第十五話 「チケットは誰の手に?」
人間、休みの日は何処かに遊びに行きたいもの。
だが、行く宛ても金も無い為、家でゴロゴロと過ごす毎日。
とりあえず暇なので、畳の上をゴロゴロと回ってみた。
そして、何回かそれを繰り返した結論は。
「む……虚しい」
がっくりと寝そべる俺。
暇と言うのは体に毒だな。
「……何をやってるんだ? 少年」
「! り、涼子さん!? い、何時の間に!?」
「少年が転がりまわっているところからだ」
一番見られたくないところを見られてしまった。
恥ずかしさのあまり、地球の反対側まで逃げてしまいたい。
「少年、暇そうだな」
「……はい。暇で暇で死にそうです」
「そんな少年に良いものをあげよう」
「えっ?」
ごそごそとポケットに手を突っ込み中から二枚の紙切れを取り出す
涼子さん。
そして、それを俺に手渡してくる。
「えっと……何々? ……デズニーランドの一日フリーパス? えぇ!」
「どうだ少年? 気に入ったか?」
「こ、これすごいじゃないですか! 隣の市に最近出来たアミューズメントパーク
ですよね?」
「ああ。今日偶然買い物に行ったとき、福引があったものだから引いて見ると、
偶々一等が当たったからな。世話になっているお礼だ」
世話になっていてもこんなモノを気前よく出してくれるとは……。
俺は涼子さんに感謝する。
だが、ここで一つ疑問が浮かんでしまう。
「涼子さんは要らないんですか? これ」
「まぁ、一緒に行きたい相手がいないからな」
「じゃあ、涼子さん、一緒にいきませんか?」
「……えっ?」
「だって本来は涼子さんのものだし、俺も涼子さんとなら楽しそうだし」
タバコを吸いながら考え込む涼子さん。
そして、少しため息をついた後。
「いや、やめておこう」
「えっ? どうしてですか?」
「ん? 少年の誘いは嬉しいが、私以外の者と一緒に行ったほうがいいだろう。
いつも世話になっている子が君にはいるだろ?」
涼子さんはそう言うと、俺に背中を向けて自分の部屋へと帰っていった。
俺の手の中にはフリーパス券が2枚。
さすがに一人で行くのは勿体無い。
う〜ん……正輝でも誘ってみるか?
俺はとりあえず正輝の携帯電話にかけてみる。
『はい、もしもし』
「亮介だけど、どうしたんだ? 死にそうな声だけど」
『ああ、実は昨日風邪をひいてな、悪いが今日は遊べないぞ』
おれが聞く前に返答してくる正輝。
風邪なら仕方ない、他の誰かを誘ってみるか。
「なぁ、正輝。デズニーランドに誰か行きたいとか言う人いなかったか?」
『ん? デズニー? どうしてそんな所に?』
「実はそこのフリーパスが二枚手に入ってな、だれかにあげようかと」
『デズニーか……そういえば相沢さんが以前行ってみたいと言ってたような」
「舞が?」
舞か……あいつには以前から起こしに来てもらって世話になっているからな。
ここら辺でお礼も兼ねてプレゼントしよう。
「サンキュー、それじゃあ体に気をつけろよ」
『ああ』
俺は電話を切ると、舞の携帯電話に……しまった、番号がわからない。
仕方ない、舞の家に行ってみるか。
俺は玄関の方へと向かい、外に出る。
外はお日様が真上でこれでもかといわんばかりに輝いていた。
幸い、舞の家は直ぐ近くだ。
俺は駆け足で舞の家へと足を運んだ。
舞の家は普通の一軒家で、両親と舞の3人暮らしだ。
俺は舞の家に着くと、家の呼び鈴を鳴らす。
「はい? 誰ですか?」
家の扉から顔をのぞかせたのは舞だった。
「あれ? 亮介? どうしたのよ、私の家に来るなんて」
「ちょっと用事があってな」
「……夏休みの課題を見せてとか言う気じゃないわよね?」
「それはまた今度で。今日は舞にプレゼントがあるんだ」
「えっ?」
そうして俺はポケットから涼子さんに貰ったチケットを見せる。
それを見た舞は驚いていた。
「こ、これってデズニーのチケットじゃない!」
「そう、涼子さんから2枚貰ったから、一枚舞にあげようかと思って」
「えっ?」
「ほら、いつも世話になってばかりで悪いから、日頃の感謝とお礼をこめて
プレゼント」
その言葉に舞は驚きと共に顔がみるみる赤くなっていく。
あれ? どうして顔が赤くなるんだ?
「あ、あのね、その、今日はちょっと駄目だから、明日! 明日の9時に亮介の
家に行くから」
あたふたと慌てる舞。
えっ? どうして明日9時に俺の家に? どういう意味だ?
「えっと……」
「そ、それじゃあまた明日ね! 明日9時よ? 寝坊しないでよ?」
それだけ言うと、勢いよく玄関のドアを閉める舞。
取り付く暇も無いとはこの事か。
俺は仕方なく家に帰ることにした。
「ただいま〜」
「ん? 少年、何処に行ってたんだ?」
「ちょっと舞の家まで」
「舞? と言う事は、以前この家に来た女の子達の一人か?」
「えっ? まぁ、そうですね」
その言葉を聞くと、すさまじい笑顔を見せる涼子さん。
そして突然俺にヘッドロックをかましてきた。
「い、痛い! 何するんですか涼子さん!」
「何言ってるんだ少年、やるじゃないかこのこの」
「は、話が見えませんよ!」
「見えないも何も、君は女の子にチケットを渡したんだろ?」
「ええ」
「で、受け取ってもらえたんだろ? 当然」
「まぁ、タダですからね」
「タダだけでが貰うわけないだろ? 君は女性を誘ったんだよ、つまり、デートだ」
「え? で……デート!?」
そ、そうか! だからさっき舞はあたふたしていたのか!
俺は知らず知らずのうちに舞をデートに誘ったのか……。
「がんばれよ、少年!」
「うっ」
グッドラックといわんばかりに親指を立ててウインクする涼子さん。
俺はこれから明日の事を考えると胃が痛くなってきました。