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第二十五話「サスペンス」

大浴場から聞こえる渚の声。

まずい、最悪の展開だ。

俺と正輝は既にこの露天風呂から脱出することができなくなった。

俺達はとりあえず露天風呂の中央にある岩陰へと隠れる。


「ど、どうする? 亮介」

「どうするも何も、ここでしばらく身を隠してやり過ごす以外方法はないぞ?」


女性用の時間は約一時間。

何とかやり過ごすことができれば俺達は生還できる。


「一時間……やり過ごせるか?」

「過ごすしかないんだよ」


幸いにも露天風呂に来る前に大浴場があるため、こっちに来る可能性は

低いと見た。その上、この露天風呂は湯気が濃い為見つかる確率も低い。

この完璧な二段構えに死角は無いはずなのだが……。


「あっ、こっちは露天風呂だ」


ガラガラと扉を開ける音が聞こえる。

渚はあっさり露天風呂を発見し、ペタペタと足音が俺達に近づいてくる。

そして、俺達の居る場所と反対側からザブンと湯につかる音が聞こえる。

開始五分とたたずに迫る恐怖。

いきなりの大ピンチに正輝は。


「なぁ、こうなったら白鳥さんに訳を言って許してもらうってのは?」


ビビリまくっていました。

どうだ? と小さな声で俺に聞いてくる。

……そうだな、渚なら誠心誠意を込めて謝れば許してくれるかも。

俺は正輝の言葉に小さく頷き、ゆっくりと岩陰から出ようとした時。


「お嬢様、そちらにいらしたのですか」

「あっ、ルビ」


ルビと言う言葉を聞いた瞬間、すぐさま俺は正輝を引っ張って再び岩陰に。

最悪だ。まさかあの悪魔の化身がここに来るなんて!

こうなると、見つかるイコール死という方程式が成り立ってしまう。

湯に浸かっているというのに俺の歯はガチガチと震える。


「お、おい、白鳥さんに訳を言うんじゃ――」

「正輝、状況は刻一刻と変化している。さっきまでは良かったかもしれないが、

 今出て行けば……」


俺は首を掻っ切る仕草をする。

正輝はそれを見てゲッと小さく悲鳴をあげる。

そして、再びお湯に浸かる音が聞こえる。

とりあえず敵の出方を見るため俺達は耳を澄ませる。


「全く、なぜ今日に限って災難続きなのでしょうか? 電車が事故をしたり、

 部屋のお風呂は水道が壊れていたり」


かなり激昂しているのか、怒鳴るように喋るルビア。

成る程、だから渚はこの大浴場に来たのか……。


「まぁまぁ、良いじゃない。こうして広いお風呂を二人で独占できてるんだから」

「しかし……」

「災い転じて福となす。そう思っておきましょう、ね?」

「……はい」


渚の言葉に渋々了承したような声を出すルビア。

うーん、俺達にもその言葉が欲しいです。

それから長々と話を続ける渚達。


「うーん……どうしてルビってそんなにスタイル良いの?」

「えっ? わ、私だって分かりませんよそんな事」

「胸も大きい方だし、ウエストもキュッと引き締まってるし……」

「お、お嬢様! そんな所触らないでください!」


キャッキャッとはしゃぐ渚達。

しかし、一時間以上湯に浸かっている俺達は限界が近づいていた。


「やばい……のぼせてきた。正輝、お前は?」


隣の正輝を見ると、何やら何時に無く真剣な表情をしている。

その顔つきは獲物を狙うハンターのような顔。


「おい、正輝……」

「シッ、静かにしろ。聞き取れないだろ」

「何が?」

「何って、白鳥さん達の会話だよ。今良いところなんだよ、スリーサイズがどうとか

 言って……いや、スマン。俺が悪かったから首を絞めないで。ギブ、ギブ」


あまりの緊張感の無い正輝に不安を感じつつ、渚達の動向に

神経を研ぎ澄ます。


「あーあ、今頃リョウ君達何してるんだろ?」

「お嬢様、もしかしたら案外近くにいるかもしれませんよ?」


ルビアの一言に心臓がバクバクと鼓動を打つ。

実はバレてるとか言わないよね?


「えっ? それってどういう意味?」

「亮介様のことですからもしかしたらノゾキに来るかもしれないと言う事です」

「えー、しないよ。リョウ君だよ?」


ノゾキはしない。ええ、確かにその通りなのだが、この状況で見つかれば

百人中百人がノゾキと言うだろう。

信じてくれている渚の為にも絶対に見つからないようにしなければ……。


「もし、もしもですよ? 亮介様がノゾキに来ていたらどうします?」

「うーん……もし覗いていたら"アレ"かな?」

「……アレですか? お嬢様?」

「うん、アレ。アレ行き決定」


ふふふと奇妙な笑い声が二人から聞こえてくる。

アレってなんですか! アレって!? もの凄く気になるんですけど!?

それからも渚達の話はまだまだ続き、終りが全く見えてこない。

そして待つのに限界が来たのか。


「なぁ亮介、もう出ないか?」

「それができるならとっくにしてるよ」

「まぁ聞けよ、この露天風呂を大きく迂回して泳いでいけば見つからずに

 済むんじゃないかって今頃気づいたんだよ」

「……いや、万が一の事があるし」

「大丈夫だよ、泥舟に乗った気持ちで俺を信じろ」

「それを言うなら大船だ」


正輝はやっつけ仕事のように大丈夫を連呼する。

非常に不安だ。

何かこう、棺おけに片足を突っ込んでしまいそうな感じが……。

だが俺もできることなら直ぐに出たいと思っている。


「よし、じゃあ行くか」

「そうこなくっちゃ」


俺達は大きく息をする。

そして深く湯の中に潜り、大きく迂回しようとしたその時。


「ゲホゲホ! ゴホッ!」


大きく咳き込み、立ち上がる奴が一人。この……バカヤロウー!

まだ一メートルも進んでいないのにそれは無いだろ!


「わりぃわりぃ、鼻にお湯が……モガッ」


俺は急いで正輝の口を塞ぎ、静かにしたのだが……。


「ねぇ、今聞き覚えのある声しなかった? ルビ」

「ええ。もう、バッチリと聞こえましたよ」


わーい、後の祭りでしたー! 

ヤバイ、ヤバイ! このままだとアレ行き決定ですか!?

俺は必死に無い脳味噌をフル回転させて打開策を練る。


「もう駄目だな俺達、てへっ」

「てへっ、じゃねぇよ! 元はと言えば正輝お前の――」

「ん? どうした亮介? 何か目がよからぬ事を思いついたような感じなのだが?」

「正輝、責任は取ってもらうぞ」

「へッ? それはどういう……グホッ!」


俺は正輝の口を塞いで渾身のボディブローを一発。

そのままぐったりと倒れる正輝。

許せ正輝。この場を切り抜けるには生贄が必要なのだよ……。

そのまま正輝を放置し、俺は深く潜ってこの場を切り抜けることに。

そこへ体にタオルを巻いたルビと渚が来る。


「ムッ、この方は確か亮介様の友人……」

「さっきの声は正輝君だったみたいだね」


正輝の倒れた姿を見て先程の声は正輝だという事を確信した渚達。

よし、これでこの後正輝を連れて帰ってくれれば……。


「妙ですね……」

「どうかしたのルビ?」

「見てください、この方のお腹に赤い痣があります」

「だからどうしたの?」

「つまり、この方を殴り、気絶させた別の犯人が居る可能性があります」


真剣に推測を語るルビア。

どうしてそういう所にはめざといのかな……。

ルビアは気絶している正輝を丹念に触り、調べていく。


「肌の火照り具合から見てかなりの時間入浴してたようですね……。

 しかし、一人でこれほどの時間入浴してたとは考えにくいですね」

「ルビ、何か探偵みたいだね」

「実は私、こういうサスペンスとか好きなタイプでして……」


キラーンと目が光るルビア。


「それで、ルビ探偵の見解はどうなの?」

「はい、これは間違いなく真犯人がいると見て間違いないですね」

「でも、周り見ても居ないって事はとっくに逃げたんじゃないの?」

「いえ、きっと真犯人はまだ近くに……む、いけませんね」

「どうしたの?」

「どうやら時間が迫っていますお嬢様。そろそろ出ましょう。

 この方については後で尋問すればいいでしょう」


俺はその言葉を聞き心の中でガッツポーズをする。

そうして足音が遠ざかり、扉を開く音が聞こえる。

完全にルビアと渚が消えたと確信した後、俺は水中から顔を出す。


「ブハッ、助かった……。おい、しっかりしろ正輝」


ぺしぺしと頭を叩くが反応が無い。

仕方ないので俺は正輝を担いで露天風呂を出ようと扉の目の前まで来た時だった。

突然扉が勝手に開き。


「いっけない、ちょっと忘れ物しちゃ――」


帰ったはずの渚の姿があった。

互いに見つめあって硬直する事数秒。


「リョウ君、一体これはどういう事?」


般若の形相をした渚が俺に問いかけ……いや、尋問してくる。

肩はわなわなと震え、怒り心頭のご様子。

そして渚の後ろで哀れんだ目で俺を見るルビアがいた。


「いや、その、これは事故なんだ!」

「へー、事故か……成る程、成る程」

「ほ、本当なんだよ! 話せば長くなるんだけど……」

「まぁ、百歩譲って事故としておきましょう。だけど……」

「だけど?」

「リョウ君の罪は消えませんから。フフフ、部屋に帰ったら色々と

 準備しないとなー」

「えっと……何の?」

「アレの準備」

「やっぱりですかー!?」


この後、俺達は地獄を見ることに。

いやー、生きながらにして地獄ってあるもんだなー……。







 








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