第一話
勇者は王の使命を受け、戦い、経験し、
様々な出来事に触れ合いながら、魔王を倒す。
そんなことは誰だって知っている。
10歳で勇者になり、魔方陣を使って冒険するものもいれば、
30秒で世界を救えなどという無茶な頼みをされる勇者もいる。
そんな状況がいつまでもいつまでも続き、
今や男なら勇者になって初めて大人、一人前だと言われる時代となった。
なれない者は社会不適格とされ、
男を産めない主婦はすぐに捨てられるくらい、勇者に関して殺伐としていた。
もっと例をあげて言うならば、オンラインゲームのサブキャラの大量作成くらい、
勇者が特別扱いされない、勇者がありきたりな時代となっていたのであった・・・。
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「よし!君の名前は『たかし』だ!」
そう名付けられて育った僕は、すくすくと成長し、
勇者育成学校も卒業して立派な勇者になろうとしていた。
「お前は今日から勇者として、敵の魔王を倒しに行くんだぞ!」
父にそう言われ、背中を押される。
「お前はやればできる子なんだから、ね?」
なんて母に言われ、肩をポンと叩かれる。
でも、僕はそんな気はさらさらない。
なぜか。働きたくないからだ。
見た感じはありきたりな、いかにも勇者、って感じだけど、
魔法は苦手、戦闘術もからっきし、おまけに知識はほとんどなし。
極め付けは「モンスターと戦おうとすると罪悪感が沸く」。
こんな僕が旅に出て待ってるものなんて、「死」しかない。
だけど、友達ならたくさんいる。
「ああああ」くんとか、「サブ1号」ちゃんとか。
だから僕は、冒険に出る振りをして、友達と一緒に遊ぶ。
いわば、「家出」なのだ。
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僕は早速友達のところへ遊びに行った。
彼の名は「シェイル」くん。僕と同じ頃に学校を卒業した優等生だ。
彼は僕とよく遊んでくれる。
今日はどうやら面白いものを見せてくれるんだそうだ。楽しみ!
「この道をまっすぐ歩いて、この林を抜ければその場所に出てくるよ!」
シェイルくんは険しそうな顔をしつつ、楽しそうに僕の背丈ほどの草むらの中を歩く。
草刈りはしちゃいけないんだって。もしモンスターに見つかったら
俺らじゃ到底勝ち目がないからだそう。
「シーッ!静かにして!」
シェイルくんが止める。耳を澄ませると、カサカサと草むらをどかす音がする。
「ここは回り道するしかなさそうだ。こっちへ向かおう。音立てないでね!」
ひそひそ声で僕に言うと、シェイルくんは手慣れたように先に進んでく。
「待って・・・人っぽい気配。」
シェイルくんは何かを察したのか、また止まる。
「今日はやけに多いな。」
やけに多い?モンスターの数かな。
僕はそんなことに疑問を抱いていたが、シェイルくんに遅れないように必死に進んでいった。
シェイルくんの背中を追っていたら、草むらも林もいつの間にか抜けていたようだ。
「ここが、君に紹介したかった場所だよ。」
そこには、とても不思議な雰囲気を醸し出す館があった。
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