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第十二話 「挑戦」

カッコイイお姉さんは実は俺の従姉だという恐ろしい事実が判明。

お姉さんが来たその夜は豪勢な食事が並んだ。

そして言うまでも無くその食事をぺろりと平らげる人がいました。

お姉さんの性格もあってか、あっという間に家族に溶け込んでいく。

この街に来たのは仕事の都合上と確か言ってたけど、一体どういう仕事をして

いるのだろうか?

些か興味が湧いたが、聞くと逆にからかわれそうなのでやめておこう。

食事が終わり、俺は涼子さんが使う部屋を案内する。


「ここです、涼子さん」


俺は目的の部屋のドアを指差す。

涼子さんは爺さんが使っていた2階の部屋を使ってもらう事になっている。


「ありがとう、少年」

「とりあえずこれで、俺はもう寝ますので」


そういって俺は一階の自分の部屋に戻ろうとした時。


「言っておくが、私が寝ているときはこない方がいいぞ」

「えっ?」

「死にたくなければな」


ニヤリと笑うお姉さん。

むむっ、それは俺がお姉さんの部屋を覗く可能性があると思ってらっしゃるのか?


「大丈夫ですよ、俺は覗きませんから。それじゃあ、おやすみなさい涼子さん」

「ああ。お休み、少年」


そうしてその日は終わり、翌日の朝。

朝10時過ぎてもおきてこない涼子さんがいた。

あの人は朝は弱いのだろうか?

俺はそんな事を考えながら家でゴロゴロしていると。


「ちょっと亮介、涼子さん起こしてきて頂戴」

「……えっ?」


不意に母親が俺に声をかける。

ん? なんだこの何気にヤバイ展開は?


「ちょ、ちょっと待ってくれ、さすがに男である俺が女性である

 涼子さんの部屋を覗くのはまずいでしょ?」

「大丈夫よ、ちょっと起こしてくるだけなんだから。死ぬわけじゃあるまいし」

「……死んだらどうする?」

「なに変な事言ってるのよ、大丈夫大丈夫」


そういって母親は俺に死地へ向かえと言ってくる。

俺は反対したものの、結局根負けして二階へと向かう。

階段を上り、涼子さんの部屋の前で立ち止まる。

不意に昨日の涼子さんの言葉が頭に浮かぶ。



――寝ているときは来ない方がいいぞ? 死にたくなければな



一体、どういう意味なのであろうか?

とりあえず俺はドアをノックする。


「涼子さん! 10時ですよ〜! おきてくださ〜い!」


何度もノックするものの、起きて来る様子は無い。

となると、手段は一つ。


「やはり開けるしかないのか?」


とりあえず俺はドアノブに手を掛ける。

そしてゆっくりと扉を開ける。

細心の注意を払いながらそっと中に入ると。


「うわー……ビールの缶が一杯」


まず眼にしたのは地面に転がるビールの空き缶。

その数5本。

おそらく俺が寝た後再びビールを飲んだのであろう。

夕飯時でもビールをガブガブ飲んでいたというのに……。

俺はそんな涼子さんの胃袋に呆れていると。


「う〜ん」


突然側から声が聞こえてくる。

俺はその声のほうに振り向くとそこには水玉模様ならぬネコ玉模様のパジャマを

着ている涼子さんの姿があった。

ネコの顔が可愛くデフォルメされた模様のパジャマ。

昨日のカッコイイ涼子さんからは想像もつかない可愛らしいパジャマ。

そんな涼子さんの寝姿に少し見惚れる。

しかし、俺の本来の仕事は涼子さんを起こす事。

俺は寝ている涼子さんに近づき、体をさする。


「涼子さん、涼子さん、起きてくださ……いー!?」


突然さすっている手をガシッと掴まれて投げ倒される。

そしてそのまま俺に腕ひしぎ逆十字を極めてきた涼子さん。


「イダダダダダ! 痛いというより折れる! 折れます! 涼子さん!」


俺は必死に涼子さんに助けを求めるが力を弱める気は無し。

このままでは本当に折れる!

俺は涙目で涼子さんの顔を見ると。


「って……寝てる!?」


寝息を立てながら思いっきり関節技を極めている。

俺の必死の叫びに応答が無かったのにも頷ける。

とか言ってる場合じゃない! ミシミシと悲鳴をあげる俺の関節。

もう折れる一歩手前で。


「……ん? あれ? なんでこんな所にいるんだ少年?」


奇跡的にも涼子さんが起きてくれました。

俺は涙をポロポロ流しながら涼子さんに訴えるような目で見る。

涼子さんは辺りを見回して状況を把握したらしく。


「何だ少年、昨日ノゾキはしないとか言いながら、ちゃっかりしてるじゃないか」


やれやれと呆れた表情をする涼子さん。

全くの勘違い。

してない、してませんから。




何とか関節技が解けると、俺は一目散に一階へと逃げ出した。

昨日の死にたくなければという意味はこのことだったのだろう。

すさまじい寝相の悪さ……いや、寝相なのかあれは? どちらかというと条件反射的な

ものだろう。

もう二度と寝ている時には近づかないでおこうと心に決めた。

そんな事を考えていると、突然玄関の呼び鈴が鳴る。


「ちょっと〜、亮介出て〜」

「はいはい」


俺は気の抜けた返事の後、玄関へと向かう。

そして玄関に辿り着くと。


「よっ、亮介!」

「なんだ、正輝か」

「なんだじゃないだろ? 折角こうやって友人が遊びに来たのに」

「それじゃあ、何処か出かけるか?」

「ああ。それじゃあ何処に……」

「ん? 少年、お客さんか?」


正輝と話していると、二階から着替えを終えて降りてくるお姉さん。


「あ、こいつは俺の友人の正輝です」

「亮介、友人じゃないだろ? ……俺達は、親友だろ?」


ニッと突然ニヒルな笑みを浮かべる正輝。

……正輝、とうとう夏の暑さで頭が参ったようだな。


「おい、突然どうしたんだ正輝? いつものお前なら……」

「おいおい! よしてくれ! 俺は何時もこういうキャラだろ? そこの素敵な

 お姉さんに誤解を招く様な言葉はだめだぜ?」


フッとキザっぽく髪をかきあげる正輝。

あー、成る程、そういう事ね。


「おい少年、この子は大丈夫なのか?」


あまりの正輝の変なキャラに不安になっている涼子さん。


「まぁ、一応大丈夫だとおもいますよ」

「だといいんだが……」


そんな涼子さんの不安をよそに、正輝は涼子さんに近づく。


「もし、よろしければあなたのお名前をお聞かせ願いませんか?

 素敵なお姉様」


正輝の言葉に呆れる俺達。

そしてやや悩んだ結果、涼子さんが出した言葉は。


「エリザベース=ゴルゴンゾーラだ」


まったくのでたらめな発言をする涼子さん。

一文字もあってないですよ?


「ゴルゴンゾーラさん……なんて美しいお名前なんだ」


正輝は何も疑う事無く信じきっていた。

おい、正気か正輝? 俺はお前のセンスを疑うよ。

そしてお姉さんも呆れてものが言えない状態。


「ホルモンゾーラさんは彼氏とかいるのですか?」


正輝が眼を輝かせながら涼子さんに尋ねる。

正輝、すでに名前間違えてるぞ?


「いや、残念ながらいないがどうした?」


涼子さんの言葉に思いっきりガッツポーズをとる正輝。

イヤッホーと、雄叫びを上げる。分かりやすいな。


「ゾナさん! もし良かったら僕と結婚を前提にお付き合いしてください!」


そういって頭を下げて手を差し出す正輝。

いや、幾らなんでも早すぎるのでは無いだろうか?

会って5分経ったかどうかでイキナリ付き合ってくださいというのはどうかと思うぞ。

それと、また名前間違えてるから。

そんな正輝の行動にお姉さんの返事は。


「ふむ、付き合ってあげてもいいぞ?」

「本当ですか!」

「りょ、涼子さん!?」


涼子さんの意外な言葉に正輝はビックリした表情。

まさか、奇跡が起きたのか?


「ただし、条件がある」

「な、なんですか? この男正輝! どんな試練も乗り越えて見せます!」

「私に腕相撲で勝つのが条件だ。私は軟弱な男は好きじゃない」

「わ、分かりました!」


二つ返事で心良く勝負を引き受ける正輝。

おや? なぜだかとてつもなく嫌な感じがするのは気のせいだろうか?

正輝は家に上がり、台所のテーブルに足を運ぶ。

テーブルを挟んで合間見える両者。


「本当に勝負するのか? 少年の友人?」

「勿論です! この燃えたぎる熱いハートは止められません!」


正輝の背後から炎が出ているような錯覚を受ける。

何時に無く本気まじな正輝。

それと対照的でやけにやる気が無いお姉さん。


「最後にもう一度聞くが……やるのか?」

「ええ、もちろ……」

「ちょ、ちょっと待った正輝! タイム!」


俺は正輝を隅へと無理やり誘う。

なぜなら、先程のお姉さんの言葉がやけに恐ろしい。


「おい正輝、悪い事は言わない、止めとけ」

「何馬鹿な事を言ってるんだよ亮介! これ以上ないチャンスを目の前にして

 やめるなんてどうかしてるぜ」

「お前のチャンスは目の錯覚だ。あのお姉さんの雰囲気からして何かある。絶対」


俺はチラッとお姉さんの方に目をやる。

すると、お姉さんの方は準備万端といわんばかりに指と首の関節を鳴らす。

うん、絶対何かあるぞ。


「亮介、俺にとってこれは千載一遇のチャンスなんだ。やっと掴みかけたチャンス

 ……無駄には出来ない」

「しかしだな……」

「亮介、男にはやらねばならない時もあるんだ」


そういって親指を立ててさわやかな笑顔を見せる正輝。

俺の嫌な予感はどんどん増していく。

しかし、正輝がどうしてもやりたいというのであればやらせてやるのも

友人としての勤めだよな、うん。

決して面白そうだからとかそういう思いではない。

そうだな、いっその事、地獄を見たほうが正輝にとっても良いかもしれないから、

俺は引き止めるのを仕方なく諦めた。



「正輝、逝ってこい。骨は拾ってやる」

「ああ!」


そして正輝は再びテーブルの前に立つ。

互いに腕をテーブルの上に置き、両者組み合う。


「エリザベースさん、本当に勝ったら……」

「ああ、付き合ってあげるさ」


にこっと笑うお姉さん。

両者手を組み合い戦闘態勢に入った。

幾らケンカが強いお姉さんでも、華奢な腕から腕相撲はそこまで凄そうには思えない。

もしかすると、ひょっとすると?


「あー、少年、掛け声をお願いしてもいいか?」

「えっ、あ、はい」


ただならぬ雰囲気が台所に漂う。

両者真剣そのもの。

特に正輝の顔はすさまじい気迫が満ちていた。


「それではレディー……GO!」


俺の掛け声が台所に響き渡る。


「うぉおおりゃあー!」


正輝が咆える。

今まで使っていなかった全身の筋肉を振り絞り、お姉さんに挑む。

こういう時は、女性でも容赦なしの正輝。

正輝の腕からは血管が浮き出るほど力の入れ具合。

そして、勝負は一瞬でついた。

豪快な音と共に台所が揺れるような錯覚を受ける。

正輝は咆えながら自分の意思とは逆方向に曲がる腕と共に派手に倒れる。

まぁ、わかっていた事だが、お姉さんの圧勝だった。

正輝の咆哮も、お姉さんの電光石火の一撃の前では、ただの虚しい遠吠えに

しかならなかった。

余りの痛みに床で転がりまわる正輝。


「大丈夫か? 少しやりすぎた」


涼子さんがあまりの痛がりように心配になっていた。

そんな涼子さんの心配で正輝は我に返ったのか。


「いえ、心配には及びません。これでも丈夫な方ですから」


ハハハとやせ我慢を見せる正輝。

しかし、腕の方はやはり痛いようで、片腕でさすっていた。


「お姉様、今日の所はどうやら調子が悪かったみたいですから、後日改めて

 勝負させて下さい」


正輝、調子が悪いとか言うレベルじゃなかったと思うが今のは。


「……別に私は構わないが」

「では、後日改めて来ますので! 亮介、今日はこれで退散する。

 ちょっと寄るところ出来たからな!」


そう言ってそそくさと出て行く正輝。

寄るところは言うまでも無く病院だろう。


「うーん、君の友人は結構手ごわいな」

「えっ?」

「大抵の男はあれをやれば私を恐れて逃げていくのだが」

「あれって……腕相撲ですか?」

「ああ。大抵、オー! サムライガール! オーマイガッ! ノー! とか

 叫びながら逃げていくのだが」


はぁ、とため息をつくお姉さん。

いや、そのカタコトの言葉は日本の方でしょうか?

今日分かった事は、お姉さんはケンカと腕相撲が強い事と、正輝の腕の骨にヒビが

入っていたという事だ。





















































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