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第十八話 「ブラックメール」

夏休みも8月に入り、残す所一ヶ月足らずとなってしまった。

ここで後一ヶ月と考えるか、それともまだ一ヶ月もあると考えるか……。

俺はどちらかといえば後者。

ポジティブに考える方が気が楽だからだ。

例え仮に、山のようにある夏休みの課題を全く手をつけていないとしてもだ。

そんな事を考えながら居間でゴロゴロしていると。


「おい亮介、お前に手紙がきてるぞ?」

「えっ?」


郵便受けに入っていた朝刊を取りにいった親父が、俺に向かって手紙を投げる。

なんとも奇妙な赤い封筒に入った手紙。

封筒に送り主の名前が無く、ただならぬ気配を感じる。

昔、徴兵されるときに赤い紙が届くと言われているが、まさかそのたぐいなのか?

俺はおそるおそる手紙の封を切り、中身を覗くと。


「……あれ? 黒羽さんから?」


綺麗な字で達筆された手紙。

その最後の部分に黒羽さんの名前が記されていた。

俺は手紙の内容を見てみると。


 "拝啓 空の青さが夏らしく輝きを増してきましたが、いかがお過ごしでしょうか? 

 夏休みは忙しい身で神崎様に会う機会がめっきり無く、寂しいです。

 しかし、このたび八月二日は私の誕生日。それにあわせてパーティー

 が開かれる事になりました。

 そこで、神崎様にも是非参加していただきたく手紙を出させていただきました。

 言っておきますが、くれぐれも他言無用ですので。もし話をした場合、神崎様には

 言葉では言い表せない罰を受けていただく所存です。

 それではお体を壊さぬよう、お気をつけください。    敬具"



……丁寧に書いてありますが、言葉では言い表せない罰が非常に気になります。

それと、このパーティーの参加か不参加の選択肢はどうやら俺には無いようだ。

八月二日が誕生日か……あれ? そういえば。

俺はある事がふと頭によぎったが、直ぐに考えるのをやめた。

まぁ、別にたいした事じゃないしな。

しかし、誕生日となればやはりプレゼントは必須ではないだろうか?

俺は手紙をポケットの中にしまって出かける事にした。



◆◆◆



とりあえずこの田舎町で一番大きなデパートに来た。

中はそれなりに人が行き交い、現在人気のあるフロアは水着売り場だ。

夏と言う事もあって、海に行きたい人が多いのであろう。

俺はそんな人たちを横目に素通りし、宝石売り場に来ていた。

やはり女性にプレゼントするのは宝石が一番だろう。


「いらっしゃいませ、今日はどのようなご用件で?」


ニッコリとスマイルを作る女性従業員の方。

とりあえず俺はショーケースに有る宝石の値段を見ることに。

ひー、ふー、みー……ひゃ、百万!?

他を見てみるが、何百万単位で売られており、学生の俺には手が届かない代物ばかり。


「どうかなさいましたか? お客様?」

「えっ? あ、いやその……もう少し安いもの有りますか?」

「現在一番お安い物で四十万となっておりますが」


終わった。

財布の中身はおよそ四万程度。冬でアルバイトして貯めたお金を合わせても

二十万いけば良い方だ。

ショーケースにがっくりとうなだれる俺。

たった数分で退場を余儀なくされた。


宝石が駄目と分かった今、次に何を考えるか。

ブランド物のバッグ、時計、財布。果たしてどれが一番黒羽さんが喜ぶか。

……ん? あれ、待てよ? そういえば黒羽さんは超大金持ちじゃなかったか?

そこで気づいた。

俺が買えそうな物は全て黒羽さんなら持っているだろう。それも三桁ぐらい違う

素晴らしく高価な物を。

ど、どうしよう……これじゃあ何も買えない。

八方塞がりの状況に頭を抱える。

一人デパートの中をうろついていると、ふとある物が目に止まる。


「……こ、これだ!」


焦りもあってか、俺はそれを迷わず購入してしまった。



デパートを出て家路につく頃には、既に日が高く昇っていた。

どうやら少し長居をしてしまったようだ。

家の前まで来ると、誰かが立っていることに気づく。

頭に白いキャップを被り、サングラスをかけた人。

なにやらしきりに周りを見たり、肩を落としたりする。

俺は用心しながら、少しずつその人に近づいてみると。


「く、黒羽さん?」

「! 神崎様!?」


変装しているが、紛れもなくそれは黒羽さんだった。

一瞬驚いた表情をするが、すぐに妖艶な笑みを浮かべて普段の黒羽さんに戻る。


「あの、どうしたんですか? こんな家の前で」

「……神崎様、手紙の方は読んでいただけましたか?」

「えっ? ええ」

「八月一日に迎えに行きますと、手紙に書いていたと思いますが?」

「え? そ、そんなはずは? だってほら」


俺はポケットの中に入れていた手紙を見せる。

黒羽さんはその手紙を手に取ると、突然ライターを取り出す。

ライターに火を点けると、手紙を炙る黒羽さん。

すると、突如手紙から新たな文字が浮かびあがりそこには


"尚、八月一日に神崎様をお迎えに上がります。くれぐれも忘れないように"

 

ああ、成る程確かに。まさかそんな隠し要素が……。


「って、解るわけないじゃないですかこんなの! なんですかこの手紙!」

「神崎様、古来より機密文章にはこういう仕掛けがあるのです」

「この手紙を機密にする意図を教えてください」

「とにかく、こうして書いてあるとおり私は神崎様をお迎えにあがったということです」

「そんな急に言われても……何の支度もできてないのでもう少し待ってもらえ――」

「大丈夫です。こちらで全て用意してありますので」


黒羽さんはそういうと、後方に待機させていた車を呼び出す。

そして強引に俺をその車に乗せようとする。


「ちょ、ちょっと待ってください! パーティーは明日ですよね?」

「手紙に書いていませんでしたが、会場はここから半日かかるところにありますので、

 今から行かないと間に合わないのです」

「えぇ!? そ、そんな無茶苦茶な!」

「何だ? 家の前で騒がしいな……ん? 何をしてるんだ少年?」


玄関の戸をあけて涼子さんが出てくる。

涼子さんは呆れた顔で、俺が無理やり車に詰め込まれそうな状況を見る。


「良かった! 涼子さん実は――」

「神崎様、失礼!」

「えっ?」


そういうと涼子さんから見えない角度で俺の後頭部に手刀を落とす黒羽さん。

その鮮やかな一撃で俺は意識を断たれる。


「ん? どうしたんだ少年? 糸が切れた人形みたいになっているが」

「あら? どうやら神崎様は眠ってしまったようですね?」

「そうなのか?」

「ええ。でも丁度良かったです。これから神崎様は私のパーティーに出席しますので、

 このまま連れて行きます。それでは」


昏倒している俺に拒否などできる訳も無く、あっさり俺を連れて行く黒羽さん。

こうしてパーティーに向かう事になった。


 

 


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