第二十二話「暇人の計画」
類は友を呼ぶと言う言葉をご存知だろうか?
この言葉は気のあった者や、似ているものは自然と集まるという意味だ。
例えば野球をやっていると、野球をやりたい者がよってくる。
漫画が好きなものは同じ漫画が好きなもの同士で寄り合う。
そして……。
「あっちいな〜、なぁ亮介、この部屋本当にクーラー効いてるのか?」
暇人は更なる暇人を呼ぶのであった!
勝手に人様の家のクーラーを調節する不届き者。
正輝が俺の部屋に来ていたのだった。
遡る事五分前――。
"なぁ亮介、どうせお前も暇だろ? 遊びに行ってもいいか?
えっ? 忙しい? んなわけないでしょ!? じゃあそっち行くからな"
などと、失礼な事を電話で言ってきた後がこれだ。
今はポテチとジュースを堪能しながら漫画本を読んでいる。
「なぁ正輝、お前夏休みの課題は終わったのか?」
「かだい? なんだそれ? 食べ物か?」
肩をすくめて何の事? といった表情。
さすが正輝。現実逃避においてこの男の右に出るものはいないだろう。
そんな割り切れる正輝が少し羨ましい。
俺はある人から既に念を押されている為、課題をやってこなかった場合
どうなるかわかったものではない。
俺は正輝を無視して机に向かい、夏休みの課題と闘う事にした。
ペンを持ち、ノートと睨めっこしていると。
「あー、こう暑いと、海に行きたいですよね〜」
手で自分の顔を扇ぎながらそんな事を喋る正輝。
……突然何を言い出すのか、この男は?
あからさまな棒読み。そして俺に語りかけるような口調。
「そうか? 俺はどちらかと言うと山のほうが……」
「このバカタレー!」
答えただけなのに何故か正輝は俺の顔面を殴りつけてきた。
理不尽極まりないこの仕打ち。
「痛ってー、いきなり何するんだよ正輝!」
「ショック! 肉まんを頼んだのに、中身があんまんだったぐらいショックを受けた!」
「……それはショックとして重いのか?」
「いいか、夏といえば海。これは常識! なにが悲しくて虫に刺されるだけの
山に行かねばならんのだ!
お前は山に芝刈りに行ったお爺さんにでも会いたいのか!?
そんな事より、綺麗な海、身を焦がす太陽、そして綺麗なお姉さんに会ったほうがいいだろ!」
正輝は腕を組み仁王立ち。
俺に海の良さ、素晴らしさを教える……というより、お前一つしか目当てないだろ。
「一応念のため聞くが、お前海に行って何するんだ?」
「無論、ナンパに決まってる」
迷いなし、即答する正輝。
OK、予想通りの反応ありがとうございました。
俺は気を取り直して再度机に向かう事にした。
これ以上正輝の話についていくと、嫌な予感がするからここらで切っておくのが
無難だろう。
「亮介、お前も海に行きたくなっただろ? ん〜?」
「いや、別に」
「そうかそうか。そんなに行きたいか」
聞く耳を持たないとはこの事か。
俺の言葉は既に右耳から入って左耳に出ている様子。
「お前一人で行って来い。頑張ってフラれろよ」
「なにサラッと血も涙も無いこと言ってるんだよ亮介。一人じゃ駄目でも
二人ならいけるかもしれないだろ?」
「いけない。いけないから」
俺は手を立てて左右に振る。
そんな仕草を見ても尚も食い下がる正輝。
「おねげぇでございやす、お代官様! 俺と一緒に海でナンパ手伝ってくれい」
「だれがお代官様だ! お前一人で行って来い! 馬鹿」
「うわヒデェ! 俺と亮介は親友だろ? マブだろ? 友人のピンチに何も思わないのか!?」
「何のピンチだよ! 男二人で海行くのなんて嫌だからな!」
ムッと不満気な顔をする正輝。
第一、海を楽しみに行くのではなく、ナンパ目的で行く事に賛成できない。
しばらく考え込む正輝。
しかし、なにやら妙案が思いついたのか、ピーンと来た表情。
「そうか、男二人じゃ駄目か亮介」
「ああ。少なくとも俺は反対だからな」
「だったら、人を増やせばいいんだな?」
「えっ?」
正輝は携帯電話を取り出し、俺にアドレス帳を見せる。
そこには百件以上の電話番号が登録されていた。
中には他のクラスにいる女子の電話番号まで。
「おい、これどうしたんだよ? 皆正輝が登録したのか?」
「ああ。これだけ人数がいれば十人や二十人余裕で集まるだろう!」
そういうと早速正輝は順番に電話をかけていくことに。
百件もある為か、どこか余裕の表情。
「なぁ正輝、それ全部お前が聞いたのか?」
「なに、担任のパソコンを覗いたら簡単に手に入った」
「……お前それ犯罪」
正輝は手早く電話をかけ、交渉に入る。
はてさて、どうなる事やら……。
――それから二時間後。
俺の部屋でがっくりとうなだれる男が居た。
もう精も根も尽き果てたといった様子。
結果は聞くまでも無く全滅。百件もあったのに全て駄目とは……。お前の人望を疑うよ。
正輝は持っていた携帯電話を床に置き、ふて寝する。
俺は正輝の携帯を無造作に拾い上げ、何気なく携帯を開いてみる。
「あれ? お前、渚の電話番号まで登録してるのか?」
「ん? ああ、そういえば白鳥さんには電話してなかったな……」
それじゃあ、と電話を正輝に投げようとするが首を横に振る。
ショックがでかいのか、それともどうせ断られるからやめておこうという判断か……。
「そうか、それじゃあ……」
「亮介、お前がかけてくれ」
「……は?」
「頼む! お前確か学校で白鳥さんと仲良さげだったじゃないか! お前がちょちょいと
頼めば万事OK、そして海にレッツゴーというわけですよ!」
もの凄く期待に満ちた目で俺を見る正輝。
馬鹿馬鹿しい。そんな旨すぎる話あるわけ無いだろ。
第一、渚は忙しいと以前言われたばかりだからな。
俺は駄目もとで正輝の携帯から電話をかけると……。
『うん、いいよ』
……あっさりOK。実に会話二分程で交渉成立。マジですか?
「い、いいのか?」
『うん。特に用事も無いし、最近はまだ暑いから海に行きたいと思ってたから』
「そ、そうか」
『それじゃあ明日の朝7時に駅のホームで待ち合わせだね?』
「あ、ああ」
そうして電話を切ると、目の前には舞い踊る変人が一人。
なんというどんでん返し。
「まさか本当にOKしてくれるとは……」
「さすが亮介! お前なら必ずやってくれると信じてた!」
良くやった、と俺の肩をがっしり掴む正輝。
むぅ、正輝のおもいどおりになったのが些か気に食わないが仕方ない。
渚と海か……一体どうなる事やら。