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第三十一話 「思いは秋の空と共に」

季節は夏に終りを告げて、秋へと移行しようとしていた。

聞こえなくなった蝉の声。

色艶の良かった緑の木々は役目を終えたかのようにその身を散らしていく。

お日様も元気が少しずつ衰えていく。

そして学校はそんな季節の変わりと共に、二学期を迎えていた。

初日から本格的な勉学は無く、授業は午前中に何事も無く終わる。

放課後になり俺は帰るための用意をしていた。


「なぁ正輝、今日は一緒に帰らないか?」

「わりぃ、今日は部活だわ。なんかコンクールに出す写真選んどけとか顧問が

 うるさくて。ちょっと時間かかりそうだから悪いけど一人で帰ってくれ」


そうしてばたばたと忙しそうに教室を後にする正輝。

そうなると仕方が無いので俺は一人で学校を後にする。

階段を降り、校門の前にまで足を運ぶと、意外な人物に目が止まる。


「ん? あれは……渚?」


校門の所で何かと怪しい動きをする渚。そわそわと周りを見渡し、校門から出て行く人の

顔を見ている。何人か渚に声をかける奴もいたが、渚は苦笑いをしながら断っている様子。

そんな渚を遠くで見ていると不意に目が渚とあった。

瞬間悟った。

渚は俺を発見するや否や、ぱぁーっと明るい表情を見せ、こちらを見つめる。

もしも渚に尻尾がついていたらバタバタと振っていそうなほど嬉しそうな笑顔。

とりあえず俺は渚の待つ校門の方に向かうと。


「リョウ君、一緒に帰らない?」


にっこりと微笑む渚。

うーん、一緒に帰ると言っても渚と俺の家は別方向。学校を出て五分程歩いた後は

直ぐに分かれてしまうのだが。


「良いのか?」

「うん。今日は一緒に帰りたかったから」


そう言って渚はおれの横に並ぶ。他の帰宅している生徒の視線があまりに不釣合いな

俺達に注がれるが、なぜか俺は以前と比べて平気だった。

肝が据わってきたのか、それとも……。

そうして俺は渚と一緒に帰る事にした。


「……でね、ルビったらそんな事で怒るんだよ?」

「そりゃ災難だな渚も」


他愛の無い渚の日常会話を聞きながらの帰宅。

様々な表情を見せながら渚は色んな事を話してくれた。

そんな渚を見て俺もなぜか嬉しくなる。

渚の一挙一動に何処か惹かれてしまう。

そうこうしていると、渚と別れの時間が来る。

左右に分かれる道。ここで二人とも別々になる。


「じゃあな渚。また明日」


そう言って手を振って俺は別れを告げるのだが、渚が俺の腕を掴む。

突然の出来事に目が点になる。


「ど、どうしたんだ渚?」

「あ、あのね、ちょっと行きたい所があるんだけど……」


渚が申し訳なさそうに俺に尋ねてくる。

じゃあ一人で……と言うのはあまりにも野暮だよな。

でないと渚が俺を引き止める理由が無い。

幸いにも俺は帰っても用事が無い暇人の為。


「いいよ。渚は何処に行きたいんだ?」


快く渚の申し出を引き受ける。

渚は俺の言葉に気をよくしたのか、グイグイと俺の腕を引っ張って先行する。


「お、おい渚? 何処にいくんだよ?」

「良いから良いから。ほら、こっちこっち」


渚に言われるがまま俺は付いていく。

道路を抜けてわき道に入り、入り組んだ狭い道を抜ける。

気分はまるで小さい頃に戻ったみたいだった。

そして抜けた先に待ち構えていたのは小さな神社だった。

小さな赤い鳥居に、二つの狛犬が参拝しにきたものを迎える。

そして奥には賽銭箱とガラガラと鳴らす鈴がぶら下がっていた。


「ここは?」

「あれ? リョウ君覚えてないの? ここ」


不思議そうに俺を見つめる渚。

うーん、どこかで見た事あるけど、思い出せない。

首をかしげて悩んでいる俺に渚は見るに見かねて。


「ここはね、まだ私が引っ越す前にリョウ君と遊んだことがある場所だよ?」

「えっ? そ、そうなのか?」

「そうだよ。ここで鬼ごっことかかくれんぼとかしてたの覚えてない?」


渚はその時の光景を鮮明に語ってくれる。

何人で遊んだとか、どういう風な状況だったなど。

言われていく内に僅かに記憶が甦ってくる。だが、それは曖昧なもの。

渚のように鮮明なものではなかった。


「すごいな、よくそこまで覚えてるな」


俺の言葉に渚はフフンと誇らしげに胸を張る。

いや、大したものだ。


「ねぇリョウ君、折角だから御参りしていかない?」

「えっ?」


そう言って渚は賽銭箱のほうに足を運ぶ。

俺も賽銭箱に近寄り、渚の隣に並ぶ。

財布を手に取り、幾ら入れるか考える。

やはりここは定番で五円(御縁)かな?

俺は渚が幾ら入れるか気になりチラリと横を見ると、五百円を手に取っていた。

うっ、同じ考えでも向こうは百倍か……。

そうして二人同時に賽銭箱へと放り投げ、ガラガラと鈴を鳴らす。

拍手かしわでをした後、俺は願い事を祈る。

渚を見ると手を合わせて眼を瞑り、真剣にお祈りをしていた。 

そして祈りが終わったのか、渚は目を開けて一度ため息をつく。


「それじゃあ帰ろう、リョウ君」

「あ、ああ」


そうして俺達は神社を後にしようと歩き出す。

そんな時。


「リョウ君、今日はありがとう」

「えっ? 何が?」

「私のわがままに付き合ってくれて。凄く嬉しかった」


そんな言葉に思わず自分の顔が熱くなる。

渚にばれないようにと必死に冷静を装う。


「そ、そういえば渚は何を祈ったんだ?」

「うーん……知りたい?」

「で、できることなら」


渚はピョンと少し前に出てクルッと俺の方に振り向くと。


「ずーっと、ずーっとこんな日が続きますようにって」


そうして渚は微笑む。

秋の夕焼け空の下、彼女と二人、奇しくも願った事は同じ思いだった――。




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