表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/53

第三十二話 「偶然の再会」

秋といえば様々な秋がある。

味覚の秋、読書の秋、スポーツの秋と多種多様。

この中で自分と深く関わりがあるとすればまぁ、食欲の秋。

そんな訳で俺は休みの日、外出ついでにファーストフード店に立ち寄り、

昼食後の間食にとジャンクフードをお持ち帰り。

そうして帰り道を歩いていると……奇妙な人を発見する。

道端でうつぶせに寝転んだグレーのスーツに身を包んだ男性。

直立不動の格好をそのまま倒したような状態。

幸か不幸か、この道は車が通れない細い道のためあまり人が通らない。

つまり、発見されない。もしかして俺が第一発見者?

ここはとりあえず話しかけるべきなのだろうか? いや待て待て、

もし本当に寝転んでいるだけなら起こすのは非常に失礼だ。

そう、ここはそっとしておく方がいい。

自分に都合のいいほうを言い聞かせ、俺はその死体もどきの

横を通り過ぎようとした時。


「う、お、お腹すいた……」


突然喋りだす死体。

倒れている男性からお腹の虫の音が響き渡る。どうやら持っているジャンクフードの

匂いが効果抜群だったようだ。

こうなると、この男性を放っておくわけには行かない。


「あ、あの、大丈夫ですか?」

「は、はい。らいじょうぶでふ」


ろれつが回ってない。

そして一段と大きくなるお腹の虫の音。

俺は一度大きなため息をついた後、仕方なくある行動を起こす。


「あの、良かったらこのハンバーガー食べます?」

「えっ! いいんですか!?」


ガバッと起き上がる男性。

そして有無を言わさず俺の手に持っていた袋を掠め取りガツガツと頬張りだす。

その勢いやすさまじいもので、僅か一分ほどでセットを平らげた。


「いやー、助かりました。このご恩は一生忘れません」

「いえ、忘れていいですよ、ハンバーガーぐらいで大げさな」

「そんなわけにはいきません。君のような優しい人に会えて良かったです」


のほほんとした雰囲気をかもし出す細身の男性。

見た目は20代の好青年。髪は短く黒い髪の毛で若干ぼさぼさ。

顔は優しそうな瞳に凛々しい眉。若干細い輪郭だが

痩せすぎというわけでもない。服はグレーのスーツに革の靴と

いかにもセールスマン的な雰囲気なのだが、

この人は些か優しさのオーラのようなモノを振りまいていた。

見るからに、あっ、この人優しそう、騙されそう的なオーラだ。


「どうしたんですかこんな所で寝転んで?」

「いえ、ちょっと災難に巻き込まれちゃって」

「えっ? どんな?」

「うん、実はね、久しぶりに日本に帰ってきて色々と各地を回っていたんだけど、

 二日前に財布を落としちゃってね。そのまま二日間のまずくわずで

 居て腹ペコでここに倒れたってわけ」


そんな不幸を笑いながら語るグレーのお兄さん。

うーん、大物なのか、馬鹿なのか。

まぁ、お兄さんも元気になったようだし、俺もこれで心置きなく帰れる。


「それじゃあお兄さん、さようなら」


俺はじゃ、と手を振って別れを告げる。

そして家に帰ろうとするのだが……なぜか捨て猫のように

俺達の後ろをついてくるお兄さん。

むぅ、もしや餌をあげたのが良くなかったのか?


「あの、なんで付いて来るんですか?」


俺が嫌そうに視線を送ると、お兄さんは頭を掻きながら

申し訳なさそうに。


「あの、よかったら電話貸してもらえないかな?」



◆◆


人の良さそうなお兄さんを連れた俺は家へと帰宅。

皆どこかに出かけている様子で、家の中は静まり返っていた。

玄関の前にある電話をお兄さんにお貸しする。

電話で話している間、お兄さんは丁寧に人に謝ったり、お願いする様子が多かった。

そうして長いこと電話を使った後、ようやく受話器を置く。


「いや、ありがとう。おかげで助かったよ」

「あの、何を話していたんですか?」

「まぁクレジットカードの使用不能手続きや、友人に頼み込んでちょっとお金を

 貸してもらったりとか色々と……」


そんな苦労話を笑顔で語るお兄さん。

なんか、かわいそうになってきたな……。


「よかったらお茶でもどうですか?」

「いや、そこまでお世話になるわけには行かないよ」

「大丈夫ですよ、今家には誰も居ないようですし、少しぐらいなら」

「そ、そうかい? じゃあ、ちょっとお言葉に甘えさせてもらおうかな」


なんとも腰の低いお兄さんを居間へと案内する。

お兄さんは居間のソファーに腰をかけて俺が出したお茶をすする。


「うん、美味しい。暖かいね」


ほっと一息つくお兄さん。うーん、なんだか見てるこっちも

のほほんとしてしまいそう。

お兄さんと向き合う形で俺もソファーに座ってお茶を飲む。


「そういえばお兄さんは日本は久しぶりって言ってましたよね?」

「うん。えっと……五年ぶりかな?」

「また結構長いですね、何処に?」

「パリにいたんだ。あそこはいいよ、一度行って見るといい」


うんうん、と頷くお兄さん。

それから話している間に何故か俺とお兄さんは意気投合。

話が弾みに弾む。


「へー、お兄さんの名前 九頭くどう拓海たくみっていうんですか」

「変わってるだろ? ここのつの頭でくどうなんて」

「確かに。お兄さんの外見からそんな厳つい苗字似合わないし」

「あ、それ良く言われるよ」


ハハハと笑いあう俺とお兄さん。


「お兄さん日本に何しに帰ってきたんですか?」

「まぁ、羽を伸ばしに来たのとどうしても会いたい人がいてね」

「会いたい人?」

「うん、その人と会って話がしたいんだ。僕にとってとても大事なひとなんだ。

 その人の家を尋ねた時に知人の家に厄介になっていると

 聞いて探していたところなんだ」


初めて見るお兄さんの真剣な表情。

余程大事な人なんだな……。


「その人ってどんな人なんですか?」

「うーん……とても綺麗な人だね。すこし乱暴だけど、優しくて

 素敵な女性なんだ」

「へー、お兄さんはその人の事どう思ってるんですか?」

「好きだよ。世界で一番」


真顔でサラッとそんな恥ずかしい台詞を言うお兄さん。

俺が告白されたわけではないのだが、思わず赤面してしまう。

しかしこのお兄さんと釣り合う女性っているのだろうか? 

やっぱりしとやかな優しいお姉さんタイプ?

うーん、気になる。

俺は気になってお兄さんに聞いてみることにした。


「あの、よかったらその女性の名前を教えて頂けませんか?」

「いいよ。その人は――」

「ただいまー!」


玄関から元気の良い声が居間に聞こえてくる。あの声は涼子さんだ。

ドタドタと足音が居間に近づいてくる。

そして片手に買い物袋を持った涼子さんが姿を見せる。


「よっ、少年! 今帰って……」

「あっ、涼子さん、この人はですね――」

「た、たくみ? もしかして拓海か?」

「りょ……涼子?」

「……あれ? 二人とも知り合いですか?」


涼子さんは呆然とその場に立ち尽くしてお兄さんの顔をじっと見つめる。

そしてお兄さんも涼子さんの顔を見て唖然としている。

そうして涼子さんとお兄さんは互いを指差し。


「どうしてここに居るんだ!?」


息ぴったりで同時に同じ台詞を発した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>恋愛コミカル部門>「気になる彼女はお嬢様?」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ