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第三十四話 「体育祭だ!」

天候は快晴。

普段なら喜ぶのだが、今日だけは違う。また嫌な時期が来てしまった。

俺のように憂鬱な奴や逆に嬉しそうな顔をする奴が運動場に集まっていた。

学年ごとに縦一列で全校生徒が並ぶ。

周りには白いテント郡がグラウンドを囲むように配置されていた。

そして俺たちの前に高台に登った校長がマイクを持つ。


「えー、本日は天候に恵まれ…」


校長の話は長々と続き、終わったと思ったらそれとすれ違いに生徒の

一人が高台に立つと。


「ではこれより、体育祭の開催を宣言いたします!」


その言葉を聞くとワーと拍手が巻き起こる。

そう、今日は年に一度の体育祭。スポーツが苦手な俺にとって今日は悪夢の一日なのだ。

選手宣誓が終わり、各学年、それぞれの配置されたテントへと戻っていく。

テントの下は茣蓙ござが敷かれており、そこに座り込む。

俺たちの体育祭は五つのチームに分かれてのチーム戦。

赤、青、黄、緑、紫と分かりやすく、

その中で俺たちは赤に入る。

皆ワイワイとはしゃぐ中で特にはしゃいでいる男が一人。

腕にキャプテンマークの腕章をつけて、テントの前に出て

応援の旗を振る猛烈にヤル気がある男。

俺はその男と目が合う。


「なーにやってるんだよ亮介! もうちょっとヤル気出してくれよ!」

「何でお前はそんなに元気なんだよ正輝。そこを教えて欲しい」

「なんでって、お前今日は体育祭! 祭りなんだぞ!? 

 ヤル気出さずに何出すんだよ!」


ウガー! と叫ぶ正輝。

正輝はあー見えてはしゃぐのが大好きで、特に祭り事になると目が無い。


「亮介、種目は何に出るんだ?」

「えーっと、借り物競争だな。午後からだ」


前日に配られたプログラム表を開いて俺は答える。

その言葉に正輝は。


「じゃあ俺と一緒か」

「げっ、正輝と一緒かよ」

「そんな嫌そうな顔するなよ……おっ? どうやら相沢さんの番だぞ?」

「えっ?」


そうしてスタート地点を見ると確かに舞の姿が。

プログラムでは大層変な名前で書かれているが、実際のところは五十メートル走。

駆け引きも運も必要としない生粋の実力勝負。

舞の順番では運動部の方々が横に並ぶ。これはなかなか見物だ。

そして、スタートを告げる火薬の音が鳴り響く。

全員横一列の見事なスタート。

皆速い速い。まるで駿馬のような速さ。

カーブを抜けて最後の直線で頭ひとつ舞が飛びぬけてそのままゴール。

一位になった舞が俺たちに向けてVサインをする。

それに応えるように俺たちも歓声をあげる。


「ひゅー、さすがだな相沢さん。運動神経抜群なだけあって

 あの強豪の中一位になるなんて」

「ああ、凄いな」


そうして舞が俺たちのテントに戻ってくる。

皆拍手で舞を迎える。


「さすが相沢さん! よかったよー!」

「結構厳しかったかなー、ほんの紙一重だったもの」

「凄かったよ舞。一位おめでとう」

「あ、ありがとう亮介」


果てさて、次はなんと黒羽さんの番。

種目は同じく五十メートル走。

黒羽さんは自分の番になってもなぜか扇子を片手に持ったまま。

なんと余裕な。それを見て同じ番の人たちはなにやら不機嫌。


「なぁ、あれは幾らなんでもまずくないか? 走りにくいだろうし」

「そうだよな。なぁ正輝、黒羽さんって運動の方はどうなんだ?」

「大丈夫だよ、神崎君」

「渚?」


俺たちが話している後に何時の間にか渚が来ていた。

大丈夫と言われても、結構舞と負けず劣らず凄いメンバーなんだよ? 

黒羽さんの横の人たち。

俺たちは不安になりながらも黒羽さんを見届ける事に。

そしてスタートの合図が鳴り響く。

横一直線のスタートと思いきや、頭ひとつ黒羽さんが抜ける。

そして長い髪をなびかせながら颯爽と駆け抜ける。

皆黒羽さんに追いつけず、一人独壇場。

そして他を寄せ付けず圧倒的な強さを見せ付けて勝利。

ゴールした後も疲れた様子を見せず扇子を開いて

余裕の表情。


「す、凄すぎる……」


開いた口がふさがらない正輝。

俺も目が点。


「ねっ? 言ったとおりだったでしょ?」

「渚は知ってたのか? このことを?」

「勿論。だって同じ高校にいたんだから。陸上じゃあ向かうところ

 敵なしって言うぐらい凄かったんだから」


まさに段違い。

そして余裕の表情を見せて俺たちのテントへと帰ってくる。


「お、お見事です黒羽さん」

「まぁ余裕でしたわね。どうでしたか神崎様? 私の勇姿のほどは?」

「す、凄かったです」


俺の言葉に笑みをこぼし茣蓙ござに座る。

果てさて、このまま俺たちの余裕勝利かと思いきや、

そう上手くいかないのが現実。

奮闘する女性陣に対して、なんともふがいない男性陣。

種目を終えて帰ってくる毎に目を当てられないほど

ドンヨリとして帰ってくる男達。

プログラムは進み、現在第三位で意外と接戦。


『えー、"山あり谷あり地獄あり"に出場する方、正門の方に集合してください』

「あっ、次私の番だ」


拡声器から聞こえてくるアナウンスに渚が反応する。

あわてた様子で正門の方へと走っていく。


「亮介、山ありってどんな競技だ?」

「えっと、ちょっと待ってろ……ああ、障害物競走だな」

「障害物かー、少し運が絡んでくるな」


うーん、と悩む正輝。

グラウンドではせっせと障害物が設置されていく。

障害物競走は平均台を渡って、ネットを潜り、額にバットをつけて

何回か回った後、目の前にある袋に

足を突っ込んでゴールと。

最初の平均台が二つしかないから意外とスタートで決まりそうだな。

そんな事を考えながらいざ始まってみると意外や意外。

正輝の言ったとおり運が絡んだ結果が多かった。

最初は先行していた人も最後のバットで苦戦してビリなんてのも

珍しくなかった。

そしてついに渚の番となる。


「果てさて、白鳥さんの実力はいかに?」

「どうなんだろうなー、渚が運動神経良いようには――」

「無いですね」

「く、黒羽さん? 今の言葉は本当ですか?」

「ええ。あまり運動の方は良くはありませんでしたね。

 まぁ期待せずに見た方がいいかと」


ハッキリと断言する黒羽さん。

そんな話をしている内に渚がスタート。

渚はがんばって走るものの、皆と比べてやや遅い。黒羽さんの宣言通り

あんまり得意ではないようだ。

しかし予想外なことは起こるもの。

皆バットでフラフラなのに対して渚は意外にも目が回った様子は無く、

そのまま二着でゴールと大健闘。


「うーん、白鳥さんの最下位からあの追い上げはすごいな」

「俺もてっきりビリかと思った」


そうしてプログラムは順調に進み、昼食の時間となった。

皆各自それぞれの親の所に弁当食べに行く人や、学校で頼んでいた

弁当を取りに行く人がいた。

俺は親が来ているので、親のテントへと向かう。

そこには親と妹、涼子さんがいて、そしてもう一人、

笑顔が似合う男性が一人いた。


「あれ? 拓海さんじゃないですか」

「やぁ、どうも」

「どうしたんですか? こんな所に?」

「今日涼子に会いに行ったら君の体育祭を見に行くと言ってね、

 それでよかったら僕もどうぞと誘ってくれたんだ」

「少年、言っておくが誘ってないからな」


ぶすっと困ったような表情でそんなことを言う涼子さん。

そして拓海さんを交えた六人で仲良く囲んで親がこしらえてきた弁当を頂く。

昨日の残り物が多いが、それはまぁ何時ものことだ。

俺が弁当を食べていると、向こうの方から一人こちらに歩いてくる男が。


「よぉ亮介、調子はどうだ?」

「何だよ正輝、今食事中なのだが?」

「そう固いこと言うなよ、おや? お姉さんもいらしてたんですか!」


白々しく今気づいたように言う正輝。元から正輝の狙いは涼子さんなのだ。

正輝は涼子さんに明るく話しかけていると、拓海さんの存在に気づく。


「あの、あなたは?」

「ん? ああ、僕は九頭拓海。涼子の知り合いかな?」


ニコッと爽やかな笑顔で自己紹介をする拓海さん。

正輝は俺の方に近づき、肩に手をポンと乗せて耳元で。


「あの人、お姉さんとどういう関係?」


いきなりの核心を突く質問。

まぁ、ここで嘘をつくのもなんだから。


「彼氏だ」

「な、なにー!? そ、そんな馬鹿な!」


すごい驚き方。もう顔が引きつり、ヨタヨタと後ろによろめく正輝。

がっくりと地面に四つん這いになる。


「う、嘘だ……。だ、だってお姉さんはなよなよした男は嫌いって……」


正輝は涙ながらにそんな言葉を発する。

俺は四つん這いになっている正輝にポンと手を置き。


「残念だったな正輝。すでに涼子さんには意中の人がいたんだよ」

「う、うわーん!」


砂煙を上げながら凄い勢いで去っていく正輝。

うーむ、今の走りが競技で出来ていたら確実に一位だろう。

さてと、俺は邪魔者を追い払い心おきなく食事に専念することにした。



食事休憩も終わり午後のプログラムが始まる。

出番が近づくにつれて緊張が一気に高まる。

手に人と言う文字を書いて飲み込むという古風な緊張の解き方を

やってみるものの、さほど効果は出ず。


『えー、"拝借御免!"に出場の方、スタート地点の方に集まってください』


ついに自分の出るプログラムの名前がアナウンスで告げられる。

心臓はもうドキドキしっぱなしだった。


「亮介行くぞ! ついに出番だ!」

「神崎様、頑張ってくださいね」

「亮介ー! 一位よ!」

「神崎君、ファイト!」


三人の黄色い声援を受けながらテントをあとにして

スタート地点の方へと並ぶ。

先生方が生徒の名前を告げて順番に並ばせる。


「神崎、神崎亮介!」

「は、はい!」


先生に告げられ並ぶと、一緒に走るメンバーを見てみる。

足の速い人は僅かで、メンバーの中には正輝もいた。


「亮介、こうなったらワンツーフィニッシュだ!」

「無理言うな。この中で一番遅いの俺だぞ」


スタート前に注意事項を先生が教えてくれる。まぁ、

借りると言っても大げさなものは無いだろう。

せいぜいサッカーボールを蹴って走るとか、先生と手をつないで走るとかだろう。

そしてついに自分のプログラムの番になる。

グラウンドにはサッカーボールやらバトミントンなど

予想通りのありきたりな物が並ぶ。

この借り物競争はまず最初の直線で落ちてある白い紙を拾い、

中に書かれてある内容をこなしてゴールと至って単純。

次々と俺の前の人たちがスタートしていく。

先にやっている人たちのを見ながらどういう内容があるのかしきりに確かめる。

そしてついに自分の出番となる。

しかし、ここでおかしな事が起こる。

なにやらテントの方が騒がしく、突然俺たちの目の前に赤い色の紙が置かれる。


「おい、何だあれ亮介?」

「知らん。むしろ俺が教えてほしい」


ざわざわとざわめく俺たち。

そして突然アナウンスが流れると。


『えー、この走者の番のみ、借りる物がかなりハードルが高い為、

 ポイントが三倍になります!』


おー! と、テントの仲間たちが騒ぎ出す。

いや、ちょっとおかしくないかそれ? なんでよりによって俺たちの場合だけ?


「こりゃ益々負けられないな亮介!」

「ん? あ、ああ……」


そうして俺は納得のいかないままクラウチングスタイルを取る。

そしてスタートを告げる火薬の音が鳴る。

全員一斉のスタート……だったのだが、やはり地力の差で俺がビリに。

そして俺以外の全員が借りる物を書いた紙を手に取ると。


「…………」


沈黙。

皆地蔵のように固まって動かなくなっていた。

その様子に周囲の人たちがざわめく。

俺も少し遅れて置いてある紙を手に取る。

隣の正輝が苦虫をつぶしたような顔をしていた。


「おい、どうした正輝?」


正輝は無言で俺に書いてある紙を見せ付ける。

俺はその内容に目を疑う。


「何々……教頭先生のカツラを取って来い!? お、おいこれ本気か!?」

「亮介、俺はやるよ。男を見せてやるぜ!」

「ば、馬鹿! やめろ! 潔くリタイアした方が身のためだぞそれ!」


うおー! と雄たけびを上げながら教頭の下へ走っていく正輝。

この高校の教頭は剣道二段、空手三段、柔道黒帯びの有段者。

正輝が走っていった方向からなにやらキャーと悲鳴が上がった後、

骨が折れるような音を耳にする。

一人脱落。

ほかの皆もあまりに酷い内容にリタイアするかその場で立ち止まるかのどちらか。

俺も恐る恐る自分の書かれている内容を見てみると。


「何々……自分のクラスの女生徒一人をお姫様抱っこでゴールまで持って来い?」


俺は書かれてある紙を閉じて目を瞑る。

よし、リタイアだ。

恐らくこの中で一番俺が内容は優しいと思うのだが、

俺にそんなことをする勇気は無い。

俺はリタイアを宣言しようとすると。


「こらー! 亮介の根性なし! 正輝君の屍超えていきなさいよ!」

「神崎様ー! どういう借り物なのですか? 出来ることならお手伝いしますが?」


などと歯止めがかかる。

このままリタイアするとそれはそれで怒られそうだ。

かといってこれをする勇気も……。


「亮介! 亮介! りょうすけー!」


何時の間にか自分のクラスのテントから応援の声が鳴り響く。

もはや後には引けない状態。

俺は覚悟を決めて自分のクラスのテントに向かう。

皆が俺に視線を向ける。

だ……誰を選べばいいのだろうか? 頭がパニックになる。

そんな時。


「ん? どうしたの神崎君?」


丁度目の前にいた渚に目が止まる。

そうだ! 以前渚を運んだ時があるから渚が軽いのも分かっている!


「な、渚! ちょっと来てくれ!」

「えっ?」


グラウンドに渚を引っ張り出す。そして俺は渚に書いてある紙を見せると。


「え、ええっ!? こ、これを?」


さすがの渚も慌てている様子。

何せこれを全校の生徒、更には親の方々も見るのだから。


「渚が嫌だったらあきらめて他の人に頼む。どうする? 無理強いはしない」


うー、となにやら考える渚。

そして、数十秒の間があった後。


「い、いいよ……」


戸惑いながらも渚は了承をしてくれた。

俺はしゃがみ込み、渚の両足を持ち上げて胸の辺りで抱え込む。

俗に言うお姫様抱っこをした。

それを見た周りからはキャー! と色んな声が飛び交う。

うう、恥ずかしすぎて顔から火が出そう。

そして追い討ちをかけるように渚が落ちないようにと俺の首に腕を回してくる。

息が止まりそうだった。


「い、い、行くぞ渚!」

「……うん」


一刻も早くこの視線から抜け出したいため、急いでゴールへと向かう。

結局ゴールできたのは俺一人だった。

競技が終わった後も周りからは冷やかしとも思える口笛などが俺に注がれる。

二人してテントに戻る途中。


「わ、悪い渚。変なことに巻き込んで」


俺は必死に謝る。

なにせ俺のせいで周りから変な目で見られているのだから。

それに対して渚は俺に怒ることはしなかった。


「ううん、私が了承したんだからリョウ君が謝る事ないよ」


そんな優しい言葉を渚はかけてくれた。

幾らか俺の傷も安らぐ。

そしてテントに戻ってみると。


「亮介? どうして渚さんを選んだのか教えてもらえる?」

「神崎様、きっちりと説明してもらえますよね?」


二人が憤怒の形相で待ち構えていました。

説明も何も、ただ軽いという理由なんだけどなー……。


その後、横一線の白熱した戦い。そしてプログラムは遂に最後の百メートル学年対抗リレーに。

現在のチーム戦は横一直線で、この対抗リレーで順位が決まる。

うちのクラスから代表として選ばれたのは正輝、黒羽さん、そして舞の三人。

五人中三人がうちのクラスと言うのだから驚くのだが、もっと驚くのが正輝が選ばれたことだ。


「正輝、おまえそんなに速かったか?」

「おう。伊達に"韋駄天正輝"の名前で通ってないぜ?」

「初めて聞いたぞ、それ」


そうして最終に向けて皆がスタート地点に進む。

テントで遠くから観戦していると、もうスタート直前という時に

正輝が俺の方を向いて手招きをしている。

一体何事かと俺は正輝に駆け寄る。


「どうした正輝?」

「わ、悪い……少し腹が痛いんだ」

「は?」

「ど、どうやら今朝食べた一年前に消費期限切れのレトルト食品が当たったみたいだ。

 だ、大丈夫かと思ったんだけどな……」

「いや、どうして大丈夫と思ったのかそこが理解できないのだが?」


正輝はすごく顔色が悪く、脂汗がダラダラと出ている。

とてもじゃないが走れそうに無い状況。


「どうする? もう始まるぞ?」

「亮介、お前が出てくれ」

「……本気で言ってるのかお前?」

「お前しか頼める奴がいないんだ! と、言うわけでじゃあな!」

「あ、おい!」


正輝はそれだけ言うと凄い勢いでトイレの方へと走っていく。

いや、走れるのだったら走ってからトイレに行って欲しかった。

よく分からないまま責任を擦り付けられた俺。

時間も迫っているという理由から自動的に俺が正輝の代わりになってしまう。

そして最後のプログラムが始まった。


俺たちのチームの最初の走者は別のクラスの奴で、出遅れていきなりビリに。

そのまま行ってくれたらどれだけ気が楽だろうかと俺は思っていた。

なにせ俺の脚の遅さは尋常じゃないからだ。

そしてビリのまま次の走者に渡り、順位に変動は無い。そして三人目、舞の番。


「舞、気楽に行ってくれー、そのままでいいぞ」

「そんなわけいかないでしょ? とりあえず頑張ってみる」


そしてスタート地点に並ぶ舞。一位との差は半周ほどとかなり厳しい。

走者から舞にバトンが手渡される。

舞は驚くほどの速さで走り抜ける。そして前で走っていた人二人を抜いて

三位にランクアップ。


「私の出番ですね。それでは神崎様、私が一位にしてさしあげましょう」

「いえ、出来れば最下位の方が……」


そんあ俺の願いは黒羽さんは聞き入れず。

黒羽さんは悠々とスタート地点に立つ。

手には何時もの扇子は持ち合わせておらず、本気モード。

そして三位をキープしてスタート地点に帰ってくる舞が黒羽さんにバトンを手渡す。

すると、勢いよくジェットでもついているのではないかと

思えるような速さで走る黒羽さん。

速度は落ちることは無く、無限にギアがあるかのような加速度。

あっという間に宣言どおりに一位となる。

そして最終走者の番となる。

ちなみに言わずもがな俺です。

二位と半周ほどの余裕を俺に残して黒羽さんがバトンを俺に渡す。

俺は全力でグラウンドを走る。

だが、やはり足の遅い俺では駄目で、グングンと二位が追い上げてくる。

そして最後の直線で僅かに俺がリードしているが、抜かれるのは時間の問題。

もう駄目だと思ったその時。


「リョウ君! がんばれー!」


渚の声がなぜか聞こえた。

あー、こんなところで負けたらかっこ悪いよな。

もうがむしゃらに、歯を食いしばって最後の直線を駆け抜けた。

横一直線、二位とほぼ同時にゴールする。

そして先生の判定の結果――。


「えっ? 俺が一位?」


一位の旗を持った生徒が俺に駆け寄ってくる。

それを見たクラスの皆が大喜び。

舞と黒羽さんが俺に近づいて来て。


「やったじゃない! 亮介!」

「さすがですね、神崎様」

「いや、みんなのおかげだったよ」


俺は照れながら一位になったのをじっくりとかみ締める。

その後、三年の学年リレーも俺たちのチームが勝ち、見事一位をおさめる。

最後に表彰式が行われ、赤チームの三年の代表者が校長から優勝旗をもらう。

それを高々と上げ、皆が賞賛の拍手を送る。

こうして有終の美を飾って体育祭は終わりを告げた。

初めは嫌々だった体育祭も、終わって振り返ってみれば楽しいものだった。

後片付けを済ませ、家族と共に家路へとつく事に。


「少年、良かったじゃないか。一位になれて」

「いやー、あれは他の皆のお陰ですよ」

「そうだねー、お兄ちゃんなんにもしてないもんね」

「おい里奈、一言多いんだよ」

「しかし、少年の一番の見せ場はあれだったな」

「あれ?」


涼子さんの言葉に首をかしげる。

その言葉を聞いて家族と拓海さんが微かに笑う。


「お姫様抱っこ。いやー、あれは素晴らしい見世物だった」

「! りょ、涼子さん! それはもう忘れてください!」

「忘れようにも忘れれないだろ? あの時の少年の顔といったら……」

「涼子さん!」


ハハハと笑い声を聞きながら俺は帰宅する。

もう二度とあんな競技はしないと心に誓いながら。




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