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第十七話 「舞とデート」

隣の市に最近出来たデズニーランドは、世界でも有名なアミューズメントパークだ。

年間入場者数およそ数百万人を超える人気度。

様々な魅力的なアトラクションに加え、デズニー特有のマスコットが

繰り広げるパレードなどがあり、それを見に来るリピーターも少なくないとか。

おかげで年々入場者数は右肩上がり。

それを示すかのように、俺達の眼前に広がる人の群れ。

夏休みと言う事もあってか、親子連れやカップルなどが多く見受けられる。

隣に居る舞は、嬉しそうに目を輝かせていた。


「すごい、すごい! あっ、見て! マスコットのビッキーマウスよ」


そういって舞は着ぐるみのビッキーを指差す。

そんなはしゃぐ舞を見て、過度に緊張していた自分が馬鹿らしくなっていた。

初めは舞のあまりに女性らしい姿にドキドキしていたものの、やはり中身はいつもと

変わらない舞だった。


「亮介、とりあえずアトラクションに行かない?」

「えっ? そ、そうだな」


俺達は入場するときに手渡されたパンフレットを広げる。

可愛らしい絵で様々なアトラクションの場所を示す地図を見る。

さて、どれから行くべきか悩んでいると。


「それじゃあ、まず"ナイアガラ"に、その後"カリブの海賊船"ね。あっ、この

 "グランドフォール"も面白そう」

「……えっ?」


舞は自分の乗りたい物を早々と俺に告げる。

ちなみに、舞の言ったものはデズニーが誇る三大絶叫マシーンであった。

加えて言うと、その三つは俺が避けたかった乗り物でもあった。


「い、いきなりそれはまずいんじゃないか? ほ、ほら、好きなものは最後に食べると

 言うじゃないか。ま、まずは手ごろなものから……」

「ごめんね亮介、私、好きなものは最初に食べる派だから」


舞はニッコリと微笑むと、俺の手を掴んでアトラクションへと引っ張っていく。

もちろん、俺の意見は無いものとされていた。

絶叫マシーンに乗り込む俺達。

舞は本当に楽しそうだった。

きゃー、と嬉しそうな声をあげる舞。

ギャー、と悲痛な叫び声をあげる俺。

舞は絶叫マシーンに乗った直後に、間髪入れずに違う絶叫マシーンに俺を誘う。

デズニーの三大絶叫マシーンを見事看破した舞は満足そうだった。

ちなみに俺はベンチでぐったりしていた。

しかし、これでゆっくりできるとおもっていた矢先。


「面白かったね、亮介」

「あ、ああ……」

「それじゃあ、もう一回乗りましょう」

「――えっ?」


悪夢再び。

舞は一回乗っただけでは飽き足らず、その三つをもうワンループしたのだ。

勿論、嫌がる俺もセットで。




昼も過ぎた午後3時に俺達は遅い昼食を摂る事にした。

デズニーの中にあるレストランに入る。

中はイタリアン風で統一されており、ゆったりとした音楽が店内に流れていた。

ホールのウェイターが俺達を席へと案内する。

席は一つのテーブルに二人が向かい合って座るものだった。

俺達はメニューを見て、とりあえず無難なパスタを二つ選ぶ。

注文を終えて品物が来るまでの間、俺達はこれからの事で話をしていた。


「ねぇ、この後どうする? 亮介」

「とりあえず、絶叫マシーンは遠慮しておく」

「え〜!?」

「え〜じゃない! 散々乗ったからいいだろ? もう少しゆったりしたものに乗りたい」

「それじゃあ、メリーゴーランドとか?」

「……いや、それはやめておく。他になにか……」


俺はテーブルの上にパンフレットを広げて地図を見る。

アトラクションの解説が僅かに載っていて、そこにゆっくりできると銘打ったものがあった。

なにやら船に乗ってデズニーの園内をぐるりとまわるアトラクションらしい。

今の俺に最適な……こら、そこで絶叫マシーンの場所を指差すな。


「よし、次はこの"豪華客船エリーゼ号"に乗ろう」


俺の言ったアトラクションに不満そうな顔をする舞。

しかし俺は変える気は全く無い。

そして丁度上手い具合に注文していた品がテーブルに届く。



食事を終えた俺達は店を出て、当初の予定通りエリーゼ号へと向かう。

退屈なアトラクション故に人も少ないかと思いきや、意外や意外。

結構人が多く、何故かカップルの組がやけに多いような気がした。

何故カップルが多いのかは、この後直ぐに判ることになる。

俺達を乗せた船は汽笛を鳴らしながら出発する。

優雅にゆっくりと動く船。

俺は舞と一緒に船の甲板でのんびりと過ごしていた。

最初は不満そうだった舞も、乗ってみると意外と気に入ったのか顔に笑顔が戻る。

甲板から他のアトラクションの景色を眺める舞。

俺はそんな舞の横顔にドキッとする。


「……亮介、ありがとう」

「えっ?」

「だ、だから今日は誘ってくれてありがとうって言ってるの! 以前からデズニーには

 行ってみたいと思ってたし。ま、まさか亮介が誘ってくれるなんて夢にも思ってなかった

 から……」


舞は頬をほんのりと紅潮させて照れくさそうに話す。

実際の所は偶然俺が誘ったようになってしまったのだけどね。


「いいよ、そんな事。俺も舞と一緒にデズニーに来れて良かったと思ってる」

「えっ? ほ、本当に? 亮介をあんな振り回してたのに?」

「まぁ、それは何時もと変わらないというか……舞らしいというか」

「な、何よそれ! 私は……」

「キャー!」


突然俺達の後方から悲鳴が聞こえる。

振り向くと何やら物騒な男二人に取り囲まれている女性が居た。

どうやらカップルだったらしく、男が必死に女性を助けようとしていた。


「な……なんだあれ?」


俺はその光景に唖然としていると、何やら水中から船に次々と乗り込んでくる

物騒な男達。


『た、大変です! 皆さん、この船に賊が侵入してしまいました! 警備の者が来るまで

 持ちこたえて下さい!』

「ハァ!?」


突如響き渡る放送に戸惑う。

周りを見回すと次々と襲い掛かる男達。

どうすればいいのか悩んでいると。


「キャー! りょ、亮介!」

「!? ま、舞!?」


何時の間にか俺達の背後に回っていた物騒な男に舞が捕まる。

舞を捕まえている男は甲板の中央へと足を運ぶ。

それを俺は必死に追う。


「おっと、それ以上近づくんじゃねぇぞお兄さん」

「うっ」


男はポケットからナイフを取り出し舞の頬に突きつける。

舞の怯える表情が見て取れる。


「う〜ん? 良く見ると綺麗な彼女じゃないか?」

「やめろ! 舞に手を出すな!」


物騒な男に対して俺は大声をあげる。

物騒な男は一瞬驚くが、何やらニヤニヤと笑みを浮かべる。


「お〜、よく吠えるじゃないかお兄さん」

「もし舞に何かしてみろ、俺はあんたを絶対に許さないからな」

「りょ……亮介」


俺は怒りのあまり冷静さを失っていた。

実はこの時既に、物騒な男の術中にはまっていた事に気づいていなかった。

睨みあう俺と賊。


「この子の何処が好きなんだ? お兄さん」

「えっ?」


突然の質問に戸惑う。

だが、ここで変な行動を起こせば舞が危ない。


「そ、それは……舞はスタイルも良いし、美人だし、結構人気者で言う事無いと思う。

 でも、俺が一番舞の良い所と思うのは、その、元気が良すぎる所かな」

「良すぎる?」

「あ、ああ。何時も暴力やら俺の首根っこ掴んで無理やり買い物につき合わせたりと

 非常に迷惑してるけど……そんな舞が憎めないと言うか、それが舞なんだって

 感じるというか……」


恥ずかしすぎて喋る声が徐々に小さくなる俺。

今の俺の顔を鏡で見ると多分真っ赤であろう。

そんな俺の言葉に舞の顔もみるみる真っ赤に染まるのが分かる。

そんな時。


「動くな! 警備の者だ! お前は完全に包囲されている!」


突如として現れる警備員。

それに気を取られる賊を俺は見逃さなかった。

俺はすかさず賊に駆け寄り、舞を怖がらせた罪と、俺に恥ずかしい思いをさせた罪(特に)

を込めて思いっきり顔面を殴りつけた。

男はその勢いで思いっきり倒れ込む。


「亮介!」


舞は目にうっすら涙を浮かべながら俺に抱きついてきた。

俺も舞を抱きとめる。


「舞、怪我は無いか?」

「大丈夫……亮介が助けてくれたから」

「そうか、無事で良かった」


と、その時、周りから大歓声があがる。

口笛を吹く者や、拍手を送る者など俺達に視線が集中していた。

現状が掴めず呆気にとられる俺達。

不意に俺は地面に落ちた賊のナイフに目が止まり、それを手に取った瞬間全てを理解した。


「……これ、作り物!?」


遠目で分からなかったが、触ってみるとペラペラの作り物のナイフ。

そして周りを見ると、襲い掛かってきた男達も俺達に向けて拍手を送っていることに気づく。

後で分かった事だが、エリーゼ号とは童話を元にしたアトラクションであった。

本当は好きなのに喧嘩ばかりしてすれ違う二人の男女が、ひょんな事でこの豪華客船

エリーゼ号に乗る事に。

船旅をしている最中に突如海賊に襲撃されるエリーゼ号。

海賊にとらわれる女性。

それを助けようと懸命に立ち向かう男性。

海賊が男性を茶化すと、男性は女性にありったけの思いをぶつけ、最後に海賊から

女性を救い出し、ハッピーエンドを迎えるというベタベタなストーリーだ。

見事に俺達はそれを知らずに再現してしまったという訳だ。

どこがゆっくりできるアトラクションだ、大嘘じゃないか。

俺は殴りつけた男性に必死に頭を下げる。

怒られると思いきや、"いや、君の迫真の演技につい僕のほうも力が入ってしまったよ。

もし良かったら今度からこのアトラクションをやってみないかい?"

などと言われてしまった。

勿論俺は丁重にお断りした。

船から下りた俺達は、小休止で近くにあったベンチに座る。

あのアトラクションの後からずっと舞が不機嫌になっていた。


「な、なぁ、どうしてそんな不機嫌なんだよ舞」

「最低、信じられない。私本当に怖かったんだから……」

「お、俺だってあんなアトラクションと分かっていたら乗らなかったよ」

「えっ? 亮介は狙って選んだのじゃないの?」

「馬鹿いうなよ、偶然に決まってるだろ?」

「そ、それじゃあ、あの時言った言葉は全部……」


……しまった。そういう事か。

舞の奴は俺があのアトラクションの内容を知ってて選んだと思っていたのか。

先程の自分の言った言葉を思い出す。

外面は平静を装っているものの、内面では

"なんて事言ってしまったんだー! 馬鹿馬鹿! 俺の馬鹿! 

 冷静に考えたらこんな所に賊なんているわけないだろ! ぬあー!"

などと七転八倒している俺。

俯いて黙り込んでしまう舞。

そこがまた恐い。

何時もなら"あんな恥ずかしい台詞を人前で言わないでよ! 馬鹿!"などと

お得意の正拳突きが炸裂してもおかしくないのに。

俺達に長い沈黙が訪れる。

辺りは既に夕暮れ時。

このまま黙っていても仕方ない、俺は意を決して話し掛けようとした時。


「……ねぇ、亮介」

「は、はい!?」


舞が急に口を開く。

俺の顔を見ずに何時ものようなハキハキした口調ではなく、何処かぎこちない。


「私ね、亮介に直ぐ怒ったりちょっかい出したりするじゃない?」

「ま、まぁ、そうだな」

「だって亮介って、ドジで、鈍くて、頭が悪いし……」

「わ、悪かったな……どうせ俺は――」

「でもね、そんな亮介が良いの」

「……えっ?」


一瞬自分の耳が遠くなったような気がした。

舞は何時の間にか顔をあげて俺の顔を真っ直ぐに見ていた。

少し潤んだ瞳に、うっすらと赤く染まった頬。

反則だ。

何時もの舞とのギャップもあって、今の舞は反則的に可愛いかった。

それはもう、レッドカードで一発退場ものだ。


「ドジで鈍くて頭が悪いかもしれないけど、優しくて、いざという時身を挺して

 守ってくれる亮介が……」

「ま……舞?」

「あのね、私……ずっと前から亮介の事が――」


俺は舞の言葉が聞き取れなかった。

突然の轟音が無情にも舞の声をかき消した為だ。

俺達は咄嗟に音がした方を振り向くと、夜空に色鮮やかな光の花が咲いていた。


「あっ、そうか。もうパレードが始まる時間だ」


向こうからメルヘンチックな車にのって様々なマスコットキャラが歩いてくる。

それを遠くから眺める人だかり。

パレードはこれでもかと言わんばかりに色とりどりの電飾を光らせて注目を集めていた。

そんなパレードをしばし見つめる俺達。


「っと、そうだった。舞、今何か言わなかったか?」

「えっ?」

「さっきの花火でよく聞き取れなかったんだ。悪いけどもう一度言ってくれないか?」

「……な、何でもない」

「えっ? そんな訳無いだろ? 何か言って……」

「何でも無いって言ったら、何でも無いの!」


舞は顔を赤らめて必死に否定する。

おかしいな? 絶対何か言ったはずなんだけど……。


「本当に?」

「そ、そうよ。ほら、もういいでしょ? それよりもパレード見に行こう!」

「えっ? あっ、おい」


何かをひた隠すように俺の腕を引っ張ってパレードへと促す舞。

俺は舞の言葉が非常に気になったが、パレードに向かう舞のとびっきりの笑顔を見た途端、

どうでもよくなった。

今日は舞と一緒に来て本当に良かったと感じていた。





「……で、少年は何もしなかったと?」

「は……はい」

「そんな訳無いだろ!? 君は何か? デートに誘ってキスの一つもしなかったと?」

「き、キス!? す、するわけないじゃないですか!」


家に帰ってきた途端、涼子さん(酒が入ったバージョン)に捕まり、今日のデートが

どうなったか訊ねられ、話した後、俺の部屋でこうして説教が始まってしまった。

ちなみに今は午後11時過ぎ。眠いのなんの……。


「大体少年は甘い! もっと積極的に行くべきなんだ! こう、パレードが終わった後

 いい雰囲気になった所で手でも握るとか、肩に手を置くとか!」

「……涼子さん、何か喋り方親父くさいです」

「そして、その手を握り返す彼女。意思が疎通した所で一気にキスを……!」

「人の話全然聞いてないですね」


器用に一人芝居を繰り広げる涼子さん。

あっ、また350mlの缶ビールを一気飲み……通算15本目の空のビールが俺の部屋に

無残に転がる。

片付けるのはやっぱり俺なんだろうな……この空き缶。

涼子さんの理不尽な説教は終りが見えず、それを黙って聴き続ける俺だった。











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