囲まれ、周りには何も無い。

冬という事もあり、冷たい風が屋上には吹いていた。こんな寒空の中、

屋上にくるなんていう奴はよほどの物好きでも無い限りいないだろう。

そして、屋上の中央にルビアが立っていた。

俺は扉を閉め、ルビアのほうへ近づいていく。


「……悪い、こんな寒い中待たせてしまって」

「亮介様、ちゃんと一人で来られましたか?」

「ああ。念には念を入れて皆が帰った後にここに来た。だから大丈夫だ」


その言葉にルビアはわかりました、と返事をする。

さて、ようやく聞くことが出来る、渚が辞めた理由を。


「聞かせてくれ、どうして渚は辞めたんだよ」

「いいでしょう。ですが、その前に一つだけ貴方に聞いておきたい事があります」

「? 何だよ?」

「私の以前の言葉を覚えていますか? 亮介様と結婚したいという言葉の意味を

 考えて欲しいという……」

「あ、ああ。だけどそれがどうしたんだよ?」

「教えてください。あなたがあの言葉をどう解釈したのか」


ルビアの言葉に驚く。

どう解釈も何も、俺にはそのままの言葉の意味しか感じ取れない。


「あ、ありのままだよ。それ以外思いつかない」


俺の答えにルビアは大層残念そうな顔をする。

ぐっ、だけどそれ以外考えられない。


「し、仕方ないだろ! 答えなんて分かるわけ――」

「答えならすでに出ています」

「えっ?」

「それも亮介様、あなたの口から」

「う、嘘!?」


今までの自分の言葉を思い出す。

だが、やはり分からない。

答えを口にしているなんて思えない。


「亮介様」

「な、何だよ?」

「もし、初対面の子が貴方に結婚して欲しいと願ってきました。貴方はどう

 返事をしますか?」

「そんなの出来るわけないだろ? 付き合っても無いし、知った顔でもない。

 断るに決まって……」

「そう、それが答えです」

「――えっ?」

「正常な人ならば必ず断ります。……疑問に思いませんか? 何故、

 お嬢様は貴方に、"付き合って欲しい"ではなく、"結婚して欲しい"と

 言ったのでしょうか?」


何故? 確かに言われてみればそうだ。

どうして渚は俺に結婚して欲しいといってきたのだろうか?

普通に考えれば順番的に、付き合ってくださいだ。

何故、俺に付き合って欲しいと言わなかったのか……まさか。


「渚は"付き合って欲しくなかった?"」

「そのとおりです、亮介様」

「! な、なんだよそれ! 意味がわからない! じゃあ何か?

 渚は俺をからかっていたのか!?」

「亮介様、その言葉は二度と口にしないでください」


射抜くような視線で俺を見るルビア。

思わず口を閉じてしまうほどの威厳があった。


「全くの逆です。お嬢様は、貴方のことを愛しているのです。

 だからこそ、亮介様の為にと思ってその言葉を口にしたのです」

「俺の為?」

「そう。そして、それが学校を辞める理由でもあります」


ルビアは一度大きなため息をついてしっかりと俺の顔を見る。

そしてルビアは事実を俺に伝えてくれた。



「お嬢様は……もう、目が見えないのです」


――それが例えどんなに残酷な事実だろうと。

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