ぷろろ〜ぐ
――俺は、彼女が好きだった。
おとなしめで、可愛い女の子だった。
清楚、可憐という言葉が彼女にはぴったりだ。
そして何より、一番好きだったのは彼女の笑った顔だった。
周りを幸せにしてしまうような微笑ましい笑顔。
そんな彼女が好きだった。
ずっと、一緒にいたかった。
けれど、そんな願いはあっけなく崩れてしまう。
彼女は遠くへ引っ越す事になってしまったのだ。
彼女の事を話していた親の話を聞くところによると、
『しゃっきん』とか『とうさん』などのキーワードを連呼していたのを
覚えている。
けれど、そんな事は小さいときの俺には解らなかった。
俺は家に居たお爺ちゃんに話を聞いた。
どうすれば、彼女は引っ越さずに済むのかと。
そんな俺を可哀想に思ったのか、お爺ちゃんは『ある方法』を教えてくれた。
俺は貯金箱を壊して、その方法を実行に移した。
そして……彼女の引っ越し当日。
「これ……」
俺は涙を流しながら彼女に一枚の紙切れを渡した。
彼女は不思議そうにその紙切れを受け取る。
そして、彼女の口から最後に。
「これ、大事にするね」
そして、彼女は涙を流しながらも笑ってくれた。
彼女は車に乗って何処かへと引っ越していった。
俺は、彼女の車が見えなくなるまで手を振り続けた。
その夜、俺は一晩中泣き続けた。
小さい時の小さな恋。
――しかし、この時の行動が後に悲劇を生む事を俺は知る由も無かった。