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第二十一話「本当の彼女」

パーティーの方は順調に進む。

豪華なオーケストラや、オペラ。有名歌手のコンサートなどが行われる。

そして、黒羽さんに届けられるホールに収まりきらないほどのプレゼントの数々。

そんな楽しい時間はあっという間に過ぎ、無事にパーティーは閉幕した。

現在の時間は午後六時。実に六時間にも及ぶ大パーティーだった。

俺は服を着替え、今は後片付けが済んで何も無いホールに一人立ち尽くしていた。


「神崎様、こんな所に居たのですか」


振り返ると何時の間にか黒羽さんが立っていた。

黒羽さんもドレス姿から普段の服装に変わっていた。


「パーティーは如何でしたか? 神崎様」

「凄く楽しかったです。もう、文句なしです」

「そうですか、それは良かったです」

「でも、さすがですね黒羽さん。あんな有名人達を前にして堂々とした

 立ち振る舞い」

「神崎様にはそう見えましたか?」

「えっ? ええ……」

「実際の所は不安で一杯でした。相手に失礼が無いか、黒羽の名を

 汚すような真似をしていないかどうか」


そう言って黒羽さんの表情が少し曇る。

そこには何時もの高飛車で自信たっぷりの黒羽さんはいなかった。


「そういえば神崎様には言っていませんでしたね?」

「えっ?」

「……私が、黒羽の実の娘で無い事を」

「――」


その一言に、体が石になったような気がした。

ルビアから聞いて、当たらず触らずでいようとした事を、まさか本人から

言ってくるなんて。

この場合、どう返答すればいいのだろうか?


「……神崎様は私を軽蔑しますか?」

「な! ど、どうして!」

「黒羽の実の娘ではないのにあんなに威張り散らしていたのか? 実の娘

 でもないのに生意気だ。実の娘でも――」

「やめてください!」

「!」

「どうして……どうしてそんな事言うのですか! そんなの関係ないですよ!

 黒羽さんは黒羽さんです。そんな事で軽蔑なんてしません」


怒ったような、悲しいような震える声で喋った。

無我夢中で出た言葉。

黒羽さんは俺の予想だにしていなかった声に目を丸くして驚いていた。


「……申し訳ありません神崎様。少し遊びが過ぎました」

「……えっ?」


フゥ、とため息をつく黒羽さん。

先程までの緊張感は何処吹く風か、にっこりと微笑み、何処か

安心したような表情にも見て取れた。


「確かに、私は養子で人からそんな事を言われた時期もありました。ですが、

 それは事実。どうあっても覆りませんから」

「黒羽さん……」

「ですから」

「?」

「それを払拭するほどの人間になれば良いだけのことです!」


黒羽さんは扇子をビシッと俺に向ける。あまりの迫力に俺は後ろにたじろぐ。


「……く、黒羽さん?」

「ええ、それから私は猛勉強をしました。そして黒羽に相応しい人間になろうと。

 そして、私の事を散々馬鹿にしてきた者達を見返し、逆に見下してやろうと」

「…………」


強い。

肉体、精神的にも黒羽さんはとても強かったのです。

養子であるという逆境をバネに頑張ってきたと。


「今では私に逆らう者は黒羽の中にいません。養子? だからなんですか?

 あなたは養子にこき使われているのですと私は言ってやるのです」


燃え上がる黒羽さんの憎悪の炎。

黒羽さんの性格はこうして生まれたんだな〜と、しみじみ感じた。


「しかし、神崎様は不思議な人ですね」

「えっ? 俺がですか?」

「はい。いつも優柔不断、ドジで頭も悪いのに、ここぞという時に力を発揮する。

 ……あんな言葉をかけられたのは初めてです」

「いえ、ただ思っていた事を口にしてだけですから……」

「正直、嬉しかったです」

「――!」


黒羽さんの言葉で、今頃になって顔が熱くなってきた。

あまりの恥ずかしさに思わず顔を背ける。


「もしかしたら渚さんも其処そこに惹かれたのかもしれませんね」

「えっ?」

「渚さんとは小さい頃はどうだったのですか?」

「う〜ん……一応、自分では仲が良かったほうだと思います」

「その時から好きあっていたのですか?」

「いえ、それは無いです。渚は小さい頃、結構おとなしい性格だったので。

 自分より他人に気を使う子だという印象が強いですね」


それが何処がどうなったのか、今ではお転婆姫に。

昔の面影はおろか、本当に同一人物なのかどうかも怪しい。

それに、小さい頃に俺は渚の事が好きではあったけど、渚のほうは知らない。

一度として好きな男の子がいたのかなど聞いたこともないし、聞くことも無かった。

今あいつが俺を好きな理由は、運命とか言ってるしな〜。

これって本当に好きって言えるのだろうか? う〜ん。


「あの、神崎様?」

「えっ? あ、すみません。つい考え事を……」

「いえ、それはいいのですが、そろそろ時間の方が……」


黒羽さんは腕時計を俺に見せてくれる。

ダイヤモンドがちりばめられており、最早時計なのか宝石なのか分からない。

ムムッ、凄い。どれ位の価値があるのだろうか……って違う!

黒羽さんは俺に時間を見せようとしていたんだ。

時間を見るともう午後七時。

直ぐに帰らないと朝を迎えてしまう。


「既にヘリは待たせていますから、急いだ方がいいですよ?」

「そうですね、今日は楽しかったです。それじゃ……あああ!」


今頃になって一番大事な事を思い出した。

これをやらずに帰る事はできない。


「あ、あの黒羽さん! 俺、四角い箱もっていませんでしたか? これくらいの……」


手で箱のサイズあらわす。

約三十センチ四方の箱。それを見た黒羽さんはポンと手を叩き。


「それでしたらありますよ。車に運ぶ時になにやら大事そうに

 抱えていられてましたね」


待っていてください、と、黒羽さんは階段を降り、しばらくすると

俺が買った箱を持ってきてくれた。

黒羽さんが俺にその箱を渡してくれる。


「それは一体なんですか?」

「これはですね……ハイ」


俺はその箱を黒羽さんに差し出す。

黒羽さんはえっ? と少し驚きの声をあげる。


「黒羽さんの誕生日プレゼントです」


黒羽さんは箱を両手でしっかりと受け取る。プレゼントされたのが

あまりに意外だったのか、まじまじと箱を眺めていた。


「あの、開けてみても良いですか?」

「ええ。まぁ、たいしたものではないですけど……」


黒羽さんは何処かワクワクしている様子。

俺も自分の選んだプレゼントが気に入ってもらえるかどうかドキドキものだ。

綺麗に包装を破り、四角い箱を開けると。


「これは……」


箱から出てきたのはつぶらな瞳がチャーミングなクマのぬいぐるみだった。

高価なものが駄目なら、可愛いもので勝負。

そんな理由で選んだのがぬいぐるみだった。

クマのぬいぐるみを両手で持って硬直している黒羽さん。

そして、しばらくぬいぐるみを見つめた後。


「プッ……あははは!」


片手でおなかを押さえながら笑い出す黒羽さん。

ちょっぴりショックです。

黒羽さんから見たらとんでもなくおかしいプレゼントなのだろうか?


「そ、そんなにおかしかったですか?」

「い、いえ、そういうわけではありません。如何にも神崎様らしいプレゼント

 だったもので」

「お、俺らしいですか?」

「はい。プレゼント選びに悩みに悩んだ末にこれを選んだ神崎様が目に浮かびます」


フフッと可愛く笑う黒羽さん。

ううっ……仰るとおりです。


「すみません、そんなしょぼいプレゼントですけど……」

「そんな事は無いですよ神崎様。私は嬉しいです」

「でも、他の方の豪華なプレゼントに比べたら……」


いや、比べるだけ失礼かも知れない。

他の人達の最低ランクで百万単位と言うのだから開いた口が塞がらない。


「神崎様、プレゼントの値段で価値が決まるわけではありません。どんな

 プレゼントであれ、心がこもっていれば嬉しいものです」


そう言ってクマのぬいぐるみを両手で胸元に抱きかかえる。

クマの顔をジッと見つめる黒羽さん。


「初めましてクマさん。私は黒羽朱音です」


優しく微笑みかける黒羽さん。

まるで自分の子供のように。

慈愛に満ちたその顔は今までに見た事が無かった。


「このぬいぐるみ、大切にしますね」


黒羽さんは嬉しそうに満面の笑顔を見せてくれる。

俺は本当の黒羽さんを垣間見たような気がした。

優しく、慈愛に満ちた彼女を――。

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