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第十六話 「行ってきます」

どんな事をしても次の日というものは来てしまう。

昨日からデートと言う言葉に悩まされ、遂に俺は眠れなかった。

おかげで俺の目の下には大きな三日月上の黒い跡が出来てしまった。

時計を見ると朝の七時。うん、珍しく早起き。いや、寝てないから早起きじゃないか?

俺はとりあえずデートに向けて支度を……いやいや、デートと思うから緊張してしまうんだ。

そう、俺は今日舞と遊びに行く。これはデートではない。断じてデートではない。

俺は催眠術のようにそれを刷り込ませる。

よし、気持ちが落ち着いてきた。

さて、とりあえず顔を洗いに洗面台に向かうか。

俺は自室を出て洗面台に向かうと。


「おっ、少年。今日は早起きだな。それはそうか、今日は"デート"だからな」


ニコニコと俺の気持ちを知らずに話しかけてくる涼子さん。

俺はあなたがこんな早くから起きてるのを初めてみましたが?

何気にテンションが高いのも気になります。


「どうしたんだ少年? 目の下がどんよりしているが?」

「……ちょっと寝てなかったので」

「少年、もしかして初デートか?」

「……あ、あんまりデートと言わないでください。意識しないようにしてるので」

「そんな事では駄目だぞ少年。男性というのは女性を強くリードしていく。女性を退屈にさせるような事は厳禁だぞ? それに……」


涼子さんは俺にお構い無しにデートに関するアドバイスを次々と語る。

実は涼子さんのほうが俺のデートを楽しみにしてるのでは?


俺は部屋に戻り服を着替えて支度をする。

とりあえず直ぐに出れるように準備は整った。さて、後は時間になるまで待つだけだ。


「どうだ少年、準備できたか?」


と、ノックも無しに堂々と自分の部屋のように入ってくる涼子さん。

涼子さんは俺の方をジロジロと見つめる。

その視線はまるで品物を見定めるような鋭い視線。

そして鑑定が終了したのか、途端に大きく長いため息をつく。


「ど、どうかしました? 涼子さん」

「……少年、君はそんな格好でデートに行くつもりか?」

「え? 何か変ですか?」

「変ではないが、ハッキリ言うと……甘い! 君は角砂糖にシロップをかけるほど甘い!」


良く分からない例えを出された後、ビシッと俺の服装に指をさして指摘する涼子さん。

そしてゆっくりと近づいてくると、俺の首根っこを掴む。


「ちょ、ちょっと何するんですか涼子さん!」

「何、時間も無いからその髪型だけでもいじってあげようと思ってな」

「小さな親切大きなお世話です!」


俺の言葉を無視してズルズルと洗面台の方へともの凄い力で引っ張っていく。

涼子さんは俺を椅子の上に座らせると、どこからかハサミを取り出す。

そして有無を言わさず俺の髪を切り始める。


「あの、涼子さん」

「ん? なんだ少年?」

「涼子さんは美容関係の仕事か何かしているんですか?」

「全然」


あっさりそう言うと、タバコを吸いながら俺の髪を切り続ける。

あの、ちょっと待ってください? と言う事はあなた初心者ですよね?

俺の中で不安が一気に最高潮に達する。


「す、ストップ! ストップです涼子さん!」

「残念ながら、もう仕上げに入っているため途中下車は不可能だ。観念して最後まで

 やらせなさい。……あっ」

「い、今の言葉なんですか!? "あっ"って!?」

「あ、いや……昨日玉子買い忘れたな〜と思ってな」

「嘘だ! 絶対嘘だ! ミスですね? ミスしましたね?」


それでも涼子さんはやめる気配は無く、シャンプーやら整髪料を使い、一気に最後までやってしまった。

自分の出来に満足そうな涼子さん。


「ううっ……もうお婿にいけない」

「酷い言い草だな少年」

「だ、だって、涼子さん切ってる最中に"やばっ"とか、"まずい"とか連呼してたじゃないですか」


メソメソと泣く被害者の俺。

涼子さんはそんな俺に鏡を持ってくる。


「ほら、どうだ少年」

「……うっ」


そこにはモヒカン頭の俺が……無かった。ボサボサ頭の髪は綺麗に整えられており、

少し男らしさを出す為か、ややワイルド系に仕上がっていた。

正直、初めてにしては上手いと思ってしまった。

俺の表情を見て涼子さんはニタリと笑う。


「どうやら気に入ったみたいだな」

「ま、まぁ正直……上手だと思いました」


自分の姿に驚いていた丁度その時、家の呼び鈴が鳴る。

どうやら舞が来たようだ。


「それじゃあ、行ってきます涼子さん」

「ああ。頑張って来い少年」


俺は急いで玄関に向かい、ドアを開く。


「時間ぴったりだな、ま……」


舞のほうは目を丸くして俺の姿を見て驚く。

俺も舞の意外な服装に驚いていた。

何時ものような動きやすい服装ではなく、意外にもワンピース姿だった。

腰の当たりにリボンがついた水色のワンピース。そして手にはハンドバックを抱えていた。

あまりに普段と違う女の子らしい服装に思わず見惚れる。

互いに言葉の無いまましばしの硬直。

マズイ、このままだと平気で一時間ぐらい硬直したままになりそうだ。

俺はありとあらゆる言葉を連想する。


「お、お早う、舞」

「え? お、おはよう……」


咄嗟に出た言葉がこれ。

もっと他にいう言葉があったのだが、あまりの出来事に頭の中は混乱していた。


「亮介、髪型……」

「えっ? あ、ああ。涼子さんが切ってくれたんだ。そんな髪型じゃあ駄目だって

 言われて、有無を言わさず」

「そ、そうなんだ。……似合ってるよ、それ」

「あ、ありがとう。ま、舞もその服似合ってるよ」


褒めあう俺達。

途端に恥ずかしさがこみ上げてきてうつむいてしまう。


「お二人さん似合ってるよ」

「! り、涼子さん?」


俺達のやり取りを後ろから見ていたのか、嬉しそうな表情を浮かべていた。


「うんうん、初々しいね〜、青春だね〜」

「な、何言ってるんですか! 涼子さん、何の用ですか?」

「いや何、何時まで経っても先に進みそうに無いから、こうして話かけたのだが?」


うっ……確かに。

舞が来てからすでに20分ほど経っているというのに、俺達は未だ玄関の前。

本来なら隣の市に向かう為の電車に乗っている時間だ。


「そ、そうですね。それじゃあそろそろ行ってきます」

「ああ。二人で楽しんできなさい」


小さく手を振ってデズニーに行く俺達を見送る涼子さん。

こうしてドキドキの舞とのデートが始まった。


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