第二十四話「ホテルへGO!ついでに地獄へGO?」
突然の事故を告げる駅のアナウンス。
俺達はあまりの出来事に呆然と駅のホームで立ち尽くしていた。
「ど、どうする? 正輝」
「おいおい、そんな事言われてもどうする事もできねぇよ」
首を横に振り、お手上げをする。
まぁ確かに。
これでどうにかしようと、言われたらビックリなのだが。
はてさて……これからどうしようか考えていると。
「ねぇ、それだったらいっその事ホテルに一泊しない?」
「えっ! ほ、ホテル!?」
渚からの意外な提案。
確かに一泊するのも一つの手なのだが……。
「渚のほうは大丈夫なのか? 予定とかは……」
「そこは大丈夫、ちゃんと確認してるから」
「そうか、それじゃあ……」
反対する人はいないため、俺達は早速ホテル探しに向かった。
駅を出て周辺のホテルを当たってみるものの、どこも満席。
どうやら先程の電車事故を受けてホテルに泊まる人が多いようだ。
何処もかしこも駄目で諦めかけようとしたその時。
「あっ、あのホテルでどうかな?」
「どれどれ……えっ?」
渚が指差すホテルは超がつくほど豪華なホテル。
テレビでも何回も放送されており、主に有名人が泊まるホテルだった。
俺と正輝は顔を見合わせる。
そして俺達は小声でボソボソと打ち合わせをする。
「なぁ正輝、お前財布に幾らある?」
「二万……亮介は?」
「俺なんか一万だ。……とてもじゃないが無理だな」
俺達はため息をつき、期待一杯の目で見つめる渚に悲しいお知らせを
伝える事にした。
「あのさ、申し訳ないけど、あのホテルは無理だよ……」
「えっ? どうして?」
「いや、本当に言いにくいんだけど……財布の中身と相談したところ
無理みたいだから……」
「大丈夫だよリョウ君」
「いや、大丈夫と言われても……」
ごそごそと渚が自分の財布からある物を取り出す。
あの暗闇に鈍く輝く黒いカードは……ま、まさか!
金持ちが持つといわれる、ゴールドやプラチナを超えるカード!
それを見た俺と正輝の目が点になる。
あまりにも強烈な存在感にひれ伏してしまいそうだった。
「それじゃあ行こ」
ルンルンとスキップをしながらホテルへ向かう渚。
うう……なんか男としてみじめだ。
ホテルの中へ入ると清潔感漂う広々としたロビーが俺達を出迎えてくれる。
渚はチェックインの手続きをしようとフロントにいる男性に近づく。
「いらっしゃいま……せ?」
受付の男性が俺達を見て言葉がどもる。
男性からプッと、失笑したのが聞こえる。
貴方達のような貧乏人が来るのは場違いですよ? と、男性は俺達に視線を送っていた。
「お客様、申し訳ありませんが当ホテルの宿泊料は一泊……ってええっ!?」
受付の男が全て喋りきる前に渚は先程の黒いカードを差し出す。
男は驚きのあまり声を上げ、そしてカードに釘付け。
カードと俺達の顔を交互に見つめる。
受付の男性はコホンと咳を一つすると。
「どの部屋にお泊りになられますか?」
……凄い効果だ。先程の見下したような視線は消え、額から汗を流しながら爽やかな
笑顔を見せる受付。
「このホテルで一番良い部屋は?」
「は……はい、それでしたら二十階にあるスイートルームが一番かと……」
「空いてるの?」
「はい。二人一部屋となっておりますがどうなされますか?」
「そう、じゃあ二部屋」
渚がそういうと受け付けの男性が電話で他のホテルマンを呼ぶ。
そして俺達は呼び出された他のホテルマンに連れられて部屋へと案内される。
部屋へと案内される途中。
「なぁ、渚……」
「ん? 何? リョウ君?」
「あのさ、ホテルの料金幾ら?」
ボソボソと俺に耳打ちをする。
値段を聞いた瞬間、思わず声を出してしまいそうだった。
一泊でその値段ですか……。
「悪い、冬休みのバイトとお年玉まで待ってくれ」
「なんか凄い現実味のある返済方法だね……そんな気を使わなくても」
「そういうわけにはいかないだろ?」
「大丈夫。だって――」
「お客様、こちらと向こう側がお客様のお泊りの部屋になられます」
渚と話していて気づかなかったが、何時の間にか部屋に到着していた。
ホテルマンは目の前の部屋と少し離れた部屋を指差す。
「それじゃあ、私とルビはこの部屋で、リョウ君と正輝君は向こうね」
「あ、ああ」
「じゃあリョウ君、正輝君、またね〜」
そう言って手を振り部屋の中へと入っていくルビアと渚。
仕方ないので俺と正輝も割り当てられた部屋へと入ることにした。
「うほー! すげぇー!」
スイートルームへ入るや否や、正輝から驚きの声が上がる。
高級感溢れるホテルの部屋は勿論の事、ベッド、ソファー、バスルームなど
全てにおいて他のホテルを凌駕する。
また、窓から見える夜景は絶景と呼ぶに相応しい。
「サービスもまた凄いな。色々とあるぜ?」
テーブルの上に用意されていた菓子をボリボリと食べながらホテルの
パンフレットを見る正輝。
もうすこしお前は遠慮というものを学んでくれ。
「おっ? これなんかいいんじゃないか?」
正輝はパンフレットの見取り図に書かれてある場所を指差す。
俺は指差すところを覗きこむと、そこは大浴場と書かれていた。
「おいおい……既に室内にあるだろ? 立派な風呂が」
「馬鹿、そんなのいつでも入れるだろ。だけど大浴場となると話は別だよ別。
見ろよこの大きさ。多分学校のプールよりでかいぜ?」
行こうぜ? と、俺を誘う正輝。
まぁ、確かに運動して直ぐに風呂に入りたいとは思っていたからな……。
仕方ない、ここは正輝の誘いに乗るか。
俺はこころよく承諾し、二人揃って着替えを持って大浴場へと向かう。
一階にある大浴場の前に辿り着くと、何やら入り口の横にホワイトボードが
かかっており、注意と大きく赤い字で書かれていた。
「何々……? 七時から八時まで男性が使用可能で、八時から九時までが女性用と……」
「亮介、今七時だから俺達が使えるぞ」
そういって正輝は自分の腕時計を見ながら俺に伝えてくる。
丁度良いタイミングだったようだ。
それじゃあ遠慮なくと、俺達は大浴場へと入る。
大浴場には全く人の気配が無かった。
どうやら他の方たちは部屋についてあるお風呂を使用しているようだ。
だが、それはそれで俺達には好都合。心置きなく風呂に入れるというものだ。
脱衣所のロッカーは盗難防止用にか、ナンバーを入力して鍵をかけるタイプだった。
俺達はポイポイと服を脱ぐとタオルを持って風呂場へ。
「すげー! 広いっていうか広すぎ!」
あまりの広い風呂にビックリする正輝。
正輝は勢いよくそのまま湯船にダイブした。
「正輝、体ぐらい洗ってから入れよ」
「大丈夫大丈夫。この風呂場俺達しかいないじゃん? 誰も使わないみたいだし」
そういってそのままクロールや平泳ぎなどをする正輝。
やれやれ……。
俺はとりあえず体を洗い、風呂にゆっくりとつかる。
いやー、極楽、極楽。体の疲れなど一瞬でとれてしまう。
正輝の方はというと、広い風呂場を散策していた。
そしてなにやら面白いモノを見つけたのか、驚いたような表情をして俺に
駆け寄ってきた。
「おい亮介、向こうに露天風呂があるぞ!」
「へぇー」
「またこれが大きくてな。行こうぜ!」
「OK」
俺も風呂に浸かってテンションがハイになったのか、ノリノリで露天風呂へ向かう。
風呂場の奥にある扉を開くと、そこには大浴場と同じぐらいの大きさの露店風呂が出てきた。
丸い露天風呂に、先が見えないほどの湯気。風呂の中心には大きな氷山のような
岩がドンとおいてあった。
俺達はヒャッホー、と叫びながら思いっきり露天風呂にダイブする。
「いやー、これまた良い湯加減ですな正輝さん」
「ですな亮介さん」
ハハハとあまりのテンションのあがりっぷりに壊れかけの俺達。
なにせこんな広い風呂を二人で独占していたからだ。
「なぁ正輝、今何時だ?」
「ん? ああ、腕時計ではまだ七時だな」
「じゃあまだ余裕だな」
「そうだな。余裕、余裕」
ハハハと笑いあう俺達。
……あれ? なんかおかしくないか?
「おい正輝、俺達がはいって来たのは何時だった?」
「確か、七時だったな」
「おいおい、幾ら何でも一分も経ってないのはおかしくないか?」
「ん? そういわれてみればそうだな? ……あれ?」
「どうした?」
「この時計、どうも最初に風呂へダイブしたときに壊れてたみたい……」
場の空気が凍りつき、顔が真っ青になる。
俺達のテンションが一気に下がる。
「正輝……すぐに出るぞ」
「お、おう」
俺達は急いで露天風呂から出ようとドアに手を掛けたその時。
「うわー、結構大きいお風呂だね」
「!」
大浴場から誰かの声が聞こえてくる。
こ、この声はまさか……!
聞き覚えのある声に俺と正輝は顔を見合わせる。
「今の声……白鳥さんだよな?」